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インドで女性のバス乗車が無料に。背景にある、深刻なジェンダー格差

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運賃が高すぎて仕事に行けない、給料のほとんどを通勤に使ってしまう──日本でそんな経験をすることは少ないかもしれない。しかし、こうした課題に日々直面してきた人たちがいる。インドの女性たちだ。

2022年時点でのインドの労働参加率は、男性が73.6%であるのに対し女性は24%にとどまり、中東諸国に次いでジェンダーギャップが最も大きい国のひとつとなっている(※1)。さらに、女性が仕事を得たとしてもその所得は非常に少ない。インド全体における女性の平均月給は、正規雇用で1万2,667.5インドルピー(約2万2,800円)、非正規雇用では5,156.5インドルピー(約9,280円)であり、どちらも男性より低額であることが指摘されている(※2)。

こうしたインドにおけるジェンダー格差を是正する希望となっているのが、女性客のバス料金無料化の動きだ。このプログラムは「Shakti(ヒンディー語で強さの意)」と呼ばれ、これまで国内各地で実施されてきた。2019年のデリーにおける導入を皮切りに複数の州で実施され、インド南西部のカルナータカ州も2023年6月から女性客のバス料金を無料化した。インドでは女性の約52%が毎日バスを利用し、約29%が週に数回利用することから(※3)、多くの女性がプログラムの対象となることが分かる。

カルナータカ州でShaktiが導入されて約4ヶ月が経ち、とある女性は「毎日120インドルピー(約217円)のバス運賃支払っていたが、今はその支出を抑えることができる」と、The Hinduの取材 に答えている。

毎日217円のバス代。たったそれだけかと思うかもしれないが、彼女たちの給料を踏まえると高額だ。日本における正規・非正規雇用を合わせた女性の平均年間給与は314万円であるため(※4)、単純計算で女性の平均月給はおよそ26万円。つまり日本での給与に換算すると、カルナータカ州では1日のバス代は少なくとも2,600円ほどに値しうる額であり、日常生活でかなり負担となっていることがうかがえる。

家計の大きな負担となっていた交通費が無料になることは、彼女たちの生活にとって大きな意味を持つはずだ。現在働いている女性たちが給与を食費や教育費により多く回すことができ、今は働くことが叶っていない女性たちにとっては働き始める後押しにもなるだろう。これは女性の視点に立ったまちづくりを試みるフェミニスト・シティの動きとも捉えることができ、インドにおけるShaktiの事例はアジアのなかで一歩進んだ取り組みとも捉えられる。

一方で、女性客のバス料金無料化に対して反発の声もあがっている。私営のバスやタクシーが加盟するカルナータカ州民間交通協会連合は、Shaktiの影響により給与が下がったとしてShaktiに反対するストライキを実施した。どのようにして地域に支持され継続できるプログラムへと改善されるかが今後の課題となるだろう。

もうひとつの課題として、そもそも女性が安心して利用できる環境が整えられていないことがあげられる。インドではバスを利用したことがある女性のうち、約54%は運転手や男性客から運賃が無料であることを揶揄され車内で差別的な発言を受けたことがあり、約80%は運転手がバス停で待つ女性客を無視したことで乗車できなかった経験があるという(※3)。プログラムの形態だけでなく人々の捉え方にもアプローチする必要があるようだ。

そもそも、インドにおいて女性の給料が少ない主な要因は差別であると指摘されている(※2)。男性が優位とされ女性の行動を制限する風潮が根強いと言われるインドだが、ジェンダー平等が求められる社会の潮流にどう対応していけるだろうか。バス料金の無料化だけで終わらず、継続して女性そして市民全体の声に耳を傾けながら、慣習的な考え方にも変化を起こそうとする姿勢が求められている。

元記事は こちら

【参照サイト】 Free Bus Rides Offer Indian Women New Option for Work, and Play|Bloomberg
【参照サイト】 Private buses, autos, taxis threaten to go off the road in Bengaluru on September 11, again|The Hindu
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仲原菜月

仲原菜月(なかはら なつき)。大学在学中にスウェーデン・ウプサラ大学にて交換留学。大学1年次から難民支援や環境問題、ソーシャルビジネスに触れる。一般社団法人Social Innovation Japan / mymizuや一般社団法人Earth Company、上勝町内にてインターン。ウクライナ避難民の写真展「OnOurWayHome」を都内で開催。現在関心のあるテーマは、脱成長、紛争予防、自然観など。

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