LINEヤフー サストモ

知る、つながる、はじまる。

知る、つながる、はじまる。

「隠さなくてはいけない」と思い込んでいた――子のカミングアウトに親はどう向き合う? #性のギモン

    

Yahoo!ニュース オリジナル 特集

001
(撮影:藤原江理奈、スタイリング:清水文太)

「緊張のあまり手が震えて、身体が冷たくなった」。アーティスト・僧侶の西村宏堂さんは、同性愛者であることを両親にカミングアウトした時のことをそう振り返る。当事者の親の中には「子どもから打ち明けられたけれど、気持ちがついていかない」と戸惑う人もいる。子のカミングアウトに、親はどう向き合うのか。当事者や家族会、カウンセリングを行う医師に話を聞いた。(取材・文:篠藤ゆり/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

本当のことを話したら、親に受け入れてもらえないのではないか

002
(撮影:藤原江理奈)

西村宏堂さんは、メイクアップアーティストとしてハリウッドやミス・ユニバース世界大会などで活躍するほか、浄土宗の僧侶としても活動している。同性愛者であることを公言しており、LGBTQ活動家でもある。24歳の時、自分が同性愛者であることを両親にカミングアウトした。

「その年齢まで親にカミングアウトできなかったのは、『隠さなくてはいけない』と思い込んでいたから。テレビなどで『オカマ』『オネエ』などと揶揄するような表現を見聞きしていたので、本当のことを話したら、親に受け入れてもらえないのではないかと怖がっていました。18歳の時、留学先のアメリカで出会った16歳のメキシコ人の男の子は親に絶縁され、一人でアメリカに難民としてやってきたという話を聞き、怖くなったというのもあります」

高校時代、孤独で精神的に苦しく、違う環境を求めて渡米。18歳でボストンの大学に進学し、堂々と生きている同性愛者たちと出会い、自信が持てるようになった。

「セクシュアリティを隠している時は、頭の上にクモの巣が張られているような感じがして。『あ、これは言っちゃバレるな』というふうに気をつけながら生きていたので、息苦しかったですし、本当の意味で人とつながれた感じがしない。言わないと、本当の自分になれないと思いました。海外でまわりの人に励まされるなかで、同性愛は恥じるべきことではないという確信を持てたのです」

「カミングアウトされ、長年解けなかったパズルが解けた」

003
(撮影:藤原江理奈)

当時つき合っていたボーイフレンドを両親に紹介するというきっかけでカミングアウトしたいと思い、まずは「つき合っている人がいるんだけど、その人、男性なんだよね」と伝えた。その時の気持ちを、「緊張のあまり手が震えて、身体が冷たくなって。でも、自由になりたいと思い、勇気を奮いました」と宏堂さんは振り返る。

宏堂さんの母親は、宏堂さんが幼い頃から、なんとなくまわりの子どもたちとは違うと感じていた。お姫さまごっこをしたり、「男の子とは遊びたくない」と言ったりする宏堂さんを心配し、地元の教育センターの臨床心理士に相談したこともある。

「カミングアウトされ、長年解けなかったパズルが解けたような、スッキリした気持ちになりました。ただ、両親から拒否されるのではないかと怖くてなかなか言えなかったと聞き、そんな親だと思われていたのかと、ちょっと残念な気がしました」

それから、LGBTQに関する情報を積極的に取り入れるようになった。「私は孫の顔を見たいなんて、全く思っていない。こうちゃんが大事。こうちゃんが幸せでいてくれることが、私の望みなんだから」と伝えた。

「今の社会は、マイノリティーとして生きていくのはまだまだ困難があるでしょう。そうした状況のなか、我が子に対して一番の味方になれるのは自分だと思っています」

004
(撮影:藤原江理奈)

寺院の住職である父親はうすうす気づいており、カミングアウトした際、「自分の人生なのだから、好きなように、自分らしく生きなさい」と言葉をかけた。ただ、我が子が社会からはじき出されるのではないかと心配し、世間に対してはわざわざ公表しなくてもいいのではないかとも告げた。その後、檀家さんや宗派の人たちの理解も得られ、応援してくれるように。LGBTQの人権活動を行うようになった宏堂さんを、今は親として誇りに思っているという。

