「本当に温暖化は阻止できるの?」へのヒントがここに。乗鞍高原からはじまる脱炭素ドミノ
近年、「SDGs」や「サステナブル」という言葉が徐々に市民権を獲得しているようにみえます。でも正直なところ、個人的には「SDGsなんて流行り言葉だ」「なんかうさんくさいな」と感じてしまう瞬間もあります。
長野県松本市に位置し、国立公園の一部でもある「乗鞍(のりくら)高原」。ここでは、豊かな自然の恵みのなか、縄文時代から人が住み続けてきた歴史を通じ、「環境を維持することは、自分たちの生活を守ること」という意識が根付いています。そして実際に、修景伐採や山の維持などに地域住民が継続的に関わっているのです。
さらに最近の乗鞍高原では、官民一体となり「脱炭素」に関わる動きが活発化。廃棄物をゼロにする活動や、サステナビリティをテーマにした観光などが動きはじめています。
こうした地域全体を巻き込んだ大きな流れは、きっと大企業や行政が旗を振っているのでは?......と思いきや、中心にいるのは、とある一人の移住者。その移住者とは、乗鞍でカフェ『GiFT NORiKURA Gelato & Cafe』を営む、藤江佑馬さんです。
カフェを営む民間事業者である藤江さんは、環境省の官僚と協力しながら脱炭素化への取り組みを推進しています。この構図は、全国的に見てもなかなか珍しいもの。
そして今回、乗鞍で行われている取り組みを見て、これこそが「ホンモノ」ではないかと感じています。見せかけではない「ホンモノ」の脱炭素化への取り組みが、私たちの生活にどのような変化を生むのか? この記事を通じてお伝えします。
GiFT NORiKURAで行われる、サステナブルな取り組み
長野県松本市の中心部から、西に車で1時間。険しい山道を走った先、アルプス山脈の麓・乗鞍高原センターに、今回取材する藤江佑馬さんが営むカフェ「GiFT NORiKURA Gelato & Cafe」はあります。
このカフェでは、「地産地消」「Going Zero Waste」「売り上げの3%を地域の環境整備活動に使う」をスローガンに掲げ、乗鞍の自然の豊かさを次の世代につないでいくための取り組みを積み重ねています。
店内に入った人を出迎えるのは、壁一面の黒板。そこに書かれているのは、GiFT NORiKURAが実行している取り組みの全体像です。
例えば、私たちが今の暮らし方を続けることで起こる環境破壊が、人間に何をもたらすのかを伝える図。気候変動や大気汚染、海面上昇など、いま地球・人類が直面している喫緊の課題ばかりが並んでいます。
次に「サステナブル・アクション」と銘打った、環境負荷を低くするために身の回りから小さく実践できることも。
リユースの食器を使用、マイボトル持ち込みで値引き、食材の計り売り、生ゴミの堆肥化......これらは、実際にGiFT NORiKURAで行われていること。こうした身近な行動を店を通じて提案することで、「ごみを減らす暮らし」や「プラスチックに頼らない暮らし」を呼びかけているのです。
カフェの中で使用されている食材がどこから来ているのかも、黒板にすべて記載。
乗鞍高原で絞られたヤギミルクを使用したジェラートや、近所で採れたブルーベリーやイチゴなど地産地消を意識したり、コーヒー豆は東ティモールからフェアトレードで輸入していたり......。カフェで扱うすべての食材が、トレーサビリティに配慮したものです。
また、カフェでは何回でも使用できる木製のジェラートカップやスプーンを使用。コーヒーのテイクアウト用にステンレスボトルの貸し出しも行うなど、ゼロ・ウェイストを実現するために、できる限りのことに取り組んでいます。
GiFT NORiKURAのシンボルとも言える黒板が生まれたのは、環境省主導の「ゼロカーボンパーク」に、乗鞍高原が全国第一号として登録されたことがきっかけだったそうです。
ゼロカーボンパークとは、環境省が主導となり、国立公園から脱炭素化を目指す取り組み。登録された国立公園は、再生可能エネルギーの活用や地産地消など、訪れる国内外の人が脱炭素型の持続可能なライフスタイルを体験できる観光地です。
言い換えれば、国立公園から「ホンモノ」の脱炭素化の事例を生み出す試みとも言えます。
いわば藤江さんは乗鞍高原における「ゼロカーボンパーク」の旗振り役とも言えます。しかしなぜ、いち移住者だった藤江さんが、なぜそんな存在になったのか? 藤江さんに詳しく話を伺います。
乗鞍には、もともと「ホンモノ」のサステナブルな営みが存在した
──GiFT NORiKURAのサステナブルな取り組みは、「ゼロカーボンパーク」登録を受ける前から始まっていたのでしょうか?
