性の知識は''自然に学ぶ''まで待っている猶予なし。親ができることは?
性の健康啓発を行うNPO法人ピルコンによると、新型コロナウイルスによる休校措置がとられた2020年3月以降、10代からの妊娠相談件数が約2倍に増加した。一方で、中学校の学習指導要領では、妊娠に至る過程、つまり「性行為」については扱わないという"はどめ規定"が存在する。そんな状況もあり、いま学校のみならず、家庭での性教育の重要性が見直されている。話題にしづらい性の話を大人はどう伝えるべきか。夏休みを目前に控えたいま、助産師の資格を持ちながら性教育YouTuberとして若者の支持を得るシオリーヌさんに話を聞いた。(Yahoo!ニュース Voice)
10代から届く、切実な妊娠不安の声
性の話題を"気軽に、オープンに"語るシオリーヌさんが投稿する動画では、以下の内容がよく見られている。
- コンドームの正しい着け方
- 自慰行為をするときの注意
- 生理用品の使い方
- 妊娠の仕組みを解説
いま10代、20代の間ではこうした動画を通して、性の知識を学んでいる実態がある。背景には、学校で行われている性教育の課題があるという。
── YouTubeで発信を続ける中で、若い人からはどんな反響がありますか?
最も再生回数が多いのは、コンドームの使い方を説明する動画で400万回以上再生されています。そして、悩みとしてよく届くのは"妊娠不安"の声。「生理が来なくて」とか「パートナーがコンドームをつけてくれない」とか。自分の避妊方法が本当に正しいのか分かっていない人も多いようです。
また、親御さんに妊娠の不安を打ち明けられないという声もすごく多いですね。本当に深刻なケースだと、避妊に失敗し、アフターピルを飲まなくてはいけない状況でも、親に言えないから病院にもいけないし、自分でお金も払えない。次の生理が来るのを祈るしかないという切実なケースもあります。
「自然に学ぶ」まで待っている猶予はない
── 学校では避妊方法について教えてもらえないのでしょうか?
中学校の保健では、学習指導要領に「妊娠に至る過程については取り扱わない」という規定があるんです。つまり、性行為については原則扱わないということ。中学や高校で性教育の講演も行っているのですが、学校によっては「具体的な話はしないで」と要望をいただくこともあります。
ただそうは言っても、10代は既に妊娠できる身体になっています。人工妊娠中絶の件数も多く、実態と教育の間に矛盾があるのではと感じていました。いまの10代はスマホを持つことが当たり前で、性的な情報にすごく気軽に出会っています。SNSを通じて会ったことがない人と交流する機会も多い。だからこそ、性について「自然に学ぶ」まで待っている猶予はないのが現状です。
そういった背景もあり、本当に必要な情報を伝えるため、若い人にとって身近なYouTubeを通して発信することにしたんです。
大人が誠実に向き合うことが第一歩
妊娠、出産、性感染症など、然るべきタイミングで性の知識があるかどうかは子どもの人生に大きな影響を与える。子どもたちを守るためには、大人が変わる必要があるとあるとシオリーヌさんは語る。
── 10代の望まない妊娠を防ぐためには?
早くから"お守り"となる性の知識を与えるべきだと思います。それがないせいで、望まない経験をしてしまったという事態はできるだけ防ぎたいです。以前、10代の視聴者からこんな手紙をもらいました。「避妊に失敗したが、動画を見て緊急避妊薬(アフターピル)の存在を知っていた。もし動画を見ていなかったら、私の人生どうなっていたか分からなかった」。性に関するトラブルはすごく人生を左右するものですが、知っていれば防げるものが多いんです。
── 緊急避妊薬の薬局販売解禁に向けた議論について、どう考えていますか?
