スタジアムの騒音が電力に? 米の高校生が「音」からの発電に成功
太陽光や風力、水力や波力......これまで人間はさまざまな自然資源から電気エネルギーを生み出すことに成功してきた。ここに、新たな項目が追加されるかもしれない。それが、私たちの身の回りに溢れる「音」だ。
音から電気を作ることができるなんて、夢物語のように聞こえるかもしれない。しかし、アメリカの17歳の高校生が、音から発電できることを実際に研究で証明したのだ。
研究を行ったのは、アメリカ・ルイジアナ州の高校に通うギョンユン・リリー・ミン氏。彼女は、人気ディズニー映画『モンスターズ・インク』で子どもの叫び声からエネルギーを生み出しているシーンを見て、音が持続可能なエネルギー源となるのではないかと思いついたという。そこで、自宅のガレージで7か月間にわたる実験を行い、スポーツスタジアムの模型で発生する音波による振動を電気エネルギーに変換することに見事成功した。
気になるのは、一体どうやって音を電気に変換したのかという点だろう。彼女が用いたのは、圧力から電気を生み出す「圧電効果」という現象だ。音は、物体の振動によって引き起こされる圧力波の一種であるため、この原理を応用可能なのである。圧電効果で電力を生み出す例は増えており、例えば日本でも、東京駅の改札通路に床発電システムを埋め込み電力を生み出す実験が2006年に行われている。
スタジアムを実験場所として想定したのは、観客の歓声やアナウンス、音楽など、常に騒音が得られる環境だからだという。ギョンユン氏はまず、音響環境を正確にシミュレーションするため、公式のNBAコートと同じ比率で約55センチメートル×28センチメートルのバスケットボールスタジアムの模型を発砲スチロールやプラスチックで作成した。
次に、スピーカーの位置に対する音圧を研究し、圧電発電機の最適な設置場所を特定。そして、音を圧電発電機に集中させエネルギーを効率よく集めるための3種類のエネルギー収集モデルを設計し、配置した。スポーツスタジアムでの典型的な観客の歓声や環境音を再現した音源をスタジアム模型で再生した結果、これらのエネルギー収集モデルは単独の圧電デバイスよりも著しく高い電圧出力を示したという。
ギョンユン氏は、この研究によって高校生を対象とした世界最大の国際科学コンペティションである「リジェネレーション国際科学工学フェア
」で、2024年のファイナリストの一人に選ばれた。コンペティションを主催するSociety for Scienceの社長兼CEOであるマヤ・アイメラ氏は、ギョンユン氏の研究を「革新的だ」と称賛した。また、ミシガン大学の機械工学者であり、『Piezoelectric Energy Harvesting(圧電エネルギー収穫)』の共著者であるダニエル・インマン氏も、課題は多く残されているものの、この技術の実現可能性を認めているという。
ギョンユン氏は、スポーツスタジアムのほか、交通量の多い都市部や機械の騒音が絶えない工場などにもこの技術を適用できるのではないかと、Smithsonian Magazineに対して述べている。もしかすると、音楽のライブ会場やコンサートホールにも適用できるかもしれない。ときには公害となる騒音や、まさに人々のエネルギーとも言える歓声や音楽が、私たちの生活を支える電気になっていく。そんな未来が、待ち遠しくはないだろうか。
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【参照サイト】Can the Noise in Sports Arenas Be Turned Into Electricity?
相馬素美(そうまもとみ)
横浜で生まれ、大学ではクラシック音楽を専門に学ぶ。 ヨーロッパのサステナブルな取り組みや、サーキュラーエコノミーへの関心が特に高い。 また、ソーシャルグッドな音楽ビジネスの可能性を研究中。 好きなものは、音楽全般、アート、ファッション、北海道、アボカド、チョコレート、日本酒。