5割が黒字なのに廃業。街の店や会社を守る『他人が継ぐ』という選択
街の風景を形づくってきた小さな店や会社が、いま静かに姿を消し続けている。その理由のひとつが経営者の高齢化が進む中での後継者不在だ。国内企業の99%以上を占め、雇用の約7割を支える中小企業の存続は、地域経済の維持や雇用の確保に直結する。
そこでいま注目されているのが、身内や従業員以外の「他人」に経営を託す「第三者承継」だ。事業の引き継ぎ先を、意欲ある外部の第三者へと広く求める動きは、地域社会を支えてきた事業や店舗を次世代へつないでいくための新たな選択肢となりつつある。
老舗精肉店が選んだ「他人が継ぐ」という決断
沖縄県那覇市にある創業48年の老舗精肉店「具志冷凍食品」は、牛・豚・鶏肉から、山羊刺しや馬刺しまでを扱い、地域に根ざした店として地元の食を支えてきた。従業員10人程度で卸売りと小売りの両方を手がけ、年商は約1.5億円である。
創業者の具志吉昭さんは、70代となり体力的な限界を感じつつも、「地元で親しまれ、県内各地から注文が入る。まだまだ伸びしろがあるこの会社を廃業させてしまうのはもったいない」として事業の継続を模索していた。しかし、親族や従業員の中に後継者となる人材がおらず、結果として外部の第三者への承継を選択した。
娘の久美さんは、中学生の頃から店を手伝い始め、長年従業員として現場に立ってきた。親族のなかでも最も事業に近く、配達先など周囲からも「なぜ継がないのか」と後継者として期待されていたという。久美さんは当時の葛藤をこう語る。
「私が継ぐことも考えましたが、内部の事情もいろいろ知っている分、心配も多くありました」
他の親族も別の道に進んでおり身内での承継が難しい中、選択肢に挙がったのが「外部への承継」だった。しかし、周囲に第三者へ事業承継をした事例はほとんどなく、見ず知らずの他人に店を譲ることには大きな不安があったという。
「全くお肉のことが分からない初めての人に譲るということには、正直すごく心配がありました。精肉関係者でしたら評判を聞くこともできましたが、それも難しくて。不安はありましたが、父が一代で築いたものを残したいという思いがあり、もっと発展させられそうな方に譲ったほうがいいのではないかと考え、外部への承継に賛同しました」
同社を譲り受けたのは、IT事業や飲食業を手掛けるGO-TAs(ゴータス)社だ。県内でいくつかの飲食業を承継してきた実績がある。
IT事業の知見を持つ経営陣と、長年現場を支えてきた従業員が融合し、事業にはさっそく相乗効果が生まれているという。久美さんは現在の店の様子を次のように語る。
「私たちにはなかった新しい考えとミックスしていくことで、馬刺しなどの売り上げがさらに伸びています。ホームページをすぐに立ち上げて宣伝してくれたり、24時間販売できる自販機を導入したりしました。お客さんから要望があった馬刺し用のオリジナル醤油も開発できて、人気です」
現場に無理のないペースで新しい風を取り入れたことで、「現場と経営側の考えがちょうどいい具合にできていて、すごく成功していると思います」と久美さんは確かな手応えを感じている。
創業者の吉昭さんは現在、顧問として新体制の後方支援を行っているが、「若くて活気のある経営陣やスタッフの新しい手法に期待している。自分たちの時代にはなかった知見を生かし、さらに事業を広げてほしい」と、これからの進展に期待を寄せている。
GO-TAsが具志冷凍食品の承継を決意した背景には、自社事業との相乗効果への期待もあった。取締役の荒川大晴さんはその狙いを次のように話す。
「沖縄県内で飲食業を展開していますが、安定した供給体制のために卸売りの流通基盤をもつ企業を承継できないかと考えていました。一から卸売りの体制を作るには何十年もかかります。すでに出来上がっている基盤を引き継ぐほうがよいと思い、承継を希望している会社を探していました。そのなかで具志冷凍食品は、仕入れ先と強い信頼関係をもち、希少な商材でも安定的に確保することができる点で、私たちが探し求めていた会社でした」
事業承継後の組織運営に必要な「相互敬意」
具志冷凍食品の従業員は、新しい体制でも継続して働いている。承継後、現場の責任者となったGO-TAsの石本さんには精肉業界の経験はなかった。だからこそ、既存の従業員とのコミュニケーションを何よりも重視して運営にあたっている。石本さんは現場での意識をこう語る。
「長年やっているお店なので、現場のやり方があります。新しいやり方を提案するときでも、相手を尊重することを心がけています 。新しいことをやっていきたい会社と、思いのある現場との『風通しを良くする』ための橋渡し役として、コミュニケーションをしっかり取るように気をつけています」
前出の荒川さんも、事業承継には「時給」を相場より上げる、現場の裁量権を大きくするとともに、コミュニケーションが重要だと指摘する。
「過去に承継した店舗で、うまくいかなかったこともあります。管理者が自身のやり方を一方的に押し付けてしまった結果、現場の従業員に強い不信感を抱かせてしまいました。その後、体制を変えたものの、一度生まれた不信感は拭えず、組織が回らなくなってしまいました。核となる人材が辞めて事業が回らなくなってしまわないよう、『橋渡し役』による現場との相互理解が何よりも重要だと考えています」
数多くの事業承継のマッチングに立ち会ってきた株式会社ライトライト代表の齋藤隆太さんは、承継を成功させる鍵として「買い手と売り手の相互リスペクト」を挙げる。
