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物件ではなく、借りたい人の情報を公開する「さかさま不動産」。空き家問題への取り組みで、地域につながりを

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少子高齢化が進む日本社会で近年深刻なのが「空き家」問題だ。日本政府 によると、日本の空き家は1998年から2018年20年間で、約1.9倍(182万戸から347万戸)に増加しており、今後も急速に増加していくと予想されている。空き家が放置されると、建物の劣化による倒壊や崩壊、火災、ごみの不法投棄など様々な悪影響が生じる。

そうした課題に対して、従来の不動産の構造を再考しているのが、「さかさま不動産」だ。彼らはプラットフォーム上で「物件」ではなく、「借りたい人」の情報を公開することで、空き家問題を解決するだけではなく、新たな地域の文化の潮流を生み出そうとしている。今回は、さかさま不動産屋代表の水谷さんに空き家問題とその解決に向けた取り組みについてお話を伺った。

水谷岳史

水谷岳史(みずたに・たけふみ)

株式会社On-Co 代表取締役
1988年生まれ。三重県桑名市出身。高校時代から商店街活性化、飲食や音楽などのイベント企画に携わる。家業である造園業に従事し、デザインや施工、設計管理スキルを習得。同時に空き家を活用したシェアハウスや飲食店を運営。ライフデザインやコミュニティ形成に取り組む。最近では都市部と過疎地(山村・漁村)の特徴を捉え、関わる人の主体性を上げる企画を創出。誰もが自由に挑戦と失敗ができる社会を目指し、実証実験を続けている。

古民家再生から、空き家問題への関心へ

もともと古民家の利活用を行っていた水谷さんは、愛知県の名古屋駅近くの長屋を借り、シェアハウスを運営していた経験を持つ。庭師だった水谷さんは、内装や家具などあらゆるものをDIYするようになった。

水谷

最初に借りた物件のオーナーのつながりで、他にも空き家を借りていくことになったのですが、その中で不動産情報に載っていない空き家の多さに驚きました。そして、自分が意図せず空き家の課題の解決とコミュニティの運営を行ってきたことに気づき、現在のさかさま不動産の構想を思い付きました。また、これまで大家さんと直接交渉し、改装も自分たちで行いスペース活用を運営した経験から、実際に空き家の貸し手と借り手のマッチングを行うさかさま不動産のサービスを始めることになったのです。

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2040年には40%を超えるという試算 も出ているほど、深刻な空き家問題。一方で、プライバシーや近所付き合いの観点から、家主側はあまり空き家の情報を公開したがらないという。

水谷

今から空き家をどのように活用し、処分していくのかを考えていく必要があると思います。空き家問題について、国土交通省の調査によると、「広く一般に不動産情報を提供しても良い」と回答したのは15.6%でした。また、情報を出さない大家さんも多く、「情報の提供は一切行わない」と回答したのは34.4%でした。

一方で、借り手や利活用方法、賃貸条件次第で貸すことも考えている大家さんは45.8%存在します。この、情報公開の現状と大家さんの本心との間のギャップが大きいと感じますね。住人との信頼やコミュニケーションによって、大家さんは空き家を貸してくれるのではないかと思うようになりました。

借りたい人から貸したい人へ。「さかさま」な関係性

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空き家を利活用し、本屋を開店した借り手も

不動産情報の公開のしにくさに違和感を覚えた水谷さんは、従来の「貸したい人から借りたい人に対する情報発信」でなく、あえてその関係を「さかさま」に捉え、「借りたい人の情報」を公開することにした。そこで、まず水谷さんたちは物件を借りたい人に対してインタビューを行った。

水谷

このインタビューは、いわば借りたい人たちのやりたいことを言語化する作業です。また、空間づくりの相談やフォローも無料で行っています。「無料」で実施することに対して指摘されることもあるのですが、仲介手数料をもらう形だと、いかに多くの「量」の物件を契約させるかという世界になってしまいます。僕たちがやりたいのは、空き家を通して人々がどのようにつながり、どんな物語になるかを見ていくことなのです。

