生産量の4割が廃棄! 食品ロスに挑む ー前編ー ヨーロッパ諸国の政府・企業の最新の戦略とは?
まずは、食品廃棄の現状を知ることから
WWF(世界自然保護基金)とイギリスの大手小売スーパー「TESCO(テスコ)」が2021年に発表した報告書「DRIVEN TO WASTE」(※1)によると、世界で栽培、生産された全食品の約40パーセントに当たる25億トンの食品が年間で廃棄されていることが分かりました。食品ロスの主な指標とされる国連食糧農業機関が2011年に発表した年間約13億トンの約2倍にも当たります。また食品ロスはごみとして廃棄されるため、焼却処理する際に温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)が大量に排出されます。世界で年間に排出される二酸化炭素のうちの10パーセントを食品廃棄物が占めると言われ、これはアメリカとヨーロッパで自動車が1年間に排出する量のほぼ2倍に相当します。食品ロスは、地球温暖化による気候変動の一因にもなっているのです。

イギリスのスーパー「TESCO(テスコ)」の挑戦
イギリスのスーパーマーケット・チェーン「TESCO(テスコ)」のような業界のパイオニアたちは「食品ロスの根絶」という使命を掲げ、取り組みを進めています。具体的には、余った食品を慈善団体や地域コミュニティに再分配するだけでなく、在庫管理に高度な最先端技術を活用して「そもそもロスを発生させない」ことにも同時に取り組む、という戦略です。シンプルで革新的なアプローチは小売業界においても素晴らしい先例となり、影響を与えています。
テスコは2009年以降、イギリスにおいて食品廃棄物を埋立てしておらず、2016年には規格外の農産物を扱うブランド「Perfectly Imperfect」を導入、発売から5年間で4.4万トンもの農産物の廃棄を防ぎました。2017年には供給業者向けの「食品ロス・ホットライン」をオンライン上に設立。同社のオンライン・ネットワークを利用する5,000社以上のすべての供給業者が利用でき、豊作で計画よりも収穫量が増え食品ロスが発生しそうなときなどにオンラインで簡単にテスコに相談できるシステムを導入しています。2020年には供給業者と協力して合計20万トンの食品ロスを削減しました。(※2)
飢餓ゼロ・廃棄物ゼロへの挑戦
グローバルな消費財メーカー、「ユニリーバ」(※3)は、2025年までに事業所内の食品廃棄物を50%削減すると宣言しました。ユニリーバの積極的な取り組みには、サプライヤーとの無駄のない連携やサステナブルな調達手段への移行が含まれ、サプライチェーン全体を通じて食品資源の効率的な利用を実現しています。
大西洋の反対側、アメリカの大手食料品小売業者「クローガー社」は「ゼロハンガー・ゼロウェイスト(Zero Hunger, Zero Waste)」プログラムとして知られる先進的な取り組みに着手しています。2025年までに全社で食品廃棄物を「撲滅=ゼロ」にするという壮大な計画を発表、食品寄付プログラムの実施、堆肥化への取り組み、そして何よりまず、消費者へ食品ロスの現状と課題を知らせることに注力して取り組んでいます。「撲滅=ゼロ」はとても大きな目標ですが、2021 年は店舗から出る食品ロスの 26%を再活用することに成功しています。

各国政府が拓く新たな道
世界各国の政府は、食品廃棄の問題に立ち向かうべく政策の策定や具体的なアクションに取り組み始めています。人々の意識を改革し、世界に変化を促すインパクトのある政策を紹介します。
イタリア・・税制優遇で
イタリアでは立法により、売れ残った食品を慈善団体やフードバンクへ寄付することを企業に奨励しています。事業者の廃棄量削減に対して税制優遇で応える報酬型の法律もあり、2016年の施行後4年間で食品寄付が21%以上増加、一人当たりの食品廃棄物量は施行前(95kg)から施行後(65kg)と32%削減されました。(※5)
フランス・・2016年に世界初の『食品廃棄禁止法』を制定
フランスの「Loi Garot(食品ロス対策に関する法律)」は、2016年に制定された世界で初めての『食品廃棄禁止法』です。余剰食品を慈善団体に寄付するようスーパーマーケットに義務づけ、食糧の提供と廃棄物削減の両方に貢献しています。 売り場の延べ床面積400平方メートル(例:バスケットボールの公式競技用コートの線の内側が420平方メートル)
以上のスーパーに売れ残った食品の廃棄を禁止し、売れ残り品を受け入れる慈善団体との契約を結ぶことが義務付けられ、違反した場合は廃棄量に応じて罰金が科せられる法律です。施行後は食品の寄附が15%以上増加しました。(※5)

