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街のユニット型事務所が災害時は仮設住宅に⁉︎ 動く木造建築「モクタスキューブ」が目指す、森の資源を使い捨てしない未来の建物

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日本において、古くから発展してきた木造建築の技術。古くは世界最古の木造建築といわれる法隆寺の五重塔のように、10階建てのビルに匹敵し、1000年単位で残るような木造建築までつくられてきました。

しかし、1923年の関東大震災を機に鉄筋コンクリート造(RC造)への転換がはじまり、戦争と高度経済成長によってその流れは加速。近年では、特に都市部において木造の需要は減少していきました。

木造の需要は減少

しかし2020年代に入り、その潮流は大きな転換期を迎えています。CLT(※繊維の方向が直交するように積層接着した木質系材料)や耐火集成材と呼ばれる新たな技術が誕生し、耐火性や耐久性といった木造の弱点を徐々に克服。国による法整備も進み、高層の木造ビルをはじめ、都市部のインフラにも木造の建物が増えているのです。

その一例が、2025年3月に竣工した東急田園都市線の駒沢大学駅西口2ビルや東急池上線戸越銀座駅の木になるリニューアル。木材を使用し、CO₂の固定化や森林資源の循環に貢献しながら、都会に「森」を感じられるような空間になっています。

駒沢大学駅西口2ビル
4階建ての木造ビルである東急田園都市線の「駒沢大学駅西口2ビル」。「サステナブルな地下駅」を目指したリニューアルプロジェクト「UNDER THE PARK」の第一弾(提供:東急電鉄)

このように、私たちが木に触れられる場所は、もはや森の中だけに限りません。駒沢大学駅の西口2ビルや戸越銀座駅も手がけた東急建設は、木造で培ってきた技術を元に、新たな工法や部材の開発を通じ、都市に木を取り入れる可能性を更新し続けてきました。

その技術の延長線上に誕生したのが、運搬可能な木造建物「モクタスキューブ」です。

(提供:東急建設)
(提供:東急建設)

ユニット単位で製造されるモクタスキューブは、平時にはオフィスや宿泊施設として運用しながら、有事には建物をそのまま大型トラックで迅速に移設できる「フェーズフリー」な建築です。2024年の能登半島地震では、復興支援者の宿舎や輪島塗の仮設工房として活用され、被災地の日常を支える確かな拠点となりました。

災害への備えが急務となる日本において、仮設住宅のあり方も転換を迫られています。木造の快適性と可搬性を両立し、平時と有事の壁を取り払う。モクタスキューブは、都市で磨かれた木造技術を災害支援へと還元する、新たな選択肢となりつつあります。

素材としての木、そしてそれを活かす建築技術が、森と街、被災地を巡りながら人々の暮らしを支えていく。その循環がもたらす未来の可能性を掘り下げます。

追求するのは「木の心地」。都市に木を足す「モクタス」ブランド

東急建設では、木造建築技術で環境未来都市を創造するブランド「モクタス」を2019年から推進してきました。木造建築で培ってきた知見をもとに、木造建築の価値を都市へと広げるべく、都市と木との新たな可能性を追求しています。

モクタスのコンセプト
モクタスのコンセプト(公式サイトより引用)

現代における木造のメリットは多岐に渡ります。1つ目は「合理性」です。

木は燃えやすいという従来のイメージに反し、新しい加工技術との組み合わせによって高い耐火性能を実現。遮音性能の向上に加え、鉄筋コンクリート造に比べて建物自体も軽量です。将来的な改修や解体のコストも抑えやすく、建物のライフサイクル全体で優れた経済合理性を備えています。

モクタスWOOD
3時間耐火(写真は1時間耐火)の認定を取得した木質耐火部材「モクタスWOOD」(公式サイトより引用)

2つ目は「環境的な意義」です。国内の人工林が本格的な利用期を迎えるなか、適切な伐採と植え替えの循環をつくることは、二酸化炭素の固定化を促し、将来的な排出量の抑制にもつながります。

国も国産材の利用を後押ししており、2002年には18.8%まで落ち込んでいた国内の木材自給率は、2024年には42.5%まで上昇。持続可能な森林循環を目指す施策として、木造建築への注目が高まっています。

