再エネ×ブロックチェーンで気候変動に歯止めを。自然も農家も飲む人も幸せにするバリのコーヒー
仕事や勉強のお供に、多くの人に親しまれているコーヒー。日本のコーヒー消費量は20年前に比べて3割増加しているそうだ。1日に何杯もコーヒーを飲んでしまうという人もいるだろう。それでは、そのコーヒーがどこからきているのか、生産地の状況に思いを馳せたことはあるだろうか。
近年、多くの地域では気温上昇、降雨量の変化や海面上昇などの気候変動が、農業を続けることを困難にしているのが現状だ。気候変動によって、これまで通りの農業を続けることが難しくなり、作物の転換や失業を余儀なくされた農家もいる。コーヒーが日本に変わらず輸入され続けていたとしても、それを栽培する人々の生活状況は自然環境の変化による影響にさらされやすく、収入が安定しないことも多いのだ。
気候変動と、それにまつわる農家の貧困問題。それらを同時に解決するために、精力的に活動しているのが「 su-re.co(シュアコ)
」だ。今回IDEAS FOR GOOD編集部は、チームを率いる高間氏に、インドネシア・バリ島で行われるsu-re.coのプロジェクトについてお話を伺った。
高間 剛(たかま たけし)氏
オックスフォード大学で環境博士号を取得。現在はストックホルム環境研究所(SEI)のアソシエイト、ウダヤナ大学の客員教授などを務める。su-re.co CEO。
インドネシアの農家が直面する気候変動の問題
近年インドネシアでも、気温上昇や降雨量の変化、海面の上昇などの気候変動の影響が明確にあらわれている。特に、バリ島を含めた東インドネシアでは、気候変動によって今後降雨が減っていくと予想されており、農業への影響は計り知れない。こうした気候変動が続くと、作物や生態系への大規模な被害も免れないと推測されている。
世界第4位の人口を誇るインドネシア。2億6700万以上の人口のうち、約30%にあたるおよそ7500万もの人が農業に従事している。気候変動は、農家にとって家計の収入源を揺るがす深刻な問題だ。気温や雨量の影響で農作物の収穫量が減ったり、海面上昇で農地自体が使いものにならなくなったりと、様々な危険性をはらんでいるからだ。
su-re.coはこれまで気候変動が起こることを前提とし、どうすれば現地の農家が収入を安定的に確保し、向上させることができるのか、科学的な研究に基づいて考えてきた。そして、su-re.coが主体となり取り組むことができる、気候変動解決に向けた施策を実行しているのだ。
バイオガスキットとブロックチェーン
気候変動に強い農作物を作ることを農家に勧める、農家が作った農作物を高い還元率で買い取るなどの対策を通じて、su-re.coは農家を支援してきた。一方で、農家を支援しながら彼らを苦しめる気候変動の問題を根本的に解決できないか、ということもあわせて検討してきたのだ。そしてたどり着いた施策の一つが「バイオガスキットの導入」だった。
収入が十分でない多くの農家は、LPGガスの購入が難しいことから、森林伐採で得た薪を燃やすことで日々の生活の熱源を得ている。しかし、薪を燃やして発生する二酸化炭素などの気体は、気候変動を助長する可能性があると言われており、農家の貧困を深刻化させる悪循環となっているのだ。
su-re.coが開発したバイオガスキットは、農家が育てる家畜の糞や家庭からでる残飯などを発酵させることで、クリーンなガスと有機堆肥を発生させるというものだ。このガスの主成分はメタンガスであり、それは二酸化炭素の100倍以上の温室効果があると言われている。家畜の糞を材料にする装置はメタンガスを捕獲する役割も果たしているのだ。農家がスムーズに装置を導入できるよう、su-re.coは気候変動を根本から学ぶためのスクールも開催している。
su-re.coの挑戦は、バイオガスキットを導入するだけでは終わらない。彼らはさらに、欧州政府の研究プロジェクトでカーボン・オフセットをブロックチェーン
で取引するシステムを開発中だ。
現在クラウドファンディングが行われているsu-re.coのプロジェクトが目指すものは、バイオガスキットを導入した農家のCO2削減量を計測し、CO2排出権として販売できるようにするシステムの確立だ。削減されたCO2量に応じて、農家には対価としてモバイルマネーが支払われる。この仕組みは農家がバイオガスキットを導入する動機となり、インドネシアにクリーンエネルギーの利用を広げる契機となる可能性を秘めているのだ。
今後は個人の充足だけでなく、環境や社会のことが優先される世界になっていく
もともとsu-re.coはどんな経緯で立ち上がり、今後どのような活動を展開していくだろうか。代表を務める高間氏にお話を伺った。
Q. 高間さんはなぜsu-re co.を立ち上げたのですか?
もともと大学教授になるつもりで、博士号を取ったあと、ストックホルム環境研究所で気候変動の研究をしていました。最初に携わった南アフリカのプロジェクトでは、研究として良い成果は出ていたのですが、明確な解決策を提示できなかったというのが心残りでした。そのあと携わったインドネシアでのプロジェクトでは解決策を実行するところまでやりたいなという気持ちがあり、su-re.coを立ち上げました。
Q. なぜコーヒー・カカオの作物に注目したのですか?
バリ島の農業の状況をみていると、地域によっては稲作が困難になっているところもあり、稲作をやめてカカオ栽培を始めたところの生活水準が高いということがわかりました。それがきっかけとなり、カカオに注目しました。あとは、どの作物も気候変動の影響は受けますが、金銭化しやすく、農家にしっかりと収入をもたらす農業が良かったというのも、コーヒー・カカオを選んだ理由の一つです。
Q.今回のプロジェクトにはどのような人が参加しているのでしょうか?
