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要介護でも「飲みに行きたい」。異色のスナックが提案する老後の生き方 #老いる社会

スナックや居酒屋は、ただお酒を飲む場所ではない。隣り合った人と会話し、身なりを整えて出かけるなど、夜の"盛り場"には日常から離れた社交の楽しみがある。
しかし、年を重ねて介護が必要になると、そうした場に足を運ぶことは難しくなる。必要な介護の種類にもよるが、転倒や体調の急変、飲酒量の管理といったリスクが伴うからだ。

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写真提供:Go To Heaven

そうした問題意識から立ち上げられたのが、群馬県高崎市にある介護付きスナック「Go To Heaven」だ。ここでは要介護認定を受けた高齢者らが介護職のサポートを受けながら、お酒やカラオケ、会話を楽しめる。

人生100年時代と言われる今、介護が必要になってからの時間を、我慢や制限だけでなく、楽しみや選択肢のあるものにできるのか。「介護スナック」の取り組みから考える。
(文:佐々木ののか/取材・編集:友光だんご、Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

「もう行けない」と思っていたスナックへ。介護付きでかなえる夜の外出

写真提供:Go To Heaven
写真提供:Go To Heaven

お酒を飲みながらマイク片手に懐かしの歌を楽しみ、仲間が笑顔で見守る――。

介護付きスナック「Go To Heaven」の利用者の多くは「お店で飲むことなんて、もうできないだろうと思っていた」と語る。

若い頃から街で飲み歩くのが楽しみだったというAさん(80代・男性)も、その一人。施設に入ってからは、以前のようにふらっと飲みに出かけることは難しくなった。年金で暮らす中で経済的な負担を考えると、「飲みに行きたい」と口にすることにもためらいがあったという。

「この料金で連れてきてもらえて、飲んだり歌ったりできるのはありがたいです」(Aさん)

高崎市内の「Go To Heaven」。前オーナーが店じまいした店舗を借り上げて、介護が必要な人でも安心して利用できるように改修。料金はセット制で5500円(2026年6月現在)。楽しんでもらいたいという思いから施設では提供されないようなメニューを意識(写真提供:Go To Heaven)
高崎市内の「Go To Heaven」。前オーナーが店じまいした店舗を借り上げて、介護が必要な人でも安心して利用できるように改修。料金はセット制で5500円(2026年6月現在)。楽しんでもらいたいという思いから施設では提供されないようなメニューを意識(写真提供:Go To Heaven)

Go To Heavenがオープンしたのは2019年のこと。「高齢者が施設暮らしの中で諦めがちなお酒やカラオケを、自分らしく楽しめる場をつくりたい」という思いから、群馬県安中市を中心に介護サービスを提供する株式会社サムエスが立ち上げた。

利用者は、有料老人ホームの入居者や在宅で介護を受ける人などが中心で、送迎付きで来店。飲酒に関してドクターストップがかかっているケースなどを除き、ほとんどの人が利用できる。

コロナ禍以前は週3回ほど曜日を決めて営業していたが、現在は感染リスクなどを踏まえ、不定期で開店。これまでの利用者やメディアを通じて関心を寄せた人に声をかけ、人数を制限しながら営業している。

店内では、介護士あるいは看護師資格を持つスタッフ1~3人が足腰に不安がある人の移動を支え、嚥下(えんげ)に心配がある人には飲み物にとろみ剤を加えるなど、状態に応じた対応も欠かさない。体調の変化や飲酒量にも気を配りながら、各自が安心して夜の時間を過ごせる環境を整えている。

同店のスタッフを務めるのは、サムエスが運営する介護施設で働くスタッフたち。スナックのオープンにあたり、利用者たちからの強い要望を受けて店にも立つことを決めた介護士の設楽郁子さんは語る。

「自分ではスナックへ行きたくても行けないし、家族に送迎や付き添いをお願いするのは気が引ける。そういう方にとって、介護の延長で気兼ねなく行ける場所があることは大きいと思います。日中のデイサービスでも楽しんでいただけるように催しを考えているのですが、スナックではその場にいるだけで、皆さんの表情が明るくなるんです」

