お金を燃やす世界から、''ごみ''という言葉のない世界へ。マシンガンズ・滝沢秀一
「大崎町には、ずっと来たかったんです。今日をすごく楽しみにしていました!」
漫才コンビ「マシンガンズ」として活動し、2023年の「THE SECOND 〜漫才トーナメント〜」での準優勝でも話題となった滝沢秀一さん。漫才師として活躍しながら、ごみ収集員の仕事を続けています。
ご自身のSNSはもちろん、Voicy「滝沢ごみラジオ」や著書『ゴミ清掃員の日常』などのさまざまなメディアで、分別に困った物やごみを減らす工夫、廃棄物削減に取り組む自治体の紹介など、多方面から情報発信を続けています。
そんな滝沢さんが長年注目していたという鹿児島県大崎町(おおさきちょう)は、リサイクル率日本一を15回達成している日本で唯一の自治体。人口約12,000人のごみの、80パーセント以上が再資源化されています。日本全体のリサイクル率は約20パーセント。その数字を見れば、資源化率の高さは明らかです。
「日本のすべての自治体が、大崎町みたいになるべき」
「ごみに関する問題を知ってもらうためには、同じことを同じ強さで何度も伝えることが重要」
「大崎町の方々と一緒に、"ごみ"という言葉を無くしたい」
そんな滝沢さんの思いと重なる、リサイクル率日本一の町の仕組みは、どのように実践されているのか。
今回、初めて大崎町を訪れた滝沢さんと共に、仕組みの中核を担う施設を訪問しました。
リサイクル率日本一の仕組みを見てみよう
まず向かったのは、埋立処分場。大崎町の分別・リサイクルが始まった、きっかけとなる場所です。
かつては、あらゆるごみが埋立処分場に持ち込まれ、リサイクル率は0パーセントも同然だった大崎町。そのため、処分場の使用計画年数を大幅に見直さなければならず、地域の人々は処分場の延命化を迫られました。
維持費を考慮し、焼却炉を持たない決断をした大崎町は、1998年から分別を開始。埋立ごみを極力減らせるよう資源化を進めた結果、2005年に初めてリサイクル率日本一を達成。現在は、ごみを28品目に分別しています。
参考:「経費が浮いて、雇用も生まれた」リサイクル率日本一の町の軌跡
サストモ編集部
次に向かったのは、大崎有機工場。大崎町では2004年に有機物(生ごみや庭で剪定された草木)を埋立処分場に持ち込むのを全面禁止。以降、すべて回収して堆肥化しています。
「埋立処分場でも悪臭がしなかったのは、生ごみの分別を徹底しているからですね」と滝沢さんも納得されていました。
その後、うかがったのは「そおリサイクルセンター」。住民の方々が分別した資源ごみを、さらに40種類ほどに分けて、それぞれの専門業者へ届ける中間処理施設です。
最後は、こうした大崎町の仕組みを町外の方が体験できる施設として、2024年4月に新しくオープンした体験型宿泊施設「circular village hostel GURURI」へ。
リサイクルの仕組みを他の自治体の参考にしようと、日本だけでなく海外からの視察や研修も受け入れている大崎町。分別の手順を体験するとともに、どのような工夫や仕掛けが、より環境負荷をかけないのか宿泊者の方々と一緒に学ぶ施設としてオープンしました。
参照:体験型宿泊施設「circular village hostel GURURI」がプレオープン!2024年4月から本オープン、体験を充実させ一般のお客様宿泊も可能に。
外部サイト
炎天下の中、常にカメラを構え、リサイクルの仕組みに関する説明に耳を傾けていた滝沢さん。
現地に行くからこそ見えてきた大崎町の実態や課題を交えながら、日本の廃棄物処理の未来を滝沢さんと一緒に考えます。
1000回伝えても足りない、ごみの話
── 改めて、大崎町のリサイクルの仕組みを生で見られた感想を教えてください。
滝沢
僕は今まで2回ほど最終処分場へ行ったことがありますが、そこで処理されている物のほとんどは焼却灰です。大崎町には焼却炉がないから、埋立処分場には、いわゆる不燃ごみが、形が残ったまま埋められていますよね。こういう風景はあんまり見たことがないです。だから、すごい衝撃を受けたというか......。
