芸人で、ゴミ清掃員。異色の男が語る危険な現場、ゴミと税金、そして夢
滝沢秀一 芸人、ゴミ清掃員
1976年生まれ。1998年よりお笑いコンビ「マシンガンズ」として活動するかたわら、2012年から清掃員としてゴミ収集会社で働いている。
Twitter:https://twitter.com/takizawa0914
滝沢さんは何をされていますか?
芸人をしています。1998年4月にデビューしたので芸歴は22年になります。その傍ら、8年前から始めたゴミ清掃員としての話をテレビなどでお伝えする機会も最近では増えました。
ゴミ清掃員になったきっかけは?
私が36歳の時に妻が妊娠しましたが、当時は貯金もなく、芸人の仕事も少なかったので、アルバイトを探しました。しかし、年齢不問と謳っている会社からも採用されませんでした。
35歳を超えるとアルバイトを探すことも難しくなり、芸人を廃業することも考えましたが、芸人をやめた仲間が大勢いることを思い出しました。
そこで、就職した仲間たちからアルバイトを紹介してもらおうと思い、最初に連絡した芸人仲間がゴミ清掃員でした。36歳という年齢でも大丈夫だったので、深く考えずにゴミ清掃員になりました!
最初の感想は?
清掃会社に就職できたことで、芸人を続けられると安心しました。そして初めて行く清掃工場は衝撃的でした。とにかくデカい、広い、そしてゴミが多かった。その大量のゴミをみた時「東京は人がひしめきあって生きているんだな」と思ったことを覚えています。
仕事の内容は?
手袋を装着し、集積所に置いてあるゴミ袋を清掃車に投げ込む。それだけです。しかし、何度もゴミ袋を持ち上げるので腰が痛くなりましたが、もう慣れました。今は都内で勤務していて、芸人の仕事が入るとそちらを優先しています。
8年間ゴミの回収を続けていますが、今なお、疑問に思うことがあります。なぜかゴミ袋の口を縛らず出す方がいるのです。自分に置き換えて考えてもそんなことはしません。口開きの袋を知らずに持ち上げてしまうと、道路にゴミをぶちまけてしまいます。もちろん拾い集めなくてはいけないし、大変手間がかかってしまいます。
また「悪気のある」ゴミなどは、清掃員を長く務めていると、わかるようになりました。例えば、スプレー缶をタオルで包み、可燃ゴミに出す身勝手なゴミ出しをする方がいます。出している方は軽い気持ちかもしれませんが、破裂したり、ガスが充満し発火したりすることもあるので、スプレー缶はまとめて置いてあると助かります。
もちろん「悪意のないゴミ出し」もあります。ある時、大きなゴミ袋の中身を確認したところ、瓶・ペットボトル・カンが一緒に入っていました。でも、ちゃんと中が洗浄され、きれいな状態でした。これは、同じ清掃車で回収されると思い、一つの袋に詰めてしまったと想像できます。だから、品目別に回収されることがもっと周知されれば、ちゃんと出してくれるようになると思います。
危ないですね
そうなんです! 焼き鳥などの竹串なども危険です。実際に仲間の清掃員の手に刺さったこともあります。しかし、気遣いのあるゴミ出しをする方もいます。ティッシュの空箱にまとめて竹串を入れてあり、この方法だと圧縮されても竹串が飛び出してくることはありません。素敵なアイディアでしたね。
不燃ゴミの回収時に包丁が飛び出してきたこともありました。本当に危険なのでやめていただきたいです。清掃員がどのように回収しているか知っていたら、このような出し方はしないと思います。
ゴミ清掃員を始めてから、ご苦労などありますか
分別をしていないゴミは清掃員が仕分けをします。だから"一袋でも多く分別がしてありますように"と思いながら回収しています。また、苦労という訳ではありませんが、実は後輩芸人から陰で「ゴミ兄さん」と呼ばれていたようです。最初は気分がよくありませんでしたが、時間が経ってみると笑い話になりました。実際に私の著書で、ゴミ兄さんのことをネタにしちゃいました(笑)
嫌な思いも?
それはたくさんありますよ。クレームもきます。例えば、「回収されずに取り忘れているゴミがある」と事務所に連絡がありました。指定の場所に行ってみるとそれが嘘だったことがすぐにわかりました。ゴミ出しの時間は雨。でもゴミ袋は全然濡れていないので、雨上がり後に出したゴミだとわかります。ゴミは嘘をつきません。
また、休憩中にゴミ清掃員が「なんで俺たちが払った税金でコーヒーを飲めるんだ」や、ラーメン屋に並んでいると「住民を優先させろ」と言われたこともあります。清掃員のユニホームは目立つのでしょうけど、そんな時は「清掃員だってラーメンくらい食べるわ」と思います。
ひどい話ですね
やはりゴミ回収は税金で賄われているので、いろいろ思う方もいるわけです。しかし、本当の税金の使い道を理解していない人が多いのだと思います。もちろん人件費はかかります。でも実際にはゴミの維持や処理に一番お金がかかります。例えば、処分場で出る汚水はそのままでは下水に流せないので、キレイに処理をしてから流すように義務付けられ、その費用に年間25億円もかかっています。
25億円も?
