「経費が浮いて、雇用も生まれた」リサイクル率日本一の町の軌跡
ペットボトルやラップ、スーパーの袋など、私たちの身の回りに溢れるプラスチック製品。
それらは便利で、暮らしやすい生活の手助けをしてくれます。しかし、一方で廃棄物として世界の海を汚染していることを知っていますか?
現在、海の上に存在しているプラスチックごみは、約1億5,000万トン。加えて、世界全体で年間800万トンのごみが新たに流入していると推計されています。
増加するプラスチックごみ問題に対応するべく、ヨーロッパでは2019年3月に、ストローや綿棒などの使い捨てプラスチックの使用を禁止する法案が正式に可決。
また日本でも、環境省が、プラスチック製品を紙やバイオマスプラスチック等の代替素材に切り替えるよう後押しする補助金事業を始めています。しかし、一方で多くの自治体を悩ませるのが、リサイクル事業を進めるコストです。施設の建設費のみに留まらず、設備の維持費や人件費など想定できるだけでも数多くの支出が発生します。
そして2019年3月に環境省が出した調査結果によると、現在ごみの処理にかかる経費はおよそ2兆円。少なくない金額の税金がごみの処理に使われる現状は、地球規模の環境問題だけでなく、私たちの生活にも大きく影響しています。
こうした時勢の中で、いま注目されているのが鹿児島県にある大崎町。
人口1.3万人程度の小さな町は、リサイクル率12年連続全国1位。27品目の分別を行なった結果、全国平均の約20%に対して、大崎町の現在のリサイクル率は約82%です。
その結果、大崎町における1人当たりのごみの処理事業費は全国の自治体平均の約半分の金額。さらに資源ごみを売却して得た利益を町民に還元しているとか......。
なぜ大崎町はこれほどまでにリサイクル率を高めることができたのか?
そこにはどのような取り組みがあったのか?
利益を町民に還元ってどういうこと?
そんな疑問を抱く私たちに、今回お話してくれたのは大崎町役場職員の松元昭二さん。
20年前から始まった大崎町のリサイクル事業を前任者から引き継ぎ、現在、この事業の中心メンバーとして現場の最前線で活躍している人です。
そんな彼は「大崎町が行う取り組みの話をする前に、まずは見て欲しい場所があるんです」と、谷底に広がる見通しの良い場所へと連れ立ってくれました。
リサイクルの町、はじまりの場所
── ここは?
大崎町がリサイクルを始めるきっかけとなった場所です。
── めちゃくちゃ広いですね。一体なにをしている場所なんでしょうか?
大崎町と今の志布志市(旧有明町・志布志町)が運営している、ごみの埋立処分場になります。
── ごみの処分場。その割には臭いが全然しないですね。
そうですね。大崎町がごみの分別を始める20年前までは、見学に訪れられるような施設ではありませんでした。洋服には臭いが付いてしまうし、当時はカラスとハエの大群が群がっているような状態で。
── 悪質な環境を改善するために、ごみの分別が始められたということですか?
もちろん住民の環境を配慮した側面もありますが、それだけではありません。むしろ私たちの一番の大きな目的は、この埋立処分場の延命化でした。
── 延命化? どういうことでしょう?
かつて大崎町はごみの分別をしていなかったため、生ごみもプラスチックも空き缶もすべてこの場所に埋め立てられていました。人口はそう多い町でもありませんが、すべてのごみを持ち込んでいますから、当然あっという間に土地は埋まっていきますよね。
結果として、当初計画していた年数よりも早く埋まってしまうことがわかりました。当時の埋立処分場はとてもひどい環境でしたから、新しく場所を作るとしても住民の方々の理解を得られないことは容易に予測できました。そのため「ごみを減量化するしかない」という状況だったんです。
ちょうどその頃、「容器包装リサイクル法」という法律が施行されて、日本国内にもごみの分別という流れが起き始めていました。もし、ごみを分別し、リサイクルすることができれば、ここに運び込まれるごみの量も減る可能性が高い、ということで大崎町のリサイクル活動が始まったんです。
「燃やすごみ」がない町・大崎
── 大崎町はそもそもごみが多かったってことですか?
