トーキョー・タナカやTOSHI-LOWが語る著名アーティストが被災地にできること。「感じて、動く」から広がる、能登復興支援の輪

能登半島地震から約1年4カ月となる、2025年5月10日。
能登支援ライブイベント「GAPPA ROCKS ISHIKAWA」が、金沢市で開催されました。

能登を想う16組のアーティストが出演し、会場には能登半島の飲食店や物産店、支援団体のブースが出店。
翌日には七尾市でアフターボランティアも開催され、出演者と音楽ファンが一緒になって搬出や解体作業、地域コミュニティ再生に向けたワークショップをし、継続的な支援への想いを強めました。
能登の現状は、いまだ厳しいままです。
道路の寸断やライフラインの不通、自宅に帰れない人が少なくないという状況も含め、復旧作業が完了していない地域が点在しています。復旧には多くの人手が必要ですが、地震発生直後に「来訪自粛」が呼びかけられたことが影響し、ボランティアの数も著しく不足したまま。
そうした現状から前進するべく開催されたのが、GAPPA ROCKS ISHIKAWAでした。

発起人は、MAN WITH A MISSIONのTokyo Tanaka(トーキョー・タナカ)さん。
#サポウィズを前身とする全国災害支援プロジェクト「CONNECT(#コネクト)」を通じて、全国の音楽ファンから集まった支援の輪を被災地につなぎ続けるトーキョー・タナカさんが本イベントを企画した背景には、「能登にはまだまだ支援が必要だと知ってもらいたい」という強い想いがあります。
現地に足を運んで継続的な支援活動をするのは、出演者の一人であるBRAHMAN・TOSHI-LOWさんも同じ。
NPO法人「幡ヶ谷再生大学 復興再生部」代表として、東日本大震災や熊本地震でも発生直後から迅速な支援に動いてきたTOSHI-LOWさんは、「今まで関わったほかの被災地と比べると、能登はダントツで、忘れ去られようとしている」という深い危機感を抱いています。
ともに、音楽シーンの最前線を走り続けるアーティスト。なぜ、ここまで率先して継続的な支援活動をするのか──。
イベントの前々日、災害NGO結の前原土武さんもお迎えして、音楽でつながる復興支援をテーマにお話を聞きました。

GAPPA ROCKS ISHIKAWAに込めた「能登にはまだ支援が必要と発信したい」想い

── なぜ、GAPPA ROCKS ISHIKAWAをやろうと思ったのでしょうか?
トーキョー・タナカ
僕自身はこれまで、東北や熊本などの被災地で後方支援活動をしながら、復興のフェーズが来たら被災地を盛り上げるような復興イベントを企画してきましたが、能登においてはまだまだ、復興のフェーズに入るには程遠い状況だと感じています。
ちょっと言い方が悪いですけど、ケツを煽る意味でも、音楽で支援イベントをできないかなと思ったんです。出演者だけでなく、能登で活動される支援団体さんも含め、「まだまだ継続的な支援が必要だよ」ということを一緒に発信したいなと、企画させていただきました。

── タナカさんから「能登はまだ復興には程遠い」という言葉がありましたが、前原さんは復旧状況をどのように見られますか。
前原
私は、地震発生直後から能登半島に入って今も現地で活動してるんですけど、やはり、「能登に行くことがタブーな空気感」が残っているように感じます。発生直後は人命救助が優先ということで、政府も知事も「能登に来ないで」と謳われていましたが、その後に「ぜひ来てください」という発表はあまりなかった。
そういうことも影響して、能登半島はやっぱり、復旧が遅い。山間部や沿岸部などアクセスが悪いところは道が崩れたままで、車で家に帰れない人たちが何人もいます。未だに電気が通っていなくて、ろうそくで生活している人も。状況はまちまちですが、いずれにせよ、奥能登になればなるほど支援が行き届いていないというのが現状です。