su-re.coのコーヒーのパッケージには人の顔がたくさん書かれています。実はこれ、実際にプロジェクトに参加している人たちなんです。欧州から研究や支援で来ている人もいれば、インドネシア政府・インドネシア気象庁の人もいて、su-re.coのメンバーも合わせるとかなりの人数になります。
関係者は多いのですが、全部の作業をバリ島でやる必要はありませんし、パートナーシップがあれば、彼らをプロジェクトメンバーとして囲い込む必要もありません。みんなが必要なパートで動いてくれています。今は組織のあり方も含め、新しいやり方を考えています。
Q. バイオガスキットとブロックチェーンのシステムは誰でも簡単に扱えるものなのでしょうか?
操作の仕方はシンプルなので、誰でも使うことができます。たまに国やNGOが支援に入ったときに、豪勢な装置を作ることもあるのですが、現地の人がそれを買い続けるということはあまりありません。現地の人が使い続け、ビジネスとして回っていくことがなければ、意味があるとは言えません。
そのためにsu-re.coではまず農家にとっての初期投資をできるだけ抑えられるようにしました。それでもバイオガスキットを買わない農家が多かったため、最終的には無料で配布することにしました。その分はコーヒーやカカオなどの売り上げで賄ってもらい、さらにブロックチェーンを使った排出権取引を通じて彼らの利益を生み出せないかと考えています。
Q. 今後su-re.coは、社会にどんなインパクトを与えていきたいですか?
今後は個々人の利益よりも、環境や社会の利益を優先する時代がやってくると思っています。気候変動など自然の変化によって、人間の活動にも実害があるということが認知されてきたからです。
例えば先日、iPhone12がリリースされたときに、充電器がついていないことが
発表
発表されました。Appleはその理由を「iPhoneを収納する箱を小さくし、運搬するときのエネルギーを抑えるため」と説明しました。それによってトラックや飛行機で、一度にたくさんのデバイスを運ぶことができます。そしてその発表に対して、あるYouTubeのインフルエンサーが「それなら仕方ない」と発言したのです。充電器が付いていないのは、ユーザーとしてはもちろん不便なのですが、それでも環境・社会的な利益を優先する。そういう社会が間もなくやってくるのだと思います。
段々とみんなが、「自然環境を蔑ろにすると自分たちに返ってくる」ことを認識しはじめています。su-re.coではそうした社会での先進事例となるプロジェクトを作っていきたいですね。
Q.最後に記事を読んでくださっているみなさんにメッセージをいただけますか?
今回はクラウドファンディングで支援をしてくださっている方もいるかと思いますが、いずれは支援ではなく私たちのビジネスに参加してほしいです。こうした背景を知って、いずれ私たちのプロダクト――コーヒー・チョコレート・ロウソク・石鹸などを購入していただけるといいなと思っています。
インタビュー後記
疲れているとき、いまいち集中できないとき、頑張らなければいけないとき、多くの人が頼りにするコーヒー。私たちを奮い立たせてくれる飲み物が、気候変動の影響を受け、過酷な環境にさらされているのはあまりに悲しいことだ。
ならば、コーヒーを作りながら気候変動の根本原因を解決しようではないか、というのがsu-re.coの活動だ。今回インタビューをした高間氏の「本物でありたい」「問題を根本から解決しうる活動をしたい」という力強いメッセージが印象的だった。クラウドファンディングでは早々に支援が集まりつつあり、すでにファーストゴールが達成されている。しかし、この時点ですべての問題が解決されたわけではない。彼らは「カーボン・オフセットをブロックチェーンで取引するシステム開発」というネクストステップに向けて、活動を続けている。
今回、IDEAS FOR GOOD編集部は一足先にsu-re.coのコーヒーを試してみた。インドネシアのコーヒーは濃厚なコクと苦味があるイメージだが、su-re.coの扱うコーヒー豆はフルーティで飲みやすい。バリの自然の恵みを受けた香り高いコーヒーを試してみたい方、引き続きコーヒーを楽しむためにコーヒー農業の抱える問題を解決したいと思う方は、ぜひクラウドファンディングページやオンラインサロンのページをのぞいてみてほしい。コーヒーを作る環境、栽培する人、飲む人がすべて幸せになれるような仕組みが、今後作られていくのが楽しみだ。
【関連ページ】su-re co. - Sustainability & Resilience
【参照サイト】一杯のコーヒーから、気候変動に起因する農家の貧困問題克服に挑戦!
【参照サイト】SDGsの実践を通じてサステナブルな社会を目指すオンラインサロン「su-re.community」
元記事は こちら
京都生まれ、東京育ち。ロンドン在住。大学院までは都市社会学を専攻、シンガポールを対象にフィールドワークを実施する。大都市での人々の生活と緑の関わりを引き続き探求中。好物は、コーヒー、広東料理、香りもの。