悩みをひとりで抱えてしまう。''頼り下手''な私が日本一開かれた家族に聞いたアクション

頼るのが苦手な人は、どうすればうまく頼れるようになるのだろう?

筆者が「他者への頼り方」について知りたいのは、自分自身が「頼り下手」だから。

他者を頼らず生きていくのは困難だと理解しつつも、何かに困ったり悩んだりしていても、「頼ったら迷惑だと思われるんじゃないか」「相手に負担をかけて人間関係が変わってしまうんじゃないか」という恐怖心が先行して、結局うまく人に頼れた記憶がない。幼い頃からずっと。

昔から「人に迷惑をかけるな」という教育がされてきた日本社会では、「相手の迷惑になってしまうことが怖くて、頼りたいけど頼れない」という人が少なくないように思う。

そういったことを考えるなか、以前から気になっている存在があった。神戸市の長田区というまちに暮らす池田家だ。

「日本一開かれた家族」を目指す池田家は、保育士の経験を活かして全国で暮らしや子育てについて講演をしながら地域コミュニティの運営もする「こどもみらい探求社」共同代表の舞さんと、脚本・映像作家で舞さんの夫の浩基さん、息子のラクタくん、娘のキイちゃん、保護犬のカンタくんという家族構成。

子育てや暮らしに悩むなかで舞さんを頼って池田家を尋ねる人が多い一方、池田家自身もまた、まちの人たちをたくさん頼りながら日々を送っている。夫婦はまちの人に子どもの送り迎えを手伝ってもらったり、子どもの相手をしてもらったりと、自分たちだけで手が足りない部分はまちの人たちと協力して子育てをしているのだ。

血縁関係がなく古くからの友人でもないまちの人たちと頼り・頼られの関係性を築けていることに、筆者は純粋に心惹かれた。

そして2024年7月、ふたりが運営する長田区の下町ゲストハウス「とまりぎ」 を訪れ、舞さんと浩基さん夫妻に「池田家が実践する頼り方」を聞いた。


とまりぎの外観
とまりぎの客室

頼るのが苦手な人に必要なのは「安心できる関係性づくり」第一歩があいさつ


阪神淡路大震災から30年目を迎える神戸市の下町・長田区の風景。アーケードの下では、行き交う人があいさつを交わし、立ち話をする姿で溢れていた
駄菓子屋兼コミュニティハウスで立ち話をする舞さん

頼るための第一歩として池田ご夫婦が挙げたのは、「あいさつ」だった。


舞さん

「ついこの間も関東での講演で『あいさつの大切さ』を話したんですけど、頼り方について話すうえでもまずは『あいさつの話』をしたほうがいいのかなと思って。頼ることが苦手だと思ってる人にまず伝えたいのが、頼りあえる関係性づくりについて。これは居場所づくりと言ってもいいかもしれません。そのために必要なのが『あいさつ』。実はあいさつは互いへの理解を深め、心の安心感を高めてくれるものなんですよね。うちの子どもたちも近所のおばちゃんたちに『おはよう』とか『いってらっしゃい』とかあいさつをよくしてもらっているんですけど、それによって『自分はここにいてもいい存在なんだ』って私自身も思えるし、それが頼りやすさにもつながっていると思っています」

浩基さん

「頼るのが苦手な人がいきなり自分が本当に望むことを伝えるのって精神的なハードルが高いから、まずは心の安心感をつくることが大切で、その一歩目があいさつということなんですけど。ただあいさつを繰り返すだけじゃなくて、あいさつに『プラスアルファで何か添える』ことができるととてもいいんです。最初は『天気がいいですね』みたいな簡単なことでよくて、次第に相手のことがわかっていったらアイスをちょっと差し入れしてみるとかやってみてもいい。すると今度は相手から、何か気にしてもらったり、何かもらったりするということが起こるんですよね。そういう小さなギブ&テイクをキャッチボールみたいに繰り返していくうちに、そのギブ&テイクと頼り・頼られるということとの境目がどんどん曖昧になっていって、頼りあえる関係性ができていくんだと思います」

