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豊かな未来のきっかけを届ける

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鈴木えみが性教育を発信する思い。被害者も加害者も生まない社会を #性のギモン

Yahoo! JAPAN SDGs編集部

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撮影:荒井勇紀

性教育にまつわる絵本が書店に並び、SNSにおいてもさまざまな情報が発信される昨今。2023年度からは、子どもを性暴力から守るための文部科学省による取り組み「生命(いのち)の安全教育」が、全国の学校で本格的に始まった。社会において性教育への関心が高まっている。

そんな中、モデルでクリエイターの鈴木えみさんが発起人となって始めたのは、親子のための性教育イベント。産婦人科医や助産師などの専門家を招き、性教育を実践する上での親の悩みについて考えたり、子どもが楽しみながら性について学んだりできる場だ。

現在、10歳の娘の母である鈴木さんは、「性教育においては、わが子だけが知識を持っていても意味がない。コミュニティーや社会全体に行きわたることで初めて、子どもたちの命が守られる」と話す。自ら幼少期に体験したこと、子どもと家庭で実践してきた性教育、現在の取り組みから目指す社会の在り方について聞いた。(取材・文:木村和歌菜/撮影:荒井勇紀/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

大人になって理解した小学生の頃の体験

── そもそも性教育について発信しようとしたきっかけを教えてください。

小学生の頃に、嫌な経験をしたことが何度かあったんです。その時々で「?」とは思ったものの、当時はそれがどういうことなのか分からなかった。なんとなく親にも言えないまま、大人になってから「そういうことだったのか」と意味を理解して、悔しい思いをしました。

よく分からなかったとはいえ、何十年も記憶に残っている事実がある。それはPTSDとまではいかなくとも、子どもだった自分にとってショッキングな出来事であったことは間違いないと感じます。娘が生まれたときには、同じような経験をしてほしくないと思ったんです。彼女が4歳になった頃から、性教育にまつわる絵本を読み聞かせるなど、家庭で気軽にできることから始めました。

── 内閣府の調査(2022年)では、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターが受けた相談のうち、被害にあったときの年齢が「中学生以下」だった人が約3割にのぼるという結果も。特に幼少期はそれが性被害だと認識できず、被害が潜在化・深刻化しやすいともいわれます。だからこそ、幼い頃から身を守るための知識を身につけることが必要だと。

そうです。ですから、娘が小学生になってからは、学校でも性教育を学ぶ時間が十分にあるのだろうと少し期待していました。でも、うちの場合はそういうわけでもなかったんです。

誰かにしてもらおうと待っていたら、子どもはどんどん成長していく。その間に、自分の子どもや周囲の子どもたちが、被害者にも加害者にもなる可能性があるわけです。わが子を守りたいのなら、彼女が生きる社会全体に性教育にまつわる知識や考え方が行きわたる状態に、今すぐしなくてはと。性教育について発信し始めたのは、そんな思いが起点となっています。

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撮影:荒井勇紀

── 性教育の注力度合いは学校や地域などにもよるかと思いますが、確かに日本の性教育が進んでいないというのは、これまでもたびたび言われてきました。

そうですね。昭和生まれの私自身、学校の授業でふわっと学んだ記憶しかないんです。だからこそ、そもそも私たち親世代が性教育の必要性をあまり認識していないように感じます。

実際、娘の同級生のパパさんから「性教育は、うちの子にはまだ早い」と言われたことも。でも、そこには性教育に対しての誤解があるのかもしれないと思います。例えば、いきなり性交渉そのものについて教えるんじゃないかとか、知識を得ることで、性交渉のタイミングをむやみに早めるきっかけになるのではとか。そんな不安が生まれることは、親として理解できます。

ですが、性教育というのは、身体や生殖の仕組みなどの知識を覚えることはもちろんですが、それだけではなくて。例えば、自分が嫌だと思うことを認識してそれを相手に伝えることや、逆に相手の気持ちはどうかなと思いやること。そうした人間同士のコミュニケーションの土台を学ぶことから始まるんです。これって掘り下げていくと、人権や道徳の話でもあると私は感じています。