「第三者承継がうまくいかない事例として、都市圏の企業が地方企業を承継した際の『リモート経営』が挙げられます。現場での実態把握を欠いた遠隔マネジメントは、地域の文脈や信頼を軽視する形となり、譲り手や地元住民からの支持を得られず、事業存続を危うくする要因となります」
事業承継の促進へ、国も法制面や資金面で後押し
しかし、こうした事業承継は簡単ではない。最新の中小企業白書によれば、休廃業・解散企業の代表者の平均年齢は70歳を超えている。中小企業の後継者不在率は改善されてきているものの、それでも半数が後継者未定のままだ。高齢化と後継者不足が重なり、日本の中小企業は事業継続そのものが危機に直面している。
特に深刻なのは、経営実態が健全でありながら市場を去る「黒字廃業」が相次いでいる点だ。休廃業・解散する企業の約5割が直前期まで黒字であり、経営資源を承継しない幕引きは、地域企業が持つ地域を支える社会インフラ機能を消失させ、住民の生活基盤そのものを毀損することにつながる。
国も深刻化する後継者不在への対策として、事業承継に関する環境整備を進めている。
例えば、2023年12月13日に施行された食品衛生法の改正により、許可営業について、事業譲渡の際に譲受人が届出と必要書類を提出することで営業者の地位を承継できる仕組みが整えられた。従来は、廃業届と新規の許可取得が必要であったが、営業継続性に配慮した円滑な承継がしやすくなっている。
他にも資金面では2025年度の「事業承継・M&A補助金」からPMI推進枠が設けられ、従来のM&A自体の支援中心から、M&A後の経営統合(PMI)に必要な専門家活用費用や設備投資等も補助対象となった。
「実名公募」による事業承継という新たな手法のひろがり
後継者不在の解消に向け、異色のメソッドで事業承継を進める動きがある。事業情報を公開して広く後継者を募る「オープンネーム事業承継」という手法だ。前出の齋藤さんが代表を務めるライトライトが運営するサービス「relay(リレイ)」で、承継者を探す企業と、承継したい人をインターネット上で募り、マッチングする。齋藤さんは従来、事業情報を公開することはリスクにつながると考えられてきたと話す。
「事業承継やM&Aにおいて事業情報は『秘匿』されていました。『会社が売られる』と不安を感じた従業員の離職や、取引先に『経営が不安定なのでは』と警戒されるといったリスクを回避するためです。しかし、この閉鎖的な仕組みは、地域密着型の小規模事業において、本来出会えたはずの候補者との接点を減らし、事業存続の選択肢を狭めていました。
relayでは財務諸表の数字だけでなく、経営者がどのような想いで事業を継続し、地域でどのような役割を果たしてきたかという数値化できない定性的な価値を記事化して公開しています。情報をオープンにすることで、お店の客や移住を検討していた若者が『あの店を自分が引き継ぎたい』と名乗りを上げるなど、従来のM&A市場とは異なる層が動き出しています。情報を開示して『想い』でマッチングする仕組みが、小規模事業にとっての理想的な承継につながっています」
廃業防止から「創業の機会」としての事業承継へ
第三者事業承継は、事業を継ぐ側からすると、「新しい形の創業」ともいえると齋藤さんは話す。
「地方に行く場合、移住と仕事探しがセットになることが多く、移住とともに生業(なりわい)をつくって、長く続けていきたいと考える人が多いです。これまでの事業承継は『廃業防止』の側面が強かったですが、最近では明確に『創業の機会』として捉えられ始めています。実際に地域おこし協力隊制度を活用して移住し、事業承継を果たすような人材も出てきています」
事業承継を、廃業防止ではなく新たな創業の機会と捉えるという視点は、UIJターンの促進としても自治体や商工団体から注目されている。
地域社会インフラを支えるファミリービジネス
事業承継で生まれ変わった具志冷凍食品には、いまも地元の客が買い物に訪れる。長年通う客からは「周りに肉屋さんもスーパーもないので、重宝しています。対面で買える場所が少なくなっている中で、こういうお店が残ってくれるのはありがたい」といった声が寄せられる。
地域におけるファミリービジネス(同族企業)の役割と価値を研究する『日本のファミリービジネス』の分担執筆者で、慶應義塾大学の飯盛義徳教授は、承継前の具志冷凍食品のようなファミリービジネスが「単なるビジネスの枠を超えて、地域の生活や文化を支える『土台』になっている」と語る。
日本は世界的に見てもファミリービジネスの数が圧倒的に多い。法人企業の95%以上、250万社以上が該当する。
飯盛教授は、ファミリービジネスの地域社会における価値を次のように評する。
「例えば全国の長く続くファミリービジネスを見ると、自社の利益だけでなく、観光地や文化の創出、学校設立による教育支援、地域行事への還元など、様々な形で地域に貢献しています。経営者や社員がその地域で生まれ育っていることが多く、『先代には世話になった』という長年の信頼が蓄積されているのです。
企業が雇用を生むだけでなく地域に貢献し続けるからこそ、不況や困難な時には地域社会や他企業が彼らを支援してくれます。社会性を追求して地域に尽くすことが結果的に本業の信用を高め、災害や不況にも負けない強い経済圏をつくっているのです」