とまりぎの案内用紙にも、「家の前では町の人に挨拶を。」というお願いが書かれており、ふたりがどれほどあいさつを重んじているかが伝わってきた。


頼るときは「具体的かつサッパリ」頼る

"あいさつプラスアルファのキャッチボール"によって頼りやすい関係性がつくれたら、実際に頼るときには何を意識して、どういう言葉や態度で頼ればいいのだろうか。

舞さんの「頼り方の特徴」について、浩基さんは「具体的かつサッパリ」と挙げる。


浩基さん

「舞が人に頼っているのを見ていて思うのは、まず頼りたいことを明確に伝えているということ。子どものことで手伝ってもらいたいことがあったら、『◯月◯日の何時は空いているか』『その時間に何をしてもらいたいか』『必要なものは◯◯と◯◯』のように具体的に伝える。それによって相手がYES・NOで回答しやすくなっているように感じます。そして断られたとしても、相手に過度に気を遣いすぎたりせず、『オッケー、また今度ご飯行こうね』くらいでその話題を終わらせて、別の人に頼るという思考に切り替える。それによって相手の気持ちの負担も軽くなるし、舞自身も次の選択肢に移りやすくなっているんだろうなと思うんです」

池田家がよく遊びにくるという、介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」入り口

舞さんとしては、頼ることが苦手な人には「最初に『聞くこと』から始めてみるのがいい」という。


舞さん

「『頼る』って何を指すんでしょうね。きっとその言葉の捉え方って人それぞれで、人によっては『自分は何かが欠けていてダメな人間だから、誰かに頼らないといけないんだ』という思考が裏側に潜んでいるような気がしています。そう考えてしまうことはその人自身のせいではないけれど、それによって頼ることのハードルが上がってしまってはもったいない。頼ることが重たく感じてしまう人は、まず『聞く』ことから始めてみたらいいと思うんです。『この日のこの時間帯、空いてる?』と。私はまずそこから会話を始め、『空いてるよ』という返事がもらえたら具体的な話をするようにしています」

「頼る」を「聞く」に変換する。言葉の捉え方を変えるだけで心が軽くなり、相手に投げかける言葉も自然と迷いないものに変わるかもしれない。


お好み焼き屋「よし駒」でのランチ。店員さんも交えて、談笑する舞さん

頼ることで強いチームをつくる仲間を見て、「頼っていいんだ」と思えるように


とまりぎを訪れる人たちに舞さんがまち案内をしたり、浩基さんが料理を振る舞ったり、夫婦で悩み相談に乗ったりなど頼られる存在である一方、池田家自身も出張中はご近所さんにゴミ出しをお願いしたり、出張先の地域で暮らす友人のママに子どもの面倒を見てもらったりなど頼り上手でもある。だが舞さんは以前は、頼ることが苦手だった。


舞さん

「ふり返ってみると、子どもの頃から学級委員長などリーダー的な役割を担当することが多くて、仕事でも子育てでも、何もかもを自分でやらないといけないと思っていた節があったなと思います。頼ることが苦手な人って、責任感が強かったり物事を完璧にやり遂げたいと思っている真面目なタイプが多いような気がします。そんな私が変わった大きなきっかけが、こどもみらい探求社を一緒に立ち上げた共同代表の小竹めぐみこと"めぐちゃん"の存在でした」

舞さんは小竹さんからどんな影響を受けたのだろうか。


舞さん

「2010年にめぐちゃんと一緒にこどもみらい探求社の前身となる団体を2人で立ち上げました。めぐちゃんは私とは正反対で、『自分はこれが苦手です』とはっきり言えるタイプ。自分の弱みを隠すことなく、むしろ見せていく。それによって強固な関係性ができているのを見て、『こういうチームのつくり方もあるんだ!』と衝撃を受けたんですよね。めぐちゃんの、頼ったあとに自分のスキルで全力でお返しをしている姿も印象的でした」

2012年、舞さんは遊びを通して親子で繋がれるコミュニティ「asobi基地」を設立。


舞さん

「そこでは自然体のままでいることを心がけました。自分の中では実験のような気持ちで、できないことはできない、苦手なことは得意な人に任せるというスタンスでいることにしたんです。当たり前だけどそっちのほうが単純に仕事のスピードも速いしクオリティも高い。それに、周りの人たちもありのままの自分を受け入れてくれたり共感してくれる人たちだから、asobi基地が私自身の安全基地になっていったんです」