災害を防ぐ森づくりから「木製プラスチック」の開発まで。世界有数の''森林国''を守り続けてきた林野庁の取り組み

提供:ソフトバンク

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3つ目は「ウェルビーイング」という観点です。木材特有の調湿機能や香りがストレスを軽減し、安らぎを与える効果は研究でも示されています。木造は、都市生活における質の高い空間を生み出す力を持っているのです。

こうした木造の価値は、先ほどの駒沢大学駅西口2ビルや戸越銀座駅のように、住宅からパブリックな場にも広がり始めています。東急線沿線を舞台とした「SOCIAL WOOD PROJECT」では、駅舎などの都市インフラに積極的に木を取り入れることで、日常の中で木に触れる機会を増やそうとしています。

特筆すべきは、単に建材として木を利用するだけではなく、駅構内で苗木を育てるなど、都市から森林へと還元する試みも始まっていること。都市での木材活用が、遠くの森を育てることにつながっていく。そんな都市を起点とした新しい循環が、私たちの暮らしから立ち上がりつつあります。

SOCIAL WOOD PROJECT
「SOCIAL WOOD PROJECT」では、「木になるリニューアル」と題して東急線沿線の駅舎やホームの木造への改修を推進。2016年には、東急池上線 戸越銀座駅舎が竣工した(撮影:本永創太)

木造の利点を被災地で活かす「モクタスキューブ」

木造技術を蓄積してきた東急建設がモクタスブランドの一環として、防災・減災という新たな領域で技術を結集したのが「モクタスキューブ」です。

事務所として利用されているモクタスキューブ。15㎡のユニットを2つ連結したもの
事務所として利用されているモクタスキューブ。15㎡のユニットを2つ連結したもの

四角い形状が特徴的なモクタスキューブは、1ユニット約15㎡。可搬式でありながら建築基準法を遵守した本格的な建築物であり、一般的な木造住宅と同等の住環境性能を備えています。

特筆すべきは、その断熱性と遮音性です。従来の仮設住宅が抱えがちだった「寒さ」や「音」といった課題をクリアし、木造ならではの温もりと安らぎを提供します。

取材に訪れた現場では、内部にキッチンやトイレ、シャワーといった生活設備を備え、打ち合わせができるゆとりあるスペースも確保されていました。その居心地は、いわゆるプレハブ小屋とは一線を画す快適なものでした。

木の温かみがあり、ゆったりとした打ち合わせスペース
木の温かみがあり、ゆったりとした打ち合わせスペース
シャワー、トイレ、キッチンなどが一つのユニットに収まっている
シャワー、トイレ、キッチンなどが一つのユニットに収まっている

さらに、モクタスキューブ同士は連結することが可能。複数をつなぎ合わせることで、15㎡、30㎡、45㎡......と空間を拡張でき、ニーズに応じた広さを確保できます。快適な住環境を維持したまま、用途に応じて空間を柔軟に広げられる点が、モクタスキューブの大きな強みとなっています。

災害発生時には自治体や協会の要請を受け、責任を持って被災地に運搬する(提供:東急建設)
災害発生時には自治体や協会の要請を受け、責任を持って被災地に運搬する(提供:東急建設)

そして最大の特徴は、内外装や住設等器具が完成した状態のまま運搬できることです。大型トラックで運搬した後、基礎の上に設置し、内外部の連結処置と、水道やガスなどのライフラインの接続が完了すれば、屋内空間をそのまま利用できます。

平時は宿泊施設や仮設事務所などとして活用し、有事には被災地へと移設する。平時の備蓄と有事の運搬、その双方を担うモクタスキューブという新しいコンセプトは、どのような経緯で生まれたのでしょうか? 企画を担当した、東急建設の小西貴晶さんにお話を伺いました。

現場のニーズがプロジェクトを加速させた

東急建設 建築事業本部 営業推進統括部長(兼 価値創造推進室) 小西貴晶さん
東急建設 建築事業本部 営業推進統括部長(兼 価値創造推進室) 小西貴晶さん

── 東急建設の木造建築への取り組みは、どのようにモクタスキューブへとつながっているのでしょうか。

小西さん

東急建設ではこれまで、「木心地のよい都市を創る。」というコンセプトのもと、モクタスブランドを推進してきました。脱炭素や廃棄物削減、防災・減災といったテーマに対して、都市に木を取り入れることで応えていこうという取り組みです。

森で育った木材を都市で活用し、その中で技術を磨いていく。そうして生まれた木造建築は、ビルや駅舎、さらには郊外や被災地といったさまざまな場所へと展開されてきました。

