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税金未納で「永住権」取り消しも。2027年施行の法改正と、日本の移民政策

税金未納で「永住権」取り消しも。2027年施行の法改正と、日本の移民政策

コンビニエンスストアをはじめ、飲食店や介護の現場などで、外国籍の人たちが働く姿を見かけることは、もはや日常の光景だ。実際に日本で暮らす外国人の数は過去最多となり、定住の証しである「永住権」を取得する人も増えている。

外国籍の人たちが働く姿を見かけることは、もはや日常の光景

だが、日本でその権利を手にするのは、想像以上にハードルが高い。「原則10年以上」という長い年月に加え、年収や税金などの審査は厳しく、その扉は世界的に見ても狭き門なのだ。

彼らを単なる「労働力」ではなく、共に生きる「隣人」として受け入れるには、どうすればいいのか。専門家の鳥井一平氏と当事者2名の声を通じて、日本の移民政策が抱える課題と「多文化共生」の行方を考えたい。

鳥井一平

鳥井一平

全統一労働組合特別執行委員。NPO移住者と連帯する全国ネットワーク共同代表理事。外国人技能実習生権利ネットワーク運営委員。JNATIP(人身売買禁止ネットワーク)共同代表。中小労組政策ネットワーク事務局長。自主生産ネットワーク代表。

1978年以降中小零細企業をフィールドに活動。1990年から外国人労働者の権利支援活動に携わる。1993年、「外国人春闘」を組織化。社会的に「外国人労働者問題」を認知させる。2005年、外国人技能実習生 が時給300円で働かされている実態を告発し、技能実習生支援活動を本格化。2009年以降入管法改定の都度、国会での参考人陳述を行う。「現代の奴隷制」と批判される外国人技能実習制度の問題を追及してきた活動と永年にわたる外国人労働者支援に対し、アメリカ国務省から2013年度 の"Trafficking in Persons Report Heroes(人身売買と闘うヒーロー)"に選ばれた。2019年、NHK『プロフェッショナル』で活動が紹介される。著書『国家と移民』(集英社新書)

日本の永住権取得は難しい? それでも取る価値がある理由

永住権とは、外国籍の人が在留期間を制限されることなく、滞在している国に永住できる権利のこと。

在留資格の一例

日本の在留資格には他にも「特定技能」や「留学」「家族滞在」などがあり、日本で行える就労・活動の内容や在留期間に異なる制限がある。その点、永住権は在留期間はもちろん、日本で行える就労の制限もないため、職業選択の自由度が大きく変わる。

日本で暮らし、永住権を申請中の中国出身のAさん(在留10年目、女性)は、「永住権を取得できたら会社を辞めてフリーランスとしても活動できるようになり、活動の幅が広がる。映像系のクリエイティブ職なので、会社が受ける案件だけでなく、いろいろなものに挑戦してみたい」と語る。

また、アメリカ人の両親を持ち、日本で生まれ育ったBさん(在留60年目、女性)は、1980年代に日本人男性との結婚を機に、永住権を取得。それまで行っていた「外国人登録証明書(現:在留カード)」の頻繁な更新が不要になり、手続きは7年に1回に。「特別な調査も必要なく、重大な犯罪を犯すなどの例外を除いては永住権は基本的に続く。どんな仕事をしてもいいこともうれしかった」と振り返った。

また、永住権の取得には、住宅・教育ローンの申請や銀行口座の開設がしやすくなるなどのメリットがある。永住権とは「人が安心して暮らしていくための生活の基盤」なのだ。

永住権を取得するとできること

なお永住権を取得しても、帰化とは違い日本の国籍が持てるわけではなく、選挙権や公職に就く権利は与えられない。また、取得するまでは働き方や暮らしに一定の制約が残る。先ほどのAさんも、永住権を申請する前は転職を控えていたという。

「転職しても制度上は問題ないと言われていますが、永住権の申請時に、辞めた会社に必要な書類を用意してもらうのは双方の手間がかかります。また、『1つの会社で長く続かない人』と評価をされる可能性を踏まえて、経歴をシンプルにしておいたほうがいいのではと考えました」

