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自然の機能から生活基盤を作ると、持続可能な社会につながる? UR都市機構が考える「グリーンインフラ」の価値とは

提供:UR都市機構

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「グリーンインフラ」という言葉を、聞いたことはありますか?

近年、欧米を中心に世界中で加速度的に浸透しているこの言葉は、現代のまちづくりにおいての共通言語となりつつあります。

日本でグリーンインフラという言葉が使われるようになったのは、国土交通省が国土形成計画の中で発表した2015年頃から。

国土交通省は、グリーンインフラを、「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組」と定義しています。

たとえば、都市部にある屋上庭園や緑化された壁面、歩道や駐車場に多く見られる、雨水が路盤以下に浸透するように作られた水はけの良い透水性舗装、じつはそういった身近なものがグリーンインフラなんです。

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多くの地方自治体、まちづくりに関わる不動産会社が積極的に取り組む中、業界に先駆けていち早くグリーンインフラに取り組んでいたのが、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)。国土交通省が所管する法人として設立された独立行政法人です。

1955年に設立された日本住宅公団はのちにUR都市機構へと組織名を変え、都市再生事業や賃貸住宅事業を通して、その地域がより豊かで心地よい場となるため、また、地域社会が抱える様々な課題を解決するために、自然の持つ多様な機能を活用してきました。

自然を活用して生活基盤を整えることは、どのように持続可能なまちづくりにつながっていくのだろう?グリーンインフラの意義と具体的な取り組みを、UR都市機構の方々に伺いました。

グリーンインフラと、日本で必要とされる背景

グリーンインフラとは、自然が持つ多様な機能を活用して作られるインフラ(生活基盤)のことです。

自然環境が持っている多様な機能の活用とは、たとえば、植物の蒸散作用でヒートアイランド現象を抑制することや、自然の持つ保水機能を使って雨水の貯留や浸透を促し、防災・減災を目指すことなどを指します。

さらにグリーンインフラは、そういったハード面から社会問題を解決する効果だけでなく、ソフト面での効果も期待できます。このように話すのはUR都市機構 環境計画課の村尾駿さん。村尾さんは、「グリーンインフラを導入したことで、その地域に人が集まるようになったり、経済効果を生むことも期待できます」と言います。

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UR都市機構 環境計画課 村尾駿さん

今ではグリーンインフラの先進的都市となったアメリカ、オレゴン州のポートランド市では、1990年代、工業化に伴って汚染された雨水が川に流され、また、市の下水道管の3分の1が築80年以上経過し老朽化していたために十分な下水処理ができずに内水氾濫も起こっていたことから、市としてグリーンインフラを取り入れた豪雨対策や水質改善、流域の健全化に力を入れ始めました。

具体的な取り組みとして、道路や駐車場や屋上などを緑化するなど、街のあらゆるところに雨水流出を抑える仕組みを施していきました。その結果として本来の目的であった雨水の貯留機能向上や水質改善を越えて、市民の心身の健康を向上させるだけでなく、野生動物の生息地を強化することにも成功。

グリーンインフラが、社会の課題を解決すると同時に、住みやすいまちづくりの力となれたことで、「全米一住みたい街」に何度も選ばれるようになりました。

1990年代にアメリカで端を発したグリーンインフラは、ヨーロッパでも広がりを見せ、2015年頃から日本でもその概念が広がり始めました。

日本で後押しされた背景には、気候変動による災害に対する防災・減災、都市のヒートアイランド現象緩和、人口減少等、さまざまな観点がありますが、ポートランド市の下水道管のように、そもそも既存のインフラが老朽化しているという課題がありました。

国土交通省のポータルサイトによると、建設後50年以上経過する社会資本の割合は、道路と橋は2018年で25%という数値が2033年には63%、トンネルは20%から42%、下水道管渠(かんきょ)は4%から21%と推計され、いずれの社会資本も維持管理費・更新費のコスト拡大が懸念されます。

