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企業が「森」を持つ選択。アサヒグループが約80年守り続けてきた「アサヒの森」の物語

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ビールをはじめとする飲料や食品で知られる「アサヒグループ」は、80年以上前から企業活動の一貫として、広さ約2,165ヘクタール、東京ドーム461個分にもわたる森林を所有し、大切に守り続けています。

なぜ飲料品メーカーがこれほど広大な森林を持ち、それをどのように活かしてきたのか。そこには単なる企業活動の一環としてだけではない、壮大な物語がありました。今回は広島県庄原市へ。森林の運営に携わる「アサヒグループ森林管理事務所」所長の松岡洋一郎さんにお話を聞きます。

アサヒの森

はじまりはアベマキの木。「アサヒの森」が生まれるまで

新緑が茂る初夏、広島県の第2都市である福山市から2時間半ほど山のほうへ車を走らせ、アサヒの森がある庄原市を訪ねました。明るい笑顔で迎えてくださったのは、所長の松岡さん。そもそも84年前、アサヒがなぜ森を持つことになったのか、その経緯から伺っていきます。

松岡さん

松岡さん

1940年代当時、ビール瓶の王冠には密閉するためにコルクの素材が使われていました。けれど第二次世界大戦の影響で、コルクの輸入が次第に難しくなっていったんです。ならば自分たちで製造しようと、コルクに代用できる『アベマキ』が多く自生している、この森林を購入することになりました。

ところが、実際にはアベマキの樹皮をコルクに使用する機会はなく、森は当初予定していた木材の活用先を失うことになります。けれども、そこで森林を手放さず、継いでいく決断をしたのがアサヒグループ。元からある自然林も残しながら、ヒノキやスギの植林を始め、以来80年以上広大な森を社員自らの手で守ってきました。

松岡さん

当時森を残すと決めた大きな理由は、木材を売る財源としての運用も、もちろん目的のひとつでした。ですが、何より森があることで水源や、生物の多様性が生まれていきます。そんなふうに、地球に対して多面的な役割を果たしている森林の保守に関わることに、いち企業として意義を感じたのではないか、と想像しています。

自然

地元業者とともに、二人三脚の森づくり

松岡さん自身、もともとは純粋な森への好奇心から、未経験でこの仕事に足を踏み入れたそう。15年前、前任の所長が定年退職を迎えるタイミングで、社内公募に手を挙げたといいます。

松岡さん

昔から森に興味があったので、はじめはただやってみたいという気持ちでした。私は元々、林業を学んできたわけでもなかったので、一から森づくりについて勉強しましたね。でも、どんな仕事でも始めはみんな未経験でしょう? そんな中、4〜5年経てば少しずつ仕事に慣れてくる。そうやって気づいたら、アサヒの森に関わってもう15年も経っていました。

林業に携わるまで木に触れることもほとんどなかったという松岡さん
林業に携わるまで木に触れることもほとんどなかったという松岡さん

事務所には今、松岡さんを含め4名の社員が働いています。主な業務は森林全体の管理で、主に間伐を行っています。植林した木々が健やかに育つためには、木々を間引いて間隔を作る「間伐」の作業が必要です。

そして、広大な森のまとまった範囲を定期的に間伐してます。その計画を立てるのが松岡さんたちの仕事です。現場には、地元の森林組合や木材生産業者など、150人近い方々が関わり、連携をとりながらひとつの森林を育てています。

松岡さん

会社が森を所有して80年以上が経ちますが、実際に間伐材として木々を出荷し始めることができたのは、20年ほど前。ようやく、という感じです。それまではずっと木の保育作業、つまりいい木を作るためのメンテナンスを行なってきました。私より前に森に関わってきた先輩たちの取り組みのおかげで、ここまで来られました。

森の恵みを暮らしに活かす。アサヒが育む、地域とのつながり

森

森の大きな役割のひとつが、「水源涵養(すいげんかんよう)」という水資源を蓄える機能。適切に管理された森に降る雨は、その多くが地表を流れ落ちてしまうことなく、木々の生える地中へと浸透していきます。そして地下に染み込んだ水は、やがて河川や海へ流れつく。つまり森があることで、雨水が効果的に水資源として活用されるしくみができているということです。

松岡さん

身近な話でいえば、近隣で田んぼを作る方々も、私たちの森から水を引き活用していて、そのための水路があります。庄原市は昔から米づくりが盛んな地域。アサヒの森もその一部を支えるひとつになっているのかもしれません。

間伐材は建築資材として出荷されるだけでなく、アサヒビールのオフィスを作る材や、飲食店向けの販促グッズなど、社員にとって身近なところにも活用されています。

大阪のオフィスの内装

大阪にあるオフィスでは、フロアのパーテーションやカフェテリアの天板など、各所に間伐材を活用。働きながら、アサヒの森を自然と感じられる空間になっています。また近年、東京で国立競技場の施工にアサヒの森の間伐材が使われたことが話題になりました。

