目標は「赤ちゃんが食べても安全なタオル」オーガニックタオルメーカーが目指す未来
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あなたがもっとも幸せを感じるのは、どんな瞬間でしょうか。大好きな人と一緒にいるとき、おいしいごはんを食べているとき、ふっかふかのタオルに顔をうずめるときーー?
「タオル」の日本一の産地として知られる愛媛県今治市。この地で70年近くにわたりタオルづくりを行っているのが、「IKEUCHI ORGANIC」です。
同社が手がけた初のオーガニック製品は、1999年に誕生。ビジネスにおいて「大量生産・大量消費」、「使い捨て」、「便利」などのキーワードが台頭していた90年代当時、環境に配慮した製品をつくりはじめていたのは、かなり時代に先駆けていることでした。近年では「SDGs」や「エシカル消費」といったキーワードが目立つようになり、ようやく時代が追いついてきたかのよう。
しかしながら、代表の池内計司(いけうち けいし)さんは「SDGsは経営者の免罪符じゃない」と話します。本当の意味で「地球に優しい製品」とは? オーガニック製品と池内さんの20年のあゆみについて聞きました。
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今回ご紹介する現場
IKEUCHI ORGANIC
「最大限の安全と最小限の環境負荷」をテーマに、テキスタイルをつくる今治タオルの製造会社。エシカルやSDGsという言葉すらなかった20年以上も前から、環境と安全に配慮したモノづくりを続けています。
IKEUCHI ORGANICのタオル
低コストな海外製タオルと差別化するために誕生した「世界で一番、安全なタオル」
「IKEUCHI ORGANIC」の前身である「池内タオル」は、先代である父・池内忠雄(いけうち ただお)さんが1953年に創業。1983年に忠雄さんが亡くなったことを機に、計司さんが二代目社長に就任します。畑違いの業界から転職し、いきなり社長になったため、十分な引き継ぎはできなかったといいます。
「でも、親子なんて5分も話せばケンカがはじまっちゃうから、それでよかったのかもしれません。右も左もわからない状態で、長年勤める工場長や社員のみなさんに教えてもらいながらのスタートでした。
33歳の若造だったもんでね、『先代はそんなこと言わない』と言われたときにはカチンときちゃって、『じゃあお墓に勤めたらどうですか』なんて生意気なことを言い返したこともありましたね(笑)。それでもなんとか協力してもらって、やってきました」
タオルの産地として知られる今治ですが、当時から課題になっていたのは、低コストでつくられる海外製のタオルとの差別化。
「『イケウチって、ベトナムや中国のタオル会社のショールーム用に製品を作っているんだね? 君のところの商品、どのショールームにも並んでいたよ』と言われたことがあったんです。つまり、私たちの技術は真似されていた。自社ブランドをつくるなら、真似することができないようなタオルをつくらないと、先がないと思いました」
そこで池内さんが考えた自社ブランドのコンセプトは「世界で一番、安全なタオル」。より効率化させて生産力を上げるのではなく、時代の流れとは逆行するような、環境に優しい、安全な製品をつくろうとしたのです。
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それからというもの、環境に配慮したタオルづくりには何度もチャレンジしてきましたが、「自信を持って提供できるような代物ではなかった」と、池内さんは振り返ります。転機となったのが、デンマークで「グリーンコットン」というブランドを運営する、ライフ・ノルガードさんとの出会いでした。
「私がノルガードと会ったのは、1996年。日本にはオーガニックの『オ』の字もない1987年に彼は世界で初めて、オーガニックコットンのTシャツをつくった人物なんです。講演のために来日していたとき、『今治に素晴らしい染色工場がある』と聞いて、私たちが運営している工場に押しかけて来たんですね。すると、『データ的にはすばらしい。けど、イケウチは環境に対して無知だよ』とさんざん言われました」
そんななかでも、「ノルガードと気が合っちゃって」と、池内さん。来日するたびに会うような関係になっていきます。
自社での研究を進めながら、ノルガードさんからアドバイスを受けるように。そして1999年3月、天然繊維の製造メーカーとしては日本で初めて、環境マネジメントシステムの国際的な認証制度であるISO14001を取得。化学薬品をコントロールすることで、人体に安全で、環境負荷を最小限にとどめる染色を目指す「ローインパクトダイ」についての指南を受けました。
こうして1999年、イケウチ初のオーガニックタオル「オーガニック120」が誕生したのです。
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「タオル業界はOEMが主体、つまりデザイナーズブランドのタオルをつくるのが主な仕事でした。新製品の開発というと、どれだけ見た目を変えるかがテーマになっていた時代に、あえて真似ようがないくらいシンプルなデザインにしました」
自分たちが受け持つ製造工程において、いかに環境負荷を取り除いていくかが命題
1999年にはひとつしかなかったオーガニック製品ですが、現在ではオーガニック製品のみを扱う会社になりました。しかしながら、「オーガニックコットンを使っているという目線だけで、『地球に優しい』と言ってしまうことには疑問を持っている」と、池内さん。その真意は?
