どうしてこうなった? ブサかわなマスコット「山田揚之助」が気になる魚フライ

多彩なうなぎ商品を世に送り出す山田水産。
前編では「日本初、完全無投薬でのうなぎ養殖を成功させるまで」を紹介したが、まだまだその挑戦は終わらない。
【前編】「困ったらうなぎに聞く」 うなぎの無投薬養殖を成功させた、元・ラガーマン20年の苦悩

山田水産のパンフレットにはこうある。
「Go Forward」
わたしたちは立ち止まらない、常に次の一歩へ。
熱すぎる「山田イズム」のもと、とんでもない新商品が完成した。
「山田のフラヰ」

いわゆる、魚のフライ冷凍食品である。
しかし、モノづくりにこだわり、「うなぎの養殖のために、うなぎと寝食をともにする」社員がいる会社である。
ありきたりなフライであるわけがない。
もしも「魚のフライ」に最高の魚を使ったら?
「うなぎの蒲焼、サンマの蒲焼、サバの照り焼き......焼くものはすべて焼いてきたので、次は最高のフライを作りたかった」と語るのは、山田水産専務の山田信太郎さん。

しかし、山田さん自身は、これまで市販の魚のフライをほとんど食べてこなかった。聞くと「美味しくない」からだという。
山田さん「魚の味がしないですから。僕は旨いものを作るために、旨いものしか食べない。従業員もそう、旨いものを食べてもらっています」
原理原則、旨いものを食べていない人は旨いものが作れない、というのが山田さんの持論。
山田さん「フライをやるんだったら、自分が正直に旨いと思うものを作ろう」
やるならとことん。原料には、最高の「日本の魚」を使う。

山田さん「一般的にコストを考えて、いい魚をフライ用に回したりしないんですよ」
けれど、そこを過剰なこだわりでやってのけるのが山田水産。
いわしは石巻、あじは長崎。すべて現地で鮮度、脂ののり、品質をチェックし、良質なものを厳選して買い付ける。
山田さん「本当に美味しい魚です。そして、本当に高いです(苦笑)」
次にこだわったのは、衣をつける比率。
山田さん「ほとんどパン粉みたいなフライ、ありえなくないですか?」
と、山田さんは憤る。
薄い衣をつくり、まず低温、次に高温の二度揚げ。独自の衣配合で、サクサクの仕上がりを目指す。
山田さん「フライって胃もたれしませんか? あれは揚げる油をあんまり変えてないからなんですよ」
と、またまた憤る。
山田さん「でも、うちのは違います!」

油の加熱劣化を防ぐために、フライヤーに新しい油を加えたり、循環させるなどコントロールを徹底。
どれもこれも、手間がかかることばかり。しかも、山田水産は「メイドインジャパン」の信念を貫き、すべての加工は日本で行う。安くつくわけがない。
山田水産の徹底した『モノづくり精神』は、コスト優先ではない。価格競争にひるまない。美味しいものを作るためには、妥協を許さないのだ。
「おっさんが作って、女性が買う」でいいんだっけ?
かくして「あじフライ」「いわしチーズ」「いわしカツ」の3種類が完成。



しかし、商品を送り出すにあたって気になっていたことがあった。
山田さん「おっさんが作って、おっさんがデザインして、女性が買う......これでいいんだっけ?」
頭によぎった矛盾。水産加工品の現場にありがちな現実だ。
山田さん「商品のブランディングは、いつも僕が行っていました。でも、僕はもう、どこか凝り固まったところがあるんじゃないかって」
この部分はある意味、「水産加工品がもつ今後ののびしろ」ともいえる。
山田さんは決心した。商品のデザイン、プロモーションは女性に依頼しよう。
白羽の矢が立ったのは、数々の商品開発を手がける料理研究家/フードコーディネーターの河瀬璃菜さん。

河瀬さん「とても美味しいし、再度揚げる必要がないのは本当に便利。主婦の救世主になれる商品として売り出したいなあ、と思いました」
検討した結果、「売り場にいろんなものが並んでいるなかで、『これなんだろう?』と目に留まるようなキャラクター」をたてることを提案。
キャラクターのヒントとして、フライ加工事業が行われている志布志工場の"珍"住所に着目。

「志布志市志布志町志布志。しぶしししぶしちょうしぶし......ぶし......武士......武士で鹿児島といったら西郷どん?」
かくして誕生したのが「山田揚之助」だ。

