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「40年ルール」見直しで再稼働する老朽原発――危険性はないのか?自治体の困惑と期待

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水晶浜から臨む美浜原発

原発をめぐる政府の方針が大きく変わろうとしている。原発の運転期間を原則40年とする「40年ルール」を緩和する動きが出ているのだ。40年ルールは福島第一原発の事故後、老朽化した原発を運転させない目的で定められた。運転開始から40年が過ぎた「老朽原発」に安全性の懸念はないのだろうか。老朽原発が再稼働した福井県美浜町の地元関係者や識者に話を聞いた。
(文・写真/ジャーナリスト・小川匡則/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

再稼働した老朽原発

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美浜町竹波地区の澤田忠義区長

青い水面の向こうに薄灰色の円筒状の建造物が並ぶ。若狭湾に面した関西電力・美浜原子力発電所(福井県美浜町)だ。9月26日14時30分、その美浜原発3号機が本格的な営業運転を再開した。

美浜原発1号機は1970年に、2号機は1972年に運転が始まった。ともに2015年に廃炉が決まっている。3号機は1976年12月に運転が始まり、まもなく46年を迎える。「40年ルール」ができてから、40年を超えて稼働する原発は国内で初めてだった。

発電所にほど近い竹波地区で、すし屋を営む澤田忠義さん(63)は同地区の区長も務めている。原発に対しては複雑な感情をもっている。

「(原発には)不安はありますよ。だって、そこにあるんだから。何が起きるかわからないという思いはあります」

澤田さんの店からは原発がはっきりと見える。この付近には海水浴場として人気の水晶浜もあり、美しい海が広がっている。

「私たちがこの敦賀半島に住んでいられるのは原発ができたからです。それまでは細い道でガードレールもなく、ハンドルを切りそこねたら崖から落ちてしまうようなところでした。それが原発をつくることになって、綺麗な道路が整備された。海水浴場もつくられた。原発の定期検査は1基ずつ3~4カ月かけて行われる。全国から一年中作業員が来るので、民宿だってたくさんあった。だから、原発の恩恵を受けた面もある。でも、怖さもある」

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(図版:ラチカ)

2011年の東京電力福島第一原発の事故以降、美浜原発は1~3号機すべて運転停止となり、その間は定期検査の作業員が不要になった。そのため、周辺にあった民宿はほとんどが廃業したという。それでも約10年の運転休止を経て、3号機は再稼働を果たした。

澤田さんは美浜原発との付き合いはこれからも続くと考えている。なぜなら、仮に原発が新設・増設されるとしても、すでに原発がある場所にしかつくれないと思うからだ。

「なんで福井県が犠牲にならなあかんのやとも思うけど、これはもう仕方がない。自分たちはリスクを背負って生きているんです」

原発が立地自治体に経済的な恩恵を与える一方、大きなリスクにもなる――。澤田さんの言葉から改めてその現実が伝わってくる。

「40年ルール」撤廃の動き

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美浜原発付近にあるPRセンター

美浜で始まった老朽原発の再稼働。いま、各地で同じ動きが出始めている。

きっかけは8月24日にトップが出した指示だった。政府のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議の場で、岸田文雄首相は「原発の運転期間のルールの見直し」と「次世代革新炉の開発・建設を進めること」の検討を加速するよう指示した。これまで抑制的だった原発政策を大きく転換させるものだった。

2012年に原子炉等規制法が改正され、老朽化した原発を運転させない「40年ルール」が定められた。原発は認可を受けた日から40年後までに運転を終えるのが原則。40年経過した時点で安全性が確保されれば一度に限り20年の運転延長が認められるというものだ。

経済産業省が9月22日に行った論点整理では、「多くの国では運転期間の上限はない」「米国では80年延長認可を取得した原子炉は6基」「40年は一つの目安であり、明確な科学的な根拠はない」などと従来とは打って変わって、運転長期化を支持した。

さらに11月2日の原子力規制委員会では、運転30年超の原発について10年ごとに審査・認可し、60年超も可能という新制度案が示された。この案では年限自体に縛りがなくなる。

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関係者以外は通行できない橋を渡った先に美浜原発3号機がそびえ立つ

冒頭の美浜原発3号機は、運転開始から40年が経った2016年11月、「例外的に」20年の運転期間延長認可が出た。今後さらにルールが変われば、運転開始から60年を超えても運転を続けることができる。

老朽原発の運転延長認可の取り消しを求める行政訴訟を行っている「老朽原発40年廃炉訴訟」弁護団で事務局長を務める藤川誠二弁護士は、厳しい口調でこう語る。

「福島第一原発事故の最大の教訓の一つとして『40年ルール』が作られた。よく『民主党政権下で作られた』と言われるが、当時野党だった自民党と公明党と3党で合意して決まった法律です。国民の代表である国会で、しかも超党派で法改正したという事実は重いのではないか。それがわずか11年で変えられるというのは驚くばかりです」

