仕組みを変えずに未来を変える。無理しないサステナブル「CO₂を食べる自販機」から始まるアサヒの未来
2023年6月から設置が始まったアサヒ飲料の「CO₂を食べる自販機」。
自動販売機の内部にCO₂を吸収する特殊材を設置することで、一台につき最大でスギの木(林齢56〜60年)20本分に相当するCO₂を一年間で吸収します。さらに、吸収したCO₂はコンクリートや内装用床タイル、サンゴが育つためのブロックなどに再利用され、新しい資源循環も生み出しています。
現在、大阪・関西万博の会場をはじめ、全国で約2,500台が設置されている「CO₂を食べる自販機」。都会に木を植えて、森を作るようなこの取り組みは、どのように始まり、広がってきたのでしょうか。
100年先の未来を見据え、異業種のパートナーと共に歩むアサヒ飲料のチャレンジについて、アサヒ飲料株式会社未来創造本部CSV戦略部所属で、CO₂資源循環の事業管理を担当している秦佐和子さんにお話を伺いました。
今まで通りの自動販売機で、無理なくCO₂を吸収する
── こちらが「CO₂を食べる自販機」ですね。ラッピング以外は普通の自動販売機に見えますが、どのようにCO₂を吸収しているのでしょうか?
秦さん
自動販売機の正面下部に、商品の冷却や加温のために外気を取り込む通気口が見えますか? 実はこの裏側に空きスペースがあり、そこにCO₂吸収材を入れた箱を設置しています。
── ここに吸収材が置かれているのですね! なんと言うか、すごくぴったりな場所です。
秦さん
はい、まさに(笑)。このスペースに吸収材が置かれていることと、表のラッピングを除けば、普通の自動販売機と何も違いはありません。新しい機能の開発や、特別なカスタマイズなどは一切加えていないのです。
開発時に吸収材の量や重さ、置き場所について検討を重ね、既存のオペレーションの中に如何に簡便に組み込むか工夫しました。今は自動販売機へ商品を補充するタイミングに合わせて、吸収材をだいたい2週間に一回交換しています。新しく人手を増やしたり、専用の機材を用意する必要もなく、今まで通りのオペレーションの中で続けられることが大きなメリットです。
── 新しく自動販売機や仕組みを開発するのではなく、これまでのノウハウを生かしたことで、無理なくCO₂を回収できるようになっているのですね。
秦さん
はい。とはいえ、吸収材の使い道がなければ意味がありません。プロジェクトを立ち上げた当初から、CO₂を吸収し終えた素材が循環するための仕組みづくりも重視していました。
── 街中で生まれた吸収材が姿を変えていくプロセスは、森林でCO₂を蓄えた木材が住宅や家具に使われる構造と似ていますね。
秦さん
一台につき最大でスギ(林齢56〜60年)20本分に相当するCO₂を一年間で吸収するので、「CO₂を食べる自販機」の設置は植林と同じような役割を果たします。しかも、公園や森のように土のある場所だけでなく、駅や商業施設など、街の中にもCO₂を吸収するポイントが生まれるのです。
この「都会の中に森を作る」というコンセプトは、ラッピングの色やイラストにも反映されています。
コンセプトに合わせ、まずはCO₂濃度が高いと考えられる、人口密度の高い都市部や商業施設、駅などから設置をスタートしました。大阪・関西万博でも約50台を設置し、多くの方に興味を持っていただいています。お客様からも「どこにありますか?」というお問い合わせがありますね。
自動販売機から始まる新しい環境へのアクション
── そもそも、どのように開発が始まったのでしょうか?
秦さん
自動販売機は全国で約220万台設置されており、私たちの事業にとっても重要な存在です。当社では、災害対策用やWi-Fi搭載型など、さまざまなタイプの自動販売機を展開していますが、ある日、社長を交えた雑談の中で「自動販売機でCO₂を削減できたらおもしろいよね」と話題になりました。その後技術者も交え「もしかしたらできるかもしれない!」と話が盛り上がり、具体的なプロジェクトへと発展していったのです。
── 自動販売機をサステナブルなアクションの起点として考えたのですね。
秦さん
はい。自動販売機メーカー様の努力によって、自動販売機自体の使用電力は20年前に比べて70%ほど削減されてきました。技術開発の積み重ねでここまで来たものの、さらにCO₂の削減を進めるのは難しい状況になっていたのです。
もともと自動販売機は外部の空気を取り込み、その熱を利用して、内部の商品温度を調整する仕組みがあり、外の空気と触れる機会が多いのが特徴です。その機構を活かすことができれば、「大気中にあるCO₂を吸収できるかもしれない!」という気づきがありました。そして自動販売機の使用電力を下げるだけでなく、大気中のCO₂を対象にするという発想は、視点を変えた新しいアプローチでしたね。
── なるほど。ちなみに「CO₂を食べる自販機」というネーミングは親しみやすくてキャッチーですが、どのような経緯でこの名前が決まったのでしょう?
秦さん
「CO₂を食べる自販機」というネーミングについても、最初は社内で「吸収」や「取り込む」といった言葉が候補に上がりましたが、誰にでもわかりやすく伝わる言葉として「食べる」を選びました。社内外の方々からも「わかりやすい」「インパクトがある」と好評をいただいています。
コンクリートからサンゴ礁まで。CO₂吸収材の活躍
── CO₂を食べる自販機でCO₂を吸収した後、素材はどのように使われているのでしょうか?
