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「松ぼっくり」は、子孫繁栄のための器官!? 森林インストラクターに聞く、公園という''身近な森''の歩き方

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「自然に触れたい」と思っても、都市部で暮らしているとハードルの高さを感じてしまう方も多いのではないでしょうか。しかし、遠くの景勝地に出かけたり、わざわざ山に登ったりしなくても、都市部には緑豊かな公園が存在しています。

そこで今回、「身近な森」とも言える公園の楽しみ方を知るために、首都圏を中心に身近な森の歩き方を伝えている森林インストラクターの渡辺一夫さんと公園を散策することに。

訪れたのは、聖蹟桜ヶ丘駅から車で約5分の場所に位置する、東京都多摩市の「都立桜ヶ丘公園」。渡辺さんと一緒に歩きながら話を聞きました。

渡辺一夫

渡辺一夫

1963年横浜生まれ。東京農工大学大学院修了。農学博士。森林インストラクターとして、樹木の知識の普及や、自然環境を解説する活動を行う。NHK文化センター、毎日文化センター、よみうりカルチャー、NHK学園などで講師を担当。著書に『公園・神社の樹木』『街路樹を楽しむ15の謎』『アジサイはなぜ葉にアルミ毒をためるのか』(すべて築地書館)など。

湿気で閉じたり、タネを飛ばしたり......意外と知らない「松ぼっくり」の特性

松ぼっくり

まずは公園内にある広場近くでお話を伺うことに。近くに落ちていた松ぼっくりを拾って、渡辺さんが話をしてくれました。

渡辺さん

松ぼっくりって、マツの木のどの部分かわかりますか?

袋に入っているのが、松ぼっくりの鱗片の隙間にある種子
袋に入っているのが、松ぼっくりの鱗片の隙間にある種子

──考えたことがありませんでした。果実でも、葉でもなさそうですよね。

渡辺さん

松ぼっくりは、マツにとって「球果(きゅうか)」と呼ばれるところ。子孫繁栄のための器官なんです。

一般的なアカマツの松ぼっくりの場合は、「鱗片(りんぺん)」と呼ばれる何枚も重なっている硬い鱗のようなところの隙間に種子が挟まっています。雨の日は鱗片を閉じて湿気から種子を守り、晴れて乾燥すると鱗片が開いて、挟まっていた種子が風に吹かれて遠くへ飛んでいきます。雨の日に雑木林を歩けば、きっと鱗片が閉じて縮んでいる松ぼっくりをよく目にすると思います。

そして、その湿気による形の変わり方を利用してつくったのがこちらです。

松ぼっくり

──瓶の口より大きな松ぼっくりが、中に入っている......?

渡辺さん

松ぼっくりを水に30分ぐらい浸けておくと鱗片が閉じるので、そのあとに瓶に入れて乾かしておくと、このようになるんです。子どもたちに見せると「どうやって松ぼっくりを中に入れたの!?」と驚いてくれますね。

──一見すると手品のようでおもしろいですね。

渡辺さん

別の種子の飛ばし方をする松ぼっくりもあります。たとえば、ヒマラヤスギの松ぼっくり。「ヒマラヤスギ」といって名前に「スギ」とありますが、正式にはマツの仲間です。アカマツの場合は、松ぼっくりの形状が残ったまま種子を飛ばしますが、ヒマラヤスギの場合は松ぼっくりがバラバラになりながら種子を飛ばします。ちょうどあそこに、松ぼっくりが熟す前の青い状態で生えていますね。

ヒマラヤスギに生えている、未熟な松ぼっくりを指さす渡辺さん
ヒマラヤスギに生えている、未熟な松ぼっくりを指さす渡辺さん

──「バラバラになりながら種子を飛ばす」とは、どういうことでしょう?