世界の『キャンペーン』
意識を改革するキャンペーンや啓蒙活動は、人々にポジティブな変化をもたらします。
英国で始まった「ラブ フード ヘイト ウェイスト (Love Food Hate Waste)」キャンペーンは、食品廃棄を最小限に抑えるためのリソースやヒントを個人に提供するもので、食事の分量、適切な保存方法、残り物のクリエイティブな再利用についてなどをポジティブに発信しています。このキャンペーンは現在、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど全世界に拡がっています。
アメリカでは、「セイブ ザ フード (Save the Food)」キャンペーンで食品ロスへの意識を高め、日常生活でサステナブルな習慣を取り入れるよう人々に促し、環境への負荷を減らすための取り組みに貢献しています。
欧州には、食品ロスに積極的に取り組む政策がたくさんあります。EUの「The EU Platform on Food Losses and Food Waste」はEU加盟国と食品サプライチェーンに関わる企業などが参加するマルチステークホルダーのプラットフォームです。2030年までに小売業者と消費者レベルで1人当たりの食品廃棄物の量を半減させ、生産・サプライチェーンにおける収穫後のフードロスの減少をめざし、解決策を奨励しています。

イギリスの「Courtauld Commitment(企業や農家を主な対象とした自由参加の食品ロス削減協定)」は、飲食料品の廃棄を削減するために、企業、政府、組織間の協力を促しています。
スペインの「More Food, Less Waste」プログラムは、サプライチェーン全体を通じて食品廃棄物を防止することを目的としており、オランダの「Sustainable Food Alliance」は、よりサステナブルで効率的な食品システムを構築するために関係者を結束させています。
デンマークでは、食品廃棄に関する消費者の意識を高めるキャンペーンを実施しています。「Stop Spild Af Mad」(食べ物を無駄にするのはやめよう)などのイニシアチブは、フードロスについて人々を教育し、家庭での廃棄量を減らすための実践的なヒントを提供しています。
EUの「Farm to Fork戦略」は欧州グリーン・ディールの一環です。「農場から食卓へ」とあるように、食品廃棄の削減に留まらず、食糧を取り巻くあらゆるシステムにおいて、様々な側面から取り組むことでサステナビリティへの貢献に寄与しています。
テクノロジーを駆使したソリューション
技術の進歩が目覚ましい現代、食品ロスと闘うための画期的なソリューションも生まれています。余剰食品が廃棄になる前に割引価格で提供するデンマーク発の「Too Good To Go」のようなアプリが消費者と街のレストランに革命をもたらしています。これにより、食品廃棄の課題へ取り組むだけではなく、レストランや企業には利益がもたらされ、消費者には手頃な価格で商品が提供されるなど、双方にメリットを生み出しています。

もう一つ、「Best Before」は食品の賞味期限を把握しプッシュ通知で知らせてくれる、ありそうでなかったアプリです。賞味期限が曖昧になってしまう、うっかり忘れてしまう、などで不要な食品廃棄が生じることを防ぎ、責任ある消費習慣を促します。
一方、シリコンバレーではテクノロジー主導の解決策が生み出されています。アピール・サイエンシズは果物や野菜の賞味期限を延ばす、植物由来のコーティング剤を開発しました。腐敗や廃棄を最小限に抑え、小売店の経営者と消費者の双方にメリットを与える画期的な技術です。
まとめ
今回の記事では企業・政府の戦略と事例を取り上げました。後半では、個人ひとりひとりが具体的に取り組める、効果的なアクションについて紹介します。※1月26日公開予定
元記事
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