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「好き×防災」が社会を変える原動力になる──若い力が地域を動かす 学生団体の挑戦の歩み #災害に備える

提供:Genkai
提供:Genkai

「好き」と「防災」を掛け合わせたら、地域も社会も変えられるかもしれない──。
そんな思いから中学3年で防災普及学生団体「Genkai(玄海)」を立ち上げた橋本玄さん。防災の「面白さ」や「日常とのつながり」を届ける活動を、仲間とともに全国に広げてきた。災害の記憶を未来につなぐために、いま彼が目指しているものとは?(取材・文:崎原有希/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

橋本 玄(はしもと・はるか)

2005年生まれ。神奈川県鎌倉市出身。國學院大学観光まちづくり学部2年。中学3年生で地元・鎌倉を中心に活動する防災普及学生団体「Genkai(玄海)」を創設し、4年間代表を務める。防災士として講演活動を行うほか、地域の防災訓練や観光地の防災計画策定にも携わる。現在は代表を退き、伴走者として活動を支える。

きっかけは、避難訓練での「違和感」

2011年、東日本大震災が発生。当時、橋本さんはまだ小学校入学前。鎌倉でも、

「ウルトラマンと怪獣が戦っているのかと思った」

と語るほどの揺れを体感し、強烈な記憶として残っているという。被災地へ支援に向かった医療チーム調整員の父とともに、橋本さんも小学生時代から東北に足を運び、幼いながらに被災地の現状を目の当たりにし、心を痛めていた。

橋本 玄さん(提供:Genkai)
橋本 玄さん(提供:Genkai)

中学生になると、学校の避難訓練に違和感を覚える。先生が災害の"予言"をして、整列して、廊下をゆっくり歩いて校庭へ。あまりに予定調和な訓練に「これで命は守れるのか?」という疑問が湧き上がった。学校を変えようと1年間何度も働きかけを続けたが、制度の壁は高く、「それなら地域から変えよう」と思い立ち、防災普及学生団体「Genkai(玄海)」を立ち上げた。

団体名は、自身の「玄(はるか)」と、共同創設者の「海人(うみと)」の名前を掛け合わせたもの。当初は2人で始めた団体が、現在では中高大学あわせて約70人が所属するまでに成長した。

防災って、実は「面白い」

「防災は難しい、堅苦しい、地味――そんなイメージを変えたかったんです」

そう語る橋本さんが仕掛けたのが、"楽しく学べる"防災体験イベントの数々。代表的なのが「防災運動会」。消火器の操作、担架での搬送、心肺蘇生法などを、障害物リレー形式で体験できるように工夫。体を動かして楽しみながら、防災スキルが自然と身につく仕組みだ。

防災運動会の様子(提供:Genkai)
防災運動会の様子(提供:Genkai)

「ある小学生から"初めて家族と防災について話した。明日お母さんが防災グッズを買いに行ってくれる"という話を聞いたときは、本当にやってよかったと感じました」

ほかにも、街の中を歩いて危険箇所を探す「防災アドベンチャー」や、東北の震災遺構を巡ったり現地の学生と交流したりする伝承ツアー、商店街と連携した避難マップの整備など、活動は多岐にわたる。

メンバーの多くは防災初心者。医療に関心のあった子が災害支援ナースを目指すようになったり、報道に興味のある子が被災地の現場取材に挑戦したりと、それぞれの「好き」と「防災」を掛け合わせながら、自分なりの関わり方を見いだしている。

能登半島地震支援で見せた行動力

2024年1月1日、能登半島地震が発生。橋本さんは防災士として、発災3日後には現地入り。携帯電話の電波が遮断される中、道路の安全確認をしつつ徒歩で、人命救助部隊の邪魔にならないように調整しながら先遣隊として被災地へ。よろず屋的に被災地の様々なニーズに対応した。

能登半島地震で現地に入る(提供:Genkai)
能登半島地震で現地に入る(提供:Genkai)

一方で、鎌倉に残ったGenkaiのメンバーたちは街頭募金を展開。5日間で約90万円の義援金を集める。特にこだわっていたのはその使い道だ。

•地震で壊滅的被害を受けた牡蠣養殖業者に50万円を寄付(養殖施設の復旧支援)
•現地ボランティアセンターの開設資金として40万円を支援
•鎌倉の水道業者が現地へ赴き、水道復旧作業に協力

「赤十字などの大きな団体に寄付する方法もありますが、自分たちは顔の見える支援をしたかったんです。実際に何が必要なのかを自分の目で見て、直接届ける。それが、自分たちらしいやり方だと思いました」

支援先には、橋本さん自身が過去に交流のあった団体や、現地でのヒアリングを通して必要性を確認した小規模な事業者・支援団体が含まれる。復旧の裏で気づかれにくい"小さな声"に耳を傾け、資金だけでなく人の思いを届けること、今だけではなく未来につながる支援をすることを大切にしているという。

鎌倉の商店街から、観光地の防災を考える

國學院大学で「観光まちづくり」を専攻している橋本さんは、観光地における防災にも注力。特に鎌倉の「小町通り」では、津波発生時の避難誘導マニュアルの作成に携わる。小町通りは、鎌倉駅の目の前から続く観光地で、国内外からの多くの観光客でにぎわうエリア。

「このエリアは毎日多くの観光客が訪れますが、津波のリスクが高く、現状では避難経路の整備も不十分です。特に海外からの観光客が多い中で、多言語対応や視覚的にわかりやすい誘導が必要だと感じました」

イベントで活動を報告する(提供:Genkai)
イベントで活動を報告する(提供:Genkai)

