海のこと、どれくらい知ってる? 「あおいほしのあおいうみ」で楽しく学ぶ、海と人類の未来とは?

こんにちは! シンク・ジ・アースの上田です。私たちは2001年にスタートしてから持続可能な社会の実現を促すコミュニケーションプロジェクトをたくさん実施してきました。最初は地球が自転する腕時計「アースウォッチ」というプロジェクトから始まったのですが、2番目のプロジェクトとなった写真集『百年の愚行』を皮切りに、気づけばこれまでに18冊の本を出してきました。そのほとんどがビジュアル中心の本で『1秒の世界』『気候変動+2℃』『いきものがたり -生物多様性11の話-』など、もしかしたら手に取っていただいた方もいるかも!?しれません。

私たちの活動が大事にしていることは、未来に対してポジティブなイメージの種を蒔くことです。気候変動、生物多様性の消失、エネルギーの問題など扱う課題はどれも深刻ですが、課題を乗り越えていくための視点を提供したり、アイデアを生み出したいという気持ちを刺激したり、ビジュアルな表現を心がけたりするなど、頭よりも心への訴求を大切にしています。無関心を好奇心に変えることができないだろうか、ということをいつも考えています。好奇心が芽生えたら、もっと知りたいと思って図書館やネットを探したり、詳しい人の講演を聴きに行ったり、そんな行動が自然に生まれますよね。

海が好きになってほしい、海を大切にしてほしい
最新刊の『あおいほしのあおいうみ』は、海と環境問題がテーマのビジュアルブックで2024年の秋に発行しました。
ここで、みなさんに質問です。
「海は好きですか?」
「海に行きたいですか?」
「この1年で海に行ったことはありますか?」。
実は日本財団が2024年7月に発表した第4回「海と日本人に関する意識調査」で同じ質問をしています。「海が好きだ」と回答した人は44%で、2019年の57%から大きく後退。「海に行きたい」という回答も73%から59%に減少しています。「この1年で海に1度も行っていない人」は半数以上の52%という結果でした。日本は四方を海に囲まれた海洋国家でありながら海への関心が下がっていて、いわゆる「海離れ」が進行しているのです。
さらにいま、海と人の関係は危機的な状況にあります。気候変動による海水温の上昇で一度に大量の雨が降るようになり水害が増えています。水温の上昇や埋め立て等によって生態系が変わり、海の砂漠化とも言われる磯焼けが広がっています。海に流れ出るプラスチックなどの大量のごみが、海洋や海岸を汚染し、海の生物たちの命を脅かしています。また日本では漁業の担い手が年々減っていて水産業の存続が危ぶまれている地域も多くあります。こうした課題に対して、どんな行動ができるのか、早急に考えていく必要があります。
コロナ禍が明けてから、奄美、熊野、対馬など日本のいろんな海を訪ねる機会がありました。どこの海に行っても、あらためて海の素晴らしさを感じることになったのですが、同時に海と人間が抱える問題も目の当たりにすることになりました。そして、島国に生きる日本人なのに海のことを知らないなぁと痛感し、もっと海のことを学ばなきゃ!と考えるようになりました。そんな折に、気候変動や海をテーマに活動するNPO法人ZERI JAPAN代表でサラヤ株式会社代表の更家悠介さんから「海の本を作ろう!」と声をかけてくだったことがきっかけで『あおいほしのあおいうみ』が誕生しました。ちなみにZERI JAPANは開催中の大阪・関西万博にブルーオーシャン・ドームというパビリオンを出展していて、ここで万博限定版の『あおいほしのあおいうみ』(日本語版、英語版)が販売されています。万博に行く機会があったら、ぜひブルーオーシャン・ドームに行ってみてください。

海を探究する多様な学びの入り口
『あおいほしのあおいうみ』は宇宙と海、地球と海の誕生、海のユニークな生物たち、日本と世界の海の問題、海の課題に挑戦する人たちなど、海を探究する多様なテーマで構成されています。巻頭では谷川俊太郎さんの詩「うみ」にイラストレーターの木内達朗さんが素晴らしい絵を描いてくれました。宇宙の話題も、海洋生物の話題も、最新の科学を背景にしながらも解説的な絵ではなく、参加イラストレーターそれぞれの持ち味を活かした親しみを感じられるイラストで構成しています。

絵本なんですか?という質問もよくあるのですが、絵とお話だけの本ではありません。ブルーカーボンや海洋リテラシーなどのキーワードについて専門家に聞くページもあります。JAXA宇宙航空研究開発機構の矢野 創さん、国立科学博物館の松浦啓一さん、国際環境NGOコンサベーション・インターナショナル・ジャパン代表のジュール・アメリアさん、ブルーカーボンネットワークを立ち上げた環境ジャーナリストの枝廣淳子さん、みなとラボ代表で東京大学海洋教育センターの田口康大さん、5名の方にインタビューをさせていただき、それぞれ楽しいレイアウトのページにまとめました。ほかにも海の未来に挑戦する10の活動を紹介するコーナーなどもあって、子どもだけでなく大人にも読み応えのある内容になっています。

