「1ヶ月プラ使わず生活してみた」SNS動画で''面白い''を入り口に社会を知るきっかけを #豊かな未来を創る人

「1ヶ月使い捨てプラスチックを使わずに生活してみた」「牛をお肉にして食べるまで、1週間牛飼いになってみた」――。「日本一面白く社会を知れる」をコンセプトに、こうしたユニークな企画を1分間の動画にして、YouTubeやInstagramで配信する「RICEメディア」。環境問題やごみ問題などの社会課題をテーマに扱いながらも、エンタメ要素を交えてテンポ良く展開される動画が話題を集めています。リリースから2年でSNS総フォロワー数は50万人を突破。視聴者の半数は、24歳以下のZ世代です。

このメディアを立ち上げて自ら出演もしてきたのが、トムさんです(本名 廣瀬智之)。独自の切り口や見せ方で支持される今の「RICEメディア」になるまでは、紆余曲折あったのだとか。「僕にはできない」と思っていたというトムさんが社会課題に興味を持ち、どのようにして「面白く社会を知る」メディア事業が形作られてきたのか伺いました。


トム

1995年滋賀県生まれ。本名廣瀬智之。立命館大学卒。高校の授業で社会活動に興味を持つ。開発途上国の力になりたいと、大学時代にはカンボジアでボランティア活動や染め物ブランドの立ち上げに携わる。その後報道写真家を志し、カンボジアはじめ東南アジア、オセアニア、アフリカなどの国々で取材活動に取り組む。開発途上国に関心を持つ人を増やそうとジャーナリストを目指しつつも、社会的な発信が届きづらくなっている現状に課題意識を持ち、社会起業家としての道を選択。ボーダレス・ジャパンの起業家採用に応募し、2019年Tomoshi Bito株式会社を設立する。2021年にYouTubeチャンネル「RICEメディア」開設。SNSでの発信で社会課題の未認知を打破する事業に取り組んでいる。

SNSで社会課題を日本一面白く発信する


── 視聴者と同じZ世代のリポーターたちが、社会課題にまつわる取り組みを、体当たりで取材する動画の数々。これまで具体的にどのような動画が人気でしたか。

「1ヶ月使い捨てプラスチックを使わずに生活してみた」というシリーズ動画は、かなり多くの人に見てもらいました。ビニールで個包装されている食材や日用品など、使い捨てのプラスチックが使われている製品を一切使わない。そんな生活に僕が30日間チャレンジする様子を配信したんです。

コンビニ弁当も買えない。市販のシャンプーやトイレットペーパーも使えない。リアルな暮らしぶりを見たユーザーから、「身の周りにどれだけの使い捨てプラスチックがあふれているかに気づいた」といったコメントをたくさんもらいました。


シリーズ動画「1ヶ月使い捨てプラスチックを使わずに生活してみた」で、自ら買い揃えたプラスチックフリーの日用品を紹介するトムさん(本人提供)

── メディアの総再生回数は3億回を超えたとのこと。多くの人たちに見られる理由は、どんなところにあると感じますか。

「社会課題について考えよう」というメッセージを入り口にするのではなく、あくまでもコンテンツとして、つい面白くて見てしまうような切り口や見せ方を大事にしているところだと思います。

日々忙しく生活する現代人は、ただでさえ情報があふれている中、すき間時間や余暇の時間でわざわざ自ら社会問題について知ろうと思う人は多くないと思うんです。だからこそ、普段何気なくSNSで見るエンタメコンテンツのような形式で動画を配信をして、気づいたら社会のことを面白く知るきっかけを作りたいと思っています。


「僕には無理だ」を変えた出会い


── 社会課題に興味を持つきっかけは何だったのでしょうか。

高校生の頃に聞いた、国際教育支援を行うNPO「e-Education」の創業者である税所篤快(さいしょ あつよし)さんの講演です。税所さんはご自身について「高校生の頃は偏差値28くらいの落ちこぼれだった」と話していたんですね。

同じ高校時代で考えたら、「落ちこぼれ」だった税所さんより僕の方が偏差値が上なのに、僕にも税所さんと同じように世界を舞台にイノベーションが起こせるかと言われたら、無理だと思いました。でも同時に「なんで無理だと思ったんだろう」と疑問に感じて。