藤江:はい。「地産地消」「Going Zero Waste」「売り上げの3%を地域の環境整備活動に使う」の3つのコンセプトは、GiFT NORIKURAがオープンした時から掲げています。
──GiFT NORiKURAは2019年にオープンしたと聞きました。当時はSDGsやサステナブルといった言葉の知名度も今に比べて低かったと思いますが、かなり早い段階から取り組みを始められていたんですね。
藤江:学生時代から天気が大好きで、大学では気象学や雪氷学などを専攻していたんです。そのため、ずっと気候変動には興味がありました。
その後、乗鞍高原に移住してからしばらくたち、気づいたことがあります。それは、「サステナブル」などと言葉にしなくても、地域の皆さんの生活に環境を守る意識が浸透していることです。だから、外から持ってきたものではなく、すでに乗鞍高原にある「サステナブルな取り組み」を発信できる店があれば、地域活性化につながっていくのではないか? と考えたんです。
──お店の黒板がすごく印象的だったのですが、オープン当時からあるのでしょうか?
藤江:現在の内容になったのは、2021年5月です。それまでは、普通のどこにでもある観光情報が書かれた黒板でした。今の形になったのは、乗鞍高原が環境省からゼロカーボンパーク登録を受けた時ですね。というのも、もしいまの乗鞍高原に観光客が来ても、「ゼロカーボンパークってなんだろう?」と疑問を持つんじゃないかと思ったんですよね(笑)。
──それは、「ゼロカーボンパークとは何か」がわかるものが、当時の乗鞍にはなかったから?
藤江:はい。ゼロカーボンパーク自体はすごく価値がある、いい取り組みです。だからこそ、乗鞍で行政と住民によって何が行われているのかをきちんと可視化して、発信すべきだと思ったんです。
──乗鞍では、住民の方たちはどんな生活をしているんでしょう?
藤江:地元の方は、とにかく山に入って食べ物を入手するのが得意なんです。キノコや山菜がみんな好きで、自然の恵みを受けて生活しています。だから、環境を維持することは、自分たちの生活を守ることでもある。
また、昔から木材を利用していた文化も残っています。人が森林を伐採して維持することで、雄大な景観が保たれている。だから今でもうっそうとした森にならないよう、地域住民が継続的に関わって、トレイルや登山道も含めた環境を維持する意識があります。
──まさに、暮らしのなかに環境のための活動が溶け込んでいますね。
藤江:でもなにより、この地域がみんな好きなんです。それが全てのモチベーションになっていると思いますね。
──今の話だけでも、住民の方たちの郷土愛が伝わってきますね。そもそも他の地域と比較すると、乗鞍の個性はどこにあるんでしょうか?
藤江:まずは、先ほど話したような自然と人の暮らしの共存が、縄文時代から続いていること。そして何より面白いのは、国立公園の中に人が住んでいることなんです。
実は海外のナショナルパーク(※日本における国立公園)には、ほとんど人が住んでいる場所はないんです。だからグローバルな視点で見ると、乗鞍のように人間が暮らしを営む国立公園はすごく珍しい。日本ならではの国立公園のあり方だと言えると思います。
世界的に見ても、国立公園である乗鞍には「ホンモノ」と呼べる自然が残っている。だから、そこで暮らす住民も、自然にサステナブルな生活になるのではないでしょうか。
──「国立公園に住む」......憧れる響きですね。ただその分だけ、生活するには厳しい環境、ということですよね。いくら山が好きでも、移住して心が折れることはありませんでしたか?