このような背景から、グリーンインフラの積極的な導入が社会資本整備のコスト削減につながると期待されています。

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グリーンインフラと対をなす概念として、コンクリートで作られた道路や橋、下水道、堤防、ダムなどの社会資本が、グレーインフラと呼ばれています。

村尾さんも、防災や減災、QOLの観点からグレーインフラは必要不可欠としながら、「グレーインフラは壊れたらそれまでなところがありますが、グリーンインフラはたとえば、マツ林が折れずにシナって防波堤の役割を果たすように、グレーインフラにはない柔軟性があると思っています。社会資本がグレーインフラのみだと地球温暖化など環境問題に拍車がかかってしまいますし、うまく融合させていく必要があるのでは」とその必要性を口にします。

UR都市機構に根付くグリーンインフラの意識

グリーンインフラは、日本では登場してから10年も満たない、まだまだ新しい言葉。しかし、村尾さんは、「グリーンインフラという言葉が発表されるより以前から、自然の機能を活用したまちづくりの実績がUR都市機構にはあります」と語ります。

UR都市機構の前身は、1955年に設立された日本住宅公団。戦後間もない1940年代後半からベビーブームが起こった日本では、人口増加の影響で住宅の需要が急速に高まっていきました。そこで、全国に団地を作り、多くの人々に住まいを提供することを目的に設立されたのが、日本住宅公団でした。

その頃から現在まで続く、団地づくりの特徴として、「建物と建物の住棟間隔が広いことが一貫している」と村尾さんは言います。

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「UR都市機構は日本住宅公団の頃から、住棟の間を広くし、緑地空間を豊かにとるということを自然とやってきました。当時そこまでの見通しがあったかは定かではありませんが、結果的にヒートアイランド現象の抑制につながっていると思われます」

そのUR都市機構が、現代で取り組む、具体的なグリーンインフラはどういったものなのか。埼玉県草加市のコンフォール松原(旧草加松原団地)と、愛知県江南市の江南団地の2つの団地を事例に、ハードとソフトの両面で取り組むまちづくりについて紹介します。

緑が束ねるまちコンフォール松原

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コンフォール松原
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お話を聞いたコンフォール松原関係者のみなさま。写真左からコンフォール松原を担当したUR都市機構の池田今日子さん、草加市役所の根岸暁夫さん、堀中秀則さん

コンフォール松原の前身は草加松原団地という名前で、高度経済成長期にベッドタウンとして作られた、約6000戸もの戸数からなる団地でした。建設当時の1962年、その規模は「東洋最大規模のマンモス団地」と呼ばれるほどだったそう。

その草加松原団地が抱えていた課題は、地盤が低い土地柄ゆえの浸水被害。これは草加市全体としても、同じ課題を持っていましたが、草加松原団地はそれに加えて、建設から約半世紀経っているがゆえの住棟の老朽化もありました。

そこで2002年度から、UR都市機構は大規模な建替えと同時進行で、グリーンインフラを活用したまちづくりを、草加市と協力して着手しました。

住棟の建替えでは全体を5つの期に分け、駅側の街区から時期をずらして事業を進めました。その際、居住者の負担軽減のため、建替後住棟に次の区域の居住者が直接引っ越しできるよう極力配慮しました。

グリーンインフラの取り組みとしては、街区ごとの建替えを進めながら、敷地内に保存樹木を中心としたゆとりある緑地や緑道をつくりました。また、草加市の歩道とUR住棟の歩道状空地がつながる「緑のプロムナード」を設計。プロムナードの終点には松原団地記念公園を配置し、駅から公園まで緑が絶えない歩道としてつながりました。

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さらに、豊かな景観を作るだけでなく、治水も考慮した整備も。建替え前の約半世紀で育った樹木60本が生る緑道を残し、その緑道添いに深さ50センチメートルほどのくぼ地を設け、レインガーデンとして雨水の流出を抑制する仕組みを作りました。

