MY自転車と''ワープ''する! 車ナシでも自由な観光ができる、電車×自転車の新たな移動手段とは?
自転車と一緒に、電車に乗り込んでいる...⁉
実はこれ、ルール違反ではなく......
「サイクルトレイン」というサービスを利用しているんです!
この記事、ざっくりいうと?
- MY自転車と一緒に電車旅
- 福岡・西鉄が都市部で初導入し話題に
- 移動の自由が地域を元気にする
サイクルトレインとは?
「サイクルトレイン」は、まさに「自転車を解体せずにそのまま電車に持ち込める」サービスです。
通常の電車では、自転車を解体して"手荷物"として持ち込む必要がありますが、サイクルトレイン乗車時は解体の必要ナシ!
自転車をそのまま電車に持ち込めるため、サイクリストにはとってもありがたいサービスなんです。もちろん、タイヤの大きい自転車が怖い...!という人はママチャリやシェアサイクルでも◎
国土交通省が推進し、2023年度時点では74社・152路線で実施。全国的に広がりつつある取り組みです。
そんなサイクルトレインのいちばんの魅力は、なんといっても「MY自転車と一緒に電車に乗って、サイクリングのスタート地点をワープできる」こと!
そしてこの魅力は、持続可能なまちづくりにも繋がっています。
サイクルトレインは"地域活性化"の柱になる!?――地域に寄与する"ひらかれた移動"
運転免許は持ってるけど車の運転に自信がない...!
移動はもっぱら公共交通機関を使う...!
そんな方、きっと多いと思います。
旅行の際の観光プランは「公共交通機関を駆使して辿り着けるかどうか」が基本。
だけど行きたかった観光地までの公共交通機関が充実しておらず、泣く泣く観光を諦める...といった経験もあるあるなはず。
そこで、サイクルトレインです!
自転車と一緒に電車に乗ってお目当ての地域までワープ、降りたらそこからは自転車で目的地までスイスイ。自転車×電車のいいとこどりで、移動手段にも時刻表にも縛られずに観光の自由度がぐっと上がります。
そして自転車の移動は、車内からではわからない土地の空気や匂い、音をダイレクトに感じられます。気楽に乗り降りもできるので、地域の素の魅力に触れられる点も推しポイントのひとつです。
「ここに自転車で行きたい...けど遠い」「ここに行きたい...けど手段がない」。いわゆる"二次交通問題"は、利用者だけでなく観光地にとっても痛手です。
駅から先の公共交通が十分でないと、観光は駅前で完結しがちです。少し離れた場所で営む店の魅力は旅行者に届きにくく、街に点在する多様な魅力も埋もれてしまう。「公共交通機関で行ける場所」だけが知られ、結果として街の印象は均質化してしまいます。
サイクルトレインは利用者、そして観光地の課題を解消しつつ、沿線地域への回遊を生む。自転車という"ひらかれた移動"が、訪れる人の歩幅を広げ、地域の未来へ続く小さな循環を動かしています。
このように全国で少しずつ広がりを見せるサイクルトレインですが、実はその多くは観光色の強いローカル線や、運行本数の比較的少ない路線での導入が中心。
都市部を走る鉄道路線で採用されるケースはまだまだ限られているんです。
そんな中、福岡県を走る西鉄天神大牟田線は、なんと民間鉄道として初めて都市部の本線を走る列車でサイクルトレインを導入しました!
西鉄天神大牟田線
福岡県福岡市中央区の西鉄福岡(天神)駅から、福岡県大牟田市の大牟田駅を結ぶ鉄道路線。福岡の繁華街・天神から南部地域を一直線に結び、通勤・通学から観光まで幅広く支える。
福岡市という福岡県の中心地、それも天神というど真ん中から「自転車観光」を始めることができるんです!
↑西鉄天神大牟田線はうなぎや川下りで有名な柳川やとんこつラーメンの発祥の地である久留米にも停車する路線です。
福岡の中心地をサイクルトレインが走る!西鉄天神大牟田線サイクルトレインの特徴
繁忙期には1カ月で300人近くが利用する西鉄天神大牟田線のサイクルトレイン。
利用者からは「便利すぎる」「行動範囲が広がる」といった声が寄せられ、観光時の移動手段として定着しつつあることがわかります。
何よりも、「使ってみたい」という気持ちを後押しする、予約方法のやさしさ、利用方法のわかりやすさが特徴的!