渡辺さん

もともと大きな楕円形の形状をしているんですが、木の上で鱗片が一枚ずつ剥がれ落ちていき、鱗片の隙間に挟まっていた種子(※羽が付いている)が、ヒラヒラとプロペラのように飛んでいくんです。ここに落ちているのが、ヒマラヤスギの鱗片の残骸ですね。

松ぼっくり

渡辺さん

おもしろいのが、先端部だけはバラバラにならず、ひとかたまりのまま地面に落ちること。その形状が、バラのように美しいので「シダーローズ」と呼ばれています。そして、最後にはロウソク立てのような細い芯だけが残る。並べてみると、このような感じです。

松ぼっくり
写真右から、松ぼっくりの芯と「シダーローズ」

──たしかにきれいな花のようなかたちですね。

渡辺さん

ヒマラヤスギは都市部でも大きな公園や神社、学校などに植えられていることが多いので、意外と足元に目を落とせば、シダーローズを拾える機会はあると思いますよ。

散策中に見つけた、ユニークな名前の植物たち

広場を歩いていると、渡辺さんがとある植物の前に止まり、匂いを嗅ぎはじめました。

松ぼっくり

渡辺さん

(くんくん)。ちょっとこの葉の匂いを嗅いでみてください。

──ん、独特な匂いがしますね......。なんだか苦みがあるというか、正直なところ良い香りとは言えない気がします。

渡辺さん

そうでしょう。この植物の名前は「クサギ」と言います。その名の通り「臭い木」というのが、名前の由来になっています。この匂いで、葉が虫に食われてしまうことを防いでいるんです。

──この独特な匂いは生存戦略だったんですね。

渡辺さん

でも、意外なギャップがあるのが、クサギのおもしろいところ。次は、花の匂いを嗅いでみてください。

──こちらは、甘くて良い香りがしますね。

渡辺さん

そうですよね。成長のために葉には虫がついてもらいたくないのですが、花粉を運んでもらうために花には虫がついてもらいたい。そのために、花からはいい香りを放つようになっているんです。

クサギの白い花
クサギの白い花

渡辺さん

あと、よく見ると、上向きに咲いている花と下向きに垂れている花があると思います。これも生存戦略のひとつ。

先端が紫色で4本セットになって伸びているのがおしべなんですが、自らの花粉で受粉してしまうのを避けるために、同じ花のめしべはあえて下に垂れて、おしべが出す花粉を受け取らないようにしているんです。花粉を出し終えた後は、逆にめしべが上向きに立ち上がり、おしべは下に垂れていきます。

異なる株の花粉で受粉することで、遺伝子の多様性を担保して、種が生き延びやすいようにしているんですね。

──身近にある植物ひとつとっても、いろんなエピソードがあるんですね。面白いです。

雑木林

その後は、広場を抜けて雑木林の中へ。しばらく歩みを進めていると、ユニークな形状の実がなっている木を見つけました。

渡辺さん

渡辺さん

ちょっとこの実を見てみてください。

──おもしろいかたちをしていますね。これは何という実ですか?

渡辺さん

これはコブシの実といいます。形状が人間の「拳」に似ていることからその名がつけられました。

コブシの実

──たしかにゴツゴツした不揃いな形が似ていますね。

渡辺さん

コブシの実は、夏から秋にかけて赤く熟していきます。この熟した赤い種子を少し引っ張ってみましょう。

※編集部註:公園の植物を観察する際は、枝を折ったり傷つけたりしないよう優しく観察しましょう
※編集部註:公園の植物を観察する際は、枝を折ったり傷つけたりしないよう優しく観察しましょう

──白い糸が付いてきましたね。

渡辺さん

一説によると、この糸は種子を運んでくれる鳥が食べこぼさないようにするためだと言われています。こうして糸でつながっていれば、上手く食べられなくても、下に落ちることなく、種子がぶら下がったままでいられる。

コブシからすれば、鳥に種子を食べてもらって、遠くのさまざまな場所に運んでもらうことで子孫を繁栄させたいですからね。

──種の繁栄のために、さまざまな工夫がなされているんですね。

渡辺さん

種子のつくり方にも工夫があって、赤い外皮は鳥に食べられると消化されますが、種子本体は消化されないようにできています。糞になって体外に出てきたときには、余計な部分が削ぎ落とされたピュアな種子になっている。そうなると、発芽率が上がるんですよね。

目にしたことのある木々に隠れたストーリー

雑木林の奥へ

さらに雑木林の奥へ。さまざまな木々が目に入ってきます。

渡辺さん

ここに、まだ紅葉前で青々としているイロハモミジがありますね。イロハモミジって、なかなか堅実な性格をしているんですよ。

イロハモミジ

──どういうことでしょう?

