8月1日は水の日。わたしたちの水は''どこから来て、どこへいく''?
台所、それとお風呂にトイレ... 家の中にはいわゆる「水場」と呼ばれるスペースがあり、それらは衣・食・住といった人間の生活の根幹を支える役割を持っています。
このように普段使っている水道の水、みなさんはどこからやってきたものかご存じでしょうか?
さまざまなインフラが整った日本の現代では、蛇口から水が出てくるのはいわば「あたりまえ」と考える方も多いでしょう。
一方、日本各地で観測史上最速の梅雨明けを発表した今年は、四国地方のダムで貯水率が低下しているニュースも流れました。また、和歌山市では昨年10月に老朽化した水道橋が崩落し、市内の広いエリアで6日間にわたって断水が発生するという事態も発生。
このように「あたりまえ」の存在と思われている水が突然手に入らなくなるリスクは、近年身近なものになってきたと言えるのかもしれません。
今回は8月1日に定められた「水の日」に合わせ、わたしたちの生活に欠かせない、水に着目した記事を改めてご紹介します。
そもそも水の日とは?
ちょっと難しいことばが並んでいますが、ようするに「この水の日をきっかけに、普段使っている水の大切さを考えてみる日」と言い換えられそうです。
「水の日」に制定された8月1日と、「水の週間」として制定された8月1日〜8月7日までの1週間は、全国各地の自治体や各種団体が協力し、水の大切さを学び、理解するためのさまざまな催しが開かれます。
そんな水の日に合わせ、Yahoo! JAPAN SDGs 編集部でこれまで取材・掲載した記事を振り返り、改めて「わたしたちが普段使う水が"どこから来て、どこへ行くのか"」を考えてみたいと思います。
まずは「海なし県」である長野県で取材したこちらの記事から。地球における水の循環についての研究をしている大学の先生のお話から振り返ってみましょう。
自然が作り上げた「水循環」という壮大なシステム
地上に降った雨が川を降り、海に注ぐ...... わたしたちは子どもの頃、水の循環についてこんなふうに習いましたよね。実はわたしたちが利用している水は、地球規模で循環しているのです。まず、この循環のシステムについて、信州大学の榊原厚一先生にお話を伺った記事をご紹介します。
地球上の水のほとんどは海に存在していますが、わたしたちは海水を生活に利用することができません。太陽の力によって海水が蒸発し、雨になって地上に降り注ぐことで、わたしたちは飲み水や生活用水を手に入れられます。自然が作り上げた大きなシステムの一部を利用し、わたしたちは水という暮らしの糧を得られているのです。
地球上の水は、決して無限ではありません。同じ量が循環し続けているため、どこかで水を取り過ぎれば、どこかが足りなくなります。実際に、貴重な水資源が国家間の新たな争いの火種になっていると、榊原先生は警鐘を鳴らします。
わたしたちの生活に欠かせない水を、「循環」という大きな自然のシステムから捉え直すことで、限られた水資源の中で人間がいかに生きていくかを考えさせられます。
21世紀は水戦争!? 海なし県で地球の「水事情」を学ぶ | Yahoo! JAPAN SDGs - 豊かな未来のきっかけを届ける
「水の循環」という視点で広く世界を見渡してみると、実はすでに循環のバランスが崩れ、環境の悪化に繋がってしまっている地域があります。
「森のバター」と呼ばれるほど栄養価が高く、日本でも人気の食材となっているアボカド。この生産地である中南米では、アボカドの栽培が深刻な水不足を引き起こしているというのです。一体どういうことなのでしょうか...?
実はアボカドは他の作物に比べて、栽培に非常に多くの水を必要とします。その量はバナナやオレンジといった作物の2〜3倍に及ぶのだとか。そして、当然ではありますが、栽培に必要な水は生産地に流れる川や、地下水から採水されます。
年々、世界的に増加するアボカドの需要に応えようとすればするほど、生産地の水資源は枯渇し、周囲の環境は悪化。地中の地下水位が低下したことで、メキシコのとある街では群発地震が発生するなど、想像もしなかったような被害も報告されています。「水の循環」のバランスが崩れたことによって、現地の人々の生活が脅かされているのです。
このアボカドの例のように、わたしたち消費者は商品を通して間接的に生産地の水資源をも消費してしまっている現状があります。このように消費される生産地の水は「バーチャルウォーター」と呼ばれ、消費者の責任を問う声も出てきています。
普段わたしたちが手に取る商品一つ一つにも、実は水資源を巡るさまざまな課題が潜んでいると言えそうです。
水の課題を解決すると、どんな「いいこと」が起きる?
「水の惑星」と呼ばれる地球に住んでいるわたしたちは、水に生かされている存在といっても過言ではありません。そして、水の恩恵があるからこそ、その課題も多く、それこそアボカド一つとっても水にまつわる課題が生まれてしまいます。
でも、そんな水に関わるさまざまな課題をもし解決できたとしたら、一体どのくらいの効果があるのでしょうか?