TOSHI-LOW
土武が言うとおり、「来ないでください」となったままの状態が本当に続いているよね。それが続いたままのなかで、なんだろう......、もう忘れ去られてしまっているというムードがある。ほかの被災地と比べても、ダントツで......。
地理的問題があるのはわかる。それでも、初動の間違いがいっぱいあったと思う。あんなに「行くな、行くな」と言うなら、もっと国がたくさん自衛隊を出すなり継続的な改善策を出すなり、できることがあったはずで。そういうことが解消されないまま、結局はボランティアをやっているヤツがいいだ、悪いだっていう話だけが残って、今になっちゃっているよね。
著名なアーティストだからできる「心の支援」

── タナカさんは以前、北陸のメディアで取材を受けられ、「売れているアーティストが率先して支援を行うことには、すごく意味がある」と話されていました。何がきっかけでこのように思ったのですか?
トーキョー・タナカ
MAN WITH A MISSIONが始動したのは、東日本大震災の時期と重なっているんです(2010年にメジャーデビュー)。その頃、TOSHI-LOWくんや10-FEETのTAKUMAが支援活動をしているのを見たのをきっかけに、売れているアーティストが動くことには、すごく意味があるんだと思いました。物質的な支援だけじゃなくて、「心の支援」が大きいんだなとすごく、感じて。
やっぱり、憧れの人が自分たちのところに来て応援してくれるのって勇気づけられる。おにぎり1個を渡されるのも、すごくうれしく感じる。そういうことを当時、売れてない自分としては感じたので、「俺も売れたら同じことをやろう」と始めました。意義みたいなものはあとからついてくると思っているので、難しくは考えていないですね。ただ、動けるすべを持っているのに動かないのは嘘だよねとは思っていて。自分の気持ちに嘘をつきたくないから、活動を続けています。

── 「心の支援」という言葉がありました。こういったことはTOSHI-LOWさんも感じられますか?
TOSHI-LOW
うん。能登へ行くようになって、歌ったり、おにぎりを渡したりするだけでも、喜んでくれる人がいるんだ、奥能登にも俺らのファンがいるんだっていうのは、「黒夢ってバンドをやっててよかったな」って思う瞬間だよ。
トーキョー・タナカ
黒夢!?(笑)。
TOSHI-LOW
で(笑)、タナカが今回、音楽とつなげてこのイベントを企画したように、俺たちミュージシャンはこういう形が一番健全だと思うんだよね。俺らは体も強いから、土砂をかいたり瓦礫を撤去したりもするけど、やっぱり音楽家なんだから最終的には音楽でどうつながっていくかをもっと考えていければいいのに、なぜかこの国はそれをやった瞬間に「売名だ」「偽善だ」となってしまう。
でも、自分たちが一番パワーを届けられる方法で届けて、何が悪いの?ってことなんだよ。 タナカたちが今回、音楽でデカいことをやろうというのは、ミュージシャンとして震災にどう対応するのかという一個の答えではあるよね。

── 前原さんは、著名な方が支援活動をされることの価値を、どのように感じますか?
前原
結では、アスリートの受け入れもするのですが、フィギュアスケートが好きなお母さんのところにフィギュアスケーターが会いに行ったら、もう泣いて喜ばれるんですよね。被災された方の起こってしまった不幸を変えることはできないけれど、災害の先に何かスペシャルな思い出ができたということが、その人の未来を変える可能性があると思っています。
「自分が感じて動かないと、誰かを動かすなんてできない」

