DV被害者の4割が相談しない。家庭内だけの問題ではない、DVの現状と支援の今
日本でDV防止法が制定されて今年で25年。それまで「家庭の問題」とされていたDVに、警察も積極的な対応を取るようになってきたが、依然として家庭で解決すべき問題と捉えられる傾向も強い。実際、4割以上の人は誰にも相談していないというデータもある。
また、近年では身体的な接触を伴わない形での支配やコントロールなど、一見すると「暴力」には見えない新たな形のDVが顕在化してきている。
専門家が「自己啓発的DV」と呼ぶ、新たな形のDVはなぜ生まれたのか。加害者更生プログラムをはじめ、日本におけるDV問題をめぐる対策の現状とは。長年DV問題に向き合う公認心理師の信田さよ子さんに話を聞いた。
信田さよ子
95年に原宿カウンセリングセンターを設立。アルコール依存症、摂食障害、DV、子どもの虐待などの問題に取り組み、2021年より顧問を務める。2022年より日本公認心理師協会相談役。『DVと虐待』(医学書院)ほか著書多数。
この記事のポイント
- 暴力は殴るだけじゃない。暴力の形は多様で見えにくい
- 日本はDV加害者対策が弱い。逃げるしかない現状を変えるのが必要
- "正しさ"ではなく理解と対話。困っている気持ちに自信を持とう
一筋縄ではいかないDV──暴力の見えない形
原宿カウンセリングセンター初代所長である信田さんは、近年現れているDVの形を「自己啓発的DV」と呼んでいる。
「家事や育児にも積極的に参加して、仕事面においても順調にキャリアを積んでいる。一見、誰から見ても『完璧』に思える人物が、配偶者からの要求により、やむを得ずDV加害者向けプログラムに参加することも多いです。彼らは『妻が非効率的な家事をやったり、子どもへの教育が不完全だったりするから』暴力を振るってしまうと言う。怒鳴ったり、時には殴ってしまったりするが、本質的には自分は間違っていないと主張するんです」
日本では夫婦世帯の共働きが一般的になり、家事や育児を男女で分担すること自体は、望ましい変化として受け止められている。一方、共働きになることで家事や育児の時間・余裕がなくなり、「効率」や「正解」を求め、配偶者のやり方を評価・指導することが正当な関与や善意の助言だと思ってしまう場面も増えている。こうした行為は男女ともに見られるが、実際は妻が家事や育児を担うことが多いため、夫から妻への評価・指導の方が目立つという。
DV加害者向けプログラムに参加した、とある男性は、妻の子育てが「まったくなっていない」ことを児童相談所に報告したと、胸を張って語ったという。
彼らは、殴打などの露骨な暴力の不当性は理解している。しかし、「妻や家庭のためにやった」という理論を崩し、当事者性を自覚させるのには時間がかかることが多い。思いやりや責任感から発しているように見える行動や言葉の裏に、見えない暴力が隠れていることも少なくない。
日本でDV防止法が制定されてから25年、DV問題を取り巻く環境はどう変化したのだろうか。
「いい意味で変わったことは、メディアの影響などで『家庭内であっても女性を殴ってはいけない』という当たり前の認識がある程度共有されるようになったということ。逆に変わっていない部分は、被害者ができる対応は日本ではいまだ『逃げる』という一点のみであること。だけど、これって必要最低限じゃないですか。本当は加害を行う側をなんとかしないと、問題は根本的には解決しないでしょう。だからDV問題は被害者だけでなく、加害者側への支援や介入が同時に必要なんです」
日本のDV防止法から抜け落ちた加害者対策
2001年に日本でDV防止法が制定された後、信田さんは内閣府の視察メンバーとしてカナダに渡り、加害者向けのプログラムを学んだ。2004年には内閣府により「配偶者からの暴力に関する加害者向けプログラムの満たすべき基準および実施に際しての留意事項」が作成され、加害者更生プログラムの試行と効果研究が国内でスタートする。内容は、グループ討議と教材による学習を組み合わせたもので、加害者参加のもと、週1回の頻度で行われた。しかし同年、プログラムは1クールで打ち切られた。「DV防止法」にも加害者対策は反映されなかった。
「加害者向けプログラム中断の連絡を聞き、愕然としました。『プログラムを中断したタイミングが、一番DVの再発率が高くなる』という研究結果が国内外で報告されているからです」
再び暴力に怯える人を増やさないために、信田さんは別途、NPO法人を立ち上げ、原宿カウンセリングセンターを実施場所としてプログラムを継続することにした。
「25年間、問題と向き合ってきたなかで、この国はDVや家庭内の暴力問題に触れたくないのだということは嫌になるほどわかりました。日本のDV問題への向き合い方が欧米諸国と決定的に異なるのは、加害者に更生プログラムを強制する法律を作らなかったこと。これが、DVを対策する上での一番の欠陥だと思っています」
例えばカナダでは、各州がDV被害者支援の一環として、加害者の逮捕や、プログラムの受講命令にも積極的に取り組んでいる。また、すべての州が裁判所命令によって加害者プログラムの受講を義務付けているほか、民間団体が実施するプログラムに対して州政府が資金提供を行うなど、日本と比べて加害者対応が制度的に整備されていることがわかる。
一方、日本ではこうした取り組みが長らく遅れてきたが、コロナ禍において、生活不安や外出自粛による在宅時間の増加からDV相談の件数が増加。政府も対策の強化に乗り出し、令和2年度から4年度にかけて、内閣府によって国内5つの都道府県等で加害者プログラムが試行的に実施された。さらに令和6年度からは、各都道府県等に対し加害者プログラムの実施を推奨する通達を出した。
今後、日本においても加害者プログラムが広く推進され、社会に定着していくことが望まれる。
困っていることに自信を持ってほしい
最後に、信田さよ子さんに、家庭内で暴力を受けている人へのメッセージを聞いた。
「DV被害者のなかには『自分に問題がある』と思っている方が多いんです。『考え方ひとつでどうにでもなるのに、この程度で心が折れる自分が悪いんじゃないか』と。DV加害者であるパートナーに障がいがある場合などは、『自分が相手をケアしなければ』と思う方もいるようです。
私から強く言いたいのは『困っていることに自信を持ってください』ということです。そして、骨折した時は病院に行くように、家族で困った時は家族問題の専門家のところに行ってください。経済的余裕がない方でも、ぜひ一度は専門家に相談をしてください。経済的な理由から1回しか来談できない方には、1回のカウンセリングプログラムを設けているセンターもありますから。家庭内の問題だからと耐え忍ばず、勇気を出してドアを開け、家の外へと踏み出していただければと思います」
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編集友光だんご
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