6月8日は世界海洋デー。「なぜ?」から始まる、これからの海と人のつながり

6月8日は国連が定めた「世界海洋デー」。毎年、世界中でこの日に合わせて海の環境保全や持続可能性にまつわる取り組みが行われています。そして年ごとにテーマも決まっており、2022年のテーマは「Revitalization (リバイタリゼーション:復活、復興)」。

「復活」という言葉からは「すでにダメージを受けて落ち込んでいる海を、いかに取り戻すか」という意味が感じられます。

私たちの普段の暮らしの中では、海洋プラスチック問題への対策として、レジ袋の有料化や、紙容器での食品提供など、海洋保全の取り組みが進んでいることが実感できるようになりました。

一方、コロナ禍でテイクアウトが普及した結果、プラスチックの使い捨て容器の使用量が増えてしまったというニュースも耳にします。いま、海洋汚染以外にも社会が直面する課題はたくさんあります。日々さまざまなニュースを目の当たりにする中で、私たちの取り組みが本当に意味があるものなのか、正直なところ疑問に感じてしまう方も少なくないはず。

「このまま打つ手もなく、人間は汚れていく海を傍観するしかないのだろうか......?」

そんな風に、思わず暗い未来ばかり想像してしまう人も多いと思います。でも、そんな今だからこそ、改めて私たちの海への向き合い方を問い直し、少しでも明るい未来を迎えられるようにしたい。そう考え、今回はYahoo! JAPAN SDGs編集部でこれまで取材した記事を振り返りながら、改めて私たちが志すべきアクションについて考えました。

各記事を振り返る中でわかってきたのは、海と真剣に対峙すればするほど、「なぜ?」が増え続けること。そして、その「なぜ?」の先にこそ、これからの海と人との関係性を考えるヒントがあったのです。

まずは海の声に耳を傾けよう

まずは、いま海で何が起きているのかを知るために、海と向き合い、海の声を伝えてきた人たちのインタビュー記事をご紹介します。

1本目は、小田原の老舗かまぼこメーカー「鈴廣」会長の鈴木智恵子さんにお話を伺った記事です。

小田原で生まれ育ち、幼い頃から海のそばで暮らしてきた鈴木さん。文字通り小田原の海とともに人生を過ごしてきました。

鈴木さんが子どもの頃の小田原は多くの漁師がいて、市場は魚で溢れかえっていたそう。当時の小田原は鈴木さんをして「生臭いところだった」と言わしめるほどの、まさに「魚のまち」だったようです。

▲出典元:小田原ブリプロジェクト 森の再生からブリの来る街へ

しかしその後、突如として小田原の海から魚がいなくなってしまいます。実は、ちょうどこの時、小田原の海ではなく陸で、ある大きな変化が起きていました。小田原の陸の変化が、なぜ海へと影響を及ぼしたのでしょうか?

ダムと高速道路が海を変えた? 小田原の海と魚を見守ってきた老舗かまぼこ店の女将の言葉 | Yahoo! JAPAN SDGs

2本目は食文化に関する話題から。7月の土用の丑の日のころになると、近年ネットを中心によく議論になるのが、「ウナギは食べていいのか、それともダメなのか」問題。

写真:アフロ

ウナギは日本の夏の風物詩である一方、絶滅危惧種にも指定されており、資源保全の必要性が叫ばれています。

真相を探るため、編集部では『結局ウナギは食べていいのか、問題』と題された本の著者で中央大学准教授の海部健三さんにお話を伺いました。

そこで海部さんから伝えられたのは「日本で流通しているウナギの半分以上は違法なもの」という衝撃の事実でした。なぜ違法な状態が生まれ、そうしたウナギを食べることができてしまうのか? その背景には、消費のスピードが、ニホンウナギが生育するスピードを遥かに超えている現状が暗い影を落としていたのです。