無骨な「おっさん侍」である。
河瀬さん「おやじギャグみたいなものですね(笑)」

山田さん「最初は、なんだこいつと思いましたよ。もっとカッコよくならんのかと。侍なんだから、こうシュッとした感じとか...(苦笑)」

山田さん「でも、こんな発想これまでなかったし、僕が選んだらこれまでと変わらない。何も言うまいと心に決めました(笑)」

河瀬さん「カッコよすぎるものや、キレイすぎるものって、そんなに頭に入ってこないんですよね。女子って、『キモかわいい』とか『ブサかわいいもの』とか好きじゃないですか」
みんなで揚之助のストーリーも考えた。
鉄砲伝来とともにフライが伝わったという説を見つけ、海上交易の拠点として栄えた「志布志」の地で、揚之助が「フライで旗揚げ」というストーリーを作り、地元の志布志ブランドを訴求。
商品のこだわりである二度揚げを訴求するコピーは「策士サクサクにおぼれる」。
............もしや、おやじギャグ。
河瀬さん「おやじギャグって耳触りがいいんですよ」
なんだか楽しいぞ、揚之助。
パッケージも秀逸
商品パッケージはレトロでおしゃれなデザインに仕上がった。

商品情報はきわめて少なく、デカデカと目立つのは「揚之助」の顔面。フライの写真はなし。
山田さん「うちの営業には、パッケージにフライの写真が入っていませんが、大丈夫なんですか? と質問されましたね。大手の冷凍食品のパッケージには、フライの写真も、メーカーの名前も、目立つように入っています。うちは、こいつだけ(笑)。
でも、『なにこれ?』『あ、フライなんだ』。お客様にそんな興味を持って買ってもらえればいいんじゃないかと思います。『何を考えてるんだ、バカみたい』と言ってもらえたら、それが最高のほめ言葉ですね(笑)」
さらに、業界初の「ギフト用フライ」の詰め合わせまで作ってしまった。「プレゼントできるフライ」にも、遊び心あふれる仕掛けがある。
ギフトボックスに備えられた、揚之助の顔が描かれた小袋にでき上がったフライを入れると、フライの尻尾が、ちょんまげに!

かわいい! インスタ映えもバツグン!
河瀬さん「写真を撮りたくなりますよね。普通の魚フライでは、せっかく写真に撮ってSNSにアップしてもらっても、フライだけだとどこの商品かわからない。でも、この袋に入っていたら、絶対に『山田のフラヰ』だってわかりますよね(笑)」
揚之助、なかなかの策士である。
刀を包丁に持ち替えた、食いしん坊侍は、「第24回グルメ&ダイニングスタイルショー」の新製品コンテストのフード部門で準大賞も受賞してしまった。

ありそうでなかった「魚至上主義」のフライ
そんな「山田のフラヰ」を食べてみた。

えーっ!! これがレンジでできるの?
あじフライは、衣に埋もれず、ふっくらジューシーなあじの旨さが楽しめる。何もつけなくても美味しい。
いわしチーズは、とろけるチーズがいわしにコクを添える。
いわしカツは、甘辛い特製のオニオンソースがしみ、ビールをエンドレスに飲みたくなる味わい。
どれも軽快なまでにサクサク、そして衣の中はみっちり魚。
旨みがしっかり感じられて、「魚を食べている感」がある。衣は、あくまで魚を美味しく食べるための「オプション」だ。
ありそうでなかった「魚至上主義」のフライ!
なおかつ、冷めても美味しいのは衝撃だ。
そのままでも美味しいが、アレンジも楽しめる。


河瀬さん「いわしカツは丼にしても美味しいです。あと、友人から人気なのはサンドイッチ!」
山田さん「そうそう、カツサンドみたいになるんです。パンにソースがしみたところが、ちょうど旨いんです」
あじフライは、ソースだけではなく「ねぎ塩だれ」でも美味しくいただけるそう。

ごはんに、おつまみに、お弁当に、ホムパに大活躍。大人から子供、男女問わず、ワクワクする魚のフライだ。
ゆくゆくは、「銀だこハイボール」のようなイメージで、山田のフラヰと美味しいハイボールをちょい飲みできるお店を作る予定もあるらしい。
鉄砲伝来並みの、歴史を揺さぶる山田のフラヰ。魚を食べる楽しみがグンと広がりそうだ。
・「山田のフラヰ」サイトはこちら