靴やカップラーメンのごみなんかがあって、これだけ分別を徹底してる大崎町でも、やっぱり間違えてしまう人がいるんだということも驚きでした。
── 高齢化や世代交代などもあり、そもそも分別を始めた背景を知らない住民の方々も増えているようです。
滝沢
僕は外から見ている立場だから、大崎町に住む皆さんが全員、リサイクルの意義を理解しているのかなと思っていいました。
でも見学先の埋立処分場へ向かっている最中、地元の方と話す機会があったとき「今日はこれから焼却炉に見学に行くんですか」って聞かれて。まだまだ知らない方もいるんだなって実感しましたね。
滝沢
周知活動の一番大事なことは、同じことを同じ強さでずっと伝え続けることだと思っています。環境問題に詳しい人たちの中には、たまに強い言葉を使ったり、怒ったりしている人もいます。そういう人たちの多くは、周りが自分たちと同じ情報を知っている前提で話しているような気がします。だから「なんで分からないんだ」と憤る。
でも、強い言葉を使ったり怒ったりすると、環境問題について関心がない人たちにとっては「あの人たち、怖い」という印象になって、ますます関心が薄れてしまうと思います。だから、どんな人でも、子どもでも分かるように、ていねいに伝えることが大事ですよね。
── 大崎町がリサイクルを始める際に、住民の方々向けに450回説明会をした*というエピソードと通じるところがありますね。
滝沢
僕が住んでいる地域だと、油がついたダンボールの箱は、ダンボールではなく可燃ごみとして出さなければなりません。だからSNSで何度も「可燃ごみで出してね」と投稿しています。すでに20回以上は投稿しているんじゃないかな。でも、10回目で急にバズることがある。投稿するたびに毎回「可燃ごみだとは知りませんでした」という人が現れる。同じことでも、何度も言わなきゃいけないんだろうなと感じます。
滝沢
僕のSNSをフォローしてくれる人やファンの人は「何度同じことを言うんだろう」と思うかもしれません。でも、知らない人は、まだまだいるんです。だから、同じことを言う行為をおろそかにしてはいけない。すでに伝えたことを「みんな知っている」という前提にしてはいけないと思います。
── くじけそうになることはありませんか。
滝沢
僕は漫才師だから、同じネタをやったり同じことを繰り返したりするのは、本当は恥ずかしいんですよ。でも例えばコントなら同じことを、新鮮味を持たせて何度もやります。志村けんさんのコントも、同じことを何度もやるけど、いつ見てもおもしろいですよね。
滝沢
ダンボールの分別だけでなく、日本の最終処分場の残余年数が約20年しかないという事実は、もう1,000回以上言っています(笑)。でも毎回「これ、知ってました?!」というノリで伝えます。ごみについて話すのは、芸の一つだと思っていますね。
ただ、どんなことを伝えるにしろ、基本的には自分がびっくりした正直な気持ちを忘れないことが大事だと思います。僕も最初は、ごみをどうやって分別すればいいのか、どうやって処理されているのか、何も知りませんでしたから。初心を忘れないのは大事だと思います。
分別が当たり前ではない価値観と、どう向き合う?
滝沢
過去、大崎町で何度も分別をする意味を住民の方々に説明をしてきて、何度もリサイクル率日本一になったけど、新たに海外の方も入ってくるわけですよね。
── 大崎町では技能実習生なども含め、人口の約4パーセントが海外の方だそうです。
滝沢
そしたら、30年前と同じように、また説明会をしたり分別のことを理解してもらったりしなければいけないですよね。しかも、日本語以外で。
滝沢
僕が東京でごみ回収をしていても、海外の人たちの文化の違いを感じます。例えばシェアハウスのような住まいのごみを見ると、分別されていなくて全部ごちゃごちゃ。おそらく分別するという習慣がないし、誰からも教えてもらっていないだろうから、当然ですよね。
── 海外からの移住者も増えている今、分別に対する意識や文化の違いは、ますます多くの地域で問題になりそうです。
滝沢
僕、一つアイディアがあるんですけど。日本に来る飛行機の中で、非常事態時の脱出方法の説明と合わせて「日本ではごみを分別しましょう」ってアナウンスしたらどうかなって。
── 面白いアイデアですね!