両親へのカミングアウトから10年を経た今、宏堂さんはこう語る。

「本来、自分がどんな人を愛するかは、他人には関係のないこと。自分の恋愛について他人が意見したり、幸せになる権利を奪ったりすることは悲しいことだと思います。同性愛者の知り合いの中には、周りの期待に答えようと、異性と結婚をして子どもを迎えたという人もいて、複雑な気持ちがします。みんなカミングアウトするべきだとは思いませんが、私は自分らしく生きる決心をしてから、本来の自分の人生がスタートした気がしました。自由であることは幸せだと感じます」

何気ない言葉で子どもが傷ついている場合も

005
写真はイメージです(写真:アフロ)

カミングアウト後、宏堂さんの母親は自分の何気ない言葉によって子どもがトラウマを抱えていたことを知り、少なからずショックを受けたという。

「宏堂が4歳か5歳の頃、親戚のお姉さんにマニキュアを塗ってもらって喜んでいるのを見て、『こういうことをする大人になってほしくないな』と言ったことがあります。実は私自身がマニキュアを塗ってみたら、爪が呼吸できない感じがしてつらかったので、これは健康によくないと思っていたのです」

ところが宏堂さんは、「自分が女の子っぽくしたら母親はイヤなんだ」と受け取り、ジェンダー・アイデンティティーを親に隠さなくてはいけないという気持ちが強まった。

親にそのつもりがなくても子どもは傷つくことがある。また、「自分の存在が親を悲しませる」「がっかりさせたくない」という思いから、親へのカミングアウトをためらうケースもあるだろう。

では親として、どう子どもと接するのがいいのか。当事者や家族の支援などを行う「NPO法人LGBTの家族と友人をつなぐ会」の東京理事、三輪美和子さんに話を聞いた。

「『子どもからカミングアウトされたけれど、気持ちがついていかない』と葛藤を抱えている親御さんも少なくありません。交流会にはLGBTQの当事者も参加しているので、自分の子どもにはなかなかストレートに聞けないことでも、参加者になら質問できたりもします。また、他の親御さんの話を聞くことで、それぞれの親が、自分たちの親子関係に落とし込んで考えていけるのです」

子どもから「お父さんには言わないで」と言われ、母親がひとりで抱え込んで相談に来るケースも多いという。例えばテレビでゲイのタレントが出てきた時、父親が「気持ち悪い」などといった発言をすると、子どもは父親に自分が同性愛者であることを知られたくないと思うようになる。

LGBTQに対する親の意識には、地域差もあると三輪さんは語る。家意識が強く、長男には家を継承していく役割が強く求められる地域では、長男が同性愛者やトランスジェンダーであることを親は受け入れにくいケースも。世間体や「親戚に顔向けできない」といった考えが根強い場合もある。ただ、自治体が積極的にパートナーシップ制度などを取り入れるなど、自治体の取り組みによって変化も生まれるのではないかと三輪さんは期待している。

寝耳に水――でも、絶対にこの手を離してはいけないと思った

006
写真はイメージです(写真:アフロ)

トランスジェンダーの当事者は、外科的手術や戸籍上の性別変更を望む場合もある。トランスジェンダーとは、持って生まれた体の性と、心の性が一致しないこと。自身の認識する性別が男性/女性だけでなく、中性や無性と言われるXジェンダーもトランスジェンダーに含まれる。ホルモン投与による外見変化は受け入れても、手術をして性別を変えることに対しては、受け入れられない親も少なくない。

「長女から『性同一性障害で、これからは男として生きていく』とカミングアウトされた瞬間、幽体離脱したみたいに意識がぱーんと抜けて。脳を言葉が素通りしていく感じでした」