── SNSやニュースで情報を追うだけでなく、現地に足を運ぶからこそ見えてくるものがあるとすれば、それはどういったことでしょうか。
TOSHI-LOW
本当のニーズって、顔が見えるところにあると思っていて。SNSで「これが必要です」って言われているものが必ずしもそうじゃない場合もあるし、逆に、「いや大丈夫です」って言われていても、実は困っている場合もある。
そういう本当の部分を読み取りにいって、何かを感じ取るなかで、自分自身にもいろんなフィードバックを受けていると思う。歌うときも、ただ被災地の歌を歌うのではなくて、オーディエンスの何かを感じ取りながら歌うことができたり、そこに敏感になれたり。
トーキョー・タナカ
僕も、そこにいる人たちが今、何をどうしてほしいのかを感じるために行っているんだと思います。やっぱり、自分たちのような発信をする立場の人たちが、何を発信するかで、巻き込む力が変わっていくと思っていて。受け売りの方法論や人から聞いた情報を、自分が知っているかのようにしゃべってしまうと、ちゃんと伝わっていかない。

TOSHI-LOW
ここまでの話で、タナカが大事なことをふたつ言っているんだよね。それは、「感じること」と「動くこと」。感じるのは、SNSで情報を追いかけるだけでできるけど、後者はそうじゃない。で、そのふたつって漢字で並べると「感動」になる。人間の心って感動で動くものだと俺は思っているし、感じる、動くの両方があってはじめて、心の底から涙が出たりする。タナカもそういうイメージなんじゃないのかな。タナカは人間じゃないけど。
トーキョー・タナカ
はい、人間じゃないんですけど(笑)。でも本当に、誰かを動かすことで少しでもいい状況にしたいという人間なのであれば、僕の場合はオオカミなのであれば、「自分が感じて動かないと、誰かを動かすなんてできないよね」というのは常に言い聞かせたいですよね。
「能登で、音楽が復興のきっかけになる新しい形が見えたらいい」

── 改めて、GAPPA ROCKS ISHIKAWAが開催されることの意味を、前原さんはどのように感じていますか?
前原
やはり、現地で活動している身としては、能登半島の現状というものを見て、持ち帰って、また能登に来るという動きをしてもらいたいと思っています。東日本大震災では、みんなで東北に行こうという空気がムーブメントのように全国に広がっていったけれど、能登はまだそうなっていない。
そういう状況のなかで今回、みんなで何かできることをしようと、ミュージシャンの方々が広くお声がけをしてこのイベントが開催されるというのは、本当にありがたいこと。GAPPA ROCKS ISHIKAWAを通じて「能登に行っていいんだよ」という空気を一緒につくることができればうれしいです。

── タナカさん、TOSHI-LOWさんは、GAPPA ROCKS ISHIKAWAに来場される方々に、どんなメッセージを伝えたいですか?
トーキョー・タナカ
正直、何もないです(笑)。来てくれる人たちは、わかっている人たちだから。何かを感じて、ちゃんと動いてくれる人たちが、当日そこに集まっているので、何も言わなくていいんです。「ああ、やっぱり参加してよかったな。チケットを買った俺の気持ちは間違ってなかったんだ」って、参加したことの意味を感じてもらえるイベントにできたらいいなと。
TOSHI-LOW
本当にその通りだと思う。俺としては、今回のようなイベントを通して、こういうことを自然にやれるミュージシャンがもっと増えればいいなと思っていて。私は何もできませんとか、そんな人は正直、ひとりもいないからね。俺は厳しいことを言うよ、「やれないという選択をしているだけだよね」って。こういうことを言うと心が痛い人たちがいっぱいいると思うけど、じゃあせめて、動いている人たちを叩くようなことをしないで。「はじめから黙ってろ、何もやんねーんならよ!」って感じ。今のは太めに書いておいて(笑)。
── はい(笑)。
TOSHI-LOW
能登で、音楽が復興のきっかけになる新しい形が見えたらいいなと思う。そうしたら今後、売名だ、偽善だなんて言われることもなくなっていくと思うし、俺やタナカがいなくなってもまた新しいミュージシャンたちの助け合いが生まれると思う。面倒くさいことは俺らで終わらせてあげて、次の子たちには「音楽ってそういうふうに使っていいんだ」っていう流れが、震災の多いこの国で生まれていったらいいよね。





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取材・文 小山内彩希
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撮影 小林直博
編集 くいしん
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