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緑道沿いのくぼ地に雨水が溜まっている様子

公園にも雨水を貯水できる修景池を設置し、浸水被害の抑制だけでなく、生物多様性を実現する場として機能しています。

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松原団地記念公園の修景池

建替え事業における設計業務を担当したUR都市機構の池田今日子さんは、「団地建設以前は水田の土地柄なので、樹木が大きく育ちにくい特性がありましたが、草加市の中でも草加松原団地は比較的大きく育っており、長く住んでいる方ほど誇りに思われていました。住まわれている方々と共に作り上げてきた風景を良い形で残したいと思ったんです」と緑を中心としたまちづくりに込めた思いを明かしました。

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じつは、公園の「松原団地記念公園」という名も、2017年に松原団地駅が獨協大学前〈草加松原〉駅に駅名を変更するに伴って、「松原団地という言葉を残したい」という地元の方々の要望を受け、つけられたものでした。

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建替え前の団地から移設したモザイクタイルを再利用し、廃棄物を出さないだけでなく、地域の面影を感じられるようになっている

草加市都市計画課の根岸暁夫さんは、「私が市役所の採用試験を獨協大学で受けた日も大雨が降って、道路はひざ下あたりまで浸水したこともあったんです。もともとそういうことが頻繁に起こる土地柄でした。それが、今ではこの地区では浸水被害はほぼなくなったと感じています。地道な努力の結果じゃないでしょうか」と言います。

Yahoo! JAPAN SDGs編集部が取材に訪れた7月末も、朝から昼まで豪雨に見舞われましたが、浸水することなく、私たちはコンフォール松原の敷地内を見学することができました。

また、ソフト面での取り組みとしては、計画段階から150回近いワークショップを重ねて地域住民の合意形成を図りながら、官民一体となってビジョンを作り上げてきました。すでにハード面においての計画は達成されましたが、そこで終わりではないと、草加市都市計画課の堀中秀則さんはソフト面を強化していく意気込みを語ります。

「おかげさまで団地の建替えが終わり、すべてではないですが、もともと住んでいた方が戻ってきてくれ、新しい住民の方々も増えました。なので、今度はその両者がうまく融合する仕組みを、UR都市機構さんや民間企業さんと一緒に作っていきたいという夢を描いています」

UR都市機構は今後も「整備して終わり」ではない持続的な関わり方をしていきます。

江南団地の「緑づくりから人づくり」

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江南団地
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お話を聞いた江南団地関係者のみなさま。写真左から、江南市役所の相京政樹さん、近藤祥之さん、相亰かほりさん、江南団地を担当するUR都市機構の金子知彩さん、岩田知之さん

名古屋市のベッドタウンである愛知県江南市に広がる江南団地は、コンフォール松原と同じく、UR都市機構が管理する大規模団地。団地敷地内には北、中央、南と3つの森が広がり、北には広葉樹、中央から南にかけては針葉樹が広がるなど、団地の中に豊かな自然林を有しているという珍しい特徴があります。

しかし、長い間自然林の明確な管理方針がなかったことから、樹木の状態の悪化だけでなく、台風による倒木や枝葉が落ちてくるなどの被害も懸念されていました。

そこで、UR都市機構が江南団地の自治会と2者で取り組んだのが、令和元年に始動した「団地の森 健全化計画」です。江南市のNPO法人・トンボと水辺環境研究所の川口邦彦理事長をアドバイザーとして迎え、ワークショップを重ねる中で自然林の管理方針と活用方針を決めていきました。

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ハード面では、道路沿いの樹木の剪定や危険木の伐採、切り株の除去をするだけでなく、コンクリートで舗装されていた自然林内の通路を土舗装にすることで自然林に溶け込む景観づくりをしながら生活動線を整えるなど、人と自然が共生できる形で計画を進めました。江南市環境課の近藤祥之さんは、「僕は江南団地で育ったのですが、子どもの頃と比べたらすごく整備されたと感じます」と口にします。

また江南市は、地域の子ども達を対象とした環境学習会を行っていますが、そこにUR都市機構も協力して、江南団地の自然林を舞台にどんぐり教室やかぶとむし幼虫教室を実施してきました。どんぐり教室は自然林内にどんぐりの後継樹を育てる活動、かぶとむし幼虫教室は団地内のコンポストで幼虫を探し、持ち帰って飼育する活動です。

