大豆畑で広がる外来種の雑草「アレチウリ」──手作業で駆除する農家から「作業着を全部捨てた」という声も
外来種の雑草が繁殖し、行政や農業関係者らが対応に苦慮している。そのひとつがアレチウリで、晩秋が収穫時期となる大豆やソバなどで被害が出ており、「もっとも駆除すべき雑草である」という研究結果も。専門家は「アレチウリはほかの雑草と比較しても拡散力が高く、日本の食料庫とも呼ばれる北海道十勝地域でも繁殖が確認されている。さらに拡大していけば日本の食料生産にも影響を及ぼしかねない」と警鐘を鳴らす。農業関係者や駆除活動をするNPO法人、環境課担当者に話を聞き、被害状況や有効な駆除方法を探った。(取材・文:小山内彩希/編集:大川卓也、Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
大豆、ソバ、飼料用トウモロコシなどで被害。農作業も非効率に
一年生のツル性植物であるアレチウリ。
外来種の中でも、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、または及ぼすおそれがあるものとして、国が定める「特定外来生物」に指定される。日本雑草学会の発行する「雑草研究 Vol. 60(2015)」でも、侵入初期の防除優先順位1位に位置づけられている。
1952年に静岡県の清水港で確認され、2000〜2010年代に被害報告が増え始めた。近年、北海道から九州までの各地でも新たな確認報告があがっているが、農地に侵入した場合、どのような影響をもたらすのだろうか。
「雑草研究 Vol. 60(2015)」のレポートで大豆を対象にした雑草リスク評価で1位となっていることから、長野県で大豆を育てる農事組合法人(農業を共同で営む組織)に話を聞いた。組合の担当者によると、十数ヘクタールある大豆畑の一部でアレチウリが出ているという。
「アレチウリが出る畑の面積は全体の10分の1くらいですが、土手や山肌に近いところには毎年出て、繁殖しています。種まきから収穫までに年4回も駆除していますが、大豆を一緒に刈り取ってしまわないようにするためには手作業でやるしかない。抜く力はそんなに必要ないけど、抜いても抜いても次に見に行ったときには生えている。しつこくて厄介です」
こまめな除草によって収穫不能になるほど繁茂する事態は免れているが、過去にはアレチウリのトゲにより、思わぬ弊害も。
「収穫時期の秋になるとアレチウリの実にたくさんのトゲがつきますが、そのトゲが農作業着を貫通して肌に刺さるんです。収穫するときにみんな痛がって大変だったこともありました。洗濯しても取れず、チクチクした感覚が残ったままで、透明だからどこに刺さっているかもわからない。結局、その農作業着は全部捨てることになりました」
それ以降は夏のうちに駆除することを心がけ、畑の見回りも念入りに行っている。2023年に改正植物防疫法が施行され、雑草も有害植物の定義に追加されたことから防除の動きは活発化してきたが、「雑草駆除にかかる負担は大きいまま」とこぼす。
「今年はアレチウリに加えて、アサガオに似た雑草が繁茂したためでもありますが、雑草を刈る負担はどんどん増えているように感じます。放置するとツルが機械に絡まって収穫できなくなってしまったり、消毒剤が大豆にうまくかからなかったりしてしまうので駆除し続けるしかないけど、人手は足りていません」
アレチウリによる農作物への影響について、食料・農業・農村に関する研究開発を行う農研機構も大豆での被害を挙げた。
「大豆、ソバ、飼料用トウモロコシで、アレチウリによる被害の情報を聞いています。アレチウリは夏に繁茂する夏生一年生雑草のため、夏作物で被害が生じやすく、生育期間が長く収穫時期の遅い作物ほど被害が大きくなります」(農研機構・担当者)
生育期間中は数メートルから十数メートルにまで成長するが、農地でそのような成長をすると、当然、作物にも影響が出る。農研機構は2019年、「大豆畑では壊滅的な被害をもたらし収穫不能となるケースもある」という報告を出している。
「茎から出た巻きひげで大豆などの作物に絡みつき、作物を覆って押し潰します。そうなると収量が減少してしまいます。まん延した場合は手取り除草も困難となり、収穫放棄に至ることもあります」(同)
長野県畜産試験場で実施された試験では、アレチウリの発生密度が1平方メートルあたり2〜3本以上の密度となると、飼料用トウモロコシの収量が2割以下となるという結果も出ていると言う。
「種子を落とす前」に駆除することが重要
生育域の拡大を抑えるには、どのように駆除するのが有効なのだろうか。
山梨県では県内の多くの市町村にアレチウリの侵入が確認されている。そんななか、官民一体となって駆除活動をする富士河口湖町を訪ねた。
富士河口湖町で、はじめてアレチウリが確認されたのは2010年。町役場環境課の外間恵さんは、「町内での発見を受け、アレチウリを駆除するための実行委員会が立ち上がりました。2013年からは河口湖周辺のゴミ拾いとアレチウリの駆除を行う『一万人の清掃活動』を、毎年5月の最終週に開催しています」と説明した。
「一万人の清掃活動」実行委員会は、認定NPO法人富士山クラブや山梨県富士山科学研究所の研究員、町環境課を中心に構成されており、富士山クラブは一万人の清掃活動のほかにも「河口湖アレチウリ一掃作戦」を年に何回も実施している。
