のんがアート活動を続けるのは「知らない感情に出会う」ため。 特別な場所・東北との関係
映画、音楽、アートなど、ジャンルにとらわれず、自由な表現に挑み続けてきた、のんさん。アーティストとして活動し始めた2020年頃からは、リボンをモチーフにした「リボンアート」を継続的に発表してきました。
また、リボンと並んで代表的なモチーフとしてきたのが、こけし、赤べこ、白べこ、七夕飾りといった東北の伝統工芸。
その土地土地に根付く昔ながらの技術とアートを紐づけてきた創作が評価され、「大阪関西国際芸術祭 2025」会場の一つである国立民族学博物館にて、「のん Ribbon展 怪しくて、可愛いもの。-群れる-」が開催されることに。
今回の展示作品のこだわりや東北への想い、そしてのんさんが表現活動において大切にしていることを伺いました。
「怪しくて、可愛い」相反するものに惹かれる理由
アーティストとして活動し始めた当初から、リボンをモチーフにした作品を継続的に発表してきたのんさん。
2021年の沖縄・やんばるアートフェスティバルでの「ちょうちょとガジュマル」の発表を皮切りに、2022年には東京・渋谷で『のんRibbon展 -不気味で、可愛いもの。』を、翌年の2023年には仙台で『のん Ribbon展 怪しくて、可愛いもの。』を開催。精力的に創作を続ける中で、リボンというモチーフを一途に探究し続けてきました。
今回の「のん Ribbon展 怪しくて、可愛いもの。ー群れるー」でも、作品の要所要所にリボンが施されています。
これまでの「のんRibbon展」のサブタイトルを「怪しくて、可愛いもの。」や、2022年の「不気味で、可愛いもの。」としてきたように、創作活動において"相反するもの"を共存させてきたのんさん。
そうした発想の原点は、2022年に自身が脚本・監督・主演を務めた映画『Ribbon』だったそう。コロナ禍の影響で卒業制作展が中止になってしまった美大生の主人公・いつかの感情を見つめる中で、リボンというモチーフに出会ったと語ります。
「映画『Ribbon』では、モヤモヤした葛藤を抱える主人公を描きました。そうした気持ちは"負の感情"として捉えられ、なるべく抱かないほうがいいものと思われがちですが、私は怒りや悲しみ、悔しさも排除するべきじゃないと感じてたんです。
リボンというかわいい表象で表現することで、そうした負の感情たちも、かわいいもの、いいものに見えてくるんじゃないか。映画の中で、主人公がリボンを貼り付けた絵を描くシーンからそんな発想を得て、それからずっと『かわいい』ものと相反するものが共存する表現を追求しています」
今回の「のん Ribbon展 怪しくて、可愛いもの。-群れる-」では、そうした表現はそのままに、会場となる国立民族学博物館にインスピレーションを受け、日本の民芸とコラボレーションした作品を展開。
背中に赤いリボンを何層にもわたって纏った15体の「こけし灯篭」のうち、10体は今回の展示のために制作されました。
このほか、「ちょうちょを纏った、白べこ」「真っ赤童の巣」「七夕飾り」など、日本の民芸とコラボレーションした"怪しくて、可愛い"作品が並びます。
大阪関西国際芸術祭の総合プロデューサー・鈴木大輔氏は「1970年大阪万博の象徴である太陽の塔と、民族学博物館のつながりが、のんさんの作品で可視化された」と両者の親和性を高く評価。
のんさんも、相反するものを共存させてきた自身のテーマと、太陽の塔を生み出した岡本太郎氏の表現にシンパシーを感じたようです。
「『太陽の塔』は、生で見て本当に感動しました。目に入ったら心が惹きつけられて、すっと通り過ぎることができない威力を放っていて、心臓に突き刺さりました。岡本太郎さんは、ちょっと不気味だけど魅力的で不思議な力を持っているアーティストだと感じていて、とても好きです」
アートを通じて東北と関わる
今回の作品の中で、のんさんがとりわけ注目してほしいと語るのは「こけし灯篭」です。
これは津軽の伝統工芸である「こけし」をモチーフに、青森の代表的な「ねぷた」や「灯篭(とうろう)」の技術を活かして作られた民芸。今回は夏の展示であることを踏まえたモチーフにしたそう。
「青森のお祭りで使う『こけし灯篭』を、職人さんとコラボレーションして新しく10体つくりました。今回は夏の展示なので、夏の花や果物をモチーフにしています。
また、大小さまざまな『真っ赤童(まっかわらし)』は219体を展示しています。以前の展示の際は、古民家の一室を埋め尽くすように配置して怪しさと可愛さを表現しました。でも今回は、埋め尽くすのではなく空間に凝縮させることで、群れている様子が浮き上がるように展示しています。最近は『群れる』も自分の中のテーマの一つなんです」