他の地域には一般的に、焼却炉があります。でも大崎町には焼却炉がないため、ごみの減量化ができないんです。つまり「燃やすごみ」がない。そのため排出されたごみがすべてこの場所に運び込まれます。
── 「燃やすごみ」という概念自体がない!
はい。生ごみは固有の施設で堆肥化されますので、資源ごみと粗大ごみを除いたものを一般ごみという名称で呼んでいます。現在ここに運び込まれているのは、その一般ごみだけですね。
── しかし、なぜ焼却炉を作らなかったのでしょうか? 多くの都市がその方法を用いているように、選択肢としては容易に感じますが。
おっしゃる通り、選択肢の一つとしてはありました。しかし、ここで問題となったのが建設費と維持費です。
大崎町の人口から見ると、建設コストは30~40億円。国の補助があるため、どうにかなるだろうと考えられていましたが、問題となったのは維持管理費のコスト。
それが、当時廃棄物処理にかかっていた金額の1.5倍だったんです。ただでさえ建設に大きなコストがかかるのに、加えて維持管理費がかさむとなると、将来の世代への負担が大きくなる。だから、その選択肢を諦めたんです。
── 現状のコストはどれくらいなのでしょうか?
分別をはじめる前のごみ処理経費とさほど変わりません。なので、結果的に焼却炉を作るよりもかなり安くできたわけですね。
理由としては、この埋め立て処理場に持ち込まれるごみの量が減ったため、重機や場所の管理にかかる人件費が大幅に削減となったんです。そこの費用をリサイクルの委託費用に回している形となります。
1人当たりのごみ処理事業経費を計算した場合だと、全国平均のおよそ半分ほどです。
── ごみの排出量がほぼ変わらないのに、事業経費が半分というのはすごいですね。
はい。その上資源ごみは売り物になるので、利益が発生します。そのお金は住民のみなさんに還元したり、大崎町独自の奨学金制度に回しているんですよ。
さらに委託をしているリサイクルセンターでは40人程度の雇用が生まれています。人口1万3千人規模の大崎町においては、これも大きな貢献となっています。
他と比較するからめんどくさくなってしまう
── 先ほどの話の続きなのですが。リサイクルによって、大きな利益を生み出すまでになっているとは驚きでした。ただ、ごみの分別を徹底することは、住民の負担はかなり大きいのではないでしょうか。
現在、大崎町ではごみの分別が27品目あります。当初はやはり大変という声もありましたが、最近ではほとんどの住民にとって分別が当たり前になってきています。
実際、分別項目自体は多いのですが、毎日27項目に分別しているわけではありません。例えば、電池や蛍光灯などは毎月出るようなものではありませんので、自宅で一時保管しておいて、量が溜まったら月に1度資源ごみ会場で仕分けをするだけです。
── 慣れるまで大変そうですね。住民の方のモチベーションは下がったりしないのでしょうか。
国からの表彰を受けたりもしていますので、その辺りがモチベーションになっているかもしれません。ただ、一番大きいのはこのリサイクル事業が行政主導のものではないということですね。
── えっ、どういうことですか?