滝沢
ごみって、生活する上で絶対トラブルの元になりますよね。それにほとんどの人が飛行機で日本に来るだろうから、事前に分別のことについて知ってもらえるいい機会だと思います。
── 海外の人だけでなく高齢化で分別がむずかしい方も増えているのが、大崎町では課題になっているようです。
滝沢
それは、僕も感じます。都内の団地でごみ収集をしていると、きちんとペットボトルのラベルを剥がしてくれていた人たちが、ある日突然、剥がしてくれなくなることがあります。最初は「どうしてだろう」と疑問でしたが、団地に住んでいるおじいちゃんやおばあちゃんが、力が入らなかったり認知症になったりして、だんだん分別できなくなってくるんですよね。
だから、一軒ずつ家を回ってごみを回収する、ふれあい回収のような仕組みが必要だなと思います。地域によっては予算がなくて、個別回収できないところもあります。でも都会はもちろん限界集落にも独り身の高齢者が住んでいることも多い。粗大ごみを出すのを手伝ったり、分別の仕方を教えたり、ただ話し相手になったりするだけでも重要。地域の見守り機能にもなるし、そういうところに予算を回すべきだと思います。
── ごみ処理の仕組みと自治体の規模や予算の使い方は、本来は密接に関わっていますが、住んでいる人たちはなかなかイメージしづらい気もします。
滝沢
いろんな地域に行く中で感じるのは、多くの自治体が気にしているのはごみの排出量と予算だということです。ごみ回収に関わって働いてる人がどうやって生きているかとか、どう感じているかということまで、想像されていないんだなと思います。
東京では、ごみの排出量が減ると人件費が減らされる。「ごみの量がこれくらいなら、今の人数を雇わなくていいだろう」と思われる。これが一番の問題なんです。
── 他の地域が大崎町から学べることは具体的に何があると思いますか。
滝沢
大崎町は、ごみ処理経費で浮いた分を奨学金にして教育に役立てたり、リサイクルの仕組みを担う人たちを雇ったりしている。素晴らしいですよね。浮いたお金が人件費に回るシステムも含めて、ごみに関して、僕はすべての自治体が大崎町のようになるべきだと思ってます。
焼却炉はお金を燃やしているようなもの
滝沢
日本の多くの自治体は焼却炉を持っていますが、焼却炉は構造上、ごみを燃やし続けなければなりません。でも高齢化で集まるごみの量も減っていくだろうし、焼却炉自体が使い始めて7、8年経ったら更新するかどうかを考え始めなければならない。使わなければ、焼却炉自体がいずれごみになります。新しく作るにも維持するにも多額の税金が必要。ごみを燃やす行為は、つまりお金を燃やしていることと同じだと思います。二酸化炭素も排出していますしね。
衛生的なものや災害ごみなど、どうしても燃やして処理しなければならないごみもあるけど、日本の人口現象とともに税収も減るから、ちょっとずつ焼却炉は減らしていかなければいけないと思います。
── 焼却炉がある他の自治体では燃やして処理している紙おむつを、大崎町ではリサイクルしていますよね。2024年からは、紙おむつもリサイクルできるものとして28個目の分別品目に加わりましたが、この取り組みについて滝沢さんはどう考えられていますか。
滝沢
すごいことだと思います。大崎町の埋立処分場に持ち込まれる約20パーセントが紙おむつだと聞きましたが、リサイクルされれば20パーセントごみが減るということですから。
日本の紙おむつは性能がいいから、海外の人がたくさん買ったり日本から輸出したりしています。その先の国では焼却炉がない所も多いから、結果的に埋め立てられている。紙おむつのリサイクルが当たり前になったら、だいぶ世界のごみが減ると思います。
"ごみ"という言葉をなくしたい
── 大崎町のここが変わるともっと画期的だと思う部分は、ありますか?
滝沢
そうですね......僕が大崎町の方々に言うのも大変おこがましいんですが、資源ごみの'ごみ'という言葉をぜひ取ってほしいなって思うんです。
滝沢
僕のテーマは、ごみという言葉を世の中からなくすことです。言葉は、人の心を変えられる力がある。僕が漫才をしたり小説や本を書いたりする中で、いつも感じていることです。
ごみ集積所とごみ箱は、そもそも違うものですよね。でも、ごみという言葉が付いているからか、ごみ回収をしていると、ふたつの違いが分からない人もいるんだなと感じることがあります。みんなで使うごみ集積所を、自分の家のごみ箱だと認識しているような、適当な捨て方をしている人がいるんですね。一方で、僕が住んでいる地域では資源ごみと言うと「ごみじゃないだろ、資源だろ」と怒られることもあります。
滝沢
プラスチックや金属は、資源として分別すれば、ごみではないですよね、最終処分場に行くものだけをごみと呼ぶなら、大崎町ではすでに80%以上をリサイクルしているわけだから、ごみが20%くらいしかないということになります。
自分たちで「このままごみを捨て続けたら、どうなってしまうんだろう」と考えて、リサイクルを始めた背景があるからだと思いますが、大崎町の人たちがごみのことを話すときは、血が通っている感じがします。だから僕は皆さんと一緒に、ごみという言葉をなくしていきたいんです。
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取材・執筆 立花実咲
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note: misakichie19
撮影中村一平
編集友光だんご
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