「地球に優しいのは、高いのに買っているエンドユーザーと、作るのが大変なのにオーガニック製法をやっている農家さんたち。間に入っている会社は、『オーガニック』を商売にしているだけで、なにか地球に対して優しいことをしているわけじゃないでしょ。私たちのような製造業は、ただでさえ環境への負荷がかかることをしている。そのことを自覚した上で、自分たちの製造工程において、いかに環境負荷を取り除いていくかが大事だと思うんです」
そこでIKEUCHI ORGANICは、コットン農場で働く人たちへの農薬被害のないオーガニックコットンを使うだけでなく、フェアトレードに取り組む、消費電力を風力発電に切り替えるなど、誰かにしわ寄せがいかないようにしながら、環境負荷を下げる努力を惜しまず続けてきました。
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「初めてオーガニック製品をつくった1999年の時点では、別に崇高な思想があったわけじゃないんです。安全なタオルをつくろうとしていくうちに、お客さんから製造工程についての質問をいただくようになって、それを都度、反映していく......。すると安全レベルが上がっていき、環境負荷レベルが下がっていく。その積み重ねでした」
「IKEUCHI ORGANIC」というブランドが定着した現在でも、お客さんの声は常に取り入れています。
「20年来のお客さんに、『イケウチってIKEUCHI ORGANICになってから、見かけにずいぶんとお金をかけるようになった』とか、『タオルをプレゼントされるのは嬉しいけど、これだけゴミが出ることについて、どう考えてるの?』などと言われてしまって......。うちの製品は決して安いわけではないので、プレゼント需要が多いんですが、ラッピングが大掛かりになってしまっていたんです。そこで、過包装にならないよう、発送用の箱を変えて、ラッピングにはオーガニックで作った風呂敷を選択肢に入れました」
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「SDGs」は経営者の免罪符じゃない
「SDGs」という概念が定着しつつある現在。各都道府県でもSDGsへの取り組みに力を入れています。20年以上前から環境に優しい製造方法を模索してきたIKEUCHI ORGANICですが、とある団体から「SDGs宣言をしてほしい」との提案を、断ったそう。
「なんで今さら宣言するのか疑問に思い、『宣言の目的を教えてください』と確認したんです。すると、『お客さんはまだまだ無知だから、SDGsへの意識をあげてもらうためだ』との回答を受けました。でもね、IKEUCHI ORGANICのお客さんは、私よりはるかに意識が高い。だから、『我々はSDGs宣言をするようなところにまで達していません』と、お断りしたんです。
社会的にも環境への意識は変わってきているように感じますが、『SDGsって言っておけばいいでしょ』というような経営者も多いですよね。決してSDGsは経営者の免罪符じゃないんです」
IKEUCHI ORGANICのタオルは、他社では出していないような、あらゆる情報を可視化するよう努めています。たとえば、「オーガニック120」や「オーガニック960」などの商品名につく数字は糸の番手。番手が大きければ大きいほど細い糸となり、たとえば「オーガニック960」は「オーガニック120」の1/3の細さでやわらかい糸。また、パイル倍率、つまりタオルを構成する一本一本の糸のループの長さも公開しています。
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さらに2020年からは、製品のすべてにQRコードをつけました。アクセスすると、タンザニアやインドの綿畑からタオルの出荷工程までのトレーサビティーが閲覧できるようになっています。
「生産工程で、透明化できるところはする。うちはSDGs12番の『つくる責任つかう責任』の、『つくる責任』を努力していきたい。できるだけ詳細な情報を出していくので、それをもとに使う方たちに判断していただけたら、というスタンスです」
SDGsや環境への意識の高さは、世界の先進国に比べて日本は遅れているように言われることもあります。しかし、「環境についての意識の高さは、日本が一番進んでいる国のひとつだと思う」と池内さん。
「アメリカやヨーロッパでも展示会をさんざんやってきたのですが、海外では明らかに関心の高い層が限定されていると感じます。一方で、日本はエシカルに対して興味のある層がとても幅広いんですよね。今後、ぐっと押し進んでいくのかなと思っています」