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さかさま不動産は、2018年にクラウドファンディングを実施し、2019年からサービスの運営を開始した。実際にサイト上では空き家物件を借りたい人の情報をアーカイブしており、2020年6月にサービスをリリースしてから現在14件のマッチングがあるという。

水谷

さかさま不動産では、大家さんが不動産情報を出さなくて良いようなシステムを考案しました。大家さんたちが情報を公開したくないのは、情報を公開することが不用心という側面もあって。住所が特定されるので、人が少ない地域の空き家は侵入リスクがあります。また、誰の空き家かわかることで、「実家を捨てるのか」や「お金に困っているのか」など、近所のトラブルにもつながります。

大家さんたちは空き家を街のために使いたいという気持ちを持っているので、彼らの「目的を持って貸す」という想いをくすぐることが大切かなと思っています。大切なのは、消極的な大家さんの心を「こんな風に活用されるなら物件貸したい」と動かすこと。そして非流通物件をどのように人々につなげるかという意識を持って取り組んでいます。

地域を巻き込み、新たな人のつながりへ

実際に、さかさま不動産を通して、本屋や自転車屋、海洋プラスチックアーティスト、駄菓子屋など、多岐にわたる人々が空き家とのマッチングを果たした。加えて、マッチングした人たちのコミュニティも醸成されているという。

水谷

一般的に、不動産仲介をしたら顧客とのつながりは終了しますが、さかさま不動産では、マッチングした人がまた新たに人を呼んで街を盛り上げていくということが起きています。空き家物件を活用してやりたいことが明確だと、それが求心力になっていくんですよね。地域のキーパーソンが間に入ってプレイヤーを地域に呼び込むという関係性が生まれています。

だからこそ、どんな人が街に来てほしいかをイメージすることが重要だと思っています。さかさま不動産は、「借りたい」という借り手の気持ちを基盤にアクションを起こしていますが、マッチングした借り手の傾向として、夢を持っていたり、まちづくりに対する意識が強かったりしていて、まさに地域で活躍する「ローカルインフルエンサー」の存在が街づくりにとってもポイントだと感じます。

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今後、さかさま不動産は、東海地方のみならず、全国の各地域で支局制度を開始する予定だ。こうしたさかさま不動産の取り組みを通して、ただ空き家を埋めるのではなく、地域にとって多種多様な人が事業や文化を展開する流れを生み出していきたいという。

水谷

すでに3地域がさかさま不動産支局の展開を始めました。現在15地域から問い合わせが来ていて、空き家問題についての勉強会を行っています。今後、全国各地でさかさま不動産の取り組みを行い、空き家に関する情報のネットワークを構築したいと思っています。

編集後記

「空き家問題」を解決するには、実際に空き家と借りたい人をマッチングする必要があるが、そのマッチングがうまくいかないことの根底には、「ご近所付き合い」など地域の人々とのつながりの欠如があるように思う。地域の人との交流が少ないと、お互いに情報交換ができず、空き家問題の存在にも気付けないなど、借り手と貸し手の連携が難しくなる。空き家問題のアプローチとして、さかさま不動産は、単に空き家と物件を借りたい人をマッチングするのみならず、その後地域でどのような人的交流が生まれるかという視野も入れて活動していることが印象的だった。

また、今後取り組みたいと話していた支局制度によって、特定の地域だけでなく、全国的な人のつながりも生まれるだろう。さかさま不動産の取り組みは、結果として空き家問題だけでなく、私たち一人ひとりの孤立化までもアプローチできるのではないだろうか。

【参照サイト】さかさま不動産 ホームページ

【参照サイト】さかさま不動産 Twitter

【参照サイト】On-Co ホームページ

【参照サイト】株式会社On-Co Facebook

元記事は こちら

Mari Kozawa

Mari Kozawa

一般社団法人TSUNAGU 理事。ウェブメディアなどでエシカルファッションや伝統的なものづくりについて発信している。現在、東京工業大学大学院にて人類学の視点で養蚕文化を研究し、持続可能なものづくりの形を探究中。
Twitter: @mari_kozawa

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