この取り組みを主体として行なっているのは大崎町役場ではなく、住民が自ら立ち上げた大崎町独自の衛生自治会という組織です。実際に国からの表彰を受けた際にも彼らが受賞しています。
大崎町の仕組みとしては、ごみのステーションごとに自治会を編成して、住民が各自治会に登録をしないとごみを捨てられないようになっているんですね。そして、それぞれの自治会が各自ルールを設けています。
── 住民の方がかなり主体的に取り組んでいるのですね。
そうですね。ごみ処理場という行政の問題を、住民が自分の身近の問題に置き換えてくれたからだと考えています。
実際、埋立処理場のキャパ不足が問題になった時に、「焼却炉の建設か、新たな埋立処理場の建設か、埋立場の延命化を図るためにリサイクルをするか」という3つの選択肢を示した時に時に、リサイクルに取り組むという大きな選択をしたのが、衛生自治会でした。
また、ごみの分別をはじめる際には、指導する役場の職員側もリサイクルに対しての知識が必要であることから、職員全員が徹底的に研修を行ないました。
そして、住民に対して分別に関する説明会を開始前の3~4カ月間で約450回実施したそうです。当時の担当者の話では、役場側から日時を指定するのではなく、住民側の予定を聞きながら適宜説明会を進めたのだと。
── 3カ月で450回! お互いにそれだけの熱量があったからこそ、これだけ面倒なことも続けられるのですね。
もちろんその側面もありますが、そもそも他の自治体やこれまでの時代と比較するからめんどくさくなるのではないでしょうか。実際にいま、大崎町に住んでいる小・中学生はごみの分別は当たり前のことだと認識しています。
だから今の中学生たちが大きくなり、日本全国でごみの分別の徹底が当たり前のことになれば、めんどくさいと言い出す人は徐々に減ってくるように思います。
世界の海を守る大崎町の取り組み
── なるほど。これが当たり前となれば、環境問題的にも大きな前進となりますね。
はい。地球全体の環境問題という側面では、現在、大崎町としてインドネシアのごみ問題に取り組んでいます。というのも、現在インドネシアは中国に次いで、世界で2番目に海洋プラスチックごみを生み出している国なんですね(※1)。
※1 海洋プラスチックごみに関する状況 環境省(平成31年2月)より
また国としても焼却炉を作る事ができる経済環境ではなく、埋立処分場の逼迫(ひっぱく)がすごいという点で、大崎町と近似性が高い。そのため、この20年のリサイクル事業で得たノウハウを生かし、彼らとともにインドネシア国内の廃棄物問題の解決に勤しんでいます。
たとえば、インドネシアで最もごみの環境がひどいとされていたデポック市において、廃棄物の減量化および環境教育を支援する「草の根技術協力事業」を、平成24年からの3年間行いました。
またデポック市の支援が評価された結果、バリ州や首都ジャカルタ州でも支援を進めています。将来的には、ジャカルタに50個、バリには20個の中間処理施設(※2)が必要となる計算なので、その支援まで必要であることから尽力したいところですね。
※2 中間処理施設:廃棄物を最終処分場に送る前に処理する施設のこと。
参考:プラスチック・スマート インドネシア共和国におけるごみ減量化の取組み(大崎システム技術移転プロジェクト)
── 自治体として、国際的にも活動をしているのですね。では大崎町自体におけるこれからのビジョンというものはあるのでしょうか?
現状、大崎町のリサイクル率は82%ですから、18%が埋め立てられている試算です。その埋め立てられているごみを分類していくと、まずその約1/3が紙オムツなんですね。
ただ紙オムツに関しては、志布志市と大崎町、そして紙オムツメーカーのユニ・チャーム株式会社で協力して、再生オムツを作るプロジェクトの実証実験をしている状況です。
あと1/3に関しては、ゴム製品や肌着、ガラスなどの正式な一般ごみなのですが、残りの1/3に関しては本来資源化できるプラスチックごみがきちんと分別されずに混入したものなんですね。
こうした間違いごみを減らすように徹底することは重要なのですが、さらに現状の一般ごみに関しても、まだ減らせる余地があるんですよ。
── え、まだ減らせるんですか?
はい。一般ごみに含まれるティッシュや肌着は、圧縮してプラスチック成分を混ぜることでRPFという固形燃料にすることができます。こちらに関しても再利用が可能か実証実験を行なっている最中です。
これらの試算がうまくいけば、94%くらいのリサイクル率になるかもしれないですね。
── 94%! ほぼごみが発生しない状況になるのですね。
はい。ただ私たちは、リサイクル率を高めるのが目的ではありません。埋立処分場の延命化を図り、未来の世代がよりよく住めるような状況を目指しているだけなんです。そんな我々の取り組みを見て、全国各地から力を貸してくださる方も増えました。
だからこそ、大崎町という地域の取り組みだけで終わらせず、日本全国、そして世界中にこの流れを持ち込めるように邁進していきたいですね。
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