使用後は溶かしてリサイクル。「紙」でできたWi-Fiルーター
デジタル化が世界中で進む中、電子廃棄物は最も急速に増加している廃棄物のひとつだ。国連の2022年のレポートによれば、2019年の時点で世界で発生した電子機器廃棄物の総量は5,360万トンにのぼり、このままの状況が続けば、2030年には7,470万トンに達する可能性があるという。また、そのうちリサイクルされているのは17%程度にとどまる(※)。
電子廃棄物は焼却されると鉛やカドミウムといった有害な化学物質を放出し、埋立地に放置した場合でも経年劣化により同様の有害物質を排出するため、土壌や周辺環境を汚染するほか、人間の健康にも悪影響を及ぼす。
こうした課題に対し、2020年には欧州議会が市民に対して「修理する権利」を認め、フランスやドイツなど、修理に対して補助金を支給する政策を打ち出す国も出てきている。一方で、未だ回収方法やリサイクルインフラの整備が不十分であったり、リサイクルに手間や費用がかかったりと、電子廃棄物を循環させていくために乗り越えるべき壁は高い。
そんな中、電子廃棄物処理の難題を解決する可能性を秘めた新しいソリューションが登場した。それが、溶かしてリサイクルできる紙を主な素材に用いた小型電子機器シリーズ「Pape」だ。
Papeは、Wi-Fiルーターや煙探知器といった数種類の小型電子機器シリーズ。その驚くべき特徴は、現在使われる大半の電子機器に欠かせない電子回路の土台であるプリント回路基板を、圧縮された「紙パルプ」で作ったことだ。これらは、もちろん製品として機能するという。
多くの電気製品では、このプリント回路基板に、はんだ付けと呼ばれる熱を用いた手法で電子部品を接合する。このため、解体には接合部分を外す作業が手間となる。一方で、Papeが素材としている紙パルプは接合部分ごと水に溶かすことができるため、そうした解体の手間を省くことができるのである。
またPapeは、ユーザーやメーカーが手間をかけずに小型電子廃棄物を簡単にリサイクルできるような体験も併せてデザインしている。
例えばPapeのWi-Fiルーターはケースのように開くことができ、その内側には製品の回収用の紙製封筒が入っている。ユーザーは使い終わったらこの封筒にPape製品を入れて、メーカーに送付。メーカーが封筒ごと製品を水に入れると封筒とPape製品の紙の部分が全て溶け、最後はリサイクル可能な金属部品とプラスチックでできた細い骨組みを水の中からすくい上げるのみ、といった具合だ。
同シリーズを開発したのは、オーストリアのFHヨアネウム大学の学生、Franziska Kerber氏。2024年のジェームズ・ダイソン・アワードでアメリカの国内最優秀賞を受賞し、国際最優秀賞を決めるTOP20に選出された。
Kerber氏は、アワードのウェブサイトで、
と綴っている。今後はより機能的なプリント回路基盤を開発し、製品化に向けて投資家を探していくことを目指しているという。「小型電子機器は、廃棄方法が明確でないことやサイズが小さいことから家庭ごみになりやすい。したがって、よりユーザーフレンドリーな廃棄システムを開発する必要があると考えました」
既存の製品を回収したりリサイクルしたりするための仕組みの構築も大事である一方、製品の設計段階から循環させることを前提にデザインすることを、サーキュラーデザインと呼ぶ。Papeは、まさにこのサーキュラーデザインの好事例ではないだろうか。
元記事はこちら
【参照サイト】Electronic waste is out of control. So this university student invented a WiFi router out of dissolvable paper
【参照サイト】PAPE - paper electronics
相馬素美(そうまもとみ)
横浜で生まれ、大学ではクラシック音楽を専門に学ぶ。ヨーロッパのサステナブルな取り組みや、サーキュラーエコノミーへの関心が特に高い。また、ソーシャルグッドな音楽ビジネスの可能性を研究中。好きなものは、音楽全般、アート、ファッション、北海道、アボカド、チョコレート、日本酒。(この人が書いた記事の一覧)