「下手で泣いた私をフォローしてくれ恋に落ちた」ゲーム婚はどうやって生まれている? #性のギモン
マッチングアプリなど恋愛のきっかけが多様化する昨今、ゲームを通じて現実に結婚するいわゆる「ゲーム婚」に至るケースがある。日常的にゲームをプレイする人の中で「約5人に1人がゲームをきっかけに恋愛感情を抱いた経験がある」ことを示す民間調査もある。当事者は「ゲームは外見より先に内面を見せる媒体」と語るが、ゲームの何が、恋愛関係へと発展させるのだろうか。実際に「ゲーム婚」をした人たちと専門家に聞いた。(取材・文:小山内彩希/編集:大川卓也、Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
ゲームの世界観を結婚式でも再現。配信で全国の仲間からお祝いも
2025年5月、兵庫県神戸市のポートアイランドに立地する結婚式場「ポップコーン神戸」で、1組の結婚式が行われた。
祭壇中央の巨大スクリーンに映し出される、幻想的で神々しい教会は「十二神大聖堂」。オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』に登場する架空の教会だ。
その映像を背景に、ゲームの武器を再現したレプリカを手に持ったふたりが、多くの人に祝福されながら愛を誓い合った。
この「ファイナルファンタジーXIV ウエディング」というプランで式を挙げたのは、三上祐樹さん・香織さん(ともに仮名)の20代夫婦だ。
ふたりは大学の同級生。元々は挨拶する程度の仲だったが、サークル仲間で始めた『ファイナルファンタジーXIV』での共同プレイにより、日常生活でも会話が増えていった。
交際に発展したきっかけは、帰省していた祐樹さんが新型コロナウイルス感染拡大の影響によって大学に戻れなくなったことから。
「ゲーム機器も大学付近の家に置いてきてしまっていたので、一緒にプレイすることができなくなったんです。そこで『あれ? 意識してるかも』とやっと気づいた。そこから眠れなくなっちゃって、LINEで告白しました」
告白を受けた香織さんは、「ゲームの中でけんかすることもあったけど、それでも一緒にやってきた信頼感があった。『君となら一緒にいてもいいよ』とお返事しました」。
もともとは結婚式をする予定がなかったふたり。
式を挙げたのは、祐樹さんの親戚がディズニーランドで結婚式をし、「こういう楽しい雰囲気でできるなら」と気持ちが変化したから。作品の版元であるスクウェア・エニックスのファイナルファンタジーXIV開発/運営チームが小物や衣装などを監修する世界観は、ふたりの理想にぴったりだった。
同プランを考案したのは、式場であるポップコーン神戸を運営する丸山拓常務(株式会社ブライダルハート)。
「式場のある神戸市中央区の港内、通称『ポートアイランド』と言われる場所の独特な街並みが、作品の世界観と合う」との考えから、「ファイナルファンタジー」シリーズが30周年を迎えるタイミングでコラボを提案し、2019年2月に同プランが生まれた(ファイナルファンタジー30周年は2017年12月)。
「『式を挙げない』という選択も含めて、結婚式への考え方も多様化している時代だからこそ、1組1組のストーリーや想いを最大限に具現化することが式場にも求められていると考えます。『ファイナルファンタジーXIV ウエディング』においても決まった形式に囚われることなく、誰よりもご夫婦が『挙げてよかった』と思える式づくりを大切にしています」
三上夫婦の式は、ゲーム好きが愛用するチャットアプリで配信され、全国の仲間たちにリアルタイムで祝われた。香織さんは「すごく盛り上がって、ありがたかった」と作品から生まれた縁に感謝した。
ゲームでの出会いから約20年「初対面のときにはもう、自分を良く見せようとしない関係性に」
ゲームとひとくくりに言っても、その中には不特定多数が仮想空間に接続し、リアルには知らない人と一緒にプレイできる作品が多く存在する。そういったオンラインゲームで仲を深め、結婚することは「ゲーム婚」あるいは「ネトゲ婚」などと呼ばれる。