そんな永住権だが、日本での取得のための提出書類は数十枚に及び、審査は1年以上かかることも珍しくない。

「永住権」をめぐる制度設計の歴史

日本で「永住者」の在留資格が正式に設定されたのは1965年だ。戦後の混乱期を経て、「外国人管理制度」が整備され始めたことに端を発している。当初は永住権取得の要件は今ほど明確に定められていなかった。

しかし1980年代以降に、多様な国籍の人々が来日するようになり、永住権制度の重要性が高まるなど、社会情勢を受けて少しずつ変化してきた背景がある。

日本における永住権制度の歴史

永住権に関する直近の大きな変更は、2024年に「育成就労制度」の創設と同時に行われた「審査の厳格化」と「永住権取り消し」の導入だ。

育成就労制度とは、2024年に制定された外国人材の育成と確保を目的とした制度のこと。施行は2027年4月を予定している。これまでの「技能実習制度」は新興国への技術移転や国際貢献を目的としていたが、外国籍の人々を「労働者」として長期的に受け入れることを明文化した。

しかし同時に、税金や年金に少しでも未納がないかなどより厳しく審査されるようになり、「永住権の取り消し」理由も追加された。これまでも、重大な犯罪を犯した場合や虚偽申請などの場合には永住権が取り消される規定はあった。ところが2024年の法改正ではこれらに加え、「税金などの未納」といった、従来よりも軽微な項目が取り消し事由として盛り込まれたのだ。

この変更について、長年日本に滞在する外国籍の人々を支援してきたNPO法人移住連共同代表理事の鳥井一平氏(以下、鳥井氏)は、懸念を示す。

「税金をわざと滞納しているのだから当然という声もあるかもしれません。しかし、日本人であれば督促や差し押さえで済む話です。生活の基盤である永住権まで取り上げるのは、慎重な検討が必要ではないでしょうか。また、病気やケガで一時的に働けない状態になった場合でも、支払い義務の存在を認識していれば『故意』になり得ます。この決定を受けて、永住者資格を持っている当事者には不安が広がっています」

外国籍の人々に関する政策には、彼らに対する日本のスタンスが表れていると鳥井氏は指摘する。

「永住権取得の条件や在留資格の歴史を見ると、日本は外国籍の人々を『労働者』でなく、人手が不足したときに補う一時的な『労働力』としか見ていないと感じます。経営者団体から永住権を取得した人のほうが安定して働くという声が聞かれる中で、2024年の変更は現場のニーズに逆行していると言わざるを得ません」

永住権の国際比較から見る移民へのスタンスの違い

世界の国々は「永住権」を通じてどのようなスタンスを表明しているのか。移民大国であるアメリカやカナダなどの制度と比較した。

本の出入国管理庁HP、カナダ政府HP、在日米国大使館・領事館HP、ニュージーランド移民局HP等の情報をもとに作成
日本の出入国管理庁HP、カナダ政府HP、在日米国大使館・領事館HP、ニュージーランド移民局HP等の情報をもとに作成

日本と、アメリカやカナダ、ニュージーランド、オーストラリアにおけるスタンスの違いは、「社会統合策(インテグレーション)」の有無に現れている。社会統合策とは、移民をはじめとした人々と、そうした人々を受け入れる社会の側がお互いに適応していくための政策のこと。例えば、カナダでは新しく移住してきた人に向けて税や医療制度の説明会を行っており、アメリカでも同様に、「Citizenship Education(市民性教育)」として社会制度や歴史を学ぶ講習がある。

欧米では永住権取得のための法整備だけでなく、言語習得や就労支援も行われるのが一般的である一方、社会統合政策に関する国際的な指標である「移民統合政策指数(MIPEX)」の2020年のデータによれば、日本は「社会統合が否定された状態」と評価されている。