渡辺さん

イロハモミジは1年間に出てくる葉の数を、前年に決めておく特性があるんです。たとえば「この木では、来年3000枚の葉を出す」と決めたら、きっちり3000枚の葉を春に出して、それ以上どんなに条件がよくても追加しません。樹木には、光合成ができる明るい空間があると追加の枝を伸ばして葉を増やすタイプもいますが、イロハモミジは欲を出さないんです。

──おもしろいですね。

渡辺さん

これは、日蔭に強い性質があるというのも、理由のひとつだと考えられています。日蔭に弱ければ「少しでも太陽のあるところへ枝を伸ばして、少しでも多くの葉をつけなければ」という成長の仕方をしますからね。

雑木林

雑木林の中を歩いてみると、ひとつの株から複数の幹が生えている木をいくつか目にしました。

渡辺さん

このようなかたちで生えているのは、昔、この雑木林が、人々が薪や炭を手に入れるための「薪炭林(しんたんりん)」として利用されていた証です。コナラやクヌギなどの広葉樹で見られることが多いのですが、これらはかつて質の高い炭の材料として重宝されました。また、再生力が強く、一度伐採しても、10年後には炭に適したサイズの幹に分岐して成長します。

一般家庭で石油・ガスが使われていなかった頃、薪や炭が貴重なエネルギーだったため、この地域の人々も、この雑木林に入って、定期的に木々を伐採していたのでしょう。

しかし、燃料革命が起きてからは、木々の伐採が行われなくなり、幹が分岐したままどんどん成長して、こうした姿になっているのです。

──分岐して生えている木から、人々の暮らしの歴史も見えてくるんですね......!。

森の楽しみ方は、人それぞれ

歩き始めて数十分で、桜ヶ丘公園の散策は終了。しばらく歩いた後に、渡辺さんに身近な公園の楽しみ方について聞いてみました。

渡辺さん

──都内でも、このような深い自然を感じられる場所があるとは意外でした。

渡辺さん

今回の桜ヶ丘公園のような都立公園は、自然が多い割に比較的整備も行き届いているので、気軽に訪れやすいかもしれないですね。歩くための道が用意されていたり、毒虫への対策がなされていることも多かったり、安心して散策を楽しめると思います。

雑木林に入って自然をしっかり感じたいとき、開けた場所を気軽に歩きたいとき、など自分の体力や気分に合わせてコースを選べるのもいいところです。

──身近な公園で自然を楽しむヒントはありますか?

渡辺さん

たまに足を運ぶお気に入りの公園でも、いつも通りかかる近所の公園でもいいので、そこにある木々の中から自分の好きな木を2、3本決めて、定点観測してみるのがおすすめです。

天気によって松ぼっくりは開いたり、閉じたりするといった話をしましたが、日々眺めていれば、晴れの日と雨の日、朝と夜など、状況によって木の様子が変化していることに気づくことでしょう。

また、春はどんな花が咲くのか、夏にどんな葉をつけるのか、秋は紅葉するのか、葉が落ちた冬はどんな佇まいになるのか、など季節ごとに変わっていく木の表情を眺めることも楽しみのひとつ。「たまたまそこに落ちていた葉が、なんだか人の顔に見えた」なんてこともあるかもしれません。そうしているうちに愛着も湧いて、「この木を見ていると、気分がいいな」と感じられるシーンも出てくるのではないでしょうか。

自然に触れている体験

渡辺さん

あと、自然に触れている体験を自分の中だけに留めるのではなく、知人と共有することも自然を楽しむコツかもしれません。散策中にいいなと思った風景や気になった植物をスマホで撮影しておくと、誰かと会ったときに会話のネタになります。

撮影した植物を後で調べてみると、新しくわかることもあるはず。友人や子どもに「このあいだここに行ったら、こんな植物があった」と言えるだけでも、少しは話が盛り上がるのではないでしょうか。

──今は、画像検索もできますもんね。植物の知識がなくても、撮影しておけば調べ方はいろいろありそうです。

渡辺さん

ただ、自然の中での過ごし方に正解はありません。何をして過ごしてもいいんです。写真を撮っても、木々や鳥を眺めても、友だちと話しても、ただぼーっとしていてもいい。公園のような身近な森って、そんな懐の広い場所だと思います。

渡辺さん

駅からクルマでたった5分。ついさっきまで駅前のショッピングセンターにいたのに、気づけば緑が生い茂る風景の中にいました。これまで気づかなかっただけで、身近なところに"森"はあるのかもしれません。

わざわざ出かけていく"特別な森"ではなく、何はなくとも足を運ぶ"いつもの森"。そんな公園という存在は、私たちの日々を整えてくれることでしょう。

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