サストモ by LINEヤフー

知る、つながる、はじまる。

知る、つながる、はじまる。

「うちの子と、どこへ逃げる?」災害時のペット避難の未来 #災害に備える

熊本地震で被災したペット(画像提供:NPO法人ペット防災ネットワーク)
熊本地震で被災したペット(画像提供:NPO法人ペット防災ネットワーク)

もし今、大地震が来たら......愛するペットとどこへ逃げるか。
繰り返される災害のたびに、ペットと飼い主が直面する過酷な状況が報じられてきた。「ペットがいるから」と自宅に戻り、津波で命を落としてしまう人。迷惑をかけまいと車中で避難生活を送り、エコノミークラス症候群を発症した人の中には、ペットを連れて避難した飼い主も含まれていた。

なぜ、これほどまでにペットとの避難は難しいのだろうか? 人とペットとが安全に避難し、共生する未来はくるのだろうか?(取材・文:安藤ショウカ/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

不足している災害への備え

ペットとの避難において課題となっているのが、避難所の受け入れ態勢の不備だ。避難所は多様な人々が集う場所。動物アレルギーを持つ人、動物が苦手な人、小さな子どもやお年寄りもいる。そうした環境で、ペットの鳴き声や臭い、抜け毛といった衛生管理の問題はトラブルの原因となりやすい。熊本地震では、避難所でのルールが曖昧なまま無条件でペットを受け入れ、後にトラブルになる事例が多く見られたという。その他にも、糞の放置や毛の飛散などが原因で他の避難者とトラブルになったケースや、避難所で犬が吠えるために車中での避難を余儀なくされるケースもあった。能登半島地震の際は、最長で8カ月もの間、車中泊を選択した方もいたという。

ペットとの車中泊(イメージ)
ペットとの車中泊(イメージ)

しかし、課題を抱えているのはペットを受け入れる側だけではない。ペットの飼い主が、避難のための備えや日頃からのしつけ、健康管理が十分にできていないことも大きな課題だ。実際、ペットの療法食の用意がなく入手に苦労したり、ケージに慣れておらず過度なストレスを与えてしまったりしてペットに負荷がかかるケース。また、狂犬病予防注射を受けていないペットは避難所で受け入れできないケースもあった。

専用避難所という選択肢 ~熊本と能登の教訓~

こうした障壁や課題がある中でも、困難な状況を打開しようとする動きが生まれている。2016年の熊本地震で大きな被害を受けた熊本県益城町。ここでは自治体と民間団体とが連携し、環境省の協力を得て「益城町わんにゃんハウス」が設置された。飼い主は一般の避難所に身を寄せ、すぐ近くのペット専用のコンテナハウスに預けて世話をする。

「益城町わんにゃんハウス」のコンテナとドッグラン
「益城町わんにゃんハウス」のコンテナとドッグラン

入居条件の一つには「飼い主がペットの世話をすること」が示され、飼い主が責任を持つことを前提とした施設として運営。運営者は飼い主のサポートに徹し、日頃のしつけや健康管理、迷子札などによる所有者の明示といった「適正飼育」の指導や心のケアを主な役割としていた。益城町わんにゃんハウスを立案・運営に携わったNPO法人ペット防災ネットワーク理事長の冨士岡氏はこう語る。

「ペットに対する飼い主のしつけが不十分で、周囲の人やペットとの共同生活ができなかったり、ケージに入れなかったりすると、同行避難を受け入れている避難所でも入所が難しい場合があります。ですから、飼い主が責任をもって日頃から適正飼育をすることがとても大切であり、それはたとえ災害時であっても変わりません。ボランティアがペットの世話をすべてしていては、『預かってもらえばいい』となり、次に災害が起きた時にも同行避難ができないペットが出てきてしまうでしょう。そのため、私たちは飼い主が責任をもって世話をすることを何よりも大切にしていたのです」

益城町わんにゃんハウスは、避難所閉鎖までの約半年間で犬猫計57頭、43家族が利用し、公的支援を受けながら飼い主責任に基づく同行避難をサポートした、全国に先駆けたモデルケースとなった。