「多くの先進国では、試行錯誤しながらも社会統合策(インテグレーション)を行っています。かつて日本も、技能実習制度の中で日本語学習を提供することになっていましたが、実際は民間の受け入れ団体や送り出し機関任せで、費用も実習生が負担するケースがほとんどでした。言葉の壁や生活ルールの未習得を『個人の努力不足』として片付け、国として支援しないままでは、日本に来てからさまざまな摩擦が生まれてしまうのは当然のことです」(鳥井氏)

また、こうした社会統合策は、受け入れ側である私たちにも大切なことだと言う。

「自分の暮らす地域に突然、違う言葉を話す人たちが来れば不安になるのは当然です。私も25歳のときに関西から上京した当初、大阪弁を使うと『怖い人』と思われてしまうこともあり、話すときはかなり気を遣いました。こうした摩擦は、その土地で暮らす当事者だけで解決するのが難しい側面もあります。すべての人が安心して暮らしていくためにも、国がリーダーシップをとって『なぜ地域社会に外国籍の人々が必要なのか』を発信していくべきだと考えています」(鳥井氏)

今こそ多文化共生社会を醸成するチャンス

在留外国人在留資格別
その他在留資格の外国人が急速に増え続けているため、すべての在留資格における「永住者」資格の割合は年々小さくなっている

今後の日本の移民政策について、鳥井氏は「受け入れの流れは強まっている一方、外国籍住民の権利が拡大するかどうかは非常に微妙なところ」としつつも、「今は日本が多文化共生社会を育むチャンスでもある」と期待を込める。

「昨今はSNSなどで、外国籍の人々に対するヘイトスピーチ(憎悪表現)を目にすることも増えました。排他的で攻撃的な言葉に傷つき、命に関わる人がいることは、あってはならない事実です。しかし見方を変えれば、一部の過激な声によって、日本で暮らす外国籍の人々への関心が高まっているとも言えます。これは『より良い多文化共生社会とはなにか』を社会全体で議論するチャンスでもあるのです。

実際に、外国人政策が争点になった2025年7月の参院選以降、私のもとへの講演依頼は急増しました。ある高校で行った授業では、終了後1時間以上にわたって生徒さんたちからの質問が止まらず、若い世代の関心の高まりを肌で感じています」

では、日本において「より良い多文化共生社会」を醸成していくために、私たち一人ひとりはどんなことができるだろうか。すぐにでもできる心構えの一つとして、鳥井氏は「ファクトチェック」を挙げる。

「以前、『外国人が医療を過剰に利用している』と問題視する言説がSNSを中心に広がりましたが、2025年7月の閣議後記者会見で厚生労働大臣はデータにもとづき、『医療費や高額療養費制度において外国人の割合が高いということはない』と答弁しています。誰かの発信を鵜呑みにせず、『本当なのか?』と自分で調べ、正しい情報を知る。それだけでも、多文化共生社会へ一歩近づくはずです」

また、「外国人」や「〇〇人」などの大きな主語で捉えず、一人ひとり異なる隣人として向き合うことも本当の共生の第一歩だと鳥井氏は語る。

「日本人が一人ひとり違うように、国籍やルーツだけでその人を判断することはできません。また『外国人』と言っても、観光客と、日本での永住を望んで暮らす人とでは、事情も日本への理解度も全く異なります。日本で働き、暮らしている人々は、国籍に関わらず同じ『日本社会の担い手』です。彼らと共にどのような社会を築いていくか、考えていく時期に来ているのではないでしょうか」

多様性

外国籍の人々を、長らく「労働力」として捉えてきた日本。円安が進む今、「もう外国人は日本を選ばないのではないか」という声も聞かれます。しかし、「そこには大きな誤りがある」と鳥井氏は力を込める。

「日本に働きに来る理由について聞くと、彼らは異口同音に『平和だから』と答えます。もちろん生活できる賃金は必要ですが、彼らが日本に感じている価値は、お金だけではありません。 空港に降り立っても、誰からも銃を向けられない。夜、安心して街を歩ける。 彼らは、日本に暮らす私たちが忘れかけている『平和や安全』という大切な価値を、改めて教えてくれる存在なのです」

  • 取材・文

    佐々木ののか

    • 編集

      吉野舞、友光だんご(Huuuu)

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