このほか「赤べこ」や「七夕飾り」など、以前から手がけてきた東北と民芸とコラボレーション作品をアップデートした作品が並びます。
のんさんが東北に思い入れを持つようになったのは、2013年に放映された岩手県北三陸地方が舞台のNHK連続テレビ小説『あまちゃん』への出演がきっかけ。現地の人々にあたたかく迎え入れられ、東北が特別な場所になったのだといいます。
以来、2021年に開催された「東日本大震災復興10年 復興応援コンサート」をはじめ、たびたび東北へと足を運び、2023年には「あまちゃん」放映10周年を記念して誕生した「三陸元気!GoGo号」の出発式に出席。さまざまな場面で東北との縁を深めてきました。
「東北には、どうにか元気になってほしいという気持ちを元々持っていたんですけど、実際に行ってみると、逆に自分のほうがパワーをもらえる場所だと思いました。みなさん親戚のように接してくれますし、東北の景色も、地元の料理の味も好きなものばかりで。今でも行くたびに力と癒しをもらい続けています」
そんなのんさんに、今後コラボレーションしてみたい作品について尋ねてみると、たくさんのアイディアを語ってくれました。
「こけしをモチーフにした作品を制作していますが、実際に東北の方が作られたこけしとコラボレーションすることにはものすごく興味がありますね。あとは以前制作した作品の中で東北伝統の『獅子踊り』の踊り手さんに登場していただいたこともあり、そうしたお祭りとコラボすることにもすごく興味があります。
東北には『山形花笠まつり』のような美しいお祭りもありますし、東北のお祭りをもっと調べて研究してみるのも、興味があることのひとつです」
アート表現を通じて、人とつながることができる
俳優、歌手、アーティストとさまざまな肩書きを持ち、自由な表現活動を続けてきたのんさん。ジャンルを軽々と飛び越える様子からは、その違いを意識していないようにも思えますが、アートには俳優業とは違った魅力があるといいます。
「役者の仕事だと、『見た人をこういう感情にさせないといけない』みたいなものが大枠として設定されてはいるんですけど、アートはどんな感情を抱いてもらっても構わないことがすごく好きで。私が作ったものに対して一人ひとりが全く違う感想を持って、全く違う感情を抱くことがすごくおもしろいなと思っていますね。
『え、そんな風に思うの?』『そんな発想があるんだ』という自分の知らない感覚に出会いたい。自分の表現に対する反応を通じて、知らない感情を知ることができる。それが私のアート表現を続ける意味なのかなって思います」
自分の表現の先にいる他者の感覚に触れたい――。
そうした純粋な想いを制作のモチベーションにしている背景には、天真爛漫な役を数多く演じてきたのんさんからは想像できない、意外なパーソナリティを感じました。
「普段は初対面の人と会ったり、1対1で話したりと人と接するのがそんなに得意ではなくて、すごく不器用なんです。でも、こうやって自分が表現することを通じて、人と関われている感覚はすごくあります。表現を通じて人とつながれるというか、影響を与えたい気持ちがすごく強いと思うので、それは大事にしてますかね」
「だから、アート活動において『作品を観た人を驚かせる』ことは意識しています。たとえば太陽の塔も、隣にあったら無視できない存在じゃないですか。そういう風に無視できないビジュアルのインパクトを残すことは大事なのかなって思います」
アートを他者とつながる"手段"としても捉えているというのんさん。最後に、今後の創作活動の展望について、こんな風に語ってくれました。
「自分の『この作品が好きだ』という感覚が、自分を支えるものの1つになってるなって感じるんです。自分の好きな作品が増えていくことによって、自分自身の輪郭もくっきりしてくるというか。私はこれからも、そういう作品を作っていきたいです」
☆お知らせ
「Study:大阪関西国際芸術祭」開催概要
会期
2025年4月11日(金)〜10月13日(月)
会場
大阪・関西万博会場をはじめ、大阪市内各所を舞台に開催中。
「のん Ribbon展 怪しくて、可愛いもの。-群れる-」は万博記念公園内・国立民族学博物館にて開催。
※各会場やチケット情報など、詳細は公式HPをご確認ください。
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取材・執筆佐々木ののか
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写真木村華子
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編集友光だんご(Huuuu)
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