舞さんにとってはこの経験が「困ったら聞くこと」の成功体験となり、他者に頼れる自分に変わっていったという。


「頼る」ことから暮らしが楽しくなっていく


頼る=相手への負担というふうなネガティブな固定観念から抜けられない人にほど、「互いにメリットがあることなんだと伝えたい」と舞さんはいう。


舞さん

「私自身が誰かから頼られてよく思うことですが、頼られることによってその人自身の考えが整理されたりもするんです。つい最近も仕事のことでいろいろと棚卸しをしたくて大分に住んでいる友人に電話をして、『1時間くらい話を聞いてもらえる?』って頼んだんですよね。彼女は私と同じようなことに興味関心があってバックグラウンドも似ていたというのもあってか、話し終わったあと『おかげで私も自分の考えが整理された』と言ってくれたんですよ」

さらに、「頼ること」を通して世界が広がり暮らしが楽しくなる側面もあると続ける。

舞さん

「近所に暮らしている20代のアーティスト・カメラマンの"ぺぺ"に子どもと遊んでもらうのですが、彼の感性がとっても好きで、一緒に遊んでもらいたい!と思ったんです。すごく料理が上手な先輩ママには、よくご飯の差し入れをしてもらっています。ぺぺとこんなことをしたよ!○○さんのおにぎり、おいしい!と息子が教えてくれるのですが、頼ることを通じて私も子どもも新しい世界に出会えている。『いざ、頼り先を探そう』と気構えるんじゃなくて、自分自身が好きだなと思えることから頼り先を考えてみると、頼ることが少し楽しみなものに変わるかもしれません!」

この取材の撮影を担当してくれたぺぺさんにも話を聞くと、「変な話かもしれないですけど、池田家に頼られることが多い中で、『逆に自分からも頼らないと申し訳ないんじゃないか』という気持ちが出てきました。僕は頼ることがすごく苦手なタイプだけど、何か困ったときは池田家に言おうって思っています」という答えが返ってきた。

自分から進んで頼っていくことで、相手が頼りやすくなる状況をつくれるということだ。


また、「安心感があるから頼れる」という側面がある一方、「頼り・頼られることの積み重ねによって未来への安心感を高めていく」こともできる。


浩基さん

「息子が3歳のときに『死』について質問してきたことがあったんです。その会話の中で僕が、『パパもママもいつか死んじゃうことが悲しい?』と聞いたら、息子は『〇〇も〇〇もおるから悲しくない。大丈夫やで』ってまちの人たちの名前を挙げながら言ったんですよ。そういった圧倒的な安心感を持てるのは、日頃から僕らがまちの人たちと頼り・頼られるということを重ねているのを見て、自分がその中に加わっていることを無意識にでもわかっているからだと思いました」

ラクタくんの友だちは、年齢的にお母さんと一緒に女湯に入ることができないため、浩基さんとラクタくんと一緒に男湯に入っており、自然と頼り頼られという現象が起きていた

なぜ今、まちの人たちとの「頼りあえる関係性づくり」が必要か


池田家と一緒に過ごした2日間を経て自分の暮らすまちに戻ってから、筆者は実際に「頼る」を「聞く」に変換して、友人に悩み相談をしてみた。

「夜の時間、30分だけ電話で話聞いてもらってもいい?」

電話の最後、友人から「私もいい時間になったよ」と言われ、電話中に少し感じていた申し訳なさがなくなり、私にとって頼ることへのハードルが少し下がった。「頼ること」の小さな成功体験ができた気がした。

とはいえ、友人が私の何もかもを解決してくれるわけではないから、池田家のように頼る人を固定化せず、もっとまわりの人たちと柔軟に頼りあえる関係性をつくっていきたいと思っている。頼る人を固定化せずに広げていくことの重要性は、舞さんも取材の最後に念を押しながら伝えてくれたことだ。

「親や兄弟が近くに住んでいるから、まちの人たちと関係性を築かなくていいという考え方もあると思います。ですが、もしも家族が病気で倒れたとき、あるいは、どうしても都合がつかないときにやっぱり困ってしまう。一昔前までは回覧板や連絡網など、アナログな仕組みが自然と地域住民同士をつないでくれていたけれど、それらがなくなりつつある現代だからこそ、意識的にまちの人たちとつながろうとするアクションを起こしていくことがより重要になっていると感じますし、それが日々の心の安心感につながると思うんです」

「あいさつ」をはじめとしたコミュニケーションを通じて、一人ひとりが自分の半径1キロ程度の生活圏を頼りやすい環境に変えていくことができれば、頼り下手な人はもちろん頼り上手な人にとっても、今よりもっと生きやすい社会に近づいていくかもしれない。


\ さっそくアクションしよう /

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