『ファミ通ゲーム白書2024』によると、2023年の国内ゲーム人口の推計は、5553万人。
家庭用ゲームを含む合算値だが、他者と交流可能なPCゲーム・アプリゲームなどの普及が、冒頭の「ゲームをきっかけに約5人に1人が恋愛経験」(株式会社コロプラ・株式会社Skyfallの調査)の下地となっている。
同調査では、PCゲームプレイヤーに限ると、男女ともに「マッチングアプリ」や「結婚相談所・見合い」よりも「ゲーム内で出会った人」を恋愛対象として意識する割合が高いという結果になった。
イラストレーターのmochiko(もちこ)さんも、オンラインゲームの中で出会った男性と結婚した一人だ。
出会いは約20年前。10代後半のもちこさんに、夫がチャットで協力を求めたのがきっかけだ。後にボス攻略チームへ誘われたことで、周囲とも仲良くなっていった。
当時、リアルな人間関係で悩んでいたもちこさん。
「夫とは電話やメールでもやり取りするようになり、ゲームの人間関係は精神的な逃げ場でした。ゲームの中では、外見や年齢、所属などで自分がどんな人間なのかを判断されることはなく、お互いに対等な目線で人間関係を始めていける。それが私には合っていたんです」
実際に初めて対面したのは、ゲームでの出会いから数年後に開催されたディズニーオフ会。互いにゲームのままの人柄、見た目だと感じ、「初対面でもう、自分を良く見せようとはしない関係性になっている」と感じた。
オフ会でさらに距離が縮まり、数年間の遠距離恋愛を経て、結婚。その後もモンスターハンターやキングダムハーツなどを一緒に楽しんできた。
「長年一緒にプレイしてきたことで、『この人はこういうキャラや武器を使うんだろうな』と、言わずともわかるようになりました。それは家事や育児にも表れていて、相手が求めていることや苦手なことがわかっているから先回りして動けるんです」
ゲームで紹介されたインド人と国際結婚。「自己中心的な人から、仲間思いな人」へと印象変化
ゲームを通じて国際結婚に至ったケースもある。
インド人の夫との日常を描いたコミックエッセーをSNSで公開する津籠茶里さんは、ソーシャルゲーム内で仲が深まった男性と2023年に結婚した。
ゲームでの交流を通じて、夫に対する印象が変わったという。
「あるときゲームで仲良くなったインド人から『同じゲームをしているインド人がいる』と夫のことを教えてもらったのですが、実は以前から存在は知っていました。というのも、夫は自己中心的なプレイヤーとして評判が悪かったから(笑)。でもその後、別の知り合いから夫もいるチャットグループに誘われたこともあり、そのグループ内で夫と会話するようになったんです。そうして互いに認識し合った上で彼のプレイを見ていくと、印象が変わりました。たしかに自己中心的な面はあるけど、自分のフレンドはよくサポートしていたので、意外と仲間思いなところもあるんだなって」
初対面は横浜の飲食店。チャットで会話が盛り上がった流れから「一緒に遊びに行かないか」と夫に誘われ、実現した。
お酒を飲むうちに意気投合し、そのままカラオケにも行った。交際から結婚まではわずか数カ月。互いを理解する上でもゲームの存在は大きかった。
「私はゲームのオフ会だけでなくセミナーの懇親会なども、とりあえず顔を出すタイプ。だから彼と会うのにも抵抗はありませんでした。でもゲームのオフ会と、セミナーの懇親会で違うのは、ゲームのほうが圧倒的に"よそよそしさ"がないこと。それは共通の話題があるからでもあるし、会う前からお互いのことをけっこう話しているから、いざ会ったときに打ち解けやすいんだと思います」
人柄に惹かれたのは、冒頭の『ファイナルファンタジーXIV』のプランで式を挙げた、西川亮輔さん・莉乃さん夫婦(ともに仮名)も同じ。
ふたりの出会いもゲームの中だった。
夫の亮輔さんは、「ゲームのメンバーで集まる中で、妻とは鉄道という共通の趣味があることがわかり、ふたりで遊んでいるうちに自然と付き合っていた」と語るが、莉乃さんには明確に恋愛感情を自覚した瞬間がある。