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国際大学副学長の橘川武郎さん

確かに「40年」という期間は一つの目安に過ぎない。しかし、当時もその点を議論した末に法改正がなされている。

当時の国会では、細野豪志環境大臣が40年の根拠として「圧力容器の中性子の照射による脆化(ぜいか)」などを挙げ、「原則として 40 年以上の原子炉の運転はしない。経年劣化の状況を踏まえて、延長する期間において安全性が確保されれば例外的に運転を継続するが、極めて限定的なケースになる」と述べている。

エネルギー産業に詳しい、国際大学副学長の橘川武郎さんも40年ルールの見直しには疑問を呈する。

「福島の事故は古い1号機が爆発したというのが肝です。もし1号機が持ちこたえていたら他の爆発もなかった。この1号機の運転開始が1971年3月26日で、事故を起こしたのがちょうど40歳の誕生月だった。そうしたことを踏まえて自民党と公明党も賛成して法改正をした。それなのに唐突に海外の事例を持ってきて『40年には根拠がない』というのは言語道断です」

老朽原発が危険な理由

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美浜原発のPRセンターに展示されている原子炉容器の模型

では、老朽化した原発のどこに危険性があるのか。藤川さんと同じ弁護団に名を連ねる小島寛司弁護士は「原子炉とケーブルの劣化」を挙げる。

原子炉の劣化は、細野大臣も挙げていた「圧力容器の中性子の照射による脆化」のことだ。

「原発を運転すると、核燃料で核分裂が生じますが、その際に中性子が発生します。金属は中性子に触れると、原子の並びが悪くなり、金属がもろくなるという問題があります。これが『中性子照射脆化』と呼ばれる現象です。原子炉容器は交換が難しく、ずっと使っているものなので老朽化による事故が懸念されます」

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美浜町に住む山崎俊太郎さんは電気自動車を愛用

この「中性子照射脆化」に関して、原発事業者はデータを解析し、安全性を確認しているとしている。ただし、小島さんは情報公開が十分ではないと語る。

「関西電力は原データを公表していない。原データを提供してもらえれば、それを分析して安全性を確認できる。ただ、裁判の過程で明らかになったのは、原子力規制委員会も審査の中で関電に十分な原データを出させていないということ。それでは規制委は原発の審査をちゃんとできていないのではないかと不信感につながっている」

また、原発に張り巡らされる電気ケーブルについても劣化が懸念されると小島さんは言う。

「ケーブルは、原発1基当たり1000~2000㎞に及んで設置されています。本来は火災のリスクから全て難燃性ケーブルに取り替えなければいけませんが、実際には複数のケーブルを防火シートでくるんだだけでよしとしてしまっているものもあります」

かつて、関西電力の社員として美浜原発で作業をしていた元美浜町議の山崎俊太郎さん(83)は、安全対策に万全を期していても「絶対に安全」とは言えないと語る。

「蒸気発生器や配管などは交換しているので、そういうところは問題ないでしょう。しかし、原子炉容器は交換できません。他にも交換できない部品はある」

山崎さんにとって印象深いのは、2004年8月に発生した美浜原発3号機の事故だという。タービン建屋で配管が破裂し、約140℃の熱水と蒸気が噴出。5人が死亡し、6人が重傷を負う大事故だった。

「3号機の事故現場も見ましたが、配管が薄くなっていました。圧力がかかり摩耗して薄くなっていたので破裂してしまったんです。そういうところは全て検査したからといっても100%完璧にはできない。老朽原発では『確実に安全』ということはなく、どこに盲点があるかわからないのです」

リプレースの必要性

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関西電力高浜原発の(手前左から)1号機、2号機。奥は(左から)3号機、4号機(写真:毎日新聞社/アフロ)

このように危険性が指摘される老朽原発だが、今後も再稼働が進められる。国内の原発はこれまで再稼働した10基に加え、来年夏以降に7基と再稼働ラッシュだ。その中には運転開始から48年になる高浜原発1号機、47年になる同2号機も含まれており、来年6~7月ごろの再稼働を予定している。

こうした再稼働の背景にあるのが、近年の電力需給の逼迫である。

今年3月、経産省は初めて電力需給逼迫警報を発令し、7~9月には政府が全国規模で節電を要請した。また、今年はロシアによるウクライナ侵攻もあり、天然ガスなどエネルギーの確保にも黄信号が灯ることになった。

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美浜町の中心部にある関西電力には安全スローガンが掲げられていた

一方で、現在主力の火力発電を広げるわけにもいかない。菅義偉前首相は2050年までのカーボンニュートラルの実現を国際公約に掲げており、温室効果ガスを増やすことは避けたい。再生エネルギーの主力たる洋上風力発電の普及には時間がかかる。こうした事情から、「原発再稼働による電力確保」となった。

