私たちの暮らしや
健康・生命を脅かす「地球温暖化」
の現在地
普段あまり意識しない「地球温暖化」ですが、地球規模でみると確実に、急激に進んでいます。悪化を受け入れるのか、それとも食い止めるのか。後戻りできなくなる前に、改めて考えてみましょう。
急激に確実に進んでいる「地球温暖化」。後戻りできなくなる前に、改めて考えてみましょう。
2024年10月31日
最近、「異常気象」が
多いと感じませんか?
人間にも危害が加わる「災害レベル」の気象が近年増加し、数十年に一度の規模の異常な状態を表す「大雨特別警報」は2017年以降毎年出されています。平成30年7月豪雨では、気象庁から初めて「地球温暖化が一因」という見解が出されました。また35℃以上となる猛暑日も増加しています。
産業革命前と比べて1.5度の気温上昇が定着すると、このような異常気象はさらに増えるとされており、世界各国ではこれを食い止めるため、気温上昇を「1.5度」までに抑えるよう努力することで合意しています。
温暖化と
温室効果ガス
地球温暖化の主な原因は人間の活動により排出される「温室効果ガス」。そのしくみと現状を理解し、もし温室効果ガスを排出しつづけるとどうなるのかを見ていきましょう。
温暖化のしくみ
地球には、
もともと温室効果があります。
もしまったくなかったら、
地球の平均気温は−19℃。
人間の活動による
温室効果ガスの種類
人間の活動による温室効果ガスのうち、もっとも多いのが二酸化炭素(CO2)です。特に化石燃料(石炭や石油・天然ガス)由来のものが多く、主にエネルギー・産業・運輸などの分野で排出されています。またメタンガスは、排出量に占める割合は大きくないものの、温室効果はCO2の25倍と言われ、削減を急ぐもののひとつとされています。
軽視できない牛と温暖化の関係
食材1kgあたりをつくる際に発生する温室効果ガスの量(kgCO2)
一見、特に温暖化には関係なさそうな「牛」。実は牛のゲップには温室効果が高いメタンガスが多く含まれています。またそれ以外でも飼育や輸送の工程で多くのCO2を排出するため、牛を健康に保ちつつも温室効果ガスを減らすための研究が進められています。
各国のCO2排出量の推移
以前はアメリカがダントツで1位でしたが、2000年代に入り、中国の排出量が増加。現在では1位となっています。また日本は4位から5位という位置づけで、常に上位にいます。一方、アフリカやアジアの途上国はランキング外になっています。
もしこのまま温室効果ガスを排出しつづけるとどうなる?
気温の変化
1850〜1900年を基準とした
世界平均気温の変化
現在のような化石燃料に頼った開発を続けていくと、21世紀末には世界の平均気温は4℃上昇してしまいますが、排出量が少ないシナリオをたどると、上昇を1.5〜2℃に抑えることができます。今、私たちがどういう未来を選択するのかが問われています。
地球規模の変化
暮らしへの影響
-
気温や海水温上昇による
野菜や魚介類の高騰 -
35℃以上の猛暑日が増え、
熱中症患者の増加 -
豪雨による洪水や
海面上昇で住む場所が喪失
人間の活動によって排出された温室効果ガスが、巡り巡って私たちの生活を脅かします。すでにその兆候は現れており、このままだと被害は拡大の一途をたどることになります。
では具体的にどのように
対策すればよいのでしょうか?
世界が目指す
「2050年 CO2排出量実質ゼロ」
まずは、温暖化の主要因となっている
CO2の排出量を抑えること。
世界が一丸となって目指すこの目標に、
どのように向き合っているか確認しましょう。
CO2排出量実質ゼロとは?