そもそも僕は自己肯定感があまり高くなかったので、どんなことにおいても「自分にはできない」と考えてしまいがちだったんですね。でも、税所さんの話を聞いた時、挑戦してもいないのに自分にはできないと勝手に思い込んで逃げてきただけだったと気がついたんです。

幼い頃にヒーローに憧れた人は沢山いると思います。僕もその一人でしたが、そうなるなんて無理だって諦めてしまっていたんですよね。でも、税所さんのように自分も誰かを救えるなら。できるか分からないけれど、やってみたいとその時に思えたんです。それから社会課題に興味を持つようになりましたね。

きっと、税所さんが幼少期から優秀な人だったら今こうなってないと思います。落ちこぼれだったからこそ、税所さんの話に大きな影響を受けました。


高校時代のトムさん(本人提供)

── 高校生の当時、社会課題の中でも特に興味を持った分野はありましたか。

貧困問題です。というのも、税所さんが取り組んでいる分野で、話を聞いて「かっこいいな」と思ったんですよね。それで大学1年生の頃、友達と一緒にカンボジアへ行ったのが最初の取り組みでした。ただ、カンボジアには行ったものの、「僕にはやっぱりできないかも」「何をしたらいいんだろう」と悶々と考えていました。

── そこから変わったきっかけは。

カンボジアに行った時、貧困層のお母さんたちに物作りを通じて収入を得る方法を伝える支援活動をしていた日本の方々とゲストハウスが同じだったんです。自分から話しかけに行けなかったものの、SNSでつながることができて。その方々の投稿を見て「いいなぁ」と思いながら過ごし、あっという間に1年が経ってしまいました。

その時にふと思い出したのが、「会いたい人がいるならとにかく会いに行け」という税所さんの言葉だったんですね。このままではいけないと会いに行くことを決意し、メッセージを送ってカンボジアで会うことになりました。

その時の僕は、自分の強みを作るためにいろいろな趣味に挑戦していました。その一つにタイダイ染めという染色技法で洋服を染めるというものがあって。それを彼らに話すと「それ、カンボジアのお母さんたちに教えたらいいじゃん! 今度教えに来てよ!」と言ってくれて、カンボジアでその活動を始めることになったんです。そこから、お願いすれば会ってもらえたことや、自分の持つもので現地の人の力になれたことなど、成功体験を重ねる中で少しずつ自信がついていきました。



「RICEメディア」ができるまで


── 最初は現地での仕事を生み出す活動をされていたのですね。そこから現在の「発信」というスタイルにはどのような経緯で変わったのでしょうか。

タイダイ染めをビジネスにしようとすると、それが良いと思って買ってもらえる構造を作っていかなければならないじゃないですか。でも、もともとは個人的な趣味として始めたので、そこまでのパッションが僕にはなかったんです。これは本当にやりたいことなんだろうか。そんな気持ちが次第に大きくなっていきました。

そこで、カンボジアでのタイダイ染めの活動を勧めてくれた方々に相談したところ、「大切なのは手段じゃなくて目的だよ。困っている人を助けたいなら、その手段は変わっていい」と言っていただいたんです。その言葉をきっかけに、自分がしたいことを改めて見つめ直しました。

その時、たまたまフォトジャーナリストの安田菜津紀さんの本を読みまして。それで、ジャーナリストは「伝える」ことで困りごとの解決に繋げていく仕事だと知ったんです。もともと僕は人に何かを伝えることが好きで、それまでもカンボジアで出会った人を招いて講演会を企画したり、そこで自分が挑戦したいことをスピーチしたりしたことがありました。税所さんの話を聞いて芽生えた「困っている人の力になりたい」という思いと、自分が好きだった「伝える」ことをかけ合わせる。僕がやりたいことはまさにこれだと思い、発信の方向へ舵を切ることにしたんです。


報道写真家として7か月間フィジーに滞在し、現地の人々と生活を共にした(本人提供)

── そこからメディアの道へ?

