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気候変動を体感したドキュメンタリー映画監督 海南友子さんが伝えたいこと

    

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ツバルやベネチアなど、世界各地の島々が気候変動による水没の危機に直面しています。様々な環境問題が深刻化しているなか、25年程前から気候変動の影響をダイレクトに受けている地域に足を運び、その現状を映像を通じて世に伝え続けているドキュメンタリー映画監督の海南友子さんに、これまでに体感されたリアルな現場の様子や気候変動の実態、6月に海南さんがフェスティバルディレクターを務め、ZOZOも協力する「海のSDGs映画祭2024」についてお話を伺いました。

自分の足で歩む覚悟を決め、飛び込んだドキュメンタリーの世界

── ドキュメンタリーの世界に入られたきっかけは何だったのでしょうか?

大学在学中の18歳の頃に、是枝裕和監督のテレビ局時代のテレビドキュメンタリーに主人公として出演する機会があったんです。その時初めて、「ドキュメンタリー映像を制作する」という仕事があることを知り、社会問題とアートが融合したようなドキュメンタリーの仕事がしたいと思うようになりました。

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2009年の東京国際映画祭のレッドカーペットで。

大学卒業後、NHKの報道局で8年間ディレクターとして働いていたのですが、「自分の名前で、自分の責任で伝えたい」という思いが芽生え、独立することを決意しました。無名だった是枝さんが有名な映画監督になっていく姿を近くで見ていたこともあり、勇気を持って一歩踏み出すと違う世界が開けるかもしれないと感じたんです。「人生は一度きりだから、失敗するかもしれないけれど、挑戦したい」と思ったことが大きかったですね。

ドキュメンタリーの制作を通じて直面した、 気候危機のリアルな恐ろしさ

── 気候変動に着目したドキュメンタリー映像を制作されるに至った理由を教えてください。

30歳で独立した後、初めて携わったテレビ番組の制作で南米チリのパタゴニアという地域を訪れました。その時は氷河でトレッキングの撮影をしていたのですが、撮影を終えて振り返ると、私たちが立っていた場所の対岸があっという間に崩れてなくなる瞬間を目にしました。ビル8階分くらいの巨大な氷河が、一瞬で姿を消したんです。何万年もかけて形成されたものが瞬時に消え去りました。その美しさに圧倒されると同時に、自分の足元が崩れる感覚を体感したんです。
この出来事は自分が住む日本から何万キロも離れた地球の反対側で起きたことですが、その地域にもたくさんの人々が暮らしています。ですから、いつか自分が住む地域にも気候変動の影響が及ぶのではないかと感じました。そこが作品のスタート地点となりました。

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気候変動に揺れる3つの島(ツバル、ベネチア、シシュマレフ)を描いた「ビューティフル アイランズ 〜気候変動 沈む島の記憶〜」(2009年/是枝裕和EP)

── 実際に現地に足を運んで撮影されてきたなかで、特に印象的だった国やエピソードはありますか?

気候変動について取材を始める前は、逃げ惑う人々や苦しんでいる人々がいるのではないかと予想していたのですが、実際は3年間にわたる取材のなかで、そういった光景には一度も出合いませんでした。

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ときには自身で撮影することも。一般の人を撮影する場合は小型のカメラの方が緊張させず、自然体をとらえることができるのだとか。

例えばベネチアでは、一年に何度も膝まで水位が上がってしまったり、レストランが水没して使えなくなるなど、大変なことが日常的に起きていました。でも、島の人々はそれが日常だから仕方ないと受け入れていたんです。この現実を目の当たりにした時、それがリアルな気候変動の怖さなんだと強く感じました。それはツバル、ベネチア、シシュマレフのどこを訪れても、同じようなことを感じましたね。

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南太平洋のツバルの小学校。土壌から染み出した海水によって教室は浸水ではいれなくなる。

さらに、ベネチア本島に定住する人は数十年前と比べて大幅に減少しているということも耳にしました。それでも、観光地として経済活動がおこなわれている。現地の人はもちろん困っているし、緊急時に備えてはいるけれど、人間の力だけでは対処できない自然の影響を受け入れ、変化に対応せざるを得ないという状況でした。これは島に限った問題ではなく、今後海岸線に近い地域でも同様の問題が起きる可能性があるのではないかと危機感をもっています。

気候危機の影響は、身近な場所にも及んでいる

2022年に、アメリカのコロンビア大学に客員研究員として留学したのですが、そこで温暖化に対する2つのアプローチについて学ぶ機会がありました。1つは「Mitigation(ミティゲーション=緩和)」です。これは、CO2などの温室効果ガスの排出量を削減し、気候変動を抑制するための取り組みを指しますが、これだけではすでに追いつかなくなっているのが現状です。そこで重要となるのが、「Adaptation(アダプテーション=適応)」。つまり、変動してしまった後の環境をいかに受け入れ、適応していくかという時代に入っているということです。先ほどお話ししたような島がその一例ですが、これは将来私たちが直面する世界なのかもしれません。

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米国アラスカ州では、永久凍土が溶けて海岸線が後退している。海岸近くにあった家は次々と崩落している。

この映画は国内外の映画館で上映されましたが、特に沖縄や北海道の人々からは、ツバルやシシュマレフの問題を身近に感じるという声が多く寄せられました。「海岸線が後退している」とか「昔は子どもたちが氷河の上で遊んでいたけど、今はできなくなった」という話をたくさん耳にして、映画に出てくる島々で起きていることは、日本国内でも、地域によっては既に起きていることでもあるのだと感じましたね。

海のSDGs映画祭2024
海南さんが主催する映画祭で、海をテーマにセレクトされた映画上映、またSDGsワークショップや専門家を招いてのシンポジウムなども同時開催します。子どもから大人まで、海や地球、SDGsについて楽しみながら学べる機会になることを願って企画された映画祭です。
「ZOZOと学ぶSDGsワークショップ」では、海洋プラスチックごみをリサイクルした素材で、オリジナルTシャツやビーズストラップを制作します。
詳細は映画祭公式サイトや公式Xをご確認ください。

会期:2024年6月1日(土)〜6月8日(土)
会場:東京・渋谷 国連大学、ヒューマントラストシネマ渋谷
詳細:(※1)(※2)

元記事はこちら

海の豊かさと可能性を体感「海のSDGs映画祭2024」

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「海のSDGs映画祭2024」の画像
海南 友子

海南 友子(カナ トモコ)

1971年、東京都生まれ。日本女子大学在籍中に、是枝裕和のテレビドキュメンタリーに出演し映像の世界へ。NHKの報道ディレクターとして環境問題の番組などを制作し、2000年に独立。サンダンス映画祭など国内外で受賞多数。代表作「ビューティフル アイランズ ~気候変動 沈む島の記憶~」(2009年/是枝裕和EP)「いわさきちひろ〜27歳の旅立ち~」(2012年/山田洋次EP」抱く{HUG}」(2016年)など。また「海のSDGs映画祭」「キッズ&ティーンズ ショート動画コンテスト」でフェスティバルディレクターを務める。

  • 撮影 高村 瑞穂

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