老人ホームで暮らしていても、花見のような行事や、日々の機能訓練や歩行練習の延長として外へ出るなどの機会は確かにある。また近年では、施設内にバーカウンターを備えた老人ホームも登場している。

しかし、住宅型有料老人ホーム「和が家よしおか」の施設長を務める石坂英明さんは、「施設の中にそうした場をつくること」と「外へ出かけてスナックに行くこと」には、大きな違いがあると話す。

「施設の中でお酒を飲んだりカラオケをしたりするのとは、気持ちが違うと思います。夜に出かけるとなれば、服を選んだり、髪形を気にしたり、しなくなった化粧を久しぶりにしてみたり、"街へ出る"感覚があるんですよね。そうした意味でも、外にあるスナックへ出かけていくことに意味があるんだと思います」

スナックが、疎遠だった親子をつなぐきっかけに

生まれているのは利用者本人の楽しみだけではない。家族との関係に変化が生まれることもあるという。

自身の体調不良がきっかけで息子と疎遠になっていたBさん(60代・男性)は、スナックへの付き添いを頼んだことがきっかけで息子と再会し、関係の改善にもつながったという。

「介護付きスナックに息子が付き添ってくれたのですが、私が元気で楽しそうに過ごしているのを見て驚いていたと施設の職員さんに聞きました。それ以降、ちょくちょく顔を見せてくれるようになって。一時は連絡をとることもほとんどなかった息子と会う機会が生まれたのはうれしいですね」(Bさん)

石坂さんは、こうした変化にも、店の意義を感じている。

ご家族にとっても、施設で過ごしている姿だけでは見えない一面があると思うんです。お酒を飲んだり、歌ったりしている姿を見ることで、『こういう時間を楽しめるんだ』と知るきっかけになる。介護付きスナックだけが理由ではないかもしれませんが、ご家族がもう一度関わるきっかけの一つになれているのだとしたら、うれしいですね」

「楽しい時間」は、制度で支えにくい

高齢化が進む中、介護は一部の人だけの問題ではなくなっている。内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、介護保険制度で要支援・要介護の認定を受けた65歳以上の人は令和4(2022)年度で681万4000人に上り、10年前と比べて135万7000人増加。さらに第1号被保険者について、要介護認定を受けた人の割合は、85歳以上で44.5%を占めている。

内閣府「令和7年版高齢社会白書」 を参考にして作成
内閣府「令和7年版高齢社会白書」 を参考にして作成

Go To Heavenの取り組みがメディアで紹介され大きな反響を呼んだのも、多くの人がそうした老後に課題感を抱いていることの証左だ。「自分たちの施設でもやってみたい」と問い合わせが相次ぎ、実際に見学に訪れた介護事業者も少なくなかったという。

しかし同じような場をつくり、継続していく道のりは簡単ではない。介護付きスナックには、少なくとも3つの壁がある。

まず立ちはだかるのが、介護の現場でお酒を扱うことへの抵抗感だ。介護や医療の文脈では、飲酒は健康上のリスクとして捉えられやすい。高齢者が集まり、酒を飲む。安全や健康を第一に考えれば、不安の声が上がるのは自然なことでもある。

石坂さんも、飲酒の管理の難しさについてこう話す。

「お酒って、どうしても健康に良くないものとして見られがちですよね。介護施設でお酒を出すとなると、病院でお酒を勧めるようなものだと言われてもおかしくありません。薬との兼ね合いや、転倒、体調の変化もありますし、ご家族からしたら『本当に大丈夫なの?』と思われるのも当然だと思います」

介助のため利用者の隣で対応する場面もあるため、風営法上の「接待行為」にあたらないか警察に確認。問題ない旨の回答を得て、飲食店として営業している(写真提供:Go To Heaven)
介助のため利用者の隣で対応する場面もあるため、風営法上の「接待行為」にあたらないか警察に確認。問題ない旨の回答を得て、飲食店として営業している(写真提供:Go To Heaven)

