女の子だから、男の子だからをなくすために、どうしたらいい?
世界146ヵ国中116位、G7で最下位。これは2022年に発表された、日本のジェンダーギャップ指数の順位です。ジェンダー平等が国際的に謳われる中、日本が遅れをとっているのはなぜでしょうか?弁護士という立場から離婚やDV事件などで女性をサポートする、太田啓子さんにお話をお伺いしました。
男女格差の現状について
── 2022年に世界経済フォーラムが発表した日本のジェンダーギャップ指数(男女の不均衡を示す指標)は146ヵ国中116位と、世界的に見ても低いことが分かります。日本における男女格差の現状についてどう思われますか?
ジェンダーギャップ指数は政治・経済・教育・健康の4つの要素で測られます。その中でも日本は政治や経済の格差が大きいことが課題です。健康な女性が男性と同程度の教育を受けていても、女性の収入は男性より低いという構造的な状況があります。弁護士として離婚事件を扱う中でも「妻の賃金が低く、夫の収入に生活を頼っているため(妻側が離婚を希望していても)別れられない」という相談は非常に多く、男女の経済格差を日常的に感じます。
1970年くらいまでは、国会議員の女性割合における日本と他国との差はほとんどありませんでした。しかし他国はその後に女性議員を増やす努力をして女性割合が大きくなったのに対し、日本の伸びは極めて鈍いまま。バックラッシュ(ジェンダー運動などの流れに反対する勢力)も強かったですし、高度経済成長期に「男が24時間働くサラリーマン、女は専業主婦」という固定観念で「うまくいった」という一種の負の成功体験のようなものがあって、なかなかそれを払拭し切れていないのが理由だと思います。
── 現代の日本においてジェンダーバイアス(性別による固定観念)が生まれる原因はどこにあると思いますか。
性別役割分担意識(性別によって役割が分業されるという意識)だと思います。「男性が一家の大黒柱、女性は補助」という考えが未だに根付いていて、それは家庭や学校、メディアなどの影響が大きいでしょう。
「男はこうあるべき」「女はこういうもの」というジェンダーバイアスが社会のあちこちにあり、私たちは多かれ少なかれ、無自覚にその影響を受けています。例えば家庭や学校で子どもがイタズラをした際に、男の子の場合は「男の子って馬鹿だよね」「男子はそういうことよくやるよね」という言葉で見逃されることがすごく多いと思います。他方「女子は馬鹿だよね、ほっとこう」という親の反応はあまり聞きません。同じことをしていても、大人が無意識に、あるいは意識的に、子どもの性別によって違う対応をしていることは日常的にあるように感じます。
それでも、教育現場では、"男らしさ"や"女らしさ"などを押し付けるような言葉を使わないように意識された指導も増えているのも感じます。例えば男女混合名簿は既にかなり普及していますし、性別で「(名前)ちゃん」、「(名前)くん」で呼び名を分けず、全員を"さん付け"で呼ぶことを意識している教員も珍しくなさそうです。少しずつではありますが変化が起きているのかなと。
── 弁護士として活躍しながら、2人の息子を育てる太田さん。子供たちにはどのようなジェンダー教育を行っていますか。
性別を理由に何かを褒めたり、注意したことは一度もないです。気をつけているのは、メディアリテラシーの部分。例えばテレビ番組やアニメなどでジェンダーバイアスを助長するような表現があったときは、それとなく「男の子だからこうしなきゃいけないってことはないんだよ」などと、そのバイアスを当然視しないでほしいと願って話したりしています。
テレビ番組の例からもわかるように日本で普通に暮らしているだけで、男性と女性が投げかけられやすいメッセージは異なります。そうしたバイアスを、親が中立の立場で中和する必要があるとも思っています。男の子に対して「周りに気配りしなさい」など、女の子が言われがちな言葉をかける。反対に女の子には男の子がよく言われているようなことを伝えてあげると、社会が私たちに刷り込んでくるジェンダーバイアスに根ざすメッセージとのバランスを保てられるのではないでしょうか。
── 何気ない言葉で"らしさ"を強調するなど、私たちの言動の中に無意識なジェンダーバイアスが存在しているように感じます。そういった固定観念に気付く方法はありますか。
非対称なことに疑問を持つ癖をつけるといいと思います。例えば、学校の文化祭などでおこなわれる、男の子の女装コンテスト。もちろん女装が一切駄目という訳ではありません。しかし、女装コンテストではふざけていたり、面白がるような笑いも起きますよね。一方、女の子の男装では、「かっこいい」という受け止め方はあっても、そういった笑いは起きづらいのではないでしょうか。「男の子が女性のような格好をするのはおかしい」というバイアスの現れかもしれません。このような男女における非対称に対して、違和感を持つ習慣を持っておくと良いのではないでしょうか。
「らしさ」の抑圧は男女どちらにもあり、そのようなジェンダーバイアスに縛られないようにすることが重要であると同時に、社会における男女の非対称性も必ず意識されるべきだと思います。
例えば女性は男性に比べ圧倒的に性被害に遭うリスクが高いですし、家庭責任を理由に、正規雇用の継続が困難になりやすいなど、構造的な女性差別は厳然としてあるわけです。その非対称性を無視して「男も女もどちらも『らしさ』に縛られないようにしよう」というだけでは足りないと思います。性差別問題においてはマジョリティである男性が、自分には見えづらい、女性ならではの抑圧、不平等に目を向け、それを無くそうと動くことが、性差別解消のために最も重要ではないかと考えています。
── ジェンダーバイアスを無くすために、今日からできるようなアドバイスをください!
性差別についての問題は、これまでも先人たちが長年戦ってきているテーマです。例えば参政権を得るために昔の女性たちが戦ったおかげで、現代の女性は選挙に参加することができている。昔と今を比べて、少しずつ状況が良くなっていると考えると希望が持てますよね。ジェンダーバイアスを無くしていくためには、視野を広げ、課題に気づくことが必要です。私がおすすめするのは韓国発のジェンダー絵本『女の子だから、男の子だからをなくす本』(※)。性別による固定観念を見直すきっかけになりますよ。
これからを生きる若者たちには、どんなに小さなことでも「理不尽だ」と感じたら飲み込まない癖をつけてほしいと思います。おかしいと感じたら意見を言う、自ら行動するなど「自分自身で社会を良く変えていこう」という発想を持つ人がどんどん増えてほしいですね。
まとめ
今回は男女格差が生まれる理由やそれに対する対処法を教わりました。男女平等を目指して社会へ挑んだ先人たちについて調べてみたり、ジェンダーに関する本を読むなどジェンダーバイアスから脱却するための一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
元記事は こちら
太田 啓子
オオタ ケイコ
神奈川県弁護士会所属。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして「憲法カフェ」を各地で開催。著書に『これからの男の子たちへ』(大月書店)など。