LINEを使ってチケット予約・決済から当日の乗車を簡単にできる機能を実装し、気軽にサイクルトレインを利用できるようにしています。
LINEを活用した予約・乗車システムの簡易化をはじめとし、シェアサイクル・鉄道・バスとのMaaS連携などの取り組みが評価され、自転車活用推進功績者(※)として表彰も!(※国土交通省・自転車活用推進本部より表彰)
福岡県の観光振興を担う公益社団法人・福岡県観光連盟からもこんな評価が。
福岡県観光連盟:
福岡空港イン・アウトのインバウンド観光客の増加に伴い、お客様のニーズも多様化している中で、サイクリング観光は、裏道や坂道、小規模な自然・文化スポットがサイクリングルートとして再評価され、観光資源の掘り起こしにつながっており、サイクルトレインは地域に多面的なメリットをもたらしていくと考えます。
小回りが利く自転車での観光は、"王道"の観光地だけではなく、まだ誰も見つけていないかもしれない、その地域に根ざした魅力にも出会えるんですね。サイクルトレインだからこその旅を体験できそう...!
都市部に風を呼ぶ──西鉄サイクルトレイン誕生の背景と未来展望
福岡の観光に、新たな選択肢を与えた西鉄天神大牟田線のサイクルトレイン。
この都市型サイクルトレインは、どのような経緯で実現し、今後どんな景色を描こうとしているのか。西鉄天神大牟田線のサイクルトレインを推進する、西日本鉄道株式会社の担当者さんに聞いてみました。
── 当時、メジャーではなかったサイクルトレイン。実施の経緯は?
西日本鉄道
コロナ禍で鉄道の日常利用が減少し、観光需要の回復と密を避けた移動の促進策としてサイクルトレインを検討していました。
そのほかにも、全国的に自治体によるサイクルイベントの企画やコース整備が進んでいたり、九州ではサイクルロードレース「ツール・ド・九州」が開催されていたり、全体的にサイクリング熱の高まりを感じる時期でもありました。さらに政府や自治体が推進しているSDGsや観光推進の取り組みの方向性とも合致していたので、サイクルトレインの実施に至りましたね。
── 当時、都市部で初めてサイクルトレインを導入した西日本鉄道。都市部の導入ならではの難しさと、それを突破できた理由は?
西日本鉄道
都市部を走る列車は乗降者数が多く、一般のお客さまとサイクルトレイン利用者の自転車が接触してしまう。都市部でのサイクルトレインの導入が難しい理由はここにあります。
そこで、私たちはLINEを活用した予約システムを導入し、一つの車両に乗せることができる自転車の数を制限したほか、朝夕の通勤・通学時間帯は予約ができないように制限をすることで、自転車と一般のお客さまとの接触が発生しない環境を作りました。
また、サイクルトレイン利用時に自転車を押して駅構内を移動する際の動線を指定することで、駅構内で自転車が移動する際にも支障がない、使いやすくて安全なサイクルトレイン利用を実現させています。
── 今後、サイクルトレインを通じて実現させたい世界は?
西日本鉄道
地域の魅力を肌で感じられるサイクリングの魅力を知ってもらい、そのサイクリングをより快適に楽しむ手段としてのサイクルトレインの利用を促進していきたいですね!
西日本鉄道
今は少ないですが、買い物など日常生活でのサイクルトレインの利用など、自転車を活用した新たな移動需要も作り出していきたいと思っています。
加えて、沿線地域の賑わい創出へも引き続き貢献していきたいです。
サイクルトレインの利用者を対象に実施したアンケートでは、回答者のうち7割弱の方が、福岡都市圏部から、福岡県南部地区の久留米、柳川、大牟田に向かわれていました。
西鉄沿線には魅力的なサイクリングコースが多くあります。サイクルトレインがサイクリストの行動範囲を広げることで、県南沿線地域の新たな賑わいの創出にも貢献できているのではないかと思っています!
あなたの地図を広げる"サイクルトレイン"
サイクルトレインの利用者が口々に言うのは、とにかく「便利」ということ。
しかしサイクルトレインはただ便利なだけじゃありません。
公共交通×自転車という組み合わせは、移動の負担も環境負荷も控えめにしながら、沿線での寄り道や消費、滞在を自然に増やしています。
観光の大スポットだけでなく、地元のパン屋さんや路地裏の神社みたいな"小さな良さ"が再評価されて、地域に回遊と出会いの循環が生まれる。
サステナブルな地域活性化って、実はこういう「気持ちよい移動体験」から始まるのかもしれません。
天神から一本、"ワープ"で地図を少しだけ拡張する。
その地図の先で待っているのは、観光地ではなく、等身大の「まち」の顔です。
次の休み、サイクルトレインを利用して気軽に出かけてみませんか。いい意味で、帰り道が長くなるかもしれません!
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取材・文
松田彩加


