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日本で縫える人が減っている ぬいぐるみと着ぐるみ製造現場から見える縫製業の未来

サン・アローのぬいぐるみ

幼い頃から大切にしている「ぬいぐるみ」。イベントやテーマパークなどで見かける「着ぐるみ」。形は違えど、どちらも人の心に笑顔や思い出を残す特別な存在だ。

そんなぬいぐるみなどを作る職人たちが、国内で静かに姿を消そうとしている。ぬいぐるみなどを縫う国内の工場は、高齢化もあり、縫製を担当する人材が確保できていないという深刻な問題を抱えている。さらに近年、物価上昇などで材料費が高騰し、縫製の現場はかつてない岐路に立たされているのだ。

また、イベントやテーマパークで人々を楽しませる「着ぐるみ」においても、その状況は同じだ。縫製業の未来は、どうなっていくのだろうか?

記事の前半では、創業100年以上の歴史を持ち、数多くのキャラクターぬいぐるみを手がけてきた株式会社サン・アローに、国内のぬいぐるみ工場の現状について取材。

また、後半では「残業ゼロ」「有休取得率100%」「休日出勤なし」など、従来の縫製業界の常識を覆す働き方を行う着ぐるみ製作会社KIGURUMI.BIZ株式会社に、着ぐるみをめぐる現状や文化を残していくために必要なことについて聞いた。(取材・文:吉野舞/編集:友光だんご、Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/撮影:飯本貴子)

国産ぬいぐるみはなぜ減った? ぬいぐるみ製造の現在地

くまのメロディ
東京都千代田区にあるぬいぐるみメーカー「株式会社サン・アロー」。ここでは有名キャラクターのぬいぐるみやテディベアなど、多くの商品が生み出されている。写真はサン・アローオリジナルぬいぐるみ「くまのメロディ」

まず話を聞いたのは「株式会社サン・アロー」。テディベアをはじめとする商品も手がけているぬいぐるみメーカーだ。キャラクターの個性や作品の世界を忠実に再現できるのは、熟練の技を持つ職人たちに商品の特徴を理解して頂き、手作業で細部まで仕上げてもらい、品質の高さを保っている。

一般的にぬいぐるみの製造現場と聞くと、工場などでずらりと並んだ職人が手縫いする風景を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。そんな風景はもはや過去のものだと、25年間サン・アローでぬいぐるみの商品管理を担当してきた太田一成さんは話す。

「現在、国内はどこも縫ってくれる人が不足し、内職のような形で自宅で縫製を行ってもらうケースが増えています。職人の中には家庭を持っている方も多く、自宅外で作業を家事や子育ての隙間時間にできる形にしないと成り立たないこともあってか、ほとんどの多くの人が内職のような形で自宅で縫っています」

1980年代までは国内が主流だったぬいぐるみ製造現場の多くは、バブル崩壊後の1990年代前半に人件費の安い韓国に移り、その後、中国での製造が中心となった。

特に近年はより安価な労働力を求めて、中国から材料を輸入しつつ、製造拠点はベトナムやインドネシアなどの東南アジアも増えてきている。

ぬいぐるみを縫製
ぬいぐるみを縫製する場合、顔や体などそれぞれのパーツを分業で縫うケースが多い

「現在、国内で販売されているぬいぐるみの9割は海外で生産されたもので、国内の工場は最低限の生産体制を維持するのがやっとの状況です。また、国内の工場はどこもキャパがいっぱいで、我々のようなメーカーが日本だけでぬいぐるみを作ろうとなると、工場の取り合いになってしまいます。それほど国産のぬいぐるみが珍しい時代になってきています」

日本から海外へ。技術力の逆転も

ぬいぐるみの海外製造においては、長い間品質を保つことが課題とされてきたが、現地での技術指導が進むことで、「国による品質のバラつきも次第に少なくなっており、近年では国内を上回る技術力を持つ現場も現れている」と太田さんは語る。

「国内では職人の高齢化の影響で、手で細かい作業をするのが難しくなってきており、日本製のぬいぐるみを作ることが難しい状況となっているが、中国国内の縫製に関する技術力は年々上がってきており、日本以上のスピードで行えるようになってきています」

小さなソネット
サン・アローの売れ筋でもある「小さなソネット」。ぬいぐるみは手のひらに乗るサイズで、レトロで愛くるしい顔が特徴

一方、国内でぬいぐるみを作り続けるメリットもある。そのひとつが「ロット数」だ。海外の場合、発注時に最低ロットが決まっており、少量の生産が難しい。しかし国内なら、必要な個数に合わせて生地や材料を集められるため、無駄のないモノづくりが可能だという。

さらに、万が一のトラブル発生時も、同じ国内であれば言語や時差の壁がなく素早く対応できる点だけでなく、仕上げの面においても、日本製のぬいぐるみは細かい表情の出し方や、可愛い感覚を理解している点などが日本製のぬいぐるみの強みだ。

今後、国産のぬいぐるみはどうなっていくのだろうか。太田さんは「なくなることはないが、今よりも希少で価値のある存在になっていく」と語る。

「現在、国内の工場のほとんどが後継者不足やコロナ禍の影響で廃業の危機にあります。そんな中でも、国産ぬいぐるみは訪日外国人のお土産としても人気で、インバウンド需要も高まっている。そのために自社でも国内の工場の環境改善への支援、高齢者の雇用活用に取り組んでいます」

残業をやめると、経常利益が270%UPした着ぐるみメーカー

一方、着ぐるみの現場ではどのようになっているのだろうか? 宮崎県に本社を構える着ぐるみ製作会社「KIGURUMI.BIZ株式会社」の代表・加納ひろみさんは、縫製業界に人が集まりにくい理由についてこう語る。