藤江:今のところないです。でも正直、ほとんど他の移住者は見かけません。標高1500m、最寄りのコンビニまで車で40分かかることを考えると、移住のハードルは高い場所だと思います(笑)。
でも、私にとっては求めていた世界なんですよね。人がいない分だけ、ここには静寂でノイズレスな世界が広がっている。この地域の魅力を一言で表すと、「静寂こそ売り」だと思っています。
「サステナブル」という言葉が生まれる前から乗鞍に存在した営みを伝える場所として、GiFT NORiKURAを開いた藤江さん。その店がゼロカーボンパークの旗印となったもう一人のキーマンがいます。それは、環境省の職員であり、中部山岳国立公園管理事務所・所長の森川政人さん。
ここで森川さんとZoomをつないで、乗鞍高原が、ゼロカーボンパークの全国第一号に選ばれた理由について聞いていきます
世界でゼロカーボンを本当に達成している場所は、まだ存在しない
──森川さん、よろしくお願いします。改めて、ゼロカーボンパークとはなにか教えていただけますか?
森川:乗鞍が登録されたゼロカーボンパークとは、環境省が始めた「国立公園から脱炭素化を目指すとともに、サステナブルな観光地づくりを実現する取り組み」です。
今現在、日本・世界含めてゼロカーボンを本当に達成している場所は存在しません。だからこそ、それを本気で実行する意志を持ってゼロカーボンパークの取り組みを始めました。乗鞍高原は、その最初の登録地です。
藤江:環境省の「本気」のプロジェクトだったと。でも、乗鞍高原を第一号の登録地に選んだのはなぜだったんですか?
森川:乗鞍高原では、住民の普段の生活がすでにサステナブルです。実際に「のりくら高原ミライズ」という30年先の地域ビジョンがつくられるなど、脱炭素化への動きも起きていました。だから、きちんと可視化すれば評価が集まる時代が来ていると考えたからです。藤江さんの取り組みも、発信さえすれば世の中に評価されるはずです。
あとは同時に取り組んでいる「松本高山Big Bridge構想」も含めて、世界水準の観光を実現できる資源があることも理由ですね。
──「松本高山Big Bridge構想」......。また新しい名前が出てきましたね。
森川:説明しますね。乗鞍がある中部山岳国立公園の松本市・高山市が位置するエリアで、自然・文化資源の盛り込んだ東西ルートを確立し、世界水準の国立公園、ディスティネーションにすることを目指す。それが「松本高山Big Bridge構想」です。ひいては、そのルートを中心にした観光圏形成につなげられればと思ってます。
森川:乗鞍高原だけではなく、長野県の上高地や白骨温泉、岐阜県の平湯温泉、奥飛騨エリアの新穂高岳・槍ヶ岳なども「松本高山Big Bridge構想」に含まれています。
藤江:乗鞍を含む中部山岳国立公園は、長野県松本市から岐阜県高山市を横断しているんです。長野と岐阜は県が違うので、中部山岳国立公園で何かやろうとするのは、本来であれば縦割り行政の弊害で難しい部分もある。だからこそゼロカーボンパークも、環境省が、県とは関係ない国立公園というエリア単位で推進しているんです。
森川:おっしゃる通りです。だからこそ「松本高山Big Bridge構想」でも県単位ではない、また「点」の観光ではない「エリア(面)観光」を目指しています。
この県境をまたがる横断ルートを「ビッグブリッジ」と例える。そして世界有数のサステナブルツーリズムが体験できる場所として、観光客がただ来て帰るだけでなく「1〜3週間以上滞在してこそ、ここの価値がわかるんだよ」と伝えるPRと、実際にそう思ってもらえるような、受け入れ地域との一体感のある取り組みを実施していくものです。
このプロジェクトは2021年3月に発足したばかりですが、日本国内に34カ所の国立公園がある中でも、乗鞍をはじめ、この地域をとびきり最高のエリアにしたいと思っています。
──国立公園で、サスティナビリティが学べる観光ツアーを開催すると。
