クマの肉球を食べたら驚いた。ジビエ30種類を味わったライターが語る、狩猟の魅力と「クマ問題」
あなたはこれまで、カラスを食べたことはありますか? タヌキやキツネはどうでしょう。あまり「食べ物」として想像しにくいこれらの動物も、実はクマやイノシシ、シカと同じく国が定める「狩猟鳥獣」。つまり、機会があれば誰でも食べられる存在です。
狩猟鳥獣は現在46種類(2026年1月時点)。ただ、ジビエとして流通・消費されるのはごく一部に限られます。「せっかくなら可能な限り食べてみたい!」と、カラスを含む30種のジビエ食に挑んだのがノンフィクション作家・北尾トロさん。その記録は、著書『ツキノワグマの掌を食べたい! 猟師飯から本格フレンチまでジビエ探食記』(山と渓谷社、2024年)にまとめられています。
東日本大震災を機に東京から長野県松本市へ移住し、50代で狩猟免許を取得した北尾さん。ハンターとして野生生物と向き合うなかで、価値観や死生観はどう変わったのか。さらに近年のクマ被害をめぐり、北尾さんが考える「荒唐無稽でも共存に近づくアイデア」を聞きました。
北尾トロ(きたお とろ)さん
1958年、福岡県生まれ。ノンフィクション作家。近著に「猟師になりたい!」シリーズ(角川文庫、他)、「夕陽に赤い町中華」「人生上等! 未来なら変えられる」(集英社インターナショナル)、漫画化された作品に、「裁判長!ここは懲役4年でどうですか」などがある。2020年から埼玉県在住。
ある日、思い立ちライター根性でハンターになった。人生初の撃つチャンス、「当たらないでくれ」と願った
── 2011年の震災は、多くの人が生き方を見つめ直すきっかけになりました。30年以上東京で暮らした北尾さんもご家族(妻と娘の3人)と長野に移住。しかし、どうしてまた、狩猟をやってみようと思われたのでしょう?
移住してから僕は東京と松本を行き来する生活だったんですが、1年ぐらい経つと、家族は新しい環境に馴染んでいるのに、僕だけ溶け込めていない。かみさんは野菜づくりを始めてイキイキしてるし、娘も友達ができて楽しそうにしている。自分だけ置いてけぼりだぞと焦り出したんです。せっかく信州に来たんだから、ここでしかできないことをやりたい。そこで思いついたのが、狩猟だったんです。
じつは、移住直後に「野生動物や猟師の取材をしてみないか」という依頼があったんだけど、知識がないしビビって断っちゃった。それがどこか記憶に残っていて、この機に自分がハンターに挑戦するのは面白いかもと。だからライター根性もありましたよね。
── ご家族はさぞびっくりされたのでは?
ええ。ハンターへの道で最初に立ちはだかった壁は、家族の理解でしたね。かみさんは、「火薬を使うような銃が家にあるのは物騒でいや」と言う。そこでエアライフル(主に鳥専用)にしたところ、今度は小学生の子どもが、「鳥さんは悪いことをしていないのに、なぜ殺すの」と、素朴な疑問をどんどん投げかけてくる。
僕も子どもを説得するために一緒に考えながら、「じゃあスーパーで売られているお肉は良くて、自分で撃った動物のお肉はダメなの? そんなことはないよね。スーパーのお肉だって、食べる人のために誰かが代わりに動物を殺しているんだよ」と理論武装していくわけです。
家族を説得したら、次の課題は、狩猟を教えてくれる人を探すことでした。地元の猟友会に連絡すると「50代!? 若いねえ〜!」とすごく喜ばれたんだけど、エアライフルと言うとがっかりされちゃって(害獣駆除では主に散弾銃を使用する)。
── 家族のためにエアライフルにしたら、今度は教えてくれる人探しに苦労されて。
そう。そのあと人づてに長野市のラーメン店の主人が猟をすると聞いて、行ってみたら、キジバトとヒヨドリの焼き鳥をポンと出され、それがまあ美味しかった。
「エアライフルなら、こういう鳥が獲れるよ。教えられないけど、狩猟について来るのはいいよ」「お願いします!」と。彼はいわゆる猟師っぽくない。どこか文化系で、僕にぴったり。結果的にすごく良い師匠に出会うことができたんです。
そうして師匠から銃の構え方や山の歩き方を教わり始めたある日、ついに僕にも川でカモを仕留める絶好のチャンスが来ました。師匠のアドバイスを聞きながら、これは当たるな...と思ったんです。当たったら、鳥は死ぬ。その時、それはしたくないなという思いが僕の中によぎった。でも師匠が見ているので、あからさまに外せない。
── 葛藤、ですね。
そこでちょっとだけずらし、「外れてくれ」と願いながら撃ったら、片方の羽に当たり、カモは最後の力を振り絞って飛んでったんです。僕は、ああ良かった〜と。でも師匠は、「結果として最悪です。あのカモは自然界では、もう生きていけないかもしれない。当たったからには、二の矢を打ってとどめを刺さないと」と。傷を負わせ、なおかつ逃がすことを半矢と言うんですが、これは最悪なことだと。なるほどと思いましたね。
そのショックで初シーズンは1羽も取れないまま、やってもやっても獲れねえって本を書きました(笑)。
── 心の迷いがかえって"相手"を苦しめる...! 狩猟の本質と対峙した1年目ですね。翌年からは、仕留められるようになったそうですが、ご自身で撃ったものは食べましたか?