ドライヤーで娘の髪を乾かしながらできる性教育

── 子どもが4歳のときから家庭で始めたという性教育。具体的にどんなことを実践してきたのでしょうか。

最初は絵本を買うことから始めました。もともと私は女性の生理なども恥ずかしいと思ったことがないタイプだったので、それまでも娘から「どうして血が出ているの?」と尋ねられたら、女性の身体の仕組みをフラットに説明してきました。

ですが、もう少し順を追ってきちんと伝えたいと考えたときに、やはり自分が十分に学んできていないこともあって、何と切り出せばいいのか最初の一言が見つからなかった。それで、まずは気軽な入り口として、絵本を探しにいったんです。

初めは子どもの本棚にそっと置いておくだけにして、子どもが関心を示したら徐々に読み聞かせを始めました。身体にはプライベートゾーン(水着で隠れる部分や口)があること。それは自分の許可なしに、他の誰も見たり触れたりする権利はないことなどを、一緒に学んでいきました。

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娘に読み聞かせていた絵本や書籍(写真:本人提供)

── わが子の成長とともに、伝える内容も変化させていったのですか。

そうですね。今、娘は小学5年生になるのですが、4年生になった頃から、「あの子とあの子が両思いかも」といった話題が出てきたので。さらに進んだステップで話してみようかなと思うようになりました。

年齢別にどんなことを学ぶかについては、私はユネスコの『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』というものを参考にしています。これは、性教育の国際的な指針とされていて、5歳から18歳以上まで、年齢に応じた学習目標がかなり詳しく記されています。

定期的にスマホで確認して娘と話したりしていますが、もちろんここに書いてあることが正解というわけではなく、子どもの心身の成熟度合いによって、学ぶ内容はアレンジすればいいと思っています。

そのほかに、普段の何げないコミュニケーションも、性教育につながると考えています。わが家ではお風呂上がりにドライヤーで娘の髪を乾かす時間も、有効活用しているんです。

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撮影:荒井勇紀

── 髪を乾かしながら性教育?

はい。娘は髪が長くて、乾かすのに毎日すごく時間がかかるので。私がドライヤーで乾かしてあげながら、お互いその日にあった嫌だったことと嬉しかったことを発表することにしているんです。

こうすることで、万が一何か異変が起きたときに、まずはそれを話せる親子の関係を作っておきたいなと。何より、自分が嫌だと思うことを認識して、それを言葉にする訓練が大事だと考えています。

例えば私も「今日、道で転んじゃってすごく恥ずかしかったんだよね」とか、なるべく小さな出来事を率先して話すんです。嫌なものは嫌だと思っていい、それを口に出してもいいと知ってほしくて。

やはり学校のような集団生活では、本当は嫌だったり悲しかったりしても、周囲に合わせるような場面はたくさんあると思うんです。社会生活において誰もが通ることかもしれませんが、まずは家庭だけは本音を出せる場でありたいなと思っています。

どんな些細なことであっても、自分の感じたことに正解も不正解もない。何が嫌で何が嬉しいかは、人によっても、そのときの状況や気分によっても変わるもの。人それぞれ、その時々の自分の気持ちを大切にすることは、他者の気持ちを大切にすることにもつながると考えています。それがひいては、被害者も加害者も生まない世界につながると思います。

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洗って繰り返し使えるエコラップ作りのワークショップに娘と参加した休日(写真:本人提供)

──  親子間の信頼関係や、自分と他者の気持ちを受容する姿勢を育むことが、性教育につながると。

そうですね。そうした意味では、子どもから質問をされたら必ず真実を伝える、ということもルールにしています。例えば、悲しい性犯罪のニュースであっても、質問があれば何があったのか説明するんです。もちろん、彼女が受け入れられる範囲の言葉に変換する工夫は必須ですが。はぐらかさずに真正面から向き合うことは、親子の信頼関係につながりますし、娘自身も受け止め上手になってきたなと感じます。

── 受け止め上手とは?