森川:国立公園は、多くの観光客が来て、街にはない自然の大風景地を前に「非日常」が体験できる場所です。槍ヶ岳・乗鞍岳など3000m級の山に登ったり、温泉に入ったり、ライチョウを見たり......そういった体験の中で、『サステナブル』や『脱炭素』も感じていただく。非日常がどういったものかの視点を獲得し、日常に持ち帰っていただくことが狙いですね。
乗鞍はSDGsドミノの「爆心地」となる
──森川さんのお話で、日本の国立公園でサステナブルツーリズムを実施する意義がだんだんとわかってきました。
森川:ありがとうございます。しかし、ここまでの話の注意点として、サステナブルツーリズムが成立するには条件があると考えています。それは、観光客が「圧倒的なホンモノだ」と感じなければ意味がないということです。
「SDGs」はかなり市民権を得た反面、「流行り言葉」としても認識されています。とりあえずの見せかけでやっている、ハリボテの取り組みは観光客もわかってしまう。ハリボテだとわかってしまったら、むしろ評価が下がる。だから、この中部山岳国立公園は、「世界水準のナショナルパーク」を本気で目指しているんです。
──「圧倒的なホンモノ」でなければ、意味がない。
森川:そうです。現在、「脱炭素」というキーワードは世界中で潮流になっています。日本でも方針が検討されるなかで、その脱炭素における「ホンモノ」を決める取り組みが、ゼロカーボンパークだと考えています。
森川:つまり、脱炭素を代表するモデルエリアを「爆心地」として設定し、その一つの事例から一気に拡大するように事例をつくる。そうしなければ、日本全体の脱炭素化は進まないはず。これを私たち環境省は「脱炭素ドミノ」と呼んでいます。「爆心地」からスタートして、ドミノ倒しのように脱炭素が広がっていくイメージですね。
──なんと......。実は、この『Yahoo! JAPAN SDGs』のロゴも「ドミノ倒し」をモチーフにしているんです。「豊かな未来のきっかけを届ける」というコンセプトをドミノのモチーフに込めているのですが、かなり近いものを感じました。
森川:そうなんですね! 今回、ゼロカーボンパークの第一号に乗鞍高原が選出されました。日本国内の「脱炭素ドミノ」のスタート地点となる「爆心地」こそが乗鞍高原であり、中部山岳国立公園なんです、と言われるようになりたい......そんな風に、藤江さんはじめ乗鞍高原の皆さん、松本市の皆さんといつも話しています。
また国立公園には、海外の方からの注目も集まりやすい。乗鞍高原には、「人と自然が共存しながら暮らしている国立公園」という文脈で、世界的な観光地を目指せるポテンシャルがある。もともとあった地元住民の生活がサステナブルなので、それを可視化するだけで評価される時代が来ていると思います。
──なるほど。では、ゼロカーボンパークや「松本高山Big Bridge構想」において、藤江さんやGiFT NORiKURAは、どのような位置付けなのでしょうか?
森川:言ってしまえば、藤江さんの存在こそが「爆心地」です。
森川:なぜかというと、行政は自ら収益事業を行えないからです。たとえば、環境省はGiFT NORiKURAのようなカフェを開業できません。「こういう視点で事業をやりませんか」と呼びかけるまでが限界で、そこから先をボトムアップで実践してくれる民間事業者がいなければ、プロジェクトが進まなくなるんです。
だから環境省のような行政と、思想がマッチする民間事業者は一蓮托生の関係とも言えます。中部山岳国立公園では、まずはGiFT NORiKURAを拠点に、ビッグブリッジ内で小規模に「脱炭素ドミノ」を倒していく。このような取り組みがどんどん広がっていくよう、われわれも支援させていただくつもりです。
サステナブルツーリズムは、「選択肢」への想像力をもらたす
──森川さん、ありがとうございました。ここまでの話を受けて、藤江さんは「サステナブルツーリズム」をどのように考えているのでしょうか?