政府が昨年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画では、2030年の電源構成における原発の割合は「20~22%」となっている。だが、現状では6%程度で、すでに24基の原発の廃炉が決定している。今後は40年ルールを撤廃し、廃炉の対象ではない老朽原発の稼働をさらに続けることになりそうだ。

そうした中、新たな手段に挙げられるのが新増設やリプレース(建て替え)である。前出の橘川さんは特にリプレースが必要だと語る。

「私は反対派でも推進派でもありません。原発を減らしていくのだとしても、将来的にある時期まで原発を使っていくのであれば、危険性を最小化しないといけません。そのためには古い炉ではなくて新しい炉のほうが危険性は小さくなるというのは当たり前のことだと思います。原発はどうあがいても最後は危険なものです。だから『安全性』ではなく『危険性の最小化』を考えるべきなんです」

その点で、岸田政権の姿勢に疑問を感じるという。第6次エネルギー基本計画で、リプレースを入れていなかったためだ。

「(今冬に)9基動かすと言ったのも、もともと来年動かす予定のものを言っただけです。このままリプレースはせずに、古い原発の運転延長をするのが狙いでしょうか。安全性から考えると非常に筋が悪い政策です」

政府の原発政策はどこへ向かうのか

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数少ない原発反対派として活動する河本猛町議

美浜町議の河本猛さん(44)は原発反対の立場で活動をしているが、最近は地元の空気の変化を感じている。反対運動は福島原発の事故直後こそ活気があったが、いまや下火になっているという。それは地元経済にとって原発の存在があまりにも大きいからだ。

「美浜3号機は2700億円かけて高経年化対策などの工事をしました。それが完了して資産価値が上がったことで、関西電力が美浜町に払う固定資産税が大幅に増えた。議会で『今年度の当初予算のうち何%の税収が関電関連か』と聞くと70%を超えていました。1社だけでこれほどの税収になるというのは地方自治体にとって他には代えがたいものでしょう」

原発が立地する他の自治体も構図は同じだ。福井県では若狭湾沿岸に計15基の原発が存在し、「原発銀座」と呼ばれる。そのうち7基は廃炉が決まったが、高浜1、2号機は美浜3号機と同様40年の運転期間を延長し、再稼働する予定だ。最近では、新増設やリプレースへの期待が高まっているという。

「政府が最近、新増設を言い出したことで、地元自治体は浮かれていますよ。新増設に関しては既に町議会として国に要望書を出しています。ですから、政府の方針が決まれば、すんなり増設となるでしょう。私たちの立場としてはたまったものではないですが......」

「危険な原発はすでに廃炉」という指摘

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大飯原発で所長を務めた経験を持つ肥田善雄さん

若狭湾南岸のおおい町に立つ大飯原発。そこで6年間所長を務め、現在は技術者の派遣会社を営む肥田善雄さん(72)は「危険性のある原発はすでに廃炉になっている」として、40年ルールは撤廃するべきだという立場だ。たとえば、大飯原発1号機(運転開始1979年)、2号機(同)は2017年に廃炉が決定しているが、それには理由があったと言う。

「原子炉を最終的に冷やす上で海水をポンプで汲み上げることが大事ですが、大飯原発1、2号機ではそれが2系統ありました。一つはバックアップです。ただ、大飯では1、2号機で共用になっている部分があった。それを一から直すとコストがすごくかかり、仮に延長して20年動かしても取り返せない。それで廃炉にしたんです。美浜の1、2号機も同じ事情です。事業者はそのくらい一生懸命やっていて、危険性の高いものは廃炉にしているんです」

その上で、リプレースも必要だと語る。それは建設という技術的問題、そして運転員という人材の問題も関係しているという。

「定期検査などの作業員は現状まだ十分確保できる状況にあるでしょう。ただ、問題はプラントの建設です。新設をやったことのある経験者がほとんどいません。今から経験者を確保して、若手を教育していけばまだ間に合うでしょうが、5年も先になると技術の継承はもう難しいでしょう」

政府がリプレースを選択肢とするならば、政治判断をする期限は迫っている。一方で、老朽原発を60年の運転期間を超えても動かし続けるという判断をするならば、「なぜ10年前に『40年ルール』を作ったのか」という検証も含めて国会での議論が必要だ。

どちらにせよ、長期的なエネルギー計画をもとに必要なエネルギーを確保し、危険性を最小にするための政策が求められているのではないだろうか。

元記事は こちら

小川匡則(おがわ・まさのり)

ジャーナリスト。1984年、東京都生まれ。講談社「週刊現代」記者。北海道大学農学部卒、同大学院農学院修了。政治、経済、社会問題などを中心に取材している。

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