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環境課の相亰かほりさんは、「江南市は、緑づくりを通した人づくりに力を入れ、子どもたちと関わっています。たとえば江南団地では、後継樹を育てることやコンポストを再生させることで、人が壊してしまった自然を再生させるのにどれだけの時間がかかり、難しいことかを感じてもらうことがテーマ。川口先生も、『子どもたちが大人になり、まちづくりに参加する立場になったときに、どのくらい土づくりが大変だったかを思い出して、事業を行っていけるような人づくりをしたい』と仰っていました」。

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どんぐり教室の様子(江南市より提供)

江南団地での環境学習会が、団地内の住民だけでなく団地外の市民も参加できる形になっているのも、「学校生活も普段はコンクリートに囲まれた中でということが多く、開かれた森を活用して自然と触れ合うきっかけを提供したいという思いから」と環境課の相京政樹さん。

江南団地自治会長の森ケイ子さんも、「団地が造成された50数年前、将来のためにと3カ所の自然林を残すことを決めてくれた先人の先見性に感謝しています。江南団地では、春は新緑、夏は蝉しぐれ、秋はどんぐり拾いなど、おとなも子どもも自然林に親しんできました。子どもたちの成長とともに、木が育ち、緑が育っていくことが楽しみ」と団地と自然が共生していける未来への期待感を持っています。

団地の住みやすさを考えることから始動した森の健全化計画。それは市全体の環境問題への意識を高めたり、住民同士の新たな交流を生んだり、市外から人を呼び込んだりと、団地の枠組みを飛び越えてポジティブな効果を発揮しています。

UR都市機構で江南団地を担当する金子知彩さんは、「グリーンインフラは、自然の機能を使ってコミュニティの持つ課題を解決するという側面はもちろんありますが、それ以上に、自然を主体としたひとつのアクションで本来の目的以上の結果がついてくることが、大きな価値だと思います」と語りました。

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誰ひとり取り残さない都市開発

UR都市機構が都市の再開発やまちづくりにおいて大切にしてきたのは、歴史や文化、地域に暮らす人々の思いを継承していくことでした。それは、コンフォール松原、江南団地など近年の取り組みだけでなく、脈々と続いてきた姿勢なのだと村尾さんは明かします。

たとえば、1970年代からニュータウン開発が進められていく中でも、UR都市機構は、地域の水脈や、長く根付いている植物を事前に調査し、それらを残すことを前提とした上で開発を進めてきました。

神奈川県横浜市の港北ニュータウンを手がけた際は、開発地区内にある緑道を骨格とし、公園や民有地の斜面樹林などと連結させる「グリーンマトリックスシステム」を組みこむなど、グリーンインフラにも通ずる取り組みでまちづくりを進めています。

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「単純な利益追及に走らなかったのは、開発を進めていく中でもともと住んでいた人に住み続けてもらえることを最優先して考えていたからです。住んでいる人の思いを汲まない開発を進めても、結局は誰も幸せにならないので」

グリーンインフラを使った開発へのより多くの理解、深い納得を得るべく、国土交通省でも2020年3月に、「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」を設立。情報収集や発信、ディスカッションができるオープンなプラットフォームには、すでに国、地方公共団体、民間企業、大学などの研究機関が参画しており、個人でも会員登録ができます。

「いろんな組織がグリーンインフラに取り組んで広がっていけば、当然、その分災害も減りますし、CO2削減の効果も大きくなるでしょう。持続可能なまちづくりをいかに広げていくかが、もっと大きな社会の持続可能性にもつながっていくのではないかと思っています」

人の思いも含めた誰ひとり取り残さないまちづくりのために、UR都市機構はこれからも官民一体の姿勢で、持続可能なまちづくりに取り組み続けます。

【UR都市機構の関連リンク】
・UR都市機構 グリーンインフラページ
・URが取り組むグリーンインフラ

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