社員も、ファンも。イケウチをとりまく、熱量のある人たち
「IKEUCHI ORGANIC」といえば、企業noteや、社員のインタビューメディア「イケウチのヒト」、タオル愛用者や取引先の声を集めた「イケウチな人たち。」など、オウンドメディアでの発信にも力を入れています。営業部部長の牟田口武志(むたぐち たけし)さんは、その立役者。発信をはじめた理由について、こう話します。
「私が入社した6年前から、コアなお客さんがたくさんいらっしゃると感じていました。一方で、会社のことはまだまだ知られてないという課題があったんです。そこで、よりイケウチのことを知っていただけるように、こちらから情報を発信していくことが必要ではないかと」
会社のこと、活動のことを知ってもらうために何ができるのか、価値はなんなのかを考えたときに、浮かんだのは取引先や愛用者の顔でした。
「ありがたいことに、『IKEUCHI ORGANIC』を一緒に広げていきたいと言ってくださるユーザーさんが多いんです。『イケウチな人たち。』では、そういう方たちを取り上げて、イケウチや、これからの豊かさについて考えていきたい」
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イケウチでは、ファンや顧客が社員になることも多いそう。お客さんも、働いている人も、イケウチへの熱量がすごいのです。もともとお客さんだった人がイケウチに入社したことで、会社に変化はあったのでしょうか?
「『本当にいいものを自分たちがつくっているんだ』という自覚が出てくる面はあると思います。今治のタオル会社には、今治の人しか働いていないのが当たり前だったのに、イケウチには今治以外の人が多いんです。
でも、今度は逆に今治の人が少ないのがコンプレックスになっていて(笑)。学生さんたちに今治タオルについて知っていただく機会を持たせてもらっているので、今から10年間、学生に説明し続けていたら、この子たちも10年後には帰ってきてくれるかなって......」
次の60年で目指すのは「赤ちゃんが食べられるタオル」!?
1953年に創業したイケウチは、60年目に「IKEUCHI ORGANIC」へと社名変更し、リブランディングを行いました。次の60年で目指すのは、「赤ちゃんが食べられるタオル」......!?
「安全性を高めていくことに、終着点はありません。この60年をかけて、赤ちゃんが舐めても大丈夫な製品づくりを行ってきました。全製品において、繊維の安全証明『エコテックス®︎』で安全レベルが高い『クラス1』を取得したんです。次の60年、創業120年となる2073年までには、食べられるところまでいきましょうと、社内で話しています。最初はジョークだったんですけどね(笑)」
イケウチは、タオルメーカーとしては世界でも例のない食品安全マネジメントシステム「ISO22000認証」を取得。「食べない野菜」である綿花を用いた織物を「フーズファブリック」と定義し、ものづくりの軸も安全性を高めていこうとしています。
ものづくりの現場では、事業継承の課題が浮き彫りになっていますが、IKEUCHI ORGANICは熱量のあるファンや社員に支えられています。池内さんは、後継者に創業者一族ではなく、タオルを愛してやまない阿部哲也(あべ てつや)さんを指名。
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「IKEUCHI ORGANICの池内は計司でおしまい」と笑う池内さん。それでもIKEUCHIの名は、「食べられるタオル」とともに、世界に知れ渡るのではないかーーそんな未来を予感しました。
「イケウチに携わっている、みんなが気持ちいい関係になれるような会社にしたい。そんな、オーガニックな会社になりましょう、とみんなに言っているんです。まぁ、道は遠いですけど」
ふっかふかのタオルをつくっている人たちは、とってもストイックでした。
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取材・文栗本千尋
画像提供IKEUCHI ORGANIC
\ さっそくアクションしよう /
IKEUCHI ORGANICの最高級タオル「オーガニック960」は、極細の糸を贅沢に3本束ねて織った、やわらかでしなやかな肌触りのフェイスタオル。耐久性も高く、まさに極上のオーガニックタオルです。