社会の一員として、そこで起こっている事実に目を向ける。そしてそこから何を感じたのか咀嚼しながら、自分の感情や考えに向き合う。その積み重ねによって、先ほどのドライヤーの話にも通じますが、自分の気持ちをごまかさずに受け入れられるようになっていくのではと思います。今の彼女は、周囲のことも尊重しつつ、決して無理はしない。はたから見ていても、自分のペースで生きられる人になってきたように感じています。

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撮影:荒井勇紀

性教育はみんなで取り組まないと意味がない

── 今年から始めた、親子のための性教育イベント「Family Heart Talks~幼少期からの『いのちの授業』」。この企画の発起人となったのには、どういう経緯が?

4年前に、わが家にあった性教育の絵本の写真を撮って、Instagramに投稿してみたら、想像以上の反応があったんです。「こういう情報を共有してくれてうれしい」というコメントをたくさんいただいて。その後、Instagramのストーリー機能でアンケートをとってみると、「子どもに、どうやって性教育をすればいいのかわからない」と答えた人が64%いたんです。それに対して、何か自分にもできないかなとずっと思っていました。

そのことを去年、友人に話してみたら、偶然同じ課題感を持っていることがわかって。その友人がまた別の友人に声をかけてくれて、チームができました。打ち合わせを重ねて、それぞれが得意なことをかけ合わせた結果が、今行っているリアルイベントの形だったんです。

── イベントでは具体的にどんなことを行うのですか。

おもな対象は、3~8歳くらいの子どもたちと保護者の方々。前半と後半とで、プログラムの内容を分けています。

前半の60分は保護者に向けたQ&Aコーナー。性教育をする上で、迷ったり悩んだりしていることを質問してもらい、産婦人科医や助産師などのプロと一緒に対処法を考えます。この間、子どもたちは別の部屋でダンスや折り紙・新聞紙を使った遊びなど、プロの講師によるワークショップで、思いっきり楽しんでもらいます。

そして後半30分は、子どもたちも一緒に、プライベートゾーンについて学んだり、性犯罪や性暴力から逃れるために覚えておきたい合言葉を大きな声で言ってみる練習をしたりします。

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これまで都内で3回開催された性教育イベントには、累計で約600人の親子が参加した(写真:Family Heart Talks提供)

イベント終了後のアンケート結果は、毎回満足度がすごく高いので驚いています。「ママ友同士でもなかなか言い出しにくいトピックだったので、みんなで考える場を設けてもらい学びが多かった」。そんな言葉をもらうと、手探りでしたが、自分ができることから動いてみて本当に良かったと思えます。

Q&Aコーナーでは、これまで一度も質問の内容がかぶったことがないんです。つまり家族の数だけ、悩みも多様にあって、そこに正解はない。だからこそ、こうして疑問や戸惑いを持ち寄ることで、新たな考え方のヒントが得られるのだと、改めて実感しています。

── これまでのモデルやクリエイターの活動とは異なる、こうした社会課題についての発信をすることについては、ご自身でどのように捉えていますか?

社会課題といえば社会課題なのですが、そういう意識はあまりないです。シンプルに、親目線でわが子を守りたいという気持ちからスタートしているので。同じ保護者として、ママ友やパパ友と会話をしている延長のような感覚です。そうした意味では、特別な気負いもありません。

何より、わが家だけ意識が高くても、結局何も変わらないじゃないですか。子どもが守られるためには、周りが同じ意識を持っていないと意味がない。被害者をなくすには、加害者をなくすしかなくて。そのために、正しい知識や互いを尊重し合う在り方を知るきっかけを、とにかく広い範囲に届けていきたいと思っています。