そして2024年の能登半島地震。石川県珠洲市では、認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン、認定NPO法人日本レスキュー協会、珠洲市が連携し、「ペット同伴者専用の避難所」を開設した。

珠洲市では同行避難・同伴避難できる避難所が開設されていたものの、飼い主たちは周囲に気を遣い、トラブルにならないよう玄関での生活や車中泊を選択した人もいた。さらに、同伴避難の可否は市区町村や避難所に委ねられている上に、被害状況や避難所に宿泊している人々の状況によって判断基準も変動するため、中には同伴避難していた人が退去を余儀なくされたケースもあったという。そんな状況を受けて専用避難所を設置した。

ペット同伴者専用の避難所にはプライバシーを確保できるテントを複数設置し、ペットフードやおもちゃ、トイレシートなどの物資も提供。日中にペットを預かる「わんにゃんデイケアハウス」も運営し、飼い主が家の片付けや手続きに専念できる環境を整えた。

石川県珠洲市のペット同伴者専用の避難所内
石川県珠洲市のペット同伴者専用の避難所内

ペット同伴者専用の避難所は地震発生から約1カ月後に開設され、計画から開設まではわずか10日程度。これだけ迅速な対応ができたのは、災害が起きる前から自治体との関係を築いていたからだと、ピースウィンズ・ジャパンの岸下氏は話す。

「石川県では能登半島地震の半年前にも地震があり、人道支援に行った際に珠洲市との関係構築ができていました。そのため、市の被害状況などを確認できる対策会議に、発災後すぐに参加できる状態にありました」

この事例は、事前の準備と連携があれば、災害発生後わずか10日程度で専用避難所を開設できる可能性を示した。

地域で支え合う「共助」の力 ~飼い主の会とネットワーク~

地域コミュニティを基盤とした支え合いも生まれており、平時から地域での連携を深める動きもある。東京都世田谷区の「ペット防災せたがやネットワーク」は、地域の獣医師、トレーナー、動物関連団体、飼い主、行政などが連携し、ペット防災に関する情報共有や啓発活動、地域モデルの構築に取り組んでいる。

また、熊本地震の「益城町わんにゃんハウス」でも、コミュニティの力がカギとなった。震災後、避難所で暮らす飼い主らが主体となり、連携して助け合うために「飼い主の会」を結成。益城町わんにゃんハウスの入居条件としても参加が必須となった。飼い主の主体的な参加により、単に「動物愛護」ではなく「被災者支援」に重きを置いた、飼い主とペットのためのコミュニティが形成されていたと冨士岡氏は語る。

「飼い主が避難所を離れている間に、隣の飼い主が汚れたケージを掃除してくれたり、散歩に連れていけない日は他の飼い主が一緒に散歩させてくれたり、お互い助け合う姿が見られました。そうして飼い主同士のつながりが生まれたことで、たわいもない話をしたり、悩みを相談したり、一緒にご飯を食べたりと、避難所生活の中での楽しみやリフレッシュとなる、大切なコミュニケーションの場にもなっていました。飼い主、ボランティア、運営者が一体となって運営するコミュニティそのものだったと思います」

コミュニティだからこそ、自分の生活だけでなく、誰かの生活、お互いの心を支え合う共助のあり方が実現した事例となった。

自治体の本気と具体的な計画 ~マニュアルと訓練~

避難所の運営は市区町村や各避難所に委ねられているため、ペットと避難できる環境を整えるには各自治体の取り組みが極めて重要になる。近年、先進的な対策を進める自治体も増えてきた。

栃木県野木町は「災害時のペット対応マニュアル」を策定。「飼い主グループの立ち上げ」や「飼育場所の設営」「適正な飼育・管理」など、避難所で飼い主がすべき対応を明確にし、町内10カ所の指定避難所ごとに、ペットの一時飼育場所を具体的に指定している。また、避難所運営に関する具体的な手順も示されている。

