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海と気候変動 ~これからも魚を食べ続けるために~ 第1回「食べ方・獲り方」編

EDF

私たちの食卓を支える水産物が、少しずつ、だんだんと姿を消しています。ここ数十年、日本で漁獲される水産物の量は減り続けているのです。

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(多様な魚に支えられる日本の食卓)
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(出典:水産庁ウェブサイト 2018年度水産白書)

去年、政府が専門家を集めて開いた検討会では、魚介などの水産資源が「気候変動」など環境の変化と「漁業」の両方によって減っていそうだと分析。

https://www.jfa.maff.go.jp/j/study/attach/pdf/furyou_kenntokai-19.pdf

今後すべきこととしては
①気候変動で海の環境や生き物がどう影響を受けるか、もっと調査・予測する
②減る魚種を守りつつ増える魚種を狙って獲る
③漁船などの出す温室効果ガスを抑える
④そのために組織や国家の枠組みを超えて協力する―
という方向性をまとめました。

これはなぜなのか。そして、このために今、日本私たちが魚を食べて続けるために、今、何をできるのか考えてみます。

もくじ
1.減ったら守り、増えたら食べる
2.増えるか減るか、見極める
3.海や漁業のデータを正しく集める
4.魚の獲り方を変える
5.漁船の大きさや数を考える
6.その他の課題

減ったら守り、増えたら食べる

昨年、日本政府は
・ここ20年ほど、気候変動のせいで、これまでの知識で説明できない水温の上がり下がりがみられている
・ここ数年、サンマ、スルメイカ、サケが減っていて、大きな理由の1つとして水温の変化が考えられている
・サンマとスルメイカは、ただでさえ減っているのに、最近、漁業が十分に抑えられていないために、より追い打ちを受けていそう
・魚を獲っている国で漁業の規則をつくりつつ、規則に違反して獲られた水産物が日本に輸入されないようにすべき―
と取りまとめました。

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(出典:水産庁ウェブサイト 不漁問題に関する検討会とりまとめ)

確かに、魚が減った時には、その原因が水温だとしても、獲りすぎない工夫が必要そうです。例えば日本の太平洋沖のマイワシの推定量は
・1980年代に2000万トン前後いた
・水温上昇などの影響から、92年には250万トンほどに減った
・減った後にも漁船に多く狙われたため、08年には10万トンを下回った―
とみられます。「92年以降は水温などの条件が回復していたのに、少なくなっていた資源を獲り過ぎて追い打ってしまったため、回復が遅れた」(渡邊良朗元東京大学教授)ようです。実際、後に漁獲規制が強まるまで、マイワシは回復を始めませんでした。

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(出典:みなと新聞2021年6月10日号)

今、減っているサンマやスルメイカなどについても、「減った理由は水温だから」と決めつけすぎて今まで通りのペースでたくさん獲り続ければ、資源の回復を妨げてしまいそうです。サンマを多く獲る台湾、スルメを多く違法に獲っているとみられる中国などと協力し、獲り過ぎを防ぐことが大切になっています。違法漁船にお金を与えないため、政府は今、不法に獲られた外国産水産物の日本への輸入を禁止する法律を整備していますが、こうした取組みを続けていく必要があります。

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(北太平洋のサンマについて。出典:水産庁ウェブサイト 不漁問題に関する検討会とりまとめ)

 一方で、サワラやブリなど、温かい水温を好む魚種が、最近の温暖化で北日本でも獲れるようになっています。こうして、増える魚・獲りやすくなる魚を使うことが今後、大切です。 私たち自身、「その時々で豊富な魚を優先して食べる」「減ってしまった希少な魚は、無理にたくさん食べない(希少なぶん、ちゃんと値段を払って食べる)」ことができます。政府は主要な魚の増減(http://abchan.fra.go.jp/index1.html)を計算していて、これを基にオススメの魚の宣伝(https://sh-u-n.fra.go.jp/)を始めつつあります。これを参照したり、エコラベルのついた魚を買ったりしてみると良いかもしれません。

増えるか減るか、見極める

減る魚を守り、増える魚を食べる。そのために「気候変動でどの魚種が増え、どの魚種が減るのか」を把握・予測することが大切になります。

水温などに特に影響されやすいのは、デリケートで死にやすい魚卵や子どもの魚です。例えば「水温が変わって、稚魚の餌(プランクトン)の発生する時期がずれたり量が減ったりして、稚魚が飢え死にしてしまう」ことなどが心配されています。

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(出典:農林水産省農林水産技術会議事務局・水産総合研究センター〈現水産研究・教育機構〉主催 2014年度研究成果発表会「地球温暖化による『海』と『さかな』の変化」資料)