鎌倉は観光地でありながら、多くの地域が「15分以内に10メートルを超える津波が到達する」とされている。

普段は海が見えないため、津波のリスクに驚く観光客も多い。さらに、小町通りから一本路地に入ると迷路のように入り組んでおり、避難経路や誘導の課題は山積している。

小町通りの中には津波避難ビルに指定されている建物もあるが、その存在が観光客や一部の店舗に浸透していなかったり、防災に関する意識や取り組みの度合いが店によって異なっていたりすることも明らかになってきた。こうした中で、地元の商店主や自治体と月例会議を重ねながら、避難誘導マニュアルの作成やエリアごとのリーダー設置など、地域ぐるみでの防災体制の強化に取り組んでいる。

引き継ぐこと、それもまた挑戦

2025年3月、橋本さんは4年間務めた代表の座を、共に歩んできた幹部に託した。たった2人から始まった取り組みの輪が広がり、団体が"誰か一人のもの"ではなく、"みんなの居場所"になっていることを実感したからだという。

「家庭や学校で様々な境遇にある子が、Genkaiで笑顔になる。そんな居場所を、ずっと続けていきたいと思ったんです。だからこそ、自分がいなくても回るようにしなければならないと感じました」

実際に、Genkaiの活動や防災というテーマをきっかけに、これまで人と関わることに苦手意識があった子たちが人と関わることの楽しさを感じたり、自信を取り戻したりする姿が見られ、自分の居場所として関わり続けているメンバーも多い。

Genkaiのメンバー(提供:Genkai)
Genkaiのメンバー(提供:Genkai)

「防災団体ではあるけれども、人との関係性が残っていく団体にしたい」と橋本さんは語る。

橋本さん自身も「防災のためだけじゃなく、人が人として安心していられる場でありたい」と話し、Genkaiが防災団体という枠を超え、誰かの居場所になっていることを実感しているという。

引き継ぎは形式的な交代ではなく、伴走しながら少しずつ役割を移すスタイル。次の代表が安心して挑戦できるように、橋本さん自身も一歩引いた立場で支え続けている。

「役職じゃなく関係性でつながる団体にしたいんです。だからこそ、ずっと仲間でいられる。それが、続いていく力になると思います」

"ゼロベース"から始まる、仲間たちの挑戦

Genkaiには、防災初心者だったメンバーが多く在籍している。入団時、9割の人は「防災って何から始めていいか分からない」「やってみたいけど自信がない」という状態。でも、橋本さんはゼロベースからのスタートだからこそできることがあると語る。

「できることじゃなくて、やりたいことから始めてほしいんです。最初から完璧である必要はないし、興味のあることと防災を組み合わせることで、自然と行動につながります」

実際に、報道に興味のある学生が能登半島地震の被災地を訪れ、Genkaiをきっかけに居場所をみつけ、現地の状況を記録・発信することに挑戦したり、教育に関心のある学生が防災講座の企画に携わったりするなど、活動の中で「自分の好き」と防災を組み合わせた関わり方が生まれている。

「やりたい」と思ったことをベースに、活動を自分の力で形にしていく。そんな"ゼロから始める挑戦"が、Genkaiの文化になっている。

「防災って実は、すごく多面的なんですよ。医療、観光、教育、福祉、メディア──どんな分野にも通じている。だから"自分の好き"と掛け算できるんです」

東北との"対話"を未来へつなぐ

Genkaiの活動には、毎年のように東北訪問が組み込まれている。震災遺構を巡り、現地の高校生たちと交流することで、被災地の「今」を知ると同時に、震災の記憶を風化させない学びを得ているという。

「机の上の学びだけじゃ、分からないことがある。実際にその場所に立って、空気を吸って、人の話を聞く。そうすることで、"自分がこの場所にいたら何をするだろう?"って、想像が現実に近づくんです」

東北での体験は、Genkaiが「顔の見える支援」にこだわる背景にもなっている。そこに人がいること。その人たちの生活があったこと。それを知るからこそ、支援が「一方通行」にならないと語る。

東北訪問(提供:Genkai)
東北訪問(提供:Genkai)

防災は"未来への贈り物"

Genkaiの活動の根底にあるのは、「防災=未来への準備」という考え方。命を守るだけでなく、日々の暮らしを安心して送るための地ならしでもあると橋本さんは話す。

その思いは、イベントの随所に表れている。たとえば夏祭り風のイベントでは、消火器を使った射的ゲームや、AED体験がさりげなく組み込まれている。

「"防災イベントに来た"って意識させずに、遊びの中で自然と体験してもらう。家に帰ったあと、"そういえば今日やったやつ、家族で話してみようかな"と思ってもらえるだけで、もう十分だと思うんです」

こうした隠し味のような防災は、子どもにも大人にも受け入れられやすく、結果として防災意識を地域に広げていく力になっている。

町を歩きながら防災を考える(提供:Genkai)
町を歩きながら防災を考える(提供:Genkai)

「好きなことを守る」視点から防災を始めよう

最後に、若い世代に向けて橋本さんはこう語る。

「推しのライブ会場、好きなカフェ、大切な人との思い出の場所──自分の"好き"を守るって考えてみると、防災がぐっと身近になります。守りたいものがあると、人は自然と考え始める。そこから防災を始めればいいんです」

誰かにとっての"好き"が防災のきっかけになり得る。防災を"やらなきゃ"ではなく、"やってみたい"に変える。そのきっかけとして、「好き」を原点にするアプローチは、実際に多くの若者の背中を押してきた。

防災は決して、難しいことの押しつけではない。"やらされるもの"から、"やってみたいもの"へ。そうした価値転換が防災を自分ごとにし、社会の未来を変えていく鍵になるのかもしれない。

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