青森県も、同伴避難可能な場所とペットの種類、飼養場所を具体的に示しているほか、災害時にペットと避難する人を受け入れる場面を想定して、地図などを用いて災害対応を議論・訓練する図上訓練も実施。防災や保健衛生にかかわる職員など、およそ50人が参加した。加えて、青森県はペット保険会社のアイペット損害保険と動物愛護に関する連携協定を締結。アイペット損保が適正飼育の促進に向けた不妊・去勢手術の補助費用の寄付を行うとともに、県民へペット防災の対策を伝えるWebサイト「ペットの防災 FOR AOMORI」を県と協働して作成・公開している。このWebサイトでは災害時に必要な備えがイラストとともに分かりやすくまとめられ、ペットを守るための知識もクイズ形式で学ぶことができる。

アイペット損保の佐野氏はこう語る。

「一人でも多くの方に周知したいのに、防災は堅い内容になりがちで、マニュアルとなるとさらに見てもらいにくいというジレンマがありました。そこで、興味を持ってもらえて親しみやすく、体験もできるコンテンツを作りました」

私たちにできること「自助」の5カ条

東日本大震災を機に環境省のガイドラインが作成されてから、熊本地震の状況も受けて、ペットと避難するためのより具体的な計画策定や情報の周知、訓練といった取り組みが各自治体で進んでいる。

一方で、災害時は公的機関による「公助」でなく、被災者自身が生き延びるための努力を行う「自助」が基本とされ、ペットを守るのも飼い主の責任となる。地域や災害の規模などによっては「共助」や「公助」に限界があり、ほしい時に助けを得られるとも限らない。NPO法人アナイス理事長の平井氏によると、東日本大震災では、指定避難所以外に住民による避難所があり、その中には半年間ペットの支援物資が届かなかった事例もあるという。

環境省のガイドラインでも、避難先でペットの飼育に必要なものは、基本的に飼い主が用意しておくべきとされている。具体的な用意や対策をまとめた。

(1)リードやキャリーバッグ等の避難用品を準備する。フードや水、常備薬、療法食、トイレ用品などを最低でも5日分は用意しておく。

(2)ケージやキャリーバッグに慣らす。無駄吠えさせないことや「待て」「おすわり」といった基本的なコマンドのしつけ、そしてワクチン接種やノミ・ダニ駆除、不妊・去勢手術といった健康管理を行う。

(3)所有者明示による迷子対策を行う。首輪や迷子札に加え、脱落しにくいマイクロチップの装着が推奨される。犬の場合は鑑札や狂犬病予防注射済票の装着が義務。

(4)地域の避難所へのルートやペット受け入れルールを事前に確認し、親戚や友人宅、ペットホテルなど、複数の避難先や一時預け先の候補を準備しておく。また、地域の防災訓練に参加し、いざという時の行動を体に覚えさせる。

(5)日頃から居住環境を整える。家具が倒れてけがをしないよう、背の高い家具を置かない、家具を固定するなどの対策を行う。

また、ペットの飼い主は「同行避難」と「同伴避難」の違いを正しく認識しておきたい。

環境省のガイドラインでは、同行避難は「ペットとともに安全な場所まで避難する行為(避難行動)」であるのに対し、同伴避難は「被災者が避難所でペットを飼養管理すること(状態)」を指す。同行避難の行き先は必ずしも避難所であるとは限らない。同伴避難においては、室内での同居避難とは限らない。ガイドラインに則って言葉を理解することが、現場での認識相違を防ぐことにつながる。

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、地球環境や持続可能性について知ってもらうことが、豊かな未来をつくることにつながります。

  • facebookでシェアする
  • X(旧Twitter)でポストする
  • LINEで送る
  • noteに書く

ABOUT US

サストモは、未来に関心を持つすべての人へ、サステナビリティに関するニュースやアイデアを届けるプロジェクトです。メディア、ビジネス、テクノロジーなどを通じて、だれかの声を社会の力に変えていきます。

TOP