写真:nikomani/イメージマート
写真:nikomani/イメージマート

松岡さん

『国立競技場の木材の一部にアサヒの森の間伐材が使われている』ということが、話題性をもって広まり、間伐材というものへの理解や、森への興味が広がるきっかけになればいいと思っています。

ちなみに、この森に建つバイオトイレや、今私たちがいるこの小屋も、アサヒの森の間伐材を使って県立広島大学の方たちと協力しながら作り上げたもの。『地産地消』といいますが、それは木においても全く同じ。いずれはその土地の木を使って、その地の建物が作られていくような社会になればいいですね。

バイオトイレの外観
バイオトイレの外観

庄原市は面積の84%を森林が占めているため林業が盛んで、里山とも一体化した生活が営まれてきました。そのため、森林管理事務所の社員も森づくりを通じて、地元とのつながりを深めています。

松岡さん

今はアサヒの森だけでなく、庄原市が管轄する森林の一部の管理を私たちが請け負っていて、地域と連携しながら森を育てています。

近隣の小学校では、子どもたちに森林環境教育(※森林の中で活動することで、自然に対する理解や関心を深める教育)を実践していて、実際に学べるフィールドとして森を提供する機会も多いです。以前は私たち自身が学びの場を主催していましたが、今は庄原市がその役割を引き継いでいます。ちょうど明日も、地元の小学生が体験学習にくる予定なんですよ。

以前、実施した体験学習の様子
以前、実施した体験学習の様子

森は、そこに暮らす人々にとっての大切な自然であり、風景の一部。アサヒの森が健やかに在ることは、地域と関わるきっかけを生み、それは地域に根付く企業活動の実現にもつながっているのです。

企業が「森」をもつことの、本質的な価値とは?

森

松岡さんが今後、社内の森林事業で一層の伸びしろを感じているのは、「社内への認知と理解を深めること」。オフィスに木材を使うだけでなく、社員自身が身体で森の魅力を体感できる機会を増やしていきたいと話します。

松岡さん

アサヒビール中国支社へ配属になった社員は、研修の一環として、毎年この森に来ています。何をするでもなく、ただ森を歩きながら自然に触れる、その体験自体が新鮮で、刺激になっているようです。体を動かし緑を胸いっぱいに吸い込むことは、ウェルビーイングにもつながります。

そもそも私自身、アサヒの森に関わるようになって価値観が180度変わったと感じていて。自然を『自然なもの』として、より受け入れられるようになり、働き方も暮らし方も余計な力が抜けて、自然体で向き合えるようになった気がしています。

松岡さん

松岡さん

何かを学ぶという意味での研修ではないかもしれませんが、ただ、自然の中に身を置くことに意味があると、考えています。

アサヒの森を手に入れた当初はアサヒビールが管轄していましたが、現在は国内事業を統括するアサヒグループジャパンがグループの重要な資産として所有しています。森の育成と保全は、「森林管理事務所」が引き続き担っています。
ビールの資材を作る森から、社会のための森へ。その変遷からも、アサヒグループの森に対する姿勢が伝わってきます。

現在、開催中の大阪万博内で、アサヒグループが協賛として関わっている「静けさの森」。大阪府内各地の公園から、木々1500本が移植され、"未来につながる森" というテーマで作られたこの空間にアサヒグループが託す想いは、まさにこのアサヒの森で、松岡さんや所員の方たちが日々考え、森に向き合いながら実現しているものなのかもしれません。

提供:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
提供:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会

会社だけでなく、世の中にとって「いい森」を作っていきたい

森の木

松岡さん

これからの課題は、経営面と環境面、どちらにおいても健やかな森を作っていくことです。もちろん儲けることだけが全てではありませんが、企業としては、やはり長年多くの時間と資金をかけて育んできた森である以上、安定した収益をあげていくことも大切だと考えています。

ただ、木材会社ではない私たちが、ただ生産のために伐採と植林を繰り返すというのも、少し違うのではないかと思うんです。たとえばここに暮らす生物の多様性や、水源涵養機能を保持すること。本質的に目を向けるべき課題は別のところにあると感じます。経済的価値だけでなく、社会的価値を上げる。そこに貢献することが『アサヒの森』としての役割ではないでしょうか。

『いい森』ってなんだろう?それは『森林経営』というひとつのチャレンジに踏み出したアサヒグループが向き合い続ける問いであり、そこから生まれるアクションは、これからの企業の役割、林業のあり方を示すヒントになりそうです。

松岡さん

今、木材として出荷できるものは、樹齢50〜60年のもの。当たり前ですが、木が育つのには時間がかかります。今やったことがすぐ結果につながるわけでもないですが、それでも私が関わるようになった15年前と比べると、着実に森は変わってきています。この頃、森に入って歩くたびに『いい森になってきたなあ』と思うんですよ。今と同じ風景が100年、200年と続く。そんな森づくりを目指していきたいですね。

森の木

●関連リンク
アサヒグループジャパン 2025年大阪・関西万博特設サイト
アサヒの森公式サイト
アサヒグループのサステナビリティ

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