秦さん
CO₂を吸収した吸収材は、コンクリートやアスファルト、内装用床タイル、樹脂コンパウンドなどの原料として活用できます。この取り組みに関心を寄せてくださっている建設業者様や住宅メーカー様等に提供することで、CO₂吸収材は道路の舗装材や内装用床タイル、樹脂コンパウンド成形品など、さまざまな製品として生まれ変わっています。
── 私たちの生活に身近なアイテムに利用できるんですね!吸収材を使うことによるメリットはあるのでしょうか?
秦さん
西松建設様と開発した「CO₂吸収材を活用したコンクリート」では、一般的なコンクリート製造におけるCO₂排出量を100%とすると、CO₂排出量がマイナスになるカーボンネガティブを実現しました(※1)。
また、前田道路様と共同開発したアスファルトでは、枯渇資源と言われる石粉をCO₂吸収材に置き換えることで、道路面積1m²あたり約0.9kgのCO₂排出量を削減できることが分かっています(※2)。
さらに、日本エムテクス様と商品化したタイルでは、従来のセラミックタイル製造時に必要だった約1200~1300度の加熱焼成が不要になり、CO₂排出量を大幅に削減できました。2025年7月からは「二酸化タイル」として、ハウスメーカーやデベロッパー向けの販売も始めており、環境負荷の少ない素材として活躍しています(※3)。
── 環境負荷の少ない素材として活躍しているのですね。沖縄ではサンゴ礁の保全活動にも利用されていると伺いました。
秦さん
伊良部島環境協会と協業し、2024年7月からサンゴ移植の実証実験を行なっています。サンゴは海水温上昇に伴う白化(サンゴと共生している褐虫藻が失われ、光合成がうまくいかなくなる現象)が世界的な課題となっているのですが、吸収材を配合したコンクリートブロックを土台に使用すると白化率が抑えられる傾向を実際の海洋下で確認しています。
サンゴ白化抑制には「マンガン」という成分が寄与すると言われておりますが、吸収材に同じ物質が含まれるため、白化抑制に繋がったと推測しています。ただしサンゴの生育は水温や環境による影響も大きいため、再現性を含めてより詳細な検討を進めています。
100年先の未来に向けて
── 「CO₂を食べる自販機」を初めて設置してから2年ほど経ちましたが、周囲からの反応や手応えはいかがでしたか?
秦さん
リリース直後から、業界を問わず多くの企業様からご連絡をいただきました。消費者の方はもちろん、意外な業種からお声がけいただくことも多くて。例えば、これまではアサヒ飲料として「自動販売機を設置する」という関わり方しかなかった建設業界から、コンクリートや建材の共同開発が始まるなど、新たな協創の形が生まれています。
当初の活動ではCO₂を吸収した後工程を考えた原料の選定や資源循環を意識していましたが、サンゴの再生プロジェクトなど、グループ会社や地域パートナーとの連携も想定以上に広がり、吸収材の新しい使い道が次々と見つかっていることには手応えを感じています。
今後も新たなパートナーを探しつつ、企業内に設置した自動販売機で吸収したCO₂を、その企業のお店や施設の内装用床タイルに再利用する「企業内循環」のような、新しい循環のモデルを模索していく予定です。
サンゴのプロジェクトは伊良部島のサンゴ保全活動をグループ会社に紹介してもらったことがきっかけで始まりました。一社だけではできることに限界がありますが、今後も地域のパートナーや関係者と協力しながら、地域内で資源が循環する仕組みを生み出していきたいですね。
── 今後の目標や、広げるためのハードルはありますか?
秦さん
現時点で約2,500台を設置していますが、2025年内に5,000台、2030年には50,000台まで拡大することを目標としています。台数を増やすためには、吸収材そのものの改良や生産体制の拡大、そして吸収した素材を使っていただけるパートナーを増やしていくことも欠かせません。
私たちは飲料メーカーですが、吸収材の開発や活用先の検討はこれまでにないチャレンジの連続です。サプライヤー様や活用先の企業様自治体の皆様の知見やご協力をいただきながらプロジェクトを進めており、社内のメンバーからは「まるで転職したみたい」という声が出ることもありますね(笑)。それほど新しく、やりがいのある内容だと感じています。
── ちなみに、アサヒ飲料は『100年のワクワクと笑顔を。』というビジョンのもと、サステナブルな挑戦も続けてこられましたよね。今回の取り組みを通じて、チーム全体で感じたことはありますか?
秦さん
私たちは「ウィルキンソン」「カルピス」「三ツ矢サイダー」という、100年以上続く飲料ブランドを3つ保有する唯一の会社です。そうした長い時間を見据え、未来に繋げていくために、ボトルのリサイクルや自動販売機の節電といった様々な取り組みも続けてきました。今回の「CO₂を食べる自販機」では、既存のビジネスの中でも小さな工夫や発想の転換から、新しいサステナブルな価値が生まれることに気づけたのが大きな収穫でした。
技術開発を進め、まるで木を植えるように、設置するだけで街や社会に良い影響を与えることができる――「CO2を食べる自販機」がそんな存在になれば嬉しいですね。これからも「CO₂を食べる自販機」を一つの象徴として、次世代や社会全体に良い環境をつなげていきたいですね。
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