ウナギを食べ過ぎると絶滅するらしいけど、結局食べていいの? 専門家に聞く4つの質問 | Yahoo! JAPAN SDGs - 豊かな未来のきっかけを届ける

3本目は私たちの命に関わるテーマである防災について。

近年では超大型の台風や、集中豪雨などが毎年のように全国各地を襲い、甚大な被害をもたらしています。そして、こうした異常気象には、海の変化が影響しているということを耳にした方も多いはず。しかし、異常気象と海の変化が、なぜ関係しているのかは、あまり知る機会がありません。

編集部では、異常気象研究のエキスパートである三重大学大学院の立花義裕教授にインタビューを実施し、異常気象と海の関係について話を伺いました。

近年でも、2019年の10月の台風19号による災害は、東日本各地に甚大な被害をもたらしました。新幹線の車両基地が泥水に浸かっている映像は、みなさんの記憶にも新しいのではないでしょうか。

立花教授によると、この台風19号が上陸したとき満潮の時刻を迎えていたら、東京は高潮で水に沈んでいたかもしれないというのです。近年、激化する災害の脅威は、私たちのすぐそばまでやってきています。

そして、こうした異常気象こそが、過去に日本の歴史を変える一因にもなったと立花教授は言います。海に四方を囲まれ、気象に左右される宿命がある日本。だからこそ、積極的に海の仕組みを知り、愛することが、未来を考える上で不可欠だという立花さんの思いが十二分に伝わるインタビューです。

「満潮時なら東京は沈んでいた」日本人が学ぶべき台風のメカニズム | Yahoo! JAPAN SDGs - 豊かな未来のきっかけを届ける

正直、海の環境を取り戻すにはダムや防潮堤など、人間が作った構造物を壊すのが一番手っ取り早い方法かもしれないと思う時もあります。だけど、災害で奪われる人の命を考えたらそんなことはできない。鈴廣の鈴木会長の「近代化を非難することはできない」という言葉なんかは、海と人の関係性を考える上ですごく考えさせられました。(Yahoo! JAPAN SDGs編集長 長谷川琢也)

海への答えは一つじゃない。だからこそ、やれることはたくさんある。

これまで海の変化を「なぜ?」という素朴な疑問を通して捉えてきました。いま、海は私たちの想像が及ばないようなさまざまな原因によって、以前とは違った姿へと変わりつつあります。

その変化のスピードは、「『復活』を目指すとはいうけれど、どこから手をつけたらいいの?」と頭を抱えてしまいそうなほど。しかし、課題がたくさんあるからこそ、私たちができることもきっと無数にあるとも言えます。

ここからは、海の復活を目指すユニークな取り組みを取材した記事をご紹介していきます。

まず最初は、大阪の海での取り組みから。大阪湾は高度経済成長期に工場排水や生活排水が大量に流れ出すようになったことから、急激に水質が悪化。一時期は近づくだけで悪臭が漂い、「死の海」と呼ばれたほどでした。

そうした状況も今は昔。上下水道の整備や沿岸の企業に課された排出規制を実施した結果、みるみるうちに大阪の海はきれいになっていきました。

しかしいま、大阪湾の南部ではかえって海がきれいすぎるために、魚が生息できず、漁獲高も激減する事態に陥っているのだそう。

こうした状況を打破するため、大阪府立大の大塚耕司教授は「なにわの海再生プロジェクト」を主導し、豊かな大阪の海を取り戻すための活動をしています。

大塚教授によると、いまの大阪の海は「ええかげん」のバランスを失った状態なのだそう。

果たして、大塚教授のいう「ええかげん」とは? そして、なぜ「ええかげん」である必要があるのでしょうか?

大阪の海は「きれいすぎ」て魚が獲れない? 極端ではない「ええかげん」の大切さ | Yahoo! JAPAN SDGs - 豊かな未来のきっかけを届ける

続いては港町・横浜から。みなさんは横浜の海で昆布やワカメが育てられていることをご存じでしたか?

