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都市と地方それぞれの良さと違いを知る。「デュアルスクール」が広げる親子の世界

親子で都市と地方を行き来する「デュアルスクール」

「パラレルワーク」「二拠点居住」など、大人が複数の帰属先を持つスタイルが広がりつつある。一方で、子どもたちは居住地の学校ひとつにコミュニティが限定されがちだ。

そんな中、文科省が定める区域外就学という制度を活用することで、住民票を異動させることなく"もうひとつの学校"で一定期間の義務教育を受けることができる「デュアルスクール」が、各自治体で広がりつつある。

もうひとつの学ぶ・暮らす拠点を持つことが、利用する親子や周囲の人々、社会にどんな影響をもたらすのか。

デュアルスクール体験者らや受け入れ校の校長、同制度の立ち上げ・推進を行う株式会社あわえなどに、話を聞いた。

学校帰りに自然に触れたり温泉に入ったり、「子どもに体験させたかったこと」がすべて生活圏のなかに

デュアルスクールとは、都市部と地方を1年間のうちに行ったり来たりして、双方で義務教育を受けられる制度。2016年に徳島県が推進する事業として始まった。

文部科学省が定める「区域外就学」や「体験入学」という制度を活用することで、住民票を異動することなくほかの地域の公立小中学校に一定の期間、通学することが可能となる。

「体験入学」のほうが手続きが簡単というメリットがあり、「区域外就学」のほうは1ヶ月や半年など長期の滞在が可能であると、それぞれ利点が異なる。両方とも、居住地域の学校に通学していなくても、滞在先となる受入校に登校していれば多くの場合「出席日数」として認められることも特徴だ。

2016年、首都圏で暮らすなかでデュアルスクールの存在を知った杉浦那緒子さん(株式会社ヒトカラメディア)は、国内初の制度利用者。利用に至った背景を次のように語る。

「都市部での暮らしは便利な一方で、子どもにとっては情報過多で刺激が強すぎるとも感じていました。私自身は田園風景の広がる地方で生まれ育ったこともあり、息子には土を触ったり、木に登ったりといった身体性のある体験を重ねることも大切にしてほしかったんです」

杉浦那緒子さん
杉浦那緒子さん(株式会社ヒトカラメディア)

勤めていた会社が徳島県にサテライトオフィスを構えるタイミングとも重なり、まずは約2週間、県南部の海沿いにある美波町で当時小学2年生の子どもとデュアルスクール制度を利用することにした。

杉浦さん親子の滞在先は、海岸まで徒歩でわずか5分ほどの距離にある居住スペースとワークスペースを兼ねた入居施設。通勤時間はゼロだったため、空いた時間を仕事や家事に充てるゆとりが生まれ、子どもとの時間も増えたという。

「都内での暮らしは、オフィス街で働き、帰宅して家事育児をするだけで一日が終わってしまうというサイクルで、『働く』と『暮らす』が分断されている感覚でした。美波町では、仕事終わりに子どもと海沿いの土手を散歩したり、食事に出かけたついでに温泉に浸かったりもできて、普段の生活の動線に仕事と子育て、さらに子どもに体験させたかった自然体験まですべてありました」(同)

美波町で料理をする杉浦さん親子
美波町で料理をする杉浦さん親子

その後も杉浦さん親子はデュアルスクール制度を活用して、小学校6年間のあいだに計5回美波町に滞在した。

「息子はもう高校生になるけれど、デュアルスクールを経験したことで、自分の目に映る日常以外にも『どこかに誰かの日常がある』という想像力を持てるようになった気がします」(同)

親子の"お試し移住"で答え合わせをしてから本格移住へ

徳島県での始動を皮切りに、全国でもデュアルスクールが広がり始めている。2023年度は山形県高畠町で、2025年度には愛媛県今治市内全小中学校で受け入れが開始されるなど、デュアルスクールを採用する自治体は増えつつある。

どのくらい滞在できるのかや滞在費用などの運用方法は自治体によって異なり、2023年度にスタートした長野県松本市の「松本デュアルスクール」は、最低1カ月から最長1年間という期間の長さが特徴だ。

親子の"お試し移住"によって本格移住へのハードルを下げるという狙いに加え、少子化が進むエリアにおける教育環境担保の意味合いも強い。

実際、松本デュアルスクールを活用して山岳地帯である乗鞍高原に滞在したのち、本格移住に至った例もある。

渡辺タエコさんはもともと神奈川県横浜市で暮らしていたが、2023年8月から制度を利用。小学1年生だった子どもの受け入れ校となったのは、小中併設の小規模校で、豊かな自然環境と少人数ならではのきめ細やかな教育を特徴とする、大野川小学校だった。