── 森から生まれた木材が、人が住む空間に息づく循環が生まれていたのですね。

小西さん

こうした流れが、私個人の問題意識とも結びつきました。将来必ず起きるであろう大地震に対して、従来の応急仮設住宅の供給体制が十分ではないという事実を知り、何かできないかと考えていたんです。

急いで供給されるプレハブ住宅は安価な一方で、カビや結露が発生しやすく、住環境に課題を抱えています。そうした場所で長く暮らすことは、被災された方々の心身に大きな負担をかけてしまう。東急建設が培ってきた木造のノウハウがあれば、この課題を解決できるのではないかと考えていました。

そんな中、アイデア具体化の契機となったのは、2021年に社内で新規事業を推進する「価値創造推進室」が設立されたことです。

木造のメリットを活かしつつ、有事にその場しのぎにならないよう、平時から製造して備蓄しておく。そんなプレハブとは異なる「オフサイト建築」の手法を取り入れ、現在の形に近づいていきました。モクタスキューブという名称は、木造であること、そして木と暮らしの新たな関係を生むモクタスのコンセプトとも深く紐づいています。

外装に木目調の装飾を施したモクタスキューブ(提供:東急建設)
外装に木目調の装飾を施したモクタスキューブ(提供:東急建設)

小西さん

当初は2024年度中の技術開発やビジネスモデル確立を目指していましたが、社会実装の機会は想定よりも早く訪れました。2024年1月の能登半島地震です。

当時はまだ本格導入の前段階で、社内の最終的なコンセンサスも得られていない状況でした。ですが、発災直後にオフサイト建築協会から対応の打診があり、急遽、社内の経営会議に提案したんです。会社としても「この状況ならやるしかない」という判断でした。

ただ、当時はモクタスキューブの十分な備蓄や量産体制が整っておらず、応急仮設住宅としての大量供給は時間的に難しい。そこで浮上したのが、復旧に携わる職人や行政担当者が利用するための「宿泊施設」としてのニーズでした。

能登半島地震復興支援者用宿舎。現地での設置作業は2週間ほどで完了した(提供:東急建設)
能登半島地震復興支援者用宿舎。現地での設置作業は2週間ほどで完了した(提供:東急建設)

小西さん

被災地では宿泊施設が極端に不足しており、それが復旧作業の大きな障壁になっていました。仮設住宅を一定数供給するには多くの準備が必要ですが、比較的、小規模な宿泊施設であれば対応できる余地があります。

一刻も早く現地へ届けたいという思いから、2024年6月末、能登空港の多目的広場に20棟、仮設工房として7棟を設置することができました。要請から3カ月で設置が完了し、復旧を支える人々の拠点として活用いただいています。

木造ならではの居住性が、暮らしの質を支える

モクタスキューブの活用は、宿泊拠点だけにとどまりません。2024年7月には、輪島市内に4つのユニットを連結した60㎡の建物を2棟竣工させました。単なる一時的な避難所ではなく、被災地の生業や暮らしの質を中長期的に支えていく。こうした切実な場面でも、モクタスキューブの価値が発揮されています。

輪島市の仮設工房では、4ユニットを連結した60㎡のモクタスキューブが活用されている(提供:東急建設)
輪島市の仮設工房では、4ユニットを連結した60㎡のモクタスキューブが活用されている(提供:東急建設)

── 宿泊施設や工房として、モクタスキューブを利用した方々からはどのような反響がありましたか?

小西さん

能登空港の宿舎では、スチール製のユニットも並ぶなかで、私たちのモデルを選んでくださる方も多かったと聞いています。仮設工房の利用者の方からは「外から入ってもあまり寒くない」「想像以上に暖かい」「扉を開けた瞬間に広がる木の香りに安らぎを感じる」といった声をいただきましたね。

輪島塗の工房でも、漆を扱う職人の方からの声が励みになりました。漆は湿度管理が非常に重要ですが、木造特有の調湿機能が自然に環境を整えてくれる点が、作業場としてありがたいと評価いただいています。

モクタスキューブは可搬式ですが、建築基準法を遵守した本格的な建築物として設計しています。そのため、従来の仮設住宅が抱えがちだった断熱性や遮音性の課題を解消することができました。一般的な木造住宅に近い住環境を提供できたことが、こうした反応につながっているのだと思います。