参考元:忠彦丸海苔|昆布の養殖・収穫・加工・販売 動画CM>mitai|野島名物 金沢八景 最高級海苔

横浜市では昆布やワカメなどの海藻によって温室効果ガスである二酸化炭素の吸収を図る「ブルーカーボン」の取り組みが行われています。この事業を進めて来たのが、横浜市役所の信時正人さん。

信時さんは「ブルーカーボン」事業をはじめとしたさまざまな環境への取り組みを行うことで、「環境先進都市」横浜の中心を担っています。

そんな信時さんへのインタビューは「ブルーカーボン」の話題からスタートしたはずが、いつしか地方創生や、若い世代による社会変革といった話題へ。

こちらの記事では、海の環境を考えることが、これからの社会を生きていくためのヒントになる可能性が示唆されています。

「おっちゃんの話は聞くな」CO2を出せない時代に、横浜から始まる変革 | Yahoo! JAPAN SDGs - 豊かな未来のきっかけを届ける

最後に紹介するのは海外の取り組み。デンマークの首都、コペンハーゲンには都会のど真ん中に「ハーバーバス」と呼ばれる、人が泳げる天然のプールがあります。

提供:Nicolai Perjesi

このハーバーバスがあるコペンハーゲンの港は、元々はヘドロが溜まり、悪臭がひどかった場所。そんな港が、なぜか今では人が泳げるまでに水質改善が進み、市民の憩いの場として機能しています。

このほかにも、コペンハーゲンではゴミ処理場の利活用も先進的です。焼却で発生した排熱を利用し、周辺地域に温水を供給する配管網が整備されていたり、ゴミ処理場の屋上がスキー場になっていて、地域のインフラとしてのゴミ処理場を身近に感じる仕組みが作られていたり......。ユニークなアイディアが次々と具現化され、市民の環境意識を向上させる仕組みが都市単位で設計されているのです。

「環境意識がそもそも違うから、日本に住んでいる限りでは思い付かないだろうな」。そんな気すら湧いてきますが、意外にもその背景にあったのは、世界中の国々が辛酸を舐めた1970年代のオイルショックでした。

どうやってオイルショックによる社会への大打撃から大量消費を脱却し、このような先進的な取り組みを実現することができたのでしょうか? エネルギーを自給自足していく方向へ思想を転換し、地球環境への配慮を社会全体で高めていった軌跡は、現代の世界情勢とも重なる部分が大いにあります。

北欧の人は日本が羨ましい? デンマークのすごい「自然のプール」が教えてくれたこと | Yahoo! JAPAN SDGs - 豊かな未来のきっかけを届ける

「なにわの海再生プロジェクト」の大塚教授が「ええかげん」の必要性を訴えていたのが印象的でした。汚すぎてもきれいすぎても海は健康的な状態とは言えないんです。人間が出すものを止めるだけでは、もはや海はよくならないということ。コペンハーゲンや横浜の取り組みのように、もっと人間が海に入って海を五感で感じられる体験をすることが、海の環境を考えるきっかけになる気がしています。(Yahoo! JAPAN SDGs編集長 長谷川琢也)

おわりに

世界では海の環境以外にも大きな課題が山積しています。ニュースが伝えるのは、どうにも息が詰まるようなことばかり。「自分一人ではどうしようもないな......」なんて考えてしまうことも多くなりがちです。

でも、そうであるならば、なおさら「みんな」でやってみてはどうでしょうか。 「みんな」でやれば、コミュニケーションを通じて仲間ができたり、新たなアイディアが浮かんだり、一人では生み出せなかった大きな力が湧いてくるかもしれません。

今回紹介してきた記事の中にも、「みんな」の力で成し遂げたさまざまな事例がありました。こうした力に自分も加わることもできるし、あるいは自分で仲間を集めて新たな取り組みを始めることもできます。

実は今回の世界海洋デーのテーマには「Collective Action for the Ocean (手を取り合って行う海へのアクション)」という副題がつけられています。

これからは「一人ではなく、みんなで取り組んでいく時代」。まずは周りの人と情報を共有し合い、自分達ができることから、社会全体へ働きかけたいことまで、さまざまな縮尺でアクションできることをみんなで模索してみませんか?

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、地球環境や持続可能性について知ってもらうことが、豊かな未来をつくることにつながります。

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