もともと1カ月だけ滞在する予定だったが、滞在中に期間を延長し、2024年4月に本格移住したという。

渡辺タエコさん
渡辺タエコさん

「横浜で通っていた学校は、生徒数が多いなかでカリキュラムをこなさないといけないからか、どうしても画一的な指導や、余裕のない時間割になったりしていて。息子にはフィットせず、体調を崩して不登校気味になっていました。大野川小学校は、一人ひとりのペースに合わせた自由進度学習がなされる環境。授業中、息子が廊下に出て座り込んでしまい『教室に入りたくない』と言ったときも、子どもたちが『寒いから中に入ろうよ』と根気強く声をかけてくれたりなど、心の広さに救われたこともありました」

雪の中で友人とともに自然を満喫するお子さん

松本デュアルスクール利用中は、「暮らす場所の答え合わせをしている感覚だった」と渡辺さん。

「期間中、神奈川に戻ったとき、この家で暮らしていたときは子どもにイライラしてしまっていたけれど、乗鞍にいるとそれがなかったなと思って。『気づかないうちに乗鞍の自然に癒されていたんだ、乗鞍で暮らしているほうが自然体でいられるんだな』と確認できました」(同)

現場の教職員へかかる負担と地域コミュニティとの関係構築が課題に

実際に制度を支える教育現場では、どのような反応があるのか。制度開始初年度に市の制度利用者の約8割を受け入れるなど、松本デュアルスクール発足当初から積極的な受け入れをする大野川小中学校の馬場英晃校長に聞いた。

(写真左)大野川小中学校・馬場英晃校長
大野川小中学校・馬場英晃校長

大野川小中学校は、1学年に生徒数2人〜6人程度という小規模校ゆえに、生徒がひとり増えるだけでもインパクトは大きいと、馬場さん。

「生徒数が少ない地方では、どうしても学校内でコミュニティが固定化してしまいがち。デュアルスクールで訪れる子が新たな風を送り込んでくれることで、子どもたちの視点が増えますし、お互いの人物評価も柔軟に変化していくんです」

背後にアルプスを望む大野川小中学校
背後にアルプスを望む大野川小中学校

一方、受け入れにあたっては、現場の教員に負担が集中するという課題もある。

「ひとつは手続き面。一時的な転校扱いになるので、送り出し校や親御さんとの事務手続きが煩雑になったり、年度の途中で次々に生徒が増えると、学習進度の調整や教材の準備がその都度必要になったりします。教員は増やせないなかで対応の手間は増えているのが現実です」(同)

また、地域社会全体としては、制度を利用する親子と地域コミュニティとの関係づくりにも、注力していきたいところだという。

「地域の保護者としては『もともと通っている子どもへの教育が疎かにならないか』と不安に感じてしまうケースもあります。地元住民が代々営んできた行事に、デュアルスクールで訪れている子どもは参加するべきか否か、といった議論も生まれているようです。もちろん、すべての地域住民がそう思っているわけではなく、いろんな考えの人がいるということです。ただ、そこには不安や誤解もあったりするので、いかに双方が理解し合える機会を用意できるかが、今後の課題だと感じています」(同)

サテライトオフィス利用、里帰り出産、単身赴任......多様なデュアルスクールの事例

デュアルスクールを構想し、制度としてかたちにしたのは、地域でのサテライトオフィスの誘致をはじめ地方創生に取り組む企業、徳島県の株式会社あわえだ。

立ち上げの背景には、同社の代表である吉田基晴さん自身の体験がある。

「都内でIT会社を立ち上げたのち、地元である徳島にサテライトオフィスをつくりました。二拠点生活を送っていたのですが、あるとき妻から、『あなただけ両地域のいいとこ取りをして羨ましい』と言われてしまった。当時、僕自身も幼かったわが子に会える時間が減っていることを寂しいなと思っていて。子どもも親と一緒に行き来できるようになったら、ほかの家族にとってもいいんじゃないかと思い、この体験をもとに徳島県に政策提言をし、2016年に県と協働でデュアルスクールを始めました」

