犬やラッコも「生物多様性」の救世主に。生態系を守る生き物の実態と海外の取り組み
私たちの豊かな暮らしの基盤には、健全な自然環境が不可欠です。しかし現在、その要である「生物多様性」は深刻な危機に直面しています。地球上の種の絶滅速度は、過去1000万年平均の少なくとも数十倍、あるいは数百倍の速度で進んでいるとも言われています(参照元:「IPBES地球規模評価報告書(2019)」)
生物多様性の問題に関する普及と啓発を目的として「国際生物多様性の日(5/22)」も制定されており、生態系の保全は、国際社会が喫緊に取り組むべき環境課題となっています。
生態系の保全に貢献しているのは人間だけではありません。人間以外の生き物もそれぞれの生態を通じて、あらゆる面で活躍しています。本記事では、生態系を支える生き物が、どのように自然環境を守っているのか、その実態や取り組みをご紹介します。
生物多様性の危機的な現状
私たち人間の生活は、地球上のあらゆる生き物とのつながりの上に成り立っています。その基盤となる「生物多様性」は、森や海といった多様な「自然環境」、動植物や微生物を含めた「種」、そして同じ種でもそれぞれ個体ごとに宿る「遺伝子」を包括的に表しています。
「生物多様性」にまつわる状況は年々深刻化しています。世界自然保護基金(WWF)の報告によると、1970年から2020年までの過去50年で、自然と生物多様性の健全性を測る指数が73%減少したと言われています(参照元:「生きている地球レポート2024」)。このような状況が続けば、2030年までに達成すべきSDGsの目標を含めた多くの世界目標が未達成に終わることも示唆されています。
生態系を守る生き物たちの実態
こうした現状を打破するために、地球に生きる多様な生き物たちは、それぞれ独自の方法で豊かな生態系を支え、守り続けています。よく知られているのは、花粉を運んで植物の受粉を手助けするミツバチや健全な土壌環境を支えるミミズですが、ここでは少し意外かもしれない生物をいくつかご紹介します。
ラッコ
ラッコはウニを捕食することから、「キーストーン種」と呼ばれることがあります。キーストーン種とは、その生物がいることで生態系全体のバランスが保たれる重要な存在のことです。ウニが増えすぎると海中の昆布を食べ尽くしてしまうため、海の森を衰退させてしまいます。しかし、ラッコがウニを捕食することでその数が抑えられ、海洋生物の生息地が保たれるのです。
牡蠣
牡蠣は海水をきれいに保ち、豊かな環境をつくる重要な役割を担っています。牡蠣がエサのプランクトンを食べるために大量の海水を摂取してろ過することで、結果的に水質が浄化され、海底の海藻などの光合成を促します。また、牡蠣が密集してできる「牡蠣礁」は、その立体的な構造から、小魚やカニなどの海洋生物にとって安全な生息地や繁殖地になります。牡蠣は海の多様な命を育む場所として、豊かな生態系を支えているのです。
環境保全犬(コンサベーション・ドッグ)
環境保全犬(コンサベーション・ドッグ)は、犬の優れた嗅覚を活かして自然保護をサポートする頼もしいパートナーです。絶滅危惧種のフンや羽毛を発見したり、生態系を破壊する特定の外来種を嗅ぎ分けたりするよう特別な訓練を受けており、生物多様性の保護に必要なデータを正確に集めることができます。
たとえば、世界のなかでも積極的に環境保全犬を活用しているニュージーランドでは、絶滅の危機にある飛べない鳥「キーウィ」などの固有種を探し出すために、環境保全犬が活躍しています。人間の目では見つけにくい痕跡を的確に探し出す環境保全犬は、生物多様性を守る最前線で重要な存在です。
生き物たちを守る海外の取り組み
ここまで、自然界のバランスを保ち、生物多様性に貢献している生き物たちを紹介しましたが、現在そのような生き物の多くもまた、深刻な生存の危機に立たされています。気候変動による影響や、乱開発による生息地の喪失などによって、多くの種が減少しているのです。
しかし、こうした状況から生き物たちを守るための取り組みも世界各地で加速しています。
オランダ:ミツバチを守る取り組み
現在、野生のミツバチの数が減少していることが世界的な課題となっています。世界第2位の農産物輸出国であるオランダでは、食料作物の75%、野生植物の85%以上がミツバチをはじめとする花粉媒介者のはたらきを頼りにしています。しかし、オランダに生息する約360種のミツバチのうち、半数以上が絶滅の危機に瀕していると言われています(参照元:World Economic Forum)。
こうした状況を受けて、オランダの各地でミツバチを守るための取り組みが進められています。たとえば、2018年から始まった「National Bee Count」は、一般市民が自宅の庭やバルコニーでミツバチの数を調べて報告します。その結果、オランダ国内のさまざまな種の生息地や、その個体数の変化を把握することが可能になります。
また、高速道路や工業地帯の周辺の未使用の土地に花を植える「Honey Highway」といったプロジェクトや、バス停の屋根を緑化する「Bee Bus Stops」が広まっており、都市のインフラを上手く活用し、ミツバチの貴重なエサ場と生息場所を生み出しています(参照元:The Guardian)。
アメリカ:牡蠣を守る取り組み
かつてのニューヨークは、世界有数の牡蠣の産地でした。ニューヨーク市民にとって日常的に食べる身近な食材でしたが、長年の乱獲や工業化に伴う深刻な水質汚染によって、そのほとんどが姿を消してしまった歴史があります。
近年、気候変動による影響に対応するために、ニューヨーク港における牡蠣を再生するために画期的な試みが行われています。その代表的な取り組みが、「Billion Oyster Project」です。
このプロジェクトは、「2035年までにニューヨークの海に10億匹の牡蠣を戻すこと」を目標に掲げています。主な取り組みとして、飲食店などから牡蠣の殻を回収・リサイクルし、それを土台にしてニューヨーク港に新たな「牡蠣礁」を形成しています。
最大の特徴は、地域の学生や市民ボランティアが主体となる参加型のプロジェクトである点です。地域社会が一丸となって活動を推進しており、これまでに1億5000万個もの牡蠣を海へ戻し、約300万ポンド(約1360トン)の牡蠣殻をリサイクルしてきました。さらに、3万人以上の学生たちを巻き込み、実践的な教育の場としても大きな成果を上げています。
最後に
生物多様性は、社会経済を支える重要な「自然資本」の一部です。本記事で紹介した事例のように、自然の仕組みや生態系の力を活かして社会課題を解決する「Nature-based Solutions」というアプローチや、都市空間に自然の持つ多様な機能を組み込む「グリーンインフラ」を整備していくことも、生態系を保全しつつ人間が共生していくうえで重要な視点です。
世界経済フォーラムの調査によると、世界のGDPの半分を超える経済的価値の創出が、この自然資本に依存していると言われています(参照元:World Economic Forum)。私たちの暮らしそのものが自然の恩恵によって支えられているという事実を、私たち人間は今一度認識しなければなりません。
まずは、身近な自然や生き物に少し関心を向けてみたり、環境に配慮された認証ラベルのある商品を選んでみたりと、日々の生活の中でできることから意識してみてはいかがでしょうか。私たち一人ひとりの小さなアクションの積み重ねが、地球の豊かな自然環境を守る大きな力になるはずです。
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