藤江:私もサステナブルツーリズムの一環でキャンプツアーを運営しているのですが、「この場所だから深く心に刺さる」ことがあると思うんです。実際に自然のアクティビティを体験して、植物や動物と触れ合うなかで、初めて「これを守らなきゃいけない」という意識が生まれる。だから「ホンモノ」を体験することが大事なんですよね。
────人間は五感で感じた「ホンモノ」の体験は捨てられない。山の体験やアルプスの風景はその人に埋め込まれて、それからの行動に影響を及ぼし続ける......ということですよね。
藤江:そうですね。だから、観光地は「ホンモノ」をきちんと知ることのできる場所であることが重要です。
もちろん観光客の中には、この店舗について前情報なしでいらっしゃる人も多いんですよ。GiFT NORiKURAではコーヒーを一杯550円で販売しているのですが、「高くないですか?」と言われることも多々あって。その際には、フェアトレードでオーガニックな豆を使用していること、地域を豊かにするために売り上げの3%を寄付していることを、その場できちんと説明します。
また、「普通のソフトクリームはないんですか?」と聞かれることもあります。そうした時も「ウチは近所のヤギから毎朝新鮮な乳を絞って、新鮮なジェラートを毎日つくって提供しているんです」と、若いスタッフたちが粘り強く丁寧に説明している。意識が高い人ばかり来るのではなく、観光地であるからこそ、こうした「異なる価値観」との触れ合いを生み出すことができるのも強みだと思っていますね。
──しかし、たとえば乗鞍高原を観光して「雷鳥を守りたい」と思っても、そのあと普通に都会の生活に戻ってしまうと、なかなか行動までつながりづらい現実もあるのではないかと。私たちはサステナブルツーリズムを経て、なにを持ち帰り、どのように自分の生活を変えていけばよいのでしょうか?
藤江:サステナブルツーリズムキャンプを運営するなかで、「日々の全ての選択に、何かを変えるチャンスがある」と気づいたんです。
たとえばスーパーでレモンひとつ買うにしても、「誰がどうつくっているのか」「なぜ今の価格になっているのか」といったことに想像力を働かせるようになれる。すると、どのレモンを買うのか、「選択」が変わるはず。
また、もし一度でも乗鞍で雷鳥を見れば、「日本の気温が1.5度上昇すると、雷鳥が絶滅する」という事実にリアリティを感じられるようになります。そこで少しでも「雷鳥を守るためにはどうすべきか?」と考えはじめると、日常にある全ての選択肢が、何かを変えるキッカケであることに気づくはずなんです。
大切なのは、「目の前の選択肢にどう想像力を働かせることができるか?」だと思います。GiFT NORiKURAでの体験を都会に持ち帰り、「この前こんなことがあってさ、ちょっとジェラートが高めだったけど美味しかったんだよね。というのも......」みたいな会話が生まれること。それが、その先でひとつのドミノが倒れるキッカケになるのだと思います。
おわりに
「その取り組みで、本当に地球温暖化は阻止できるんですか?」
SDGsという言葉を聞いて、そんな風に心の中で疑問に思う人も多いのではないでしょうか。
筆者は普段、東京で生活しています。都会で朝起きて、仕事して、ご飯を食べて寝るルーティーンを繰り返す中では、「SDGs」「サステナブル」といった言葉は、個人的にやはり遠い世界のことだと感じていました。
ビニール袋が有料になってもどうせ環境汚染は止まらないし、過剰包装されたお弁当を毎日食べる。忙しくて時間はないし、気にしている余裕もない。ほとんどの都会で働く人たちにとっては、それが本音だと思います。
また、週末に「観光」で国立公園に行って、雷鳥に感動したとしても、例えば港区のオフィスビルで過ごす日常に戻れば元通り。「結局、自分たちには何も変えられない」。だとすれば、何もしなくたって変わらないのでは?
乗鞍高原のプロジェクトが提案する「圧倒的なホンモノ」の体験には、そうした無力感を打破するヒントがあると感じました。
「圧倒的なホンモノ」の体験は、人間に埋め込まれてしまう。その後の人生すべての行動に影響を及ぼし続けるだけの力がある。だから、SDGsの取り組みでは、「それでCO2が何トン削減できるか?」ではなく、「目の前のひとりの人間の価値観をいかに揺さぶることができるか?」が大切になる。
藤江さんは、「日々の全ての選択に、変えるチャンスがある」と言います。大切なのは、私たちが目の前の選択肢に気づくかどうか。乗鞍高原のプロジェクトは、私たちに想像力の大切さを問いかける、まさにドミノの「爆心地」となるのではないでしょうか。
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取材・執筆石田哲大
Facebook: tetsuhiro.ishida
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取材長谷川琢也
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取材徳谷柿次郎
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撮影小林直博