駆除の方法は、基本的に手で引っ張って根から抜く。農薬や草刈り機を使って駆除する方法もあるが、生物多様性保全のために、基本は手作業で駆除に当たっている。
手が届かない遠くの場所や高いところに生育するアレチウリは、富士山クラブのメンバーがつくった「からめとり棒」という道具を使い、パスタをフォークで巻きつけるようにして絡め取る。
協力してくれる団体も徐々に増えてきたと語るのは、富士山クラブの事務局長である佐伯弘美さん。
「富士山を通じて環境保全活動をしたいという企業や学校から、『アレチウリの駆除に協力したい』と言っていただくことが増えてきました。最初は、東京都の中学生が190人ほど来てくれ、翌年も来てくれた。都内の建設会社も企業の環境への取り組みの一環として、毎年同じ時期にボランティアに来てくれています」
また、ここ数年は行政との連携により、富士山クラブだけで手が回らないエリアもカバーできるようになってきた。
「町が委託する草刈り業者や、町内で美化活動に取り組む方々と情報交換もできるようになってきました。町役場の担当者から、『このエリアで草刈りをする』という情報をいただくことで、私たちのほうから『このあたりにアレチウリがあるので、広がっているようであればご連絡ください』と伝えることができる。まだ確実な連携とはいえないけれど、町の中でアレチウリに注目する人の目が増えてきた実感があります」
一方、ひとつのエリアを駆除しても翌年に同じ場所から生えたり、駆除したつもりが見落としていたりなど、もどかしさもある。
「アレチウリは大量の種子をつけるので、それらが地面に落ちてしまう夏前になんとか駆除したいのですが、全範囲を隅々までやり切るのはとても難しいこと。一昨年から、(山梨県富士山科学研究所の)安田泰輔先生からのアドバイスを生かして、優先的に駆除に当たるエリアの見直しもしています」(佐伯さん)
外間さんが課題に挙げるのは、アレチウリの主な生育場所である河川周辺への対応だ。
「河川敷は富士河口湖町内でも山梨県が管理者のため、アレチウリが発生した場合は管理者と対応を協議する必要があります。とはいえ、その間にもアレチウリはどんどん広がっていってしまう。事務的な部分でも、すぐに駆除に当たる体制をつくる難しさを感じます」(外間さん)
侵入が確認された段階で駆除に当たることが、最もコストがかからない方法
特定外来生物に指定されているのは、ナガエツルノゲイトウやオオキンケイギクなどもあるが、「アレチウリはそれらと比較しても根絶が難しく広範囲に分布してしまうなど、非常に拡散力がある」と、山梨県富士山科学研究所の主幹研究員で20年ほどアレチウリの研究を続ける安田泰輔さんは言う。
「アレチウリは一個体あたり数百から数千もの種子をつくりますが、その殻がスイカの種のように硬いという特性があります。それゆえに土壌中で5年や10年、眠っていられるんです。大量の種子が眠っているので、一度駆除しても翌年に同じ場所からどんどん出てきてしまいます。また、種子が硬いというのは、鳥に食べられたり川の流れに乗ったりして遠くまで運ばれてしまうということ。このような理由で生育域が広範囲に拡大しています」
佐伯さんから「種子をつける前に駆除することが重要」という話があったが、それに加えて、安田さんは「侵入が確認された瞬間に全力を挙げて封じ込めることが、対策コストの抑制につながる」と言う。
「滋賀県は3年間で10億円近くの費用をかけてオオバナミズキンバイ等の外来生物を減らしました。侵略的な外来生物は、一度繁茂してしまうと、駆除するのに大変な時間とお金がかかります。最初にちょっと見かけたときに、しっかり駆除することが一番コストがかからないのですが、リスクを過小評価してしまい、対応が遅れがちです」(安田さん)
食料自給率が高い地域で拡大していくことの懸念
山梨県内でも、ブドウやモモなどの果樹園の付近で侵入を確認しているという。
「北海道帯広市でも牛舎の近くにアレチウリが繁茂している様子を確認しています。十勝地域は食料自給率が高く、日本の中でも極めて重要な食料生産地域。十勝に限らず、そのような地域で拡散すると、日本中の食料生産にまで悪影響を及ぼしてしまうリスクがあります」
数メートルのツルに五角形の葉をつけ、その大きさは5〜10cm程度という特徴を持つアレチウリ。生活するなかで見かけたら、引っこ抜いたり行政の窓口に連絡したりしてほしいと促す。
「お庭など自分の管理する土地であれば、引っこ抜いてその場に2、3日置いておくと枯れるので、そのまま燃えるゴミで捨てていただくのがひとつの対処方法です。河川敷や農地の脇など、自分の土地ではないエリアで見かけた場合は、都道府県や各市町村の環境課に報告していただきたい。まずは対処しなければいけない外来植物がいることを知ってもらうことが重要だと思っています」
知ってもらいたいのは、アレチウリも含めた特定外来生物の侵略的な性質だ。
「アレチウリのような特定外来生物は放っておくと野放図に増えていきます。コストをかけてでも管理しなければ、もっと大きな被害が出てしまうということを知ってもらうことで、対策への理解も得やすくなると期待しています」