その後は、報道写真家を目指して東南アジアやアフリカ、フィジーなどの国々を取材して周りました。そうしてメディアで記事を書くなどの発信に取り組む中で、日本における社会や政治への参加意識が低いことを感じるようになったんですね。その原因を自分なりに考えてみて、意見を持っていない人が多いからなのではないかという仮説を持つようになりました。

大学を卒業後、ソーシャルビジネスを世界中で展開するボーダレス・ジャパンに起業家採用で入社し、1年目で起業して「どっち?」「Social Post」というニュースアプリをリリースしました。仮説をもとに、自分の意見を作る練習ができるよう、ニュースに対して賛成や反対の投票をしたり意見を述べたりでき、投票をすると他の人の反応を見られる仕組みにしたんです。

このアプリ事業を通じて分かってきたのが、気になった瞬間だけはみんなニュースを見るけれど、興味関心は持続しないということ。気がつくと、選挙前のタイミングにアクセスが一気に伸びて、選挙の投票先を考える際のお役立ちサイトのようになっていました。

その気づきをきっかけに、そもそも人の興味関心が醸成される場所にもっと介入していかなければならないのではないか、と思うようになったんです。それで今度は「教育」に事業をシフトチェンジしました。

当時は探究学習が学習指導要領に入るタイミングでした。そこで、探究学習のプログラムとして、社会課題解決に取り組む会社と学校がコラボレーションして、社会課題の解決策を子どもたちと一緒に考えるプログラムを始めました。


起業したばかり頃、事業の在り方をさまざまに模索していた(本人提供)

── メディアから教育に。そこからRICEメディアはどうやってできたのでしょうか。

教育事業を通じて、人の中で関心が醸成されていくのと同じように、無関心も醸成されていくと学んだんです。接点がなくなればなくなるほど、人はそのことに対して興味がなくなっていってしまうものなんですね。

人の興味関心において、教育は接点を作ることはできるかもしれないけれど、その後のフォローまではできません。それでどうしようかと考えていた時、一度離れたメディア事業にもう一度挑戦したい思いが大きくなってきまして。僕は人に何かを伝えることがやっぱり好きなので、メディアを諦めていいのかという思いはずっと心のどこかにあったんですね。コロナ禍で学校を回りづらい状況なのも後押しして、「RICEメディア」としてメディア事業を始めることにしました。

普段の暮らしに社会課題を知る入り口を


── RICEメディアを立ち上げた当時から現在のようなエンタメスタイルだったのですか。

立ち上げた頃、社会のことを心からどうでもいいと思っている人は少数で、みんな無関心なわけではなく、知らないだけなのではないかという仮説を持っていました。そこで、まずは知ってもらうことから始めるべく、忙しい日々の中でも1分間で社会を知ることができる動画の発信を始めました。

それで当時は報道的な動画を作って、Twitterで「リツイートの数に応じて植林をします!」みたいなやり方をしていたんですよ。でも全然伸びなくて、1万回再生されたら大喜びするくらいでした。最後まで動画を見た視聴完了率の割合も8%ほどで、この動画には価値がないのだと実感させられました。

そこで考えたのが、人が見たいと思えないものをインセンティブによって無理やり広げていくのではなく、本当に見たいと思える動画を作れば自然と広がっていくんじゃないかということだったんです。例えばアニメやドラマって、来週の話をみんな心待ちにしていて、放送日に「待ってました!」と言わんばかりに見るじゃないですか。それと同じくらい見たくなるような動画を作れないかと。

それで、純粋に自分自身の心が躍り見たいと思う動画を作ろうと決めて、それを表現したのが、今のRICEメディアのフォーマットだったんですよね。動画を変えてからは視聴完了率が40%、どのくらい動画が見続けられたかを示す視聴維持率は70%にまで上がりました。


RICEメディアの撮影をする様子(本人提供)

── 沢山ある社会課題の中で、発信するテーマをどのように決めているのですか。

僕たちが実現したいことは、社会課題を知らない人への入口を作ることなんですね。ただ、社会課題といっても様々ある中で、人権問題や紛争など人の命がかかっているものには、見ているだけで苦しくなるようなニュースも沢山あるじゃないですか。もちろん、そうした情報を伝えることも必要だと思うのですが、みんながそれを入り口に社会課題に関心が持てるかというと、そうではないと思うんですね。