小西貴晶さん

── 要請から数カ月で稼働し、現地での作業は約2週間というスピード感も印象的でした。

小西さん

被災地は常に深刻な人手不足に陥ります。そこでモクタスキューブは、静岡などの工場であらかじめ完成状態まで生産し、現地では連結・設置するだけというシンプルな工程を採用しました。

建設に携わる方々が不足する被災地であっても、別の場所で製造し、トラックで運び込み、すぐに使っていただくことができます。道路さえ復旧していれば、速やかに生活や仕事の場を届けられる点が、従来の木造仮設住宅との大きな違いです。

── 運搬の仕方についても、独自の工夫があるのでしょうか。

小西さん

既存のユニットには大型トレーラーで運搬するタイプもありますが、私たちは日本の道路事情に適した10トン大型トラックで運べるサイズにこだわりました。大型トラックで運搬可能なギリギリのサイズを見極めつつ、天井高を2.3メートル程度確保するなど、居住性を損なわない設計を施しています。

さらに、ユニット同士を簡単に連結できるようにしたことで、輪島の工房のように広い空間をつくることなど、現地のニーズに合わせて柔軟に選択できるようにしています。

モクタスキューブ内のキッチン
モクタスキューブ内のキッチン
ユニット2つを連結したところ(提供:東急建設)
ユニット2つを連結したところ(提供:東急建設)

森のある生活をフェーズフリーで体感する

── モクタスキューブには災害時だけでなく、日常でも活用できる「フェーズフリー」な建築としての側面がありますね。

小西さん

応急仮設住宅を迅速に供給するためには、平時から「社会的備蓄」を増やしておく必要があります。しかし、いつ起きるか分からない災害のために、自治体が予算を投じて備蓄し続けることには限界がある。

そこで重要になるのが、平時には収益性のある事業として運用し、有事には速やかに被災地へ転用できるビジネスモデルです。例えば、平時は宿泊施設のコテージとして運用し、大規模災害が発生した際には、そのユニットを被災地へ供給するといった形です。

現在は検討段階ですが、こうした宿泊事業との連携は非常に相性が良いと考えています。まずは自社の工事現場で会議室や休憩室として活用することで、平時の運用と備蓄を両立させる一歩を踏み出したところです。

モクタスキューブ

── 一時的な利用で終わらせない、循環の仕組みも重要になるのでしょうか。

小西さん

従来のプレハブ仮設は、役目を終えると廃棄されることも少なくありません。一方でモクタスキューブは、建築基準法を遵守した建物として設計されているため、耐用年数は20年以上。被災地での役割を終えた後も、長く住み続けるための住宅や別の用途へ再利用することが可能です。

「使い捨て」にしないことは、脱炭素や廃棄物ゼロという私たちの目標にも合致しています。東急建設では、木を伐り出し、森を育てる取り組みにも着手しており、質の高い木造建築が長く使い続けられる循環を、つくる側と使う側の両面から構築しようとしています。

さまざまな場所で活用されるモクタスキューブ(提供写真)
さまざまな場所で活用されるモクタスキューブ(提供写真)

── 森と街の循環が当たり前になる。そんな未来にも、モクタスキューブはつながっていきそうですね。

小西さん

少子高齢化や人手不足が進むなかで、工場で事前製造して現地作業を最小限にする手法は、これからの日本において不可欠な手段になるはずです。将来的には、こうした可搬型の木造住宅が地方創生や災害に強い街づくりに当たり前に貢献している、そんな姿を期待しています。

何より、木を使うことで森が若返り、街には木の温もりが増えていく。モクタスキューブが、森と街の新しい関係をつくる存在になればと思っています。

私の出身地である京都は山に囲まれ、森は信仰の対象でもあり、遊び場でもありました。東京へ出てきたとき、山の見えない景色に驚いたことを覚えています。今は子どもたちが森に触れる機会も減っていますが、モクタスキューブのような建築を通じて「木の建物っていいな」と感じてもらう。それが、森への興味を抱く入り口になることを願っています。

モクタスキューブ

「moc+\モクタス」は、東急建設株式会社の登録商標です(登録商標第 6054100号)
「モクタスWOOD」は、東急建設株式会社の登録商標です (登録商標第 6566919号)
「モクタスキューブ」は、東急建設株式会社の登録商標です(登録商標第 6932168号)

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