もちろんです。師匠が獲った鳥は残さず食べるという考えなので、その意識は最初から身についていました。自分で解体もできるようにと、初年度から羽をむしるところから解体も教わっていましたから。
料理もほぼしたことがないのに、骨で出汁をとったり、心臓やレバーなど内臓もなるべく捨てずに調理したり。全部食べることが供養だと娘に話してきたからには、ちゃんとやっている姿を見せなきゃと。
ジビエを食べる理由は、単純に美味しいから! そして、「味の悪評」の真偽も確かめたいから
── 自分で仕留めた鳥だけでなく、さまざまな野生動物(ジビエ)を食べるようになったのはなぜでしょう?
まず単純に美味しいから。家畜にはない肉本来のガツンとした歯ごたえや野生の旨味がある。個体差があるのも面白い。狩猟の時期やオスとメス、獲る地域によっても脂の乗り方や肉質が違います。シカなら夏ジカ、イノシシやクマはやっぱり秋がいい。
家族全員が好きなヤマドリは、標高が高いところで木の実をいっぱい食べているので、淡白だけど脂が乗っててびっくりするぐらい美味しい。売買禁止の鳥だから、猟師だけが楽しめる味でもあるんですよ。野生動物だからこそ当たり外れもあり、いかに美味しく食べるかを考えるのもまた楽しいですよね。
── 個体差があるとは新鮮です。一般的には食べるのをためらってしまいそうな鳥獣も食されていますが、そのモチベーションはどこから来るのでしょうか。
たとえばカラスとかね。みんな「カラスは不味い。獲るもんじゃない」と言う割に、聞くと実際に食べたことはないんです。言い伝えや噂なんですよ。それなら自分で食べて確かめたいという好奇心がまず一つ。
もう一つは、獲ってもいい狩猟鳥獣の中には「不味い」という噂が定着しているものが多い。そうでなくても駆除された獲物は、そのまま土に埋葬されがち。すると、それを掘り起こして食べる動物がいて、また繁殖しちゃうわけです。
てことは、やっぱり獲ったら食べるのが基本。僕のすごく個人的な意見だけど、獲ったらなるべく食べようよと思っちゃう。
── その結果、さまざまな動物を食し、どんな実感を持たれましたか?
先入観がことごとく裏切られましたね。山で暮らしているカラスは赤身で美味しいし、アライグマやアナグマも臭みの原因と言われる外側の脂を取るとめちゃめちゃ旨い。ヌートリアやタヌキもふつうに食べられるし、キツネや野ウサギ、テンは筋肉質で肉が少ないけど、そこが好きと言う人もいます。
唯一僕が、「うへっ」ってなったのはカワウかな。噛むほどに川の匂いが広がって、これはもう期待通り不味い(笑)。
── 不味さが確認できたことも喜びに(笑)。そんなふうに狩猟から調理、食すまで野生動物と近しく触れ合ってきた経験から、近年のクマ被害についてはどう思われますか?
まず要因の一つに、ハンターの高齢化で熊があまり獲られなくなり、個体数が増えたことが考えられます。その結果、山のテリトリー争いに負けた弱い個体が里に降りてくる。本来は脂肪が蓄えられるどんぐりを食べて冬眠しなくちゃいけないんだけど、栄養不足で冬眠すらできない熊も出てくる。
そう考えると、荒唐無稽かもしれないけど、数十年単位でどんぐりの木を植えたり、不作の年は、森にどんぐりを撒いたりとか、人間が動物と共存できる道を探ったほうがいいと思います。
人間側がちょっと偉そうですよね。僕は、邪魔者を排除する・駆除っていう言葉が好きじゃない。そもそも山は彼らのもの。勝手に開発して追い詰めてったのは人間のほうですから。
ハンターを10年以上やってきて思うことは、やっぱり彼らのフィールドにお邪魔して、時々恵みとして命をもらっているということ。人間は生き物のエネルギーをもらって、なんとか生きられるわけですから。
自分にとっての狩猟とは。人間も動物も、生まれて生きて死ぬ。そのサイクルを生々しく感じられること
── 北尾さんにとって、「狩猟」とは何でしょうか?
他の趣味と違うのは、命のやり取りがあることでしょうか。鳥に弾が当たった後、走って行くでしょ。するとまだ温かい。すぐに腸を出さないといけないので手を体の中に入れると、すごく熱いんですよ。それがだんだんと硬直してくる。さっきまで生きていたのに、ただの物質になっていく時間がすごくリアルでね。
結局人も同じ。生まれて、生きて、死ぬ。そのサイクルをすごく生々しく感じるんです。きれいに言っちゃうと、美しい。僕にとっての狩猟のメリットはそれを実感することかもしれない。
自分の死や家族の死と結びつけるのは違うかもしれないけど、死に対する感覚が身近になる。戦場じゃなくても流れ弾に当たったように死ぬ人生もあるでしょうし、案外、命はそんなものかもしれないなとも思う。
だったら、明日のために今日を生きるんじゃなく、今日をしっかり生きないと明日は来ないぞっていうふうにも思うようになりましたね。
── 最後に今後の目標を教えてください。
まだ食べたことのないヒグマやミヤマガラス、タイワンリスなど未知のジビエを味わうこと! そして獲ったら残さず食べる。不味いと決めつけられている鳥獣も、自分の舌で確かめる。そんなハンターでありたいです。
取材後記
ここ数年、ニュースに取り上げられることの多い「クマ被害」の話題は、人間と野生生物との関係性を捉え直す転換点のようにも感じます。命は大事、でも駆除は必要、しかしハンターは不足している。
さまざまな見解と課題が複雑に絡み合い、用意に答えを出すことはできないテーマではあります。必要なのは一面ではなく、多角的な視点から問題を捉えてみること。そういった意味で、北尾さんが語ってくれた「ジビエは旨い」「生死の生々しい実感」といった話は、私たちにまた一つ新たな視点を与えてくれるようです。
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写真
新谷 敏司
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執筆
くればやし よしえ
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編集
都恋堂