そう語る横山理恵さん(仮名、70代)は、今から17年前、子どもが21歳の時にカミングアウトされた。子ども時代はフリルのスカートが大好きで、お絵描きではお姫様を描くような子だったので、男として生きたいと言われても、にわかには信じられなかった。中学の頃からボーイッシュな雰囲気になったけれど、一時的な‶気の迷い″と思ったという。

「手術をするし改名もしたいと言われ、夫が『親が心をこめてつけた名前を何と思っているんだ』『五体満足の身体にメスを入れるなんて』と感情的になってしまい――すると、『こんな不満足な身体で長生きしても意味がない。太く短く生きる』と、猛反発されたのです」

普段はおっとりして穏やかな子が、強い口調でそう言ったことに衝撃を受け、横山さんはとりあえず「わかった」と答えた。

「本当は何もわかってはいませんでした。ただ、ここで物別れになったら、この子は私たちと縁を切るのではないか。最悪、自殺してしまうかもしれない。そうなったら取り返しがつかないので、絶対にこの手を離してはいけないと思ったんです」

横山さん夫婦は、子どもが持ってきた性同一性障害に関する本を読み始めた。そして、「私たちもちゃんと勉強するから。あなたが男であろうが女であろうが、大事な子どもであることは変わらない。もし世間があなたの敵になっても、私たちはあなたの味方よ」と子どもに告げた。そうは言うものの、夫は苦しみ、3カ月で10キロ痩せた。

それからはわからないことや疑問に思ったことは子どもに尋ね、耳を傾けるように。現在に至るまで、親子関係は良好だ。

心配でも、ネガティブな言葉で子どもを追い詰めないで

007
はりまメンタルクリニックの針間克己院長(撮影:編集部)

性別違和、性別不合のカウンセリングを行うはりまメンタルクリニック(東京都千代田区)の針間克己院長によると、思春期に身体が変化していく違和感や孤立感、いじめなどにより、自殺念慮を抱くケースがかなり多いという。

はりまメンタルクリニックの受診者に関していえば、約6割が自殺念慮を抱いた経験があるという統計が出ている。リストカットなど、自傷行為に走る例も、中学・高校の頃から増えていく。針間院長はこう話す。

「親の中には、通院することで性別を変えたいという気持ちが収まるのではないかと期待している方もいる。一方、子どもはいずれ身体の治療を受けたいと希望し、双方の気持ちが相反している場合もある。親が期待を込めて『そのうち治る』という言葉を発すると、子どもは、親は深刻に受け止めてくれていないんだと絶望する可能性もあります。悩んでいる子どもを否定しても問題は解決しませんので、身体の治療には賛成できなくても、まずは受け止めてほしい。実際、望みの性別へ治療を急ぐことは必ずしも正解ではなく、精神科医の立場としては慎重です。性別違和が原因で不登校になるケースも少なくないので、学校と話し合いをするなどして援助していくことが必要だと思います」

子どもがこの先、苦労するかもしれないと心配するのも親心だろう。だが、「社会で生きていけない」などのネガティブな言葉はNGだと針間院長は言う。

「誰よりも本人が、そのことを一番怖がっている。そこへ親がダメ押しするようにその言葉を言うと、子どもを追い詰めることになりかねません」

針間院長によると、子どもから親へのカミングアウトは、1回きりのものではないという。何度も話し合い、お互いにわかり合うことが大事だ。

「情報や知識を得ることも大事ですが、それに引きずられすぎるのもよくない。子どもがどう感じ、どんなふうに悩み、それについてどう取り組んでいこうとしているのか。子ども自身の言葉を丁寧に聞き、悩みに真摯に向き合うことが、何より大事だと思います」

元記事は こちら

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、地球環境や持続可能性について知ってもらうことが、豊かな未来をつくることにつながります。

  • facebookでシェアする
  • X(旧Twitter)でポストする
  • LINEで送る
  • はてなブックマークに追加
  • Feedlyに登録する
  • noteに書く

ABOUT US

サストモは、未来に関心を持つすべての人へ、サステナビリティに関するニュースやアイデアを届けるプロジェクトです。メディア、ビジネス、テクノロジーなどを通じて、だれかの声を社会の力に変えていきます。

TOP