毎年6月は「プライド月間」|リモートでパレード参加する時代に

Ben Tavener, CC BY 2.0, Wikimedia Commons
毎年6月は「プライド月間」。LGBTQ+への理解と人権について啓発を促すイベントが、世界各地で催されます。レインボーをシンボルとする「プライドパレード」には、長年にわたる彼らの闘いの歴史があり、そのムーブメントは年々大きくなっています。ご存じの方も多いかもしれませんが、プライドは1969年にニューヨークで起きた、「ストーンウォール暴動」が発端(※1)です。当時のLGBTQ+コミュニティの人々は、違法であったその性的指向や性自認を隠し、目立たぬように生きていました。この暴動は、そのような生き方に疑問を抱いていた彼らが、権力による迫害に対し示した抵抗運動です。これが大きな転換点となり、翌年の6月28日、記念すべき日として初の「プライドデー」が開催されるに至りました。

Same-Sex Marriage Around the World, Pew Research Center, Washington, D.C. (June 28, 2024)
プライドの歴史と近年の発展
当時、アメリカ東部地域の同性愛者支援団体「Eastern Regional Conference of Homophiles」は、暴動から1年の記念日に向けて独自のイベントを計画していました(※2)。しかし、同じく1970年6月28日にニューヨーク市の主なLGBTQ+の団体が開催予定であった「クリストファー・ストリート・リベレーション・デー」に合流したことで、行進の規模は拡大し、社会に大きなインパクトを与えることに成功しました。このデモ行進は、暴動が起きたストーンウォール・インが位置する「クリストファー・ストリート」にちなんで名付けられ、LGBTQ+コミュニティの解放と権利を訴えた、ニューヨークで初めてのプライドマーチです。毎年重要なイベントとして1984年まで行われ、その後は「ヘリテージ・オブ・プライド」が主催を引き継ぎ、現在も毎年6月に「ニューヨーク・プライド・マーチ」として開催されています。米国議会図書館の資料によると、この流れは年々拡大し、多くの参加者が街中でプラカードを掲げて行進する大規模なパレードへと発展。その影響は社会全体へと広がり、1999年にはビル・クリントン大統領が6月を「ゲイ・レズビアン・プライド月間」として正式に認定しました(※3)。さらに2016年にはバラク・オバマ大統領が同様の宣言を行い(※4)、トランスジェンダーやバイセクシュアルを含む「LGBTプライド月間」として、より広く人々に認識されるようになったのです。
プライドの動きは、1980年頃にはニューヨークだけでなく、モントリオール、シドニー、ロンドン、メキシコシティなどでも見られるようになり、世界各地で同様のデモ行進が行われるようになりました。2023年時点では、101カ国以上でLGBTQ+コミュニティの存在を広く訴えるプライドイベント(※5)が毎年開催されています。しかし、依然として同性愛やジェンダー規範に反する考えが違法とされ(※6)、偏見が根強い地域も多く存在します。そのような場所では、プライドイベントへの参加が難しく、時には危険を伴うこともあります。こうした課題に応える形で、2016年にはGoogleが初のバーチャルプライドイベントを開(※7)催し、参加者が自宅から安心してプライド活動に参加できる機会を提供しました。また、コロナ禍で外出が制限される中(※8)、世界中のプライドイベント主催団体で構成される「InterPride」と、ヨーロッパ全土の団体が加盟する「European Pride Organizers Association」が共同で「グローバルプライド」を立ち上げ、リモートによるプライド活動がさらに拡大することとなりました。
企業に広がるピンクウォッシュ
また近年においては、多くの企業がプライド活動に積極的に関わるようになりました。毎年6月になると、名の知れた数々の企業がレインボーをモチーフとしたロゴを自社のウェブサイトや広告、商品に取り入れ、LGBTQ+コミュニティの支持を表明しています。Google、Apple、IBMなどの有名企業がプライド活動を支援することで、他の企業にも積極的な取り組みが促進され、LGBTQ+コミュニティへの理解が社会全体により一層広がること(※9)が期待されます。また、LGBTQ+ビジネスへの支援や寄付などは、彼らへの直接的な経済支援にもつながります。しかしこうした企業の取り組みには、「ピンクウォッシング」と呼ばれる問題も散見されるようになりました。これは、企業や団体が単に自社のイメージアップやマーケティングのためにレインボーのロゴや広告を利用し、実質的な支援をしていない状態を指します。表面的にLGBTQ+コミュニティに対する支持を示しながらも、実際には逆に、彼らに有益とは言えない方針を取ることさえあります。最近の事例として、アメリカの小売大手「Target」が挙げられます。同社はこれまでプライド活動への支援を積極的に行ってきましたが、今年に入り、DEI推進の中止を発表(※10)しました。この方針転換に対しては、消費者や市民団体からの強い反発が生まれ、不買運動も起きました。結局、実の伴わない表面的な施策は真の社会運動ではなく、単なるマーケティング戦略に過ぎないとみなされたのです。
プライドは偏見と差別がなくなるその日まで
プライド活動が認められている国々でも、体と心の性が一致しているシスジェンダーや異性愛者の中には、「なぜプライドが必要なのか」と疑問を抱く人も少なくありません。このように、たとえその活動が法律的に問題がなくても、偏見や差別は確実にまだそこに存在(※11)しているのです。プライドは、LGBTQ+の人々が自分自身に誇りを持ち、その存在を社会に示す(※12)大切な場です。同時に、境遇が同じ仲間とつながることでコミュニティの連帯感を実感する機会でもあり、精神面での心強い支え(※13)でもあります。こうした様々な意味をもつプライド活動によって、少数派の声がより多くの人々に届くようになり、LGBTQ+への理解を確実に後押ししています。プライドパレードは、すべての人に自由と尊厳が保障されるその日まで、続けていくべき大切な活動なのです。
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執筆 A. Parks 翻訳・編集 K. Tanabe

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