従来は二地域居住やワーケーションの文脈では使われていなかった区域外就学の制度を、そういった文脈でも使えるように提言。

吉田さんによると、区域外就学というのはそれまで、いじめや不登校などで住民票を置く地域の学校に通えない子どもや、住民票を置く地域に入りたい部活動がない子どもが、区域外の学校に通うといった文脈で認められてきたものだという。

その後、徳島県教育委員会と文科省でディスカッションも重ねられ、平成29年7月には、文部科学省初等中等教育局から各都道府県及び各指定都市の教育委員会に、「地方移住等に伴う区域外就学制度の活用について」が通知されている。

株式会社あわえ代表・吉田基晴さん
株式会社あわえ代表・吉田基晴さん

都市部から地方に行くケースが多いデュアルスクールだが、吉田さん自身は「決して、都市部がダメで、地方がいいとは思っていない」と語る。

「たしかに都市部は人が多い分、全体の最適化を目指す力学が働きやすく、子どもらしい感情や行動の発露が抑制されてしまうというリスクがあります。一方で、地方は人口が少ない分、物理的に選択肢が狭まってしまいがち。たとえば子どもが『バイオリンを習いたい』と言っても近くに教室がなかったりする。両方良くて、両方残念なところがあるんです」(同)

そういったなか、「異質な場所に一定期間身を置くことが豊かな学びにつながる」と吉田さんは続ける。

「そもそも、これほど複雑化している社会をひとつの教室のなかで知ろうなんて、無理な話だと思います。たとえば、もともと通っていた学校の教科書と、デュアルスクールで訪れた学校の教科書が違うという差異を体感する。そういった"ここではないどこか"に帰属することでしか得られない学びに価値があると考えます」(同)

海辺での自然体験も地方ならでは
海辺での自然体験も地方ならでは

都市と地方、双方の視点を持った人間が増えるかどうかで国の未来が決まる

区域外就学それ自体は全国の自治体で使える制度だが、「どういったケースを受け入れ対象とするか」「どのくらいの期間受け入れるか」などの判断については、各自治体に委ねられている。

文部科学省が全国の市町村教育委員会を対象に行った「就学校の指定・区域外就学の活用状況調査」(令和4年)によると、「二拠点居住、ワーケーションを行う保護者とともに普段の居住地から離れるといった理由により、区域外就学を活用して受け入れている例がある教育委員会」は、小学校等では8%、中学校等では5%。

文部科学省「就学校の指定・区域外就学の活用状況調査について」内の「調査Ⅱ 区域外就学について」より引用
文部科学省「就学校の指定・区域外就学の活用状況調査について」内の「調査Ⅱ 区域外就学について」より引用

複数地域での就学を許可する自治体はまだ少ないのが現状で、あわえの担当者によれば、「こういった使われ方はまだ前例が少ないということと、各市町村で制度化するためには移住担当課や教育委員会といった異なるセクター同士の連携が必要になること、送り出す側にもメリットがあることが周知されていないことなどが、高いハードルとなっている」と言う。

一方、自治体のなかでは家庭環境の変化やライフイベントに応じての柔軟な活用が見出されつつあり、里帰り出産に伴って兄姉を現地の学校に通わせるケース、親の介護に合わせて利用するケースなどもあるそうだ。

将来的にデュアルスクールが普及していけば、親子だけではなく地域社会にも大きな恩恵が生まれる可能性があると、吉田さんは先を見据える。

「たとえば香川県高松市は転勤族が多く、彼ら・彼女らが地域経済を支えている側面もあります。一方で、社会では『単身赴任は家族を分断する』といった視点も指摘され続けてきました。デュアルスクールで親の赴任先にある学校に子どもが通うことができれば、転勤による経済の維持と家族の分断の解消を両立する可能性も見えてくるかもしれません」(同)

いかに親子での二拠点居住が気軽に実現できる世界をつくれるか。その先にどんな社会が構想できるか。株式会社あわえは、国への提言や受け入れ自治体の支援を行いながら、環境整備に奔走している。

「20年後には、子どもたちが『昔ってひとつの学校しか行けなかったらしいよ』という会話がなされるような世界がつくれたら、と考えています。これからの社会を構想するうえで大切なのは、都市偏重でも地方礼賛でもない、バランス感覚を持った人間を社会に増やせるかどうか。今は地方創生のために潤沢な予算が投じられているけれど、いつかその恩恵もなくなるかもしれない。そのときに都市と地方、両方の視点を持った人が多くいるかどうかで、国の姿が変わっていくはずです」(同)

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