対馬の海から学ぶこと
全体としてはポジティブなメッセージを伝えたいと思っている本ですが、本のちょうど真ん中に現実の深刻さを強く訴えるページをつくりました。両観音のページを開くと、長崎県対馬の海岸をごみが埋め尽くす写真が飛び出してきます。撮影のために私も現地でこの海岸を訪れましたが、人間の作ったものと自然が全く調和していない光景に、なんともやるせない、悲しい気持ちが押し寄せてきました。その時の感覚が少しでも読者のみなさんに伝わったらと思っています。
対馬の方にお聞きして大切だと思ったのは、海ごみについてはリサイクルが必ずしも解決策ではない、ということです。海のごみは、海洋を漂う間にひどく劣化し、時には毒性をもつこともあるため、リサイクルするには大きな労力とエネルギーが必要な上に質の高い素材には蘇らないのです。学校で3R(リデュース、リユース、リサイクル)という言葉を習うと思いますが、これには優先順位があって、大切なのはリデュース(減らす)、リユース(再利用)なのです。では海に流出するプラスチックを減らすにはどうすれば良いでしょうか。レジ袋をエコバッグに変えるだけで問題は解決するでしょうか。それに海を流れるごみの問題はひとつの国だけでは解決することはできません。海ごみの問題に向き合うためには、本質的な問いが何なのかを考え続ける必要があるのです。

一方で、素晴らしいアイデアと情熱で課題と向き合う対馬の人たちも紹介しています。たとえば丸徳水産の犬束ゆかりさんは、海の砂漠化と言われる磯焼け問題に取り組んでいます。海藻が失われるのは、海水温が上がったことで、海藻を大量に食べるイスズミやアイゴなどの魚が増えたことが原因のひとつです。海藻を食べる魚は、そのままでは臭くて食べることができないため売れず、漁師さんも嫌っていましたが、犬束さんは大変な苦労をして美味しく調理する方法を発明したのです。「海藻を食べる魚」を「人間が食べる」ことで問題を解決しよう、という一挙両得の逆転の発想が大成功。味も美味しくてイスズミを使ったメンチカツはFish-1グランプリというイベントでグランプリを取るほどの評判に。いまでは対馬の学校給食でも提供されて子どもたちの人気メニューになっているそうです。美味しく食べることが問題の解決につながるなんて面白いですよね。

このほかにも、水産業のイメージを払拭する新3K(カッコいい、稼げる、革新的)を掲げる宮城県石巻の若い水産業者たちの活動「フィッシャーマン・ジャパン」や、障がい者も健常者も誰もが楽しめる設備を完備した奄美大島のダイビング施設「ゼロ・グラヴィティ」、熊野で活躍する女性漁師さんの話など、海の未来が明るく感じられるような魅力的な挑戦者たちの話も掲載しています。

海を想う心と体験を子どもたちに!
本書は一般の書店で買うことができますが、授業で使いたいと考えてくれる100校の先生に1クラス分40冊を寄贈するプログラムも行いました。
どんな風に使ってくれたかというと......たとえば佐賀県の早稲田佐賀高校では、サスティナ部という課外活動で、生徒がこの本を読んで「気になること=探究の入り口」を探し、みんなで意見を出し合う討論会を実施。対話の中から地域の海の問題に貢献する活動を考えてくれました。1月に唐津市で行われた海洋環境国際シンポジウムでは素晴らしいプレゼンをして参加者から喝采を浴びていました。今後はプラスチックのアップサイクル活動に加え、唐津や対馬の水産業者や途上国支援団体と協力して食害魚を商品化する活動、ビーチクリーン活動、唐津市と連携した地域ぐるみの海洋環境問題解決への行動などが計画されているそうです。


秋田県立新屋高校ではアクティブ・ブックダイアログという授業をしてくれました。まずは『あおいほしのあおいうみ』を流し読みしたあとに、担当する章を決めて熟読し、その結果を絵に描いて発表するという授業です。読んだことを絵で伝えるなんて、とても面白い授業ですよね。
この高校の理科研究部では、大好きな「釣り」をテーマに、外来種のアメリカザリガニの粉末を使った生分解性の疑似餌(ワーム)をつくるプロジェクトに挑戦しています。外来種を減らして、海洋プラごみも削減するという2つの目的が一挙に達成できるアイデアとして、県内外企業の応援を得ながら活動しています。


2つの学校の取り組みを紹介しましたが、いかがでしょうか。どちらも素晴らしい指導者に恵まれて10代の若者たちが積極的に地域と海の問題に取り組んでいる様子を知って、とても頼もしく感じました。
2025年6月8日の世界海洋デーから7月21日の海の日にかけて、新たに100校に寄贈するプログラムを開始します。海への好奇心を育む教育を通じて、子どもたちが海のことを好きになって、海に行きたくなって、そして海のことを大切に想う心が育っていったらと願っています。書籍を活用してくれる先生と、このプログラムを応援してくれる人を、絶賛大募集中です!
青く美しい海を次の世代にちゃんと残せるかどうかは、いまを生きる私たちの感性や行動にかかっています。この本がそのきっかけになればと願っています。
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取材・執筆一般社団法人シンク・ジ・アース 上田壮一