はい。それだけではありません。もし分別されなかったボンベなどが清掃車の中で爆発して火災になれば、1,000万円もする高額な清掃車も買い直さなければなりません。それに焼却場では、炉の中に燃えない不燃ゴミが溜まると火を止めて、ゴミをかき出し、もう1度火をつける作業に250~350万円もかかるんですよ。これらは全て税金で賄われています。
嬉しいことはありますか?
この仕事をして初めて思ったのですが、ゴミを回収している時に、誰とも目が合いません。別に見下されているわけではないのですが、この違和感を仲間の清掃員に聞いてみると、それは「滝沢が芸人だからじゃないのかな」と言われました。
芸人は注目されることが仕事で、黙々と作業をする清掃員とは違う。私は納得をしながらも、すごく不思議な感覚でしばらく仕事を続けました。
しかし、誰とも目が合わなくても「おはよう」「ご苦労様」と言われると嬉しいです。知り合いから「滝沢が清掃員で頑張っているからゴミの分別をやるようになった」と聞いた時は、とても嬉しく思いました。
昨今ゴミの問題がクローズアップされて何か変わりましたか?
ゴミ清掃員を始めた8年前から比べ、断然状況は良くなりました。しかし、分別やリサイクルが普及するには時間がかかると実感しています。ゴミの出し方は習ったことないですからね。意外と知らないことが多いので、これからも時間をかけてしっかりと伝えていきたいと思います。
本も出版されていますね。
「このゴミは収集できません」「ごみ育」「ゴミ清掃員の日常」の3冊を出版しています。エッセイは自分なりに面白いと思っていましたが、字を読むのも嫌という方も多いので、ゴミの清掃員の状況を正しく伝えるには漫画が適していると考え「ゴミ清掃員の日常」は漫画にしました。
でも、僕は漫画が書けません。そんな時、たまたま目にした妻が描くネコのイラストが気に入ったので、妻にお願いをしました。でも彼女は全くの素人だったので、絵の勉強に1年を費やして出版準備をしました。この時、妻は40代の後半、新しいことをスタートするのに遅すぎることはないと学びました。
ボランティア活動などしていますか?
プライベートでもゴミ拾いをしています。少しでもゴミ問題の意識付けになってくれればと思い、Twitterにその様子をアップしています。また、保育園などで小さな子供たちに分別のことを教えています。子供の頃から分別の習慣は大切ですから。
先日も江ノ島へゴミ拾いのボランティアに行ってきました。砂浜にはガラスや陶器の破片が多く、夏だったら裸足で歩く子供たちにとって危険だなと感じました。これだけ多くのガラス類が落ちている原因はわかりませんが、やはり街から流れてくるゴミが原因の一つだと思うので、私はゴミの集積所をきれいにすることがポイントだと思います。
集積所をきれいにですか?
「集積所」を「ゴミ捨て場」と間違えている方がいます。地域によってゴミの出し方には大きな差があり、集積所にゴミを置いておけば清掃員が片付けるだろうと安易に出す方もいます。そのように無秩序にゴミを出してしまうと、それらが風に吹かれ、川に落ち、海に流れて出てしまいます。だから、集積所をきれいに保つことが大切で、集積所は決してゴミ置き場ではありません。
夢はありますか?
日本中がキレイになればいいと思っています。まだ分別がうまくされていない地域もたくさんありますが、一人一人が意識を改めることで、日本は本当にキレイになると思います。
どうすればゴミが減ると思いますか?
気持ちが一番大切だと思います。以前、賞味期限が1日だけ切れたレトルトカレーが大量に捨てられている現場を見たことがあります。これは捨てる人の意識の問題で、世界では食べ物がなくて困っている人が大勢います。謙虚さを持って日々過ごせば、意識も変わると思います。
我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)
特別なことはしなくていいです。しかし、ストレスにならない程度にゴミの分別をお願いします。
そして、清掃員がゴミを回収している事を想像して欲しいです。ゴミは捨てた瞬間に忘れてしまいますが、自分が使ったものは捨てる瞬間まで意識をして欲しいです。
滝沢さんの想い
僕の夢は日本からゴミを少なくすることです。しかし「ゴミ」が出ない生活はあり得ません。そして「ゴミ」と決めるのはその人の気持ちです。例えば、食べかけの弁当が捨ててあるのを目にすると、捨てる前に"本当に必要な物だったのか"、少しだけ考えて欲しいと思います。
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取材・写真上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)
- ゴミ拾い・環境ポータルサイトBLUE SHIP (海と日本プロジェクト)参照
【BLUE SHIP主催】日本財団・NPO法人海さくらhttps://blueshipjapan.com/