アライシップとは? 男性の行動が職場のジェンダー格差を埋める

Ministerio Bienes Nacionales, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
職場でのジェンダー平等は、依然として複雑な課題です。しかし、男性のアライシップにはその変革を促す大きな可能性があります。アライシップとは、自分の立場や影響力を活かして他者を支援する、継続的かつ前向きな取り組みを指します。企業や組織の上層部を多くの男性が占める現状においては、彼らがアライシップを実践することが従来の企業風土を見直すことにつながり、ジェンダー格差縮小への重要な鍵となります。ジェンダー平等を推進する際、とかく女性の経験や課題に焦点が当てられる傾向がありますが、この問題において男性が果たすべき役割にも注目することが必要なのです。
「Male Ally Handbook(男性のためのアライシップ入門)」の著者である作家マイケル・カウフマンは、「男性は、女性と対等なパートナーとして共にジェンダー平等を目指し、より良い未来を築くことができる」と述べています。しかし多くの男性がアライとして行動したいと考えていても、具体的にどうすればよいか分からないのが現実です。今こそ、男性たちがアライシップを実践するためのサポートが求められています。
職場に潜む男性特権
「Allyship Guide」(※1)によれば、まず男性が自分の特権に気づくことが第一歩とされています。ハーバード・ビジネス・レビュー(※2)はこれを「深い探求心」と表現しており、これは自分や他者の経験を理解するための真摯な姿勢を意味します。男性は、目の前のジェンダー差別にも気づかないことがありますが、この「深い探求心」を持つことで、自分でも気づかないうちに得ている男性の特権に目を向け、理解を深めることができます。例えば、就職や転職の際に、単に男性というだけで採用される確率が高くなることがあります。これは「男性は女性より能力が高い」という偏見に基づくものです。このようなバイアスは、職場で任される仕事の内容や給与交渉、昇進のしやすさにも影響を与え、ジェンダー賃金格差(※3)の原因となっています。また、パートタイム従業員に昇進の機会が与えられない人事制度や、長時間労働を前提とした職場文化、そして仕事後の飲み会など、形式的には誰でも参加できるように見えても、実際には女性が排除されるような構造が障壁となっている現状があります。

Data via OECD
リーダーの影響力で積極的な変革を
オーストラリアで職場の多様性を推進する非営利団体「Diversity Council Australia」の「Men Make a Difference」(※4)レポートでは、男性は決して一様ではなく、それぞれが多様なアイデンティティと経験を持ち、さまざまな形で周囲に影響を与える存在であることが強調されています。それ故に、男性のアライシップは組織内のさまざまな場面で促進されるべきです。例えば、LINEヤフーはCEOと協力しDEI推進を積極的に取り組むとともに、ジェンダーバイアスへの認識を高めるために取締役を含む経営層向けセミナーを開催しています。また、三洋化成工業の前社長である安藤孝夫氏は、育児や介護などの理由でキャリア継続が難しい女性(※5)も管理職に昇進できるよう、管理職登用に必要な勤続年数の条件を撤廃するなどの取り組みを進めました。
男性がアライシップを行動に移せるステップ
こうした企業のリーダーたちの行動は確かに前進を示すものですが、それでもまだ十分ではありません。女性の能力に対する偏見や構造的な障壁が、企業の組織全体から取り除かれない限り、その効果は限定的となり真の変化は期待できません。具体的な方法として、例えば国連のジェンダー平等推進プロジェクト「HeForShe」で開発された「Male Allyship Toolkit(※6)(男性向けアライシップツールキット)」のようなツールを男性従業員に提供し、アライシップの実践を希望する男性が行動に移せるよう支援することも一つです。会議や職場で性別、人種、年齢に基づく不適切な発言や先入観を感じたとき、それを黙認せずに指摘すること(※7)。男性だけが参加できそうな週末のゴルフや夜遅い飲み会などではなく、チーム全員が参加できるよう配慮したイベントを企画すること。そして社内で異なる立場の人々の経験から真摯に学ぶこと。ハーバード・ビジネス・レビュー(※8)は、こうした日々の小さなアクションが、より公平な職場文化を築くうえで非常に重要だと述べています。かつて、男性の上司が私の育児負担を考慮し、子どもの学校時間に合わせて会議を設定してくれたり、出張計画を立ててくれたりしたことがありました。こうした気遣いがあったからこそ、私はキャリアアップの機会を得ることができたと思っています。
継続的な行動と思いの強さが社会を変える
アライシップは決して簡単なことではなく、ましてや1度だけの行動で終わるものでもありません。謙虚さ、関心の高さ、言いづらい相手や状況でも苦言を呈することができる強さ、そして行動し続けるだけの思いが求められます。こうした姿勢や行動が実を結んだとき、職場はもちろん、私たちを取り巻く世界もより良い場所へと変わっていくに違いありません。

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執筆 K. Maseli 翻訳・編集 K. Tanabe

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