「縫製の現場って、長時間労働や低賃金が当たり前になってきた歴史があるんです」

そんななか、KIGURUMI.BIZでは早くから社員の声をもとに働き方改革に取り組み、残業ゼロ・休日出勤なし・有休取得率100%といった職場環境の見直しを進めてきた。その結果、前年比5割増と大きく売り上げを伸ばしたのだ。どのようにして縫製業界の慣習を覆し、働き方を変えていけたのか? 加納さんに話を聞いた。

加納さん
KIGURUMI.BIZ株式会社代表取締役。1960年宮崎県生まれ。Appleほか外資系企業に勤務の後、1998年「ステージクルー(現KIGURUMI.BIZ)」に入社。2017年代表取締役就任。みやざき女性の活躍推進会議共同代表。宮崎県総合計画審議会委員。宮崎県男女共同参画審議会委員。

もともと、造形美術の仕事を請け負っていたKIGURUMI.BIZが着ぐるみの製作を始めたのは、ちょうどゆるキャラブームで着ぐるみの需要が増えるよりも前のこと。2006年に滋賀県彦根市で誕生した「ひこにゃん」の人気に火がつくと、全国でゆるキャラが一気に増え、KIGURUMI.BIZへの着ぐるみのオーダーも急増した。

「設立当初からうちには子育て中の女性職人が多く働いていたんですけど、当時は毎日のように夜遅くまで作業に追われていて、みんな疲弊していたんです。このまま職人が辞めてしまうと、会社自体が立ち行かなくなるという危機感から、これまでの働き方を見直すことにしました」

加納さんは社員からの意見も取り入れ、まずは火曜と金曜の週2回、17時での完全退社を導入した。そうすると、他の曜日の残業も自然となくなっていった。そうして休日出勤はなし、有給休暇100%取得など一つずつ働く環境を整えた。

「休日出勤や残業をなくすと、これまでどれだけ社員の家庭生活に負担がかかっていたのかを痛感しました。残業を少しでも減らすためにも、分業体制やスケジュール管理を徹底して、無理な受注は断るようにしたんです。技術を持っている職人が働き方を理由に続けられないのはもったいないと思いましたし、何より社員を守りたかったんですよね」

KIGURUMI.BIZ社員
社員はほぼ女性で、平均年齢は40代。子どもを持つ人も多い(クレジット:KIGURUMI.BIZ

残業を減らしたことで社員のモチベーションは向上し、効率よく製作が回るようになったという。また、受注内容を見直し、単価を上げる取り組みも並行して進めたことで、働きやすさと収入の両立を実現。

「残業を減らすことでチームの団結力や生産性の向上にもつながり、着ぐるみ自体の品質も上がりました。それに会社の売り上げは前年より5割増え、なんと経常利益は270%増になったんです。残業をやめると、本当にいいことだらけでしたね」

加納さんが先導した働き方改革は、やがて県内にも広がっていった。

「例えばママが定時で帰れても、『パパが遅くまで働いていて、結局は育児の負担が自分に集中してしまう』という声がありました。それを聞いて、働き方の見直しは社内だけでなく、地域全体で取り組むべき課題だと感じたんです。そこで、うちの取り組みを県内に発信したところ、行政のサポートもあり、宮崎県内でも次第に残業ゼロに取り組む企業が増えていきました」

これからは価格よりも、ものづくりへのリスペクトを

会社が順調に回り始めた矢先、コロナ禍が直撃。イベントの中止と共に着ぐるみの新規依頼や修理もほぼゼロになった。加納さんは当時のことを「会社はなくなるだろうと覚悟しました」と振り返る。

コロナ禍でも加納さんは会社を守るために、医療用ガウンを2万枚以上縫ったり、助成金を活用したりして、なんとかスタッフの給与を維持させた。その結果、社員をひとりも解雇せずに済んだのだ。

「一人前になるには3〜5年かかると言われている着ぐるみ縫製技術は、先輩の手元を見て覚え、何年もかけてようやく身につくもの。だからこそ、人が辞めない環境づくりは縫製業界の存続に直結すると思っています。

またコロナ禍を経験しても、再び立ち上がれたのは技術が継承されてきたからこそ。職人がいてくれたおかげで、私たちは今も着ぐるみを作り続けることができています。そうした中で、社員や業界全体の職人を守っていきたいという思いはいっそう強くなりました」

着ぐるみ縫製
クレジット:KIGURUMI.BIZ

加納さんは2023年に「一般社団法人 着ぐるみ協会」を立ち上げた。この協会は着ぐるみの文化を次世代に残していくために、職人の労働環境を守るガイドライン作りに着手し始めている。今後は価格の面でも、積極的に交渉していく考えだ。


「着ぐるみは1体つくるのに3週間以上かかるんですけど、中にはデザインや仕様によって1カ月以上かかるものもあります。材料費も人件費も上がっている中で、正直今の着ぐるみの価格は適正じゃないと思っていて。これからも職人が夢のある仕事に誇りを持ち続けられるように、価格だけでなく、着ぐるみの背景にある手仕事へのリスペクトを広げていきたいです」

着ぐるみの背景にある手仕事
クレジット:KIGURUMI.BIZ

「そのためには、着ぐるみやぬいぐるみといったキャラクターが好きな方たちがその価値を理解し、SNSでシェアしてくれたり、長年大切にしてくれたりすると、未来のものづくりを守る力になるはず。これから価格も品質も、働く人の幸福度も愛用者と一緒に上げていけたら嬉しいですね」

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