寄付の先には何がある? 途上国支援としてのビジネスの可能性を考える
インターネットの発展によって寄付や募金が身近になりつつあるなか、途上国支援において、寄付ははたして最適な手段なのだろうかと疑問を抱く人は少なくないだろう。外交官時代にアフリカと関わったことを機に、現在は現地の商品を販売したり日本企業のアフリカ進出をサポートする事業を手がける株式会社SKYAH代表の原ゆかりさんに、持続的な開発に向けた取り組みについて伺った。
"ワクワク"するサステナブルのヒントを教えてくれた人
原 ゆかりさん
株式会社SKYAH代表取締役、ガーナNGO法人 MY DREAM.org共同代表。2009年外務省入省。在職中にMY DREAM.orgを設立し、ガーナ共和国ボナイリ村の支援活動を開始。2015年に外務省を退職後、三井物産ヨハネスブルク支店に勤務。2018年に独立。「Proudly from Africa」でアフリカの製品を販売するほか、アフリカ進出を目指す日本企業などに対してコンサルティングを行っている。
"調べる"行為を掘り下げ、支援の先を想像する
「途上国の支援やアフリカの開発という文脈で考えるとき、寄付以外の方法が見えてこないと感じる方は多いようなのですが、私としては寄付だけでいいとは思わないというのが、ストレートな答えです」
こう話すのは、外務省や商社勤務などを経て、アフリカと日本をつなぐビジネスを立ち上げた原ゆかりさん。途上国への支援について考える際、紛争や災害時に必要な緊急人道支援としてできることは「寄付がほぼ100%」という一方で、経済的・社会的な自立を目指す開発事業においては、寄付に頼らない開発協力のあり方もさまざまあると続ける。
「最近は途上国の経済的な自立を目指すべく、社会的なインパクトのある投資や、現地の発展を促すビジネスへの支援など、従来の寄付だけではない選択肢も増えているのですが、日本にいるとこういった情報にはあまり辿り着けません。特に日本語で途上国支援について検索すると、出てくる情報のほとんどが寄付関連というのが現状なのかなと。ですがネット上の自動翻訳機能を使って外国語で現地の情報にアクセスしたり、問い合わせをしたりと、 "調べる"行為をもう一段階掘り下げることができれば、寄付はもちろん、それ以外の選択肢も色々と見えてくるはずです」
ビジネスを通じて、アフリカに対する無意識の偏見に気づくきっかけを
原さんは、外務省時代にアメリカの大学院に留学し、インターンでガーナ共和国に滞在した縁からアフリカと関わり始め、現地で本当に求められていると感じた継続的な開発協力のあり方を実現すべく、2019年に日本法人の株式会社SKYAHを設立。アフリカ発の高品質ブランドを届けるオンラインショップ「Proudly from Africa」を開設し、籠編みバックやドライフルーツ、アクセサリーといったアフリカのさまざまな製品を販売している。
「アフリカの貧しい人たちを支援するために買ってあげようというのではなく、まず最初に"いいな"と思っていただけるような商品を扱っています。サイトや商品を見て、アフリカのイメージが変わったと驚かれる方も多く、アフリカに対するアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に気づくきっかけにもなっているようです」
オンラインショップでは自身が現地に足を運び、いち消費者として気に入ったアイテムを多く販売しているほか、コロナ禍で現地渡航が叶わなかった間には既存の取引先から紹介を受けて巡り合った商品も取り扱っている。そのひとつ、ガーナのドライフルーツブランド「イヴァヤファーム」では、果物の種や皮などの生ゴミから肥料などを生成するシステムを工場に導入し、契約農家に液体肥料を無料で配る取り組みも行っている。
「もちろんこのブランドの商品そのものも素晴らしいのですが、廃棄物や無駄を出さない姿勢にとても共感していて。代表の方がどういう思いでビジネスをやっているのか、経済的成長の先に何を見ているのかという点も、ブランドを選ぶ際に重視しています。そして私としては、そうしたブランドを適正な価格で販売する仕組みをつくることで、みなさんが商品を購入すると、生産者にしっかりと利益が残り、結果的に現地の発展につながるということを大切にしています」
さらに原さんは、Proudly from Africaのビジネスを通じて、「現地の子どもたちに身近なロールモデルを作る」ことも目指している。
「自分の手で作ったものを売ってお金を稼ぐことができると、家族に教育を受けさせたり、病院に連れて行ったり、おいしいものを食べさせることができます。これまで活動を続けるなかで、プロジェクトに関わる女性たちの表情や声が徐々に明るくなり、姿勢も良くなり、それを見ていた子どもが"自分も将来はものづくりをしたい"と語り出したことがあって。身近にロールモデルがいるということは、成長のドライブになり、ゆくゆくは現地の人々の自立にもつながるのだと、強く感じることができたんです」
活動のドライバーシートに、当事者が座る
現在原さんはこのビジネス以外にも、ガーナ共和国にある人口2,000人ほどの村のリーダーと共に2012年に立ち上げたNGO法人MY DREAM.orgを通じて、現地の教育支援や衛生管理の向上を目指す活動を続けている。MY DREAMを立ち上げて最初の2年は100%寄付に頼っていたものの、村の人たちは10年の間に事業を成長させて寄付から卒業する目標を自発的に掲げ、2022年に見事実現させた。
「日本の方々には『原さんがアフリカでやりたい支援を、どうやって現地の人に理解してもらったのですか?』と尋ねられることがあります。私からするとその発想自体が違っていて、こちらがやりたいことを押し付けてどうするの⁉ と思うんです」
現地では金銭的な寄付を得て、図書館などの立派な設備が造られたものの、計画から完成に至るまで住民は蚊帳の外だったため、結局は十分に使われなかったり、大事にされなかったりするケースを少なからず見てきたという。
「開発協力について考えるうえでは、一時期的に寄付に頼ったとしても、寄付を卒業するフェーズを見据えていることや、その活動のドライバーシートに当事者が座っていることが、とても大事な要素だと思います。そして外からの寄付やサポートなしでも、継続できる活動や事業なのかどうかというのは、みなさんが支援先や支援方法を選ぶ際の重要な指針にもなるのではないでしょうか」
一人でゼロからプロジェクトを立ち上げる旗振り役よりも、尊敬し共感する現地のリーダーに伴走しながら、現地の支援につながる事業に関わる働き方が合っている、と話す原さん。MY DREAMやProudly from Africaのように、課題に直面する人々が主体となって持続的なビジネスをつくっていくことは、途上国の問題だけでなく、さまざまな社会課題に対しての解決策にもなり得るはずだ。
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三菱電機イベントスクエア METoA Ginza
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