逆に、水温などの条件の良い年には「魚が大発生」といったニュースにもなります。また、成熟した魚についても「どの海域に多く泳いでいくか」は、水温などの環境次第で変わります。水温などから受ける影響は、魚の種類ごとで違うので、それぞれについて「卵や子どもが自然界で多く死んでいないか、死んでいる場合には気候変動がどう関係しているのか」「泳ぐコースがどう変わって行くのか」と研究することが重要になります。

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(出典:水産庁ウェブサイト 不漁問題に関する検討会とりまとめ)

今のところ、政府は1~2年前の古いデータを使って「海にいる魚の量」などを分析して、漁獲枠(魚を獲って良い量の制限)はじめ漁業管理を決めています。一方で、最近はスマートフォンやパソコンを生かし、漁師から直接「どの海域でどの魚種がよく獲れている」といった最新のデータ集めるIT(情報技術)が発展しています。これを上手く使えれば「今年は思ったより魚の発生が多い。特に多くの魚が来ている県の漁獲枠を増やそう」「子どもの魚が予想よりも少ないので枠を減らそう」といった、状況に合った対応がしやすくなりそうです。

海や漁業のデータを正しく集める

最近、一部の漁師や関係者が、魚介類の売先や役所に対して、データを正しく報告しないというニュースがあります。獲れた量を少なく報告して漁獲量の制限を破ったり、余った魚を売りさばいて不当に儲けたり、魚介類の産地をごまかして売ったりという問題です。データにウソが混じってしまうことは「海にいる魚の量を知る」「魚が増えたり減ったりする原因を探る」「漁獲枠などのルールが破られないようにする」こと、どれにとっても良くないです。

まずはデータが正しく報告されるように、政府がしっかり見張って罰則をつけることも大切。ですが、すでに日本には、漁船上で獲れた魚の種類や量を入力したり、漁船や漁港にカメラをつけて獲れた魚を記録したり、漁場の場所を消費者に公開したり、情報が改ざんされないようなブロックチェーンの仕組みを採り入れたり...と、前向きに頑張る漁業現場や、それをサポートするIT企業が多くあります。

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(出典:みなと新聞2020年2月28日号)

良くないことをする人を責めるだけでなく、良いことをしようとする漁業の魚を食べて応援することも、消費者の役割になりそうです。

漁師だけでなく、国や科学者がもっとデータを集め、分析する必要もあります。ただ、国連食糧農業機関(FAO)のマヌエル・バランジ水産養殖局長は「どう生物への影響を調査して予測に生かすか、どう漁獲枠への影響を考慮するか、どう近隣国と制度や協定をつくるか、どう水産への長い目での影響を分析するか、どう消費者へ意識啓発するか。こうした適応の科学に、われわれは投資していない」と警告します。

日本でも、各地の研究機関からは人手やお金が足りないせいで十分な研究ができないという訴えが絶えません。東京大学の牧野光琢教授は「水産資源と真剣に向き合うためには、今ある水産庁の予算80億円台だと足りない。他の先進国同様、年間300億円規模が必要」と語るように、科学に予算をつけて人手を育てることも、今後の大きな課題です。

魚の獲り方を変える

研究を通して「水温が上がって、こういう魚種が増え/減っている。増えた魚を狙って獲ろう」と対応したり「将来増えそうな魚を狙おう」と準備したりするには、魚を獲る方法を変える必要も出てきます。

政府の方針には
・決まった魚種に頼っている漁法(網や釣り具の使い方のこと)は、その魚が減った時に対応できないので、1つの漁船でいくつかの漁法や魚種を対象にできるようにすべき
・「漁船がどんな漁法を使えるか」をしばるルール(道具や漁場の制限、船の大きさや検査基準、乗組員に求める資格など)の改善が必要―
という考え方も入っています。

たしかに、気候変動で魚の分布が変わる中、使って良い漁法・漁場・魚種や船の大きさなどをしばる「漁業許可」は注目です。日本では長年、法律によって、漁業の種類ごとに使って良い漁船のサイズや道具を規制し、乱獲などを防いできました。ただし最近は、魚の種類ごとに漁獲量を制限して乱獲を防ぐ方法が主流になってきたため、代わりに船を大きくしたり、色々な漁法を使ったりしても良いのではという漁業関係者も出てきています。気候変動の影響で、過去に使えていた漁法や漁場で魚が獲れなくなっているケースがあり、逆に、魚の分布の変化や技術革新に合わせて、別の獲り方ができる場合もあるからです。

2021年に水産団体(大日本水産会と海洋水産システム協会)の開いた話合いでは、複数の漁法を使えるマルチパーパス(多目的)漁船が必要だという声が続出。また2020年に改正された漁業法では、漁船が乱獲を避けるため厳しい漁獲量規制を守る漁師であれば、今まであった漁船サイズの規制にしばられず、大きな船を造っても良いとしています。実際に船が大きくできれば、多くの道具を積んで、多くの漁法をいとなみやすくなります。