逆に言えば、僕たちの暮らしと直接繋がっていて、普段の生活の中にあるようなテーマだったら、気軽に見ることができて興味を持ちやすいのではないかと思うんです。例えば、普段口にしているチョコレートを入り口に原料であるカカオにまつわる労働問題を知ったり、使い捨てプラスチックを入り口にごみ問題を知ったり。暮らしと繋がっているからこそ自分にできることも連想しやすいので、日常の延長にあることを起点にテーマを決めています。

── 報道とはまた違うメディアとしての役割や価値を持っているのですね。

従来のジャーナリズムやマスメディアも社会に必要な機能だと思うんですよ。一方で、それでは情報が届かない人がいるのも事実だと思っていて。その層にどう情報を届けていくかに挑戦している人はあまりいないと感じているので、そこを僕たちが担えたらいいなと思っています。



知らないうちに知っている。実現したい社会像


── 一番やりがいを感じるのはどんな時ですか。

まずはやっぱり視聴者さんの声や反応を聞いた時ですね。YouTubeには特に沢山のコメントをいただいていて、「今まで考えたこともありませんでした」「RICEメディアの動画で初めて知りました」「初めて最後まで視聴できた社会的コンテンツでした」など、嬉しい声をいただいています。

それに、実際に行動を起こしてくれている人も沢山いるんですよ。以前「1週間牛飼い生活」という、アニマルウェルフェア(動物福祉)の現状や畜産業について伝えるコンテンツを作ったんです。それを見た視聴者さんの中には、「僕もやってみたいです」と言って、動画と同じように牧場生活をされた方がいました。RICEメディアを見てもっと知りたいと思って、僕らが取材に行ったところにアポイントを取って訪問した高校生もいましたね。


動画「1週間牛飼い生活」の取材では、牧場で牛の世話を体験しながら、食用の肉になるまでの過程を追った(本人取材)

興味を持ってもらえない、興味がない人にどう届けたらいいのかって、社会活動をしている多くの方々が頭を抱えていることだと思うんですよ。僕自身も分からなくて、ずっと悩んできたので、届けたい層にちゃんと届いてるという実感が持てる瞬間はめちゃくちゃ嬉しいですし、やりがいを感じます。

もう一つ、取材をさせていただいた方々からの声を聞いた時にもすごくやりがいを感じます。RICEメディアで紹介した取材先には、沢山の応援者が流れていくんです。例えば「TABETE」というフードロスの会社さんを紹介させていただいた時は、RICEメディアを経由して約13万人のユーザーが増えました。

そのように「ユーザーが増えました」「クラウドファンディングの支援者が増えました」とすごく喜んでもらえるんですよね。社会のためを思って活動している人たちが、日の目を見て、活躍していってもらえたら僕も嬉しいので、少しでもその後押しをできていると思うと大きなやりがいを感じます。

── 今の取り組みの先に目指す社会像やビジョンを教えてください。

良い意味で人間ってそんなにできた生き物じゃないと思っているんですよ。だから、一時は社会課題に興味を持ったり取り組んだりしていても、その情熱を保ち続けられる人って少ないと思うんですね。

そこで大事になるのが、生活の中で無意識のうちに社会のことに関心が向いたり、そういう選択をしたりするような仕組みを、いかにこの社会にデザインできるかだと思っています。ただSNSを見ていれば社会を楽しく知ることができるコンテンツが流れてきて、調べなくても社会課題に触れて、気づけば社会に目が向いている。そんな社会を、僕たちのメディア事業を通じて実現したいと思っています。

でも、僕たちはRICEメディアにこだわっているわけではなくて、むしろRICEメディアだけでは全然足りないと思っているんですよ。これからは、他のメディアも作ったり、タレント事務所を作って社会的な発信をするインフルエンサーを増やしたり、マスメディアと協業したり......。それによって、社会課題について配信する人をどれだけSNS上に溢れさせられるかが、僕たちの使命だと考えています。




  • 安藤ショウカ
    取材・編集 木村和歌菜
    撮影 唐牛航

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