こちらの記事では、SDGsの17個の目標のうちの6番目「安全な水とトイレを世界中に」が達成された場合の経済効果を試算。
水の課題を解決すると、
- 井戸や川へ水汲みに行くために費やしていた時間から解放され、職を得られる。
- 衛生環境が改善することで、生活の水準が劇的に向上。
- 治水工事が進み、水害時に都市インフラを保護することができる。
などなど、生活を送るうえで多岐にわたる効果を指摘。それらの経済効果は年間1230億ドル(日本円で17兆円)にも及ぶといいます。
つまり、課題に取り組めば絶大な効果がある分野と言えるかもしれません。
ここからは、そんな水の課題に、日本からチャレンジしている事例をご紹介していきます。キーワードは「小型」「自律分散型」。どんな取り組みか、さっそく詳しく見ていきましょう。
「小型」「自律分散型」の水インフラが、新たな循環社会をつくる
まずは「上水道」、つまり蛇口をひねれば出てくる「飲み水」の課題に取り組む事例を、再び長野県からご紹介します。
わたしたちが暮らしている日本では、都会か地方かを問わず、ほとんどの地域で上水道のインフラが整っています。さらに、そこから手に入れられる水は、人が口にしても問題ないレベルにまできれいに浄化されています。
一方で、いわゆる発展途上国と呼ばれる国などでは、上水道のインフラが整っておらず、地球上では6億6300万人にも及ぶ人たちが、安全な水を手に入れることができない状況にあると言います。
そうした中、信州大学の手嶋勝弥教授は、「信大クリスタル」という特殊な結晶を開発し、世界中の誰もが簡単に安全な水を手に入れられる技術の確立を目指しています。
この信大クリスタルの最も大きな特徴は、「誰でも取り扱いができ」て、「どこでも持ち運び可能」なこと。小学校の理科の実験と同様な手順で、汚れた水を飲み水へと浄化する結晶(=信大クリスタル)を作り出すことができます。さらに、この結晶が入った専用ボトルを持ち運ぶことで、どこでも手軽に浄水し、きれいな水を飲むことができるのだとか。
信大クリスタルは、まさに「魔法の結晶」と呼びたくなるほど、簡単な方法で安全で美味しい水を作り出すことができるのだそうです。
誰でもつくれる''結晶''が、地球環境を救う?「信大クリスタル」が水問題に解を出す | Yahoo! JAPAN SDGs - 豊かな未来のきっかけを届ける
また、この信大クリスタルと同様の発想で「下水道」、つまり排水処理の分野で「誰でも扱え」て、「どこでも持ち運びできる」インフラを開発した会社もあるのだとか。
FQ(Future Questions)で取り上げられた、WOTA株式会社の「WOTA BOX」は、「一言で言えば、水処理場を10万分の1のサイズにして持ち運べるようにした装置」です。
スーツケース2つ分ほどの大きさの筐体に、下水処理に必要なさまざまな機能を詰め込んだいわば「持ち運び可能な下水処理場」。既存の水道インフラがない場所でも電源さえあれば汚れた水をWHOが定めた水質基準まで再生することが可能です。
WOTA BOXは発展途上国での活用が期待されているほか、日本国内でも水道インフラが活用できない災害時において、簡易型のシャワールームを提供するなど、すでに数々の実績があります。
わたしたちが暮らす日本の浄水設備は、世界で最も整備されていると言われますが、そうしたシステムを支えるためには、大規模なダムや配管、さらに浄水場などといったインフラが必要です。こうした大規模なインフラを発展途上国に導入するには、開発から維持・管理までさまざまなハードルが待ち構えています。
一方で、信大クリスタルやWOTA BOXのような小型のインフラは、一度導入してしまえば、「誰でも」「どこでも」使えるので、とても持続可能な水道インフラになります。まさに「小型」で「自律分散型」の新しい水循環のしくみをつくることができるのです。
発展途上国のみならず、インフラの老朽化が課題となっている先進国においても、こうした「小型」「自律分散型」の新しい水道インフラが活躍する時代が近づいていると言えそうです。
まずは自分が使っている水から、見直してみよう
8月1日の「水の日」に合わせて、さまざまな視点からわたしたちの生活になくてはならない水を見つめてきました。水の惑星である地球に生き、身体のおよそ60%が水でできているわたしたちにとって、水を考えることは、命を考えることそのものです。
ふだん当たり前の存在になってしまいがちな水ですが、まずは自分が使っている水がどこから来るものなのかを知ることから始めてみてはいかがでしょうか。
たとえば「(お住まいの地域名) 水源」で検索してみると、蛇口から出てくる水がどの水源からくるものなのかを調べることができます。
例として東京都水道局のホームページを見てみると、東京都の水は都内だけでなく、群馬県や埼玉県のダムの水が荒川や利根川を下り、浄水場を経て各家庭へ届いていることがわかります。
こうして水道水について考えてみるだけでも、その循環システムの壮大さが感じられてきませんか?
水を巡る課題は、世界各地で多岐にわたって存在しています。「水」は考えれば考えるほど非常に大きなテーマだと感じられてきます。だからこそ、"まずは家の蛇口から"、水について考えてみてはいかがでしょうか。
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取材・文久保田貴大
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