ストローが未来の街をつくる? 効率だけを追い求めない、優しい社会をつくる挑戦
「エコストロー」という言葉と共に一気に普及した、紙や竹製のストロー。海洋マイクロプラスチックごみを少しでも減らすために、多くの飲食店がエコストローを取り入れ始めました。
でも、プラスチックを他の素材にしたところで結局はごみとして燃やされ、CO2が排出されます。海を守るかわりに大気汚染を進めているんだとしたら、根本的な解決になっていない気もします。ストローを変えることは、本当に環境に優しいのでしょうか?
そんなモヤモヤした気持ちを抱えている人にご紹介したいのが、エコストローを販売している4Natureという会社。
4Natureが取り扱うストローは、サトウキビの絞りかすを原料にして作られた製品。長時間使っても紙のように柔らかくなることがなく、コーヒーの香りも邪魔しません。
素材を変えても使用済ストローを捨てているなら、今までのエコストローと変わらないのでは?と思うかもしれませんが、彼らの取り組みが注目を集める理由は、ストローを売るだけに留まらず、回収して、さらに堆肥化して再利用するところまで見据えて、取り組んでいます。やっぱり、ごみ箱にそのまま捨ててしまうのはよくないようです。
とはいえ、回収したストローを、さらに手間をかけて堆肥にするのは大変なはず。いくら環境のためとはいえ、普通はそこまでがんばれないのではと思ってしまいます。
そうまでしてストロー回収に取り組む理由を聞くと、4Natureの代表の平間さんは「ストローを通して街を作りたかった」と言います。
エコストローの事業は環境問題のためだと思っていたのに、飛び出してきたのはストローと街づくりという意外な言葉。その真意を深掘りしていくと、ストローがちゃんと堆肥になり、その堆肥で野菜が育ち、また人の手に渡るというサイクルに、気持ちのいい社会を作っていくためのヒントが隠されていました。
今までなんとなく罪悪感を持ちながら捨てていたストローやごみとの新しい向き合い方を、平間さんに伺いました。
環境のことを考えたら、エコなストローを使うだけではダメだった
── エコストローを販売するだけでなく、回収まで行う事業というのは珍しいですね。どのような仕組みなんでしょうか?
サトウキビストローを使って頂いているコーヒーショップが専用アプリを通して依頼をかけると、ボランティアの方がストローを回収しにきてくれます。回収時には、お店からのコーヒーサービス付きです。
── どんな方がボランティアで集まるのか気になります。
一番はお店のファンの人です。あとはコーヒーショップ好きや、環境への意識を持っている人との関わり合いを求めている人もいます。
最近はお子さんがいらっしゃる方も非常に多くなりました。理由を聞くと、子どもが学校で環境のことを勉強して関心を持っているのに、自分たちは何も勉強してこなかったから、できることからやらなきゃと感じて参加してくださっているようです。
── なぜサトウキビストローの事業を始めようと?
プラスチックストローをエコなものに変えていく動きが日本で本格化する少し前に、台湾の友だちから教えてもらったのがきっかけです。
当時、僕はシンガポールへのMBA留学を考えていたのですが、手元で事業をやりながら学びたいなと思っていました。その流れで友だちと様々なビジネスの情報交換をしていた中のひとつが、サトウキビストローでした。
── ストローの事業を始めるときに、リサイクルするところまでセットで考えていたんですか?
いえ、ストローの取り扱いを考えはじめたときは、販売だけを考えていました。
でも調べていくうちに、回収までしないと意味がないということに気づきました。サトウキビストローは生分解性なので土に還るというのが大きな特徴なのですが、普通にごみとして焼却処理されてしまったら、わざわざサトウキビストローを使う意味が半減してしまうんです。
食べ物にまつわる大きな循環をつくっていく
── サトウキビストローの回収はある意味、必然だったんですね。
そうですね。でも、回収とセットにすることでストローを売るだけではない、「街をつくる」ことに挑戦できるようになったと思っています。
── ストローで街づくりというのは......どういうことですか?
これは、ストローの回収場所として使わせて頂いていた青山ファーマーズマーケットがきっかけで考えるようになりました。
僕はそれまで金融業界という資本主義のど真ん中で働いていました。だから初めて青山ファーマーズマーケットに行ったとき、その雰囲気に衝撃を受けました。農家さんからもらった野菜を分け合ったり、音楽が流れるスピーカーの上でビールを飲んだりする風景とその居心地のよさに、強い幸福感を覚えました。
家業が不動産屋なので、街づくりとは建物を建てることだと思っていたんです。でも、ここではテントが並び、人との触れ合いがあって、そこに商いがある。これこそが街なんじゃないかと気づいた瞬間でした。
ストローを通して人のコミュニケーションが生まれてものが循環すれば、僕らも居心地のいい場所、そして街をつくれるんじゃないかと思えました。
── 他にも街づくりや循環にまつわる活動をされてるんでしょうか?