できる限りCO2の排出を抑えつつ、どうしても発生してしまうCO2に関しては、植樹や緑の保全によってCO2の吸収量を増やして、排出量をプラス・マイナスゼロにする取り組み。別名「カーボンニュートラル」とも呼ばれ、世界では2050年にCO2排出量実質ゼロを達成できている状況を目指しています。
2050年までに
CO2排出量実質ゼロを表明した国
※2021年10月8日現在のデータに、
気候サミットで参加表明した米国・ブラジルを加えています。
現在、138カ国※が2050年までにCO2排出量ゼロを目指すことを表明しています。全世界のCO2排出量に占める割合は39.0%(2017年実績)に相当します。一時パリ協定から離脱していたアメリカも2021年2月に復帰し、CO2排出量がもっとも多い中国は2060年に実現することを表明しています。
各国の目標
日本・EU・英国・米国・中国の
「CO2排出量実質ゼロ」表明状況
※NDCとは、国が決定する貢献(Nationally Determined
Contribution)のこと。パリ協定(2015年12月採択、2016年11月発効)では、
全ての国が温室効果ガスの排出削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として5年毎に提出・更新する義務があります。
(経済産業省が各国のデータを元に作成した資料を元に画像制作)
一口にCO2排出量ゼロを目指すといっても、達成までのシナリオは各国さまざまです。 2021年4月の気候サミットにて、日本ではまず2030年までに2013年度比46%減を、またさらに50%減に挑戦することを表明しています。
達成に向けての
アプローチ
温暖化の流れを少しでも食い止めるには、
CO2の排出を減らし再生可能エネルギーに
置き換えることが急務。
現状のエネルギー構成と解決に向けた具体的
な方法をチェックしましょう。
脱化石燃料と
再生可能エネルギー
電源構成
出典:エネルギー白書2024(資源エネルギー庁)2022年時点で、約7割を化石燃料由来のエネルギーに頼っていた日本。一方、再エネ比率は約22%となっています。2030年には、野心的な目標として、化石燃料を41%程度、再エネ比率36~38%にすることが閣議決定されました。
電力量に占める
再生可能エネルギー比率の比較
出典:資源エネルギー庁(データは日本のみ2022年度、他国は2021年度)
フランスを除くヨーロッパの各国はおおよそ30〜40%が再生可能エネルギーで占めています。日本は2022年度時点で21.7%。CO2排出量1位2位の中国やアメリカもまだ再エネ比率は少なく、今後の動きが注目されます。
カーボンプライシング
カーボンプライシングとは、炭素に価格をつけて市場のメカニズムによって排出を抑制するしくみのことです。炭素を排出すると損をし、削減すると得する形で、世界全体で合計64のカーボンプライシングが導入済み(2021年4月時点)となっています。
カーボンプライシングの例
- 炭素税
-
CO2排出量に比例して、
課税を行うこと
- 排出量取引
-
企業ごとに排出量の上限を決め、
余った分を売買
炭素税は1990年にフィンランドで導入され、その後EUにも広がりました。日本でも「地球温暖化対策税」という実質的な炭素税が導入されています。(ただし税率は低い)「排出量取引」もEUから導入され、日本でも2026年度からの本格始動が予定されています。
今、わたしたちに
できること
-
家庭の電力を
再生可能エネルギーに -
できるだけ徒歩や
公共交通機関を選ぶ -
温暖化対策している
企業の商品を買う
普段の生活の中で、温暖化対策を意識すると、自ずと行動も変わってきます。電力の選択、移動手段の選択、買い物の選択、これらすべてが地球温暖化に対する意思表示となります。
私たちがどういう未来を選ぶのかを考えて行動することが大切です。
しかし、個人でできる
取り組みの効果はごくわずか。
さらに世界全体を変えていく
必要があります。
今回のSDGs目標
気候変動に具体的な対策を
気候変動及びその影響を
軽減するための緊急対策を講じる
1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。同研究所気候変動リスク評価研究室長、地球システム領域副領域長等を経て、2022年より現職。総合文化研究科広域システム科学系教授を兼務。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に「異常気象と人類の選択」「地球温暖化の予測は『正しい』か?」、共著書に「地球温暖化はどれくらい『怖い』か?」「温暖化論のホンネ」等。