緊急避妊薬を薬局で入手できるようになることには、非常に賛成です。緊急避妊薬は、性交から72時間以内の服用が勧められている、タイムリミットのある薬。婦人科へ行く必要があること、高額であることなど、現在のアクセスのしづらさは大きな課題です。
「性教育が不十分だから、手に入れやすくすると、不適切な使われ方をするのでは」という声もありますが、だからといって、今のままでいいという話にはなりません。性教育と緊急避妊薬へのアクセス改善は、両輪で進めるべきだと思います。
── 具体的な情報が子どもの好奇心を煽り、危険な行為を増やすのでは、という危惧もありますが、その点についてはどう考えますか?
私は、そうではないと感じています。高校生のときから私の動画を見ていたという女の子が、大学生になって、初めてできたパートナーと、性について話し合ったそうです。自分たちはセックスに適した歳なのか、どんな方法で避妊するのか、そのお金を割り勘できるか。大人であっても、ちゃんと話せている人が少ない話題ですよね。情報を得たことでアクションできる子がいるのを、目の当たりにしました。
やっぱり子どもをもっと信用して、具体的な情報を届ける努力をしなければと感じますね。大人が誠実に向き合えば、子どもはそれを受け取って、行動に生かす力を持っているんです。
── 性の話を伝えるときに意識していることはありますか?
とにかく事実を普通に、淡々と話しています。性の話は日常生活のことだし、健康に生きていくためには、当たり前に必要な知識だからです。動画を見て「これまで苦手意識があったけれど、普通に大事な話だと思った」と言ってくれる若い人もいました。すごくうれしかったですね。
いつでも相談できる親子関係の構築を
性教育の重要性は認識していても、親子間で性について語るのは難しさがある。そもそも大人の側が今までしっかりとした性教育を受けてこなかった、という現状もある。そんな中、親はどのように行動するべきなのだろうか。
── 親子間で、心がけておくべきことは?
家庭で大事なのは、いつでも相談できる関係性ができていることです。「何かあった時は話してほしい」「トラブルが起きても、味方になって絶対助けになるから」と、子どもに伝えておくこと。それが、親として何より大切な姿勢だと思います。
あとは、「否定から入らない」ことですね。たとえば、「赤ちゃんってどうやってできるの?」と聞かれたときに、「そんなこと聞かないの!」と反応すれば、性の話はタブーなんだな、という印象を与えてしまうかもしれません。性教育は、日常の些細なやり取りから始まるもの。生理や妊娠について聞かれたとき、上手く答えられなくても、嘘をついたり、はぐらかしたりせず、「今は説明できないから調べておくよ」でいいんです。誠実に向き合う姿勢を示すことが、大切だと思います。
また、いま「生理の貧困」が話題になっていますが、これはお金だけの問題ではありません。親から生理用品を提供されなかったり、生理のときにどんなケアが必要なのか、知識が不足していたりするケースもあるんです。ナプキンを配れば解決する問題ではなくて、まずは親から、正しい知識を伝える必要があります。その上で、トイレットペーパーがあらゆるトイレに常備されているのと同じように、当たり前にアクセスできる環境を整えられるといいですね。
── 子どもに性の話をするのは、ハードルが高いという声もありますが?
親世代が、性の話に抵抗感を持つのは当たり前のことなんです。大人も教育を受けていないから、性の話といえば「アダルト」「下ネタ」と、いい印象を持っていない人も多い。そんな中で「子どもに事実を伝えてください」と言われても、プレッシャーを感じてしまうかもしれません。
まずは大人が、性を学び直すといいと思います。そうすることで、自分が抵抗を感じていた性への価値観を、捉え直す機会になるのではないでしょうか。私の動画をみて、性教育の情報を得ているのはもちろんですが、話し方や声のトーンなど、お子さんへの伝え方を参考にしている方もいらっしゃるようです。子どもと一緒に動画を見たという声も聞きます。書籍や動画を見ていただくなど、とりあえず性の情報に触れてみるところから、一歩を踏み出してみてほしいです。
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ライティング塩井典子
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動画編集廣瀬正樹