街や循環をキーワードに動いているものはいくつかあります。
最近では堆肥をよりよく循環していく仕組みの一環として、自社で集めたストローや、コーヒーショップから出たコーヒーかすからつくった堆肥を農家に届けるということも行っています。
特に生ごみは水分量が多いので、焼却炉での燃焼効率やCO2の排出が問題です。また維持管理にも莫大な費用がかかります。堆肥化させれば排出CO2も削減できますし、良質な堆肥は化学肥料の使用量を減らすことにもつながってきます。
さらに、そういった野菜を売る場所として歌舞伎座の前でマーケット開催を月2回行うことで、消費者の手にもう一度野菜がわたる取り組みにも挑戦しているところです。
── リサイクルの輪が、生産者から消費者まで巻き込んだ大きなものになっていますね。
つくり手と買い手をつなぐことは、これからの社会をつくる上で重要なものだと思っています。最近は、そのためにはCSA(地域支援型農業)と呼ばれる、消費者が前もって農作物の代金を支払う仕組みがぴったりだと考え始めました。
僕たちは、個人が家庭でのコンポストでつくった土の行き場がないという課題を、このCSAを応用することで食べ物が循環する形を作っています。農家が野菜をファーマーズマーケットや飲食店に持ってくるタイミングで消費者も堆肥を持ってくることができる。その堆肥でまた野菜をつくります。
── 消費者が事前に支払いをするCSAの仕組み。おもしろいですね!
ただ、CSAにも難しいポイントはあります。払ったお金に対して十分な作物が届かない可能性を許容できるかどうかというところです。
CSAは収穫量が読めないという農家にとっての大きなリスクを、事前にみんなでお金を出し合うことで共有する仕組みです。それは、台風で野菜が駄目になったときに、思っていたほど野菜が届かない場合があるということになります。
CSAが普及していくには、自分たちで畑を共有する感覚を持って、その不確実性をよしとできる感覚が大事になってきます。僕らはそれを「社会寛容性」と呼んでいます。
世の中の社会寛容性がもっと高まれば、規格外野菜や簡易包装も気にならなくなるかもしれません。むしろ顔の見える関係で安心して買えることに価値が置かれるようになると思います。
もう一度「社会寛容性」を作りなおす
── 様々なチャレンジの中で見えてきた、循環可能な仕組みづくりのために一番必要なことは何なのでしょうか?
やはり社会寛容性、というところに尽きると思います。
現在の日本におけるごみ運搬の仕組みは、非常にしっかりしています。それは生ごみ放棄や害虫、病原菌など、問題を解決してきた結果でもあります。
でも、そうやってスムーズに運搬できる流れをつくっていく過程で、社会全体で目の前からごみをなくして、効率化することにだけに注力してきてしまった。
僕たちがやろうとしている循環の形では、お店で生ごみを堆肥化していたら少し土っぽい匂いがしてきたり、形が悪い野菜が流通したりすることもありえます。みんなが寛容性を持って、多様性を受け入れるマインドが浸透することではじめて実現する形です。
そのために、まずは今の構造を一度スクラップ&ビルドすることが必要だと感じています。
── どんなものがあれば、人の気持ちは社会寛容性のほうに向いていくのでしょうか。
まさにそれが、CSAをはじめとしたコミュニティです。それぞれ違う役割を担ってくれている人たちとの距離を縮めて、自分たちの役割分担をきちんと認識することが必要だと考えています。
今はほとんどの食品が、誰がつくって、運んだかも分かりません。役割分担が分断されすぎているのです。
CSAなどのコミュニティを通して、生産者と消費者の役割分担を自認しつつも、関係が断絶しないようグラデーションをつくっていく。そうすることで寛容性が広がっていくんじゃないかなと思っています。
議論と助け合いのあるコミュニティが、人の気持ちを変えていく
── 実際にコミュニティに参加された方の意識が変わった実感はありますか?
表参道のCOMMUNEという場所で2020年から運営している「コミュニティコンポスト」では、コミュニティを通して人の意識が変わっているのを感じます。
これは各家庭で出た生ごみを堆肥化させたものを集めて、どう使っていくかを議論・実践していくコミュニティなのですが、参加者の方に主体的に運営をしていただいています。堆肥化した土の活用法を参加者のみなさんが話し合って、やることを決めて、実行まで主体的に進めていただく。あくまで自発的な活動ができるように促しています。
── なぜそのような方法をとられているのでしょうか。
やりかたが事前に決まっていたら思考停止してしまいますが、ガイドラインをなくすことによって助け合いも議論も必要になるし、創造性や発展性が生まれます。
例えば、どうしても忙しくて来れなくなってしまう人がいたときに、どうコミュニケーションを取っていくか考える。そうやって上手く人との関係を作っていくのも、ひとつの社会寛容性だと思っています。
── 平間さんの中で理想とする社会やご自身の生活って、どんなものでしょうか。
自分が好きなことをやって、自分たちが生きやすい世界をつくる。それで食べていけることでしょうか。
会社の売上も、あまりたくさん稼ぐことを目的としていません。売上や会員数は、あくまでもバロメーター。世の中の社会寛容性を上げることにコミットできていれば数字は上がると考えています。
家業の不動産や、新卒で入った金融業界で培ったビジネス感覚と、青山ファーマーズマーケットのような居心地のいい空間づくりのちょうど真ん中を、どちらの感覚も持ち合わせながらやっていけたらと思います。
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取材・文吉田恵理
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編集くいしん
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撮影安永明日香
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