── 性教育は点ではなく、面で取り組まないと正しく機能しないと。

はい。例えば、クラスにいる全員がプライベートゾーンについて知っていなければ、誰かがふざけてスカートめくりやズボンおろしのような加害行為をしてしまう可能性もありますよね。みんなが共通の認識を持っていなければ、成立しないわけです。だから、今私がしていることは、最終的に自分の家族を守ることにつながる、という意識で動いています。

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撮影:荒井勇紀

性教育という言葉が要らなくなる世界へ

── 現在の取り組み、これからどのように展開させていきますか。

性教育はもちろん、子育てで向き合わないといけない課題って、本当にたくさんありますよね。だから、性教育というテーマをメインにしつつ、ゆくゆくはファミリーで楽しめるフェスのようなものに発展させていくのも面白いかなと考えています。アーティストを招いたワークショップや、パパ向け、あるいはパートナー同士で参加するトークイベントなど。いろいろなコンテンツをタイムテーブルに組み込んでいくと楽しそうですよね。

現状では、アートに触れたいときは美術館に、運動したいときは公園やジムに行けばいい。じゃあ性教育を学びたいときは?となると、アクセスできる情報も場所も圧倒的に少ないと思うんです。だからこそ、定期的にこうした場をもちたいと考えています。

何より、われわれ子連れはお出かけ先が欲しいんですよ、切実に......!(笑)。私自身、休日のたびに「子どもと楽しめるワークショップ、どこかでやってないかな」といつも検索しているんです。子どもも親も等しく満喫できる場づくりには、これからもこだわっていきたいです。

── より多くの人に届けていくとなると、そのための仕組みも必要となりますね。

そうですね。今後は、例えば賛同してくれるアンバサダー的な方たちを増やせたらとも考えています。このイベントのフォーマットをコピーしてもらうなどして、複数の地域でこうした場を開催していくことが大事だと思います。

また、公教育の授業で使える教材を作るというのもやってみたいですね。やはり学校という場所で、月曜日から金曜日まで一緒に過ごす仲間同士が、お互いの性やジェンダーについて一緒に勉強するというのは、すごく意義のあることだと思う。その実現に向けてできることを探っていきたいです。

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撮影:荒井勇紀

── 今の取り組みの先に、思い描く理想の未来とは?

私たちの世代はそうではなかったからこそ、ちゃんと性について教わった子どもたちが成長をして、さらにまたその子どもたちにきちんと伝えていく。その循環をつくっていけたら理想的です。

この先、性教育がもっと当たり前になっていけば、100年後には「性教育」という言葉自体、なくなっているかもしれません。昔はわざわざそんな言葉を使っていたなあ、といわれるような時代がやってくるかもしれない。

これって「多様性」という言葉だって同じだと思っていて。人それぞれ多様であることが当たり前なのに、わざわざ多様性を意識しないといけない時代というのは、何だかなと思ってしまう。

性教育とは、本来特別なことでも何でもなく、自分や他者を知って尊重し合う生き方を学ぶこと。誰もがそれを当たり前のものとして身につけられれば、性というテーマに限らず、この世界は誰にとっても生きやすい場所になると思います。

鈴木えみ(すずき・えみ)

1985年生まれ、京都府出身。1999年、ファッション雑誌「SEVENTEEN」の専属モデルとしてデビュー。ファッション誌を中心に数多くのメディアで活躍。女優や歌手としても活動。2011年、チーフエディターを務める「s'eee」を発行。デザインプロジェクト「Lautashi Design」のディレクターをはじめ、クリエイターとしての活動も多岐にわたる。プライベートでは、2013年に女児を出産。子育ての経験を通じて、子どもと性の会話をすることの大切さを実感。発起人として、同じ課題意識を持つ企業複数社とともに、親子で性教育を学ぶイベント「Family Heart Talks~幼少期からの『いのちの授業』」を2024年1月から開催している。@FAMILY HEART TALKS

#性のギモン 」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。人間関係やからだの悩みなど、さまざまな視点から「性」について、そして性教育について取り上げます。子どもから大人まで関わる性のこと、一緒に考えてみませんか。

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