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(出典:水産庁ウェブサイト 不漁問題に関する検討会2021年5月13日資料)

今のところ、中国では、大型漁船は、複数の漁法の道具を積みつつ、状況に応じて使い分けることで、多くの種の魚を獲れるといわれています。日本の漁業関係者の中にも「中国のやり方の方がお金を稼ぎやすい。漁獲量などの規則は守るが、なぜ漁法や魚種まで縛り付けられないといけないのか」と指摘する人が一部にいます。

一方で、新しい漁法・漁場を使う漁師が現れれば、もともとその漁法・漁場を使ってきた漁師から「ライバルになるので入ってこないで欲しい」という声が出ます。特に漁業の種類や漁師の人数が多いとされる日本では「今いる漁師の立場」をいかに守りつつ「漁業のあり方の改革」を進めるか、バランスが問われます。

漁船の大きさや数を考える

漁船を大きくする時、同時に注目されるのが「漁船の数をどこまで守るべきか、どこまで漁船が減ることを受け止めるべきか」についてです。例えば、10匹の魚を獲るにしても、10隻の小さな船で1匹ずつ獲れば10隻分の漁師に働き口ができますし、1匹1匹の魚を丁寧においしく仕上げやすいです。一方、大きな船を1隻だけ造って、それで10匹すべて獲れば、かかるコストは1隻分なので、安く魚を出荷できます。また、船が少ないと、それぞれを見逃しなく見張りやすいので漁獲量の誤魔化しなどの不正も減りやすいですし、税金を使って漁業に補助金を出す必要も減っていきます。

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(出典:みなと新聞2021年10月21日号)

漁船は「多いほど良い」とも「少ないほど良い」とも言い切れない、だから意見が分かれるのです。

そして、苦しい話ですが、水産資源の減少・不安定化や漁師の高齢化などの起きている日本で、今ある漁船の数をそのまま残すことは、不可能に近くなってきています。政府の内外からは「漁船数をいかに減らしつつ、残った船を大きく、効率的に稼げるようにするか。漁業の将来像をつくり直していかなければいけない」という意見も出始めています。

とはいえ、働き口を多くつくっていたり、地域の文化を担っていたりする漁船を、そう簡単に減らすこともできません。漁船を減らすべきとする識者たちからも「(漁村の働き口や文化の保護に特に役立つとされる)沿岸の小規模な漁業を守るための、ある程度の政策も求められる」と認める声は多いです。

いずれにせよ、近年、政府の中でも外でも増えてきているのが「どんな種類の漁船の数をどれだけ減らさざるを得ないのか、この話合いは難しい。だが、そこから目を逸らし先延ばしていては、温暖化への対応もできないし、外国より安く魚を届けるという競争力も得られない」というシビアな意見。今、国や漁業団体に、漁師同士や消費者、それぞれの立場をつないで未来を描く「調整力」が問われているといえるでしょう。

大きな漁船も小さな漁船も、色々な漁法も、それぞれに違う強み・役割を持っています。私たち国民がニュースを観る時も、それぞれに役割が違うことを意識して「どれかだけが生き残り、どれかだけが減るべき」ではなく「どうバランスを取れば、それぞれの強みが生きそうか。未来も獲り食べ続けるにはどうすると良さそうか」という目線を持ち世論をつくれると、色々な種類の漁業が共存しやすくなり、色々な種類の魚を、私たちに届け続けてくれそうです。

その他の課題

天然の魚が減った時、代わりに期待されるのは養殖ですが、養殖を増やそうにも、魚の餌や育てるべき稚魚の量などに限りがあります。特に、政府が増やそうとしている養殖ブリは、現状でも野生の稚魚を獲ってきて育てるケースが主で、その稚魚が21年は少ししか獲れませんでした。より多くの稚魚を獲れば、天然の資源が減る危険も高まります。今後、天然でなく人の手で卵から孵す"人工"の稚魚を増やしたり、稚魚を多く獲りたい養殖業界と大きな個体を獲りたい漁獲漁業側とで調整したりすることが必要そうです。

加えて、政府の取りまとめた
・魚の分布の変化に合わせた定置網(水中に迷路のように網を張り、入り込んだ魚を獲る漁法)の置き場所の変更
・人工放流しているサケの稚魚が放流場所に生きて帰ってくる割合が下がっている原因の検証と、回帰率の良い放流技術の開発
・豊富にいる魚種、未利用資源を活用するための、漁師と加工業者の話合い―
といった問題の解消方法も、今後、具体的にしていくことが大切です。

(みなと新聞2021年6月10日~15日号連載 『どう向き合う、気候変動』を再編集し掲載)

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