「自分のプレイが下手なのが悔しくて私が泣いてしまったときに、それを察した夫が周囲にバレないようにフォローしてくれたんです。みんなが心配する中で、『こいつは今、集中しているだけ』とかばってくれた。私はそれでもう、恋に落ちちゃったんです」
そんな言葉を聞いた亮輔さんは、「外見じゃなくて内面から相手のことを見ていけるのは、ゲームならではの恋愛の始まり方だと思います」と笑みを浮かべた。
オンライン恋愛における注意点は? 専門家はSNSやアプリの「ロマンス詐欺」にも言及
一方で、オンラインゲームがきっかけで付き合ったが結婚に至らなかった人もいる。
「同じギルド(プレイヤー同士のチーム)メンバーの男性と付き合ったのですが、付き合ってから彼の束縛が激しくなっていったんです。私が異性のメンバーと遊んでいるのを目撃すると、『なんでこっちの連絡は返さないのか』という連絡が来るようになって、監視されているような気持ちになり、お別れしました。ゲームカップルは一緒にいなくても相手の行動が見えやすい分、自立している人同士じゃないと過剰に嫉妬したり疑ってしまったりする。相手にも相手の人間関係があることをオンライン上でも尊重することが、大切だと思います」
また、オンラインの出会いでは「恋愛感情を利用した犯罪にも注意が必要」と促すのは、恋愛関係を維持・発展させる要因を研究する鬼頭美江さん(明治学院大学社会学部教授)。
「近年はSNSやアプリを通じてのロマンス詐欺も増えています。ロマンス詐欺の厄介なところは、恋愛感情によって相手を疑いづらくなってしまうことです。日常で関わる人との間ではあまり承諾しない、高額な金銭の貸与や投資への勧誘などを断れず、言われた通りに動いてしまう。あらかじめそういったリスクも頭に入れつつ、ゲームも含めた多様なオンラインの場から生まれる交流を楽しんでいただきたいと思っています」
ゲームは「より純粋に相手を内面から判断できるツール」
昨今の恋愛観の変化については、「ゲームに限らずSNSやマッチングアプリなど多様なオンラインツールを使って、"日常生活の外に出会いを求める傾向"が強まっている」と鬼頭さんは語る。
「学生からも『サークルやゼミの中での恋愛は周りに気を使わせるからイヤだ』という声が、10年前よりもずっと多く聞かれるようになりました。職場でも、ハラスメントになりそうだから声をかけたくてもかけられないことが増えています。『日常の外にも出会いの場があるから、あえて既存ネットワークの"和を乱す"必要はない』という意識が、『既存ネットワークの外に出会いを求める』という傾向につながっていると考えます」
相手を選ぶ基準にも変化はあるだろうか。
当事者からは内面重視の声が多かったが、「内面重視の傾向が強まったのではなく、近年になって『より純粋に内面から相手を選ぶこと』が可能になってきた」と鬼頭さんは言う。
「対人関係の分野では、まずは『外見』、年収や職業などの『社会的地位』、そして『内面』が、人が人を選ぶ際に重視されるとわかっています。特に視覚情報というのは非常に影響が強く、お見合い婚の時代から相手の写真を見て会うか会わないかを決めるなど、いくら内面重視で相手を選びたいと思っていても外見に左右される部分が大きかった。その点、アバターで交流するゲームやメタバースツールでは、外見の情報が影響する前に相手の内面を知ることが可能です」
鬼頭さんらが結婚支援の一環として実施した婚活イベント参加者を対象にしたメタバース研究(2024)では、メタバースと対面で会話した際、顔が見えるか見えないかで互いの内面評価に大きな差は見られなかった。
「社会心理学の分野では、人は共通点を感じる相手に惹かれやすく、同じ目的を持って共同作業をすることで信頼感が生まれやすいと言われています。それにのっとって考えると、ゲームはメタバース婚活における会話だけのやり取りよりも、心理的距離が縮まりやすいとも言えるかもしれません」