ただ、石坂さんらがつくろうとしているのは、リスクを軽視した場ではない。

入店したお客さんの血圧と血中酸素濃度を測定し、「飲みすぎないこと」「主治医に禁止されていないか」「家族などの緊急連絡先」も確認。その上で、利用者のお酒を飲むペースが速いと感じたら、本人が飲みたいと言ってもストップをかけるなどの配慮を徹底している。

事業として続けていく「経営上の難しさ」もある。

介護保険サービスは、要介護認定を受けた上でケアプランを作成し、それに基づいて訪問介護やデイサービスなどを利用する仕組みだ。 訪問介護やデイサービスであれば事業者に介護報酬が支払われるが、介護付きスナックは、介護保険の対象になりにくい。Go To Heavenも介護保険による報酬を受けずに運営しており、送迎、介護スタッフの人件費、場所の維持、飲食の準備、安全管理のコストをすべて自社で賄っている。

石坂さんも、採算面の難しさをこう明かす。

「正直、今の料金だけで十分に賄えているわけではありません。ただ、料金を上げすぎてしまうと、本当に来たい方が来られなくなってしまう。だからこそ、続けていくための仕組みをどうつくるかが課題だと思っています」

さらに「人材の確保」も大きな課題になる。介護職員そのものが不足する中、日中の介護業務に加えて、夜のスナック運営を担えるスタッフを確保するのは簡単ではない。

「介護付きスナックは前例がほとんどない上に、お酒を提供するという特性上、通常の介護業務以上に安全面に気を使う仕事です。『このスナックで働けませんか』と言われて、二つ返事で来てくれる人はなかなかいません」(石坂さん)

専任スタッフの雇用は難しいため、現状ではサムエスに所属する既存の看護師・介護士がスナック業務も兼任している。「変形労働時間制」の導入により、労働基準法に基づいた運営をしているが、スタッフの身体的な負担になっているのも事実だ。

「楽しんでくださる利用者さんの様子を見ると、やっていてよかったと感じます。ただ、昼は介護施設で働き、夜はスナックに立つため、体力的に大変な面もあります」(設楽さん)

厚生労働省が令和7(2025)年に発表した推計によれば、介護職員は2026年度には約240万人、2040年度には約272万人が必要になる。介護の担い手が不足する社会で、"楽しみ"を支える人手をどう確保していくのかも難しい問題だ。

楽しみを諦めない老後を、どうつくる?

石坂さんが思い描くのは、スナックだけが特別な場所として広がっていく未来ではない。

増えていくのはスナックだけじゃなくていいと思うんです。皆さん、それぞれの人生があったはずですから」

介護の現場では、「その人らしく」という言葉がよく使われる。しかし、その中身は本当に一人ひとりの人生に即したものになっているのか。石坂さんは、そう問いかける。

「飲みに行くのが好きだった人、歌うのが好きだった人、人と話すのが好きだった人。それぞれに、その人らしさがあるはずなんです。だからこそ我々が提供できるサービスも、もっと多様でいいはずですよね」

制度や社会の受け皿がまだ追いついていないとしても、そうした楽しみを支えることが少しずつ当たり前になっていけば、老後のイメージも変わっていくのではないか。設楽さんは、こう話す。

「自分がその年になったときのことを考えると、好きなことを全部諦めるのではなく、『まだできますよ』と言える老後であってほしいんです。年金や物価高のニュースを見ていると、年を取るって寂しいものなのかなと思ってしまうこともあります。でも、やりたいことが全部は無理だとしても、少しでもできる。そういう老後であれば、年を取ることも怖くなくなるんじゃないかと思います」

介護が必要になったとしても、その人がどんな場所で人と出会い、何を楽しみに生きてきたのか、という人生の生きがいまで、介護の外側に置いてしまっていいのだろうか。

Go To Heavenが示しているのは、「スナックに行ける介護」の可能性だけではない。介護が必要になった後も、その人が大切にしてきた場所や時間に、もう一度つながれる社会のあり方だ。

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