環境破壊の最前線から生まれた、生物多様性を守るアプリ。ビジネス活用の注目集まる!
スズメをはじめ、地球上の全ての生物はお互いにつながりあって生きている。どんな生物も一人だけで生きることは難しい。私たち人間の暮らしもまた、生物多様性が生み出す恵みによって支えられている。
しかし近年、人間が引き起こした地球温暖化や森林破壊の影響を受け、過去の大量絶滅に匹敵するペースで生物多様性が失われている。生物多様性が失われ続けると、人間をとりまく環境も悪化の一途をたどる。これまでに地球は5度の大量絶滅を経験したが、「6度目の大量絶滅」で絶滅するのは人間かもしれない――。
そんな悲惨な未来を防ぐために、私たち一人ひとりには何ができるのか。世界中の環境や生物多様性のデータを集め、環境保全に役立てることを目指す株式会社バイオームの藤木庄五郎さんに、三菱電機イベントスクエアMEToA Ginza 「from VOICE」編集部が話を伺った。
"ワクワク"するサステナブルのヒントを教えてくれた人
藤木庄五郎さん
株式会社バイオーム代表取締役。京都大学在学中、熱帯ボルネオ島にて2年以上キャンプ生活をしながら、衛星画像解析を用いた生物多様性可視化技術を開発。2017年3月京都大学大学院博士号(農学)取得。2017年5月バイオームを設立、代表取締役就任
絶滅の危機に瀕する世界中の生き物たち
生物情報のデータ収集に取り組み、生物多様性の保全を目的とした事業を手がける株式会社バイオーム。代表の藤木さんは「ちょうど昨年、鳥に関する大型の国内調査が約20年ぶりに行われたのですが、スズメの数はかなり減ってしまったようです。スズメだけでなく、他の動物や植物を取り巻く環境もここ数十年で大きく変化しています」と語る。
今や生物多様性の減少は、日本だけでなく世界全体の大きな問題だ。ある国際的な調査では、今後数十年でおよそ100万種の生物に絶滅の恐れがあるという結果が出ている。陸上では1900年以降、在来種が20%以上も絶滅した。
こうした現状をふまえて、バイオームでは世界中の生物や環境をビッグデータ化し、生態系の保全を目的としたビジネスに取り組んでいる。企業や自治体向けには、それぞれの希望に応じて生物の生態に関するデータを提供。一般ユーザ向けには、会社名と同じアプリ「Biome」(バイオーム)を通じて、生物の存在を身近に楽しめるサービスを展開する。このアプリは、動物や植物の写真を投稿すると位置情報や過去のデータからAIが自動で解析し、種類や名前を教えてくれる機能が特徴である。多くの人が投稿しデータが溜まるほど、検索の精度も向上する。
集められたデータは生態系の管理システムの構築にも役立つ。バイオームでは生物の増減を正確に記録していくことで、将来的には生態系の予測や資源管理などへのデータ活用を見込んでいる。
生物多様性の宝庫・ボルネオ島で見た、環境破壊の最前線
藤木さんの生き物に対する関心の原点は、小学生時代に遡る。近所でいつも釣っていたフナが池から姿を消し、突然外来魚ばかりが釣れるようになった。
「釣れる魚が急に変わったことが不思議で、同時に不安を感じました。それで図書館で色々な本を読んで調べるうちに、人間の行動がきっかけで生態系が変化していることを知ったんです」
自らの関心を突き詰めるため、大学では生態系の研究に没頭。大学院在学中はフィールドワークとして、マレーシアのボルネオ島のジャングルを定期的に訪問した。ボルネオ島は「生物多様性の宝庫」とも呼ばれるほど、豊かな生態系が広がる地域が多い。しかし藤木さんはそこで、環境破壊の現場に遭遇することになった。
「植物記録の現地調査を進めていたところ、ジャングルの一部ではすさまじい勢いで伐採が進んでいたんです。360度地平線まで伐採され尽くした熱帯林の跡地を見て、このままでは地球がぼろぼろになると感じました」
森林が失われれば失われるほど、そこに生息する野生動物や昆虫、そして植物といった生物が姿を消す。「今すぐに行動しなくてはいけない」と強く感じた藤木さんは、大学院卒業後の2017年にバイオームを設立。創業当初から生物多様性の保全を慈善活動ではなく、ビジネスとして成り立つ仕組みづくりに注力している。
「人間は利益を得るために森林を伐採し、環境を破壊してきました。つまり、これまでは環境破壊がお金になる社会だった。ならば環境を守ること自体がお金になれば、もっと多くの人や企業が生態系保全に取り組んでくれるのではないかと考えています」
アプリのローンチ後ユーザは年々増加しており、現在は42万ダウンロードを突破。過去にはJR東日本などと共に、鉄道沿線の回遊を促す期間限定のイベントも開催した。「イベントを実施したことで、豊かな生態系が観光資源にもなり得る可能性が見えてきました。生き物には人を動かす力がある。生物が多様であることは、どの企業にとっても何らかの形で必ず利益になるということを伝えていけたら嬉しいですね」
一人ひとりの選択の積み重ねが、これからの生態系をつくる
地球温暖化や森林伐採をはじめとした環境破壊が進む中、生態系を保全するために、私たち生活者には一体何ができるのだろうか。藤木さんは日々の買い物のなかにも、そのヒントがあると見る。
「買い物は投票と同じです。環境に配慮したプロセスで製造された商品を選ぶことが、環境や生態系の保全にもつながる。私たち一人ひとりの選択が変わっていけば、企業も変わらざるを得ませんから」
例えば、持続可能な森林活用・保全を目的として誕生した「適切な森林管理」の国際的な認証制度がその一例だ。このマークがついた商品は、製造工程においても自然からの恩恵を未来でも持続して受けられるよう、適切に管理された森林から得た資源を使用している。こうした認証が付いた製品を選ぶことが、森林や生態系の保全につながっていく。
「特に都心部で生活をしている方々は、生き物と接する機会は少ないと感じてしまいますよね。ですが通勤途中の道端にだって昆虫や植物は見え隠れしていますし、毎日購入する商品もどこかで必ず自然と繋がっている。日々生き物に触れ合えるチャンスを見つけて僕たち一人ひとりが行動していけば、これからも生態系の豊かさを守っていけると信じています」
元記事はこちら
三菱電機イベントスクエア METoA Ginza
「from VOICE」
「ワクワクするサステナブルを、ここから。」を掲げ、三菱電機社員が社会の皆さまと共に学び、共に考えながら、その先にある"ワクワクする"社会を創るべく活動しています。日常にある身近な疑問"VOICE"から次なる時代のチャンスを探すメディア「from VOICE」を企画・運営しています。最新情報はインスタグラムで配信中です。皆さまのVOICEも、こちらにお寄せください。
\ さっそくアクションしよう /
ひとりでも多くの人に、地球環境